- 著者
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藤 則雄
- 出版者
- 日本古生物学会
- 雑誌
- 日本古生物学會報告・紀事 新編 (ISSN:00310204)
- 巻号頁・発行日
- no.86, pp.295-"318-1", 1972-06-30
能登半島に広く分布する新第三系に関する花粉学的研究のうち, 今回は, その第IV報として, 能登半島北端の輪島市に発達する中新世後期の塚田含珪藻泥岩層についての花粉学的研究の結果を報告する。塚田層は輪島市の一本松公園付近と宅田付近に, 局部的に発達する含珪藻泥岩を主体とする累層である。本層は硬質頁岩の薄層によって, 上部層と下部層とに2分される。上部層は泥岩よりなり, 下部層は砂岩薄層を夾在する泥岩よりなっている。塚田層の13層準からの16試料と, 他に, 参考までに洪積世後期の稲舟段丘堆積物からの1試料, 中新世中期の地層からの2試料(粟蔵層-1試料, 縄又層-1試料)について分析し, 各層準毎の化石群集の構成・変化の内容を明らかにし, これらの分析結果に基づいて, 塚田層堆積時の古気候・古地理的条件・地質時代について考察した。(1)塚田層堆積時の古地理的条件 : 本層からの花粉の構成は, upland系の植物をいくらか含んではいるが, mixed-slope・riparian要素を主体とする。本層に含まれている化石珪藻の構成内容や岩相などからの資料をも併せて判断すると, 本層の堆積盆地は, 入口の広い入江が直接外海に面しており, その入江の奥の, 出入りの多い水域であった, と推定される。本層と同時代といわれる能登半島中央部の和倉層・聖川層からの花粉構成は, 寒冷系の要素が塚田層のそれの1/2〜1/3である。このことは, 和倉層・聖川層の堆積域が半島中央部の, 入江や湾奥で, 北方からの風や海流の影響を直接うけないような環境であったのに対して, 塚田層の堆積域では, 比較的直接うけるような環境下であった, と推定される。(2)塚田層堆積時の古気候 : 温暖系の植物の花粉の頻度は10%で, 和倉層の30%や台島期の砂子坂層・山戸田層のそれらが50〜60%であるのに比較すると, かなり低率である。本層の主体をなすのは温帯系の要素で, 60〜70%を占めている。本層の下部と上部とを比較すると, 下部に, 温暖系要素が多い。本層では, 寒冷・冷凉系要素は, 温暖系要素に対してよりも, むしろ温帯系要素と正の相関々係を示す。塚田層と同時代といわれる和倉層・聖川層の花粉構成に比較すると, 細かな点では違いがあるが, 大局的には同じである, と判断され, 塚田層堆積当時の古気候は, 現在の北陸地区の気候に殆んど同じか, 若干冷凉か位であろう。(3)塚田層の地質時代 : 本層からの花粉群集は, 大局的には中新世後期の和倉層・聖川層, 鮮新世前期の荻の谷層の花粉群集に酷似し, 本層の地質時代もこれらの地層の時代に対比されよう。