著者
野元 弘幸 青木 直子 大串 隆吉 新海 英行 衣川 隆生
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、外国人住民の日本語読み書き能力が著しく劣り、地域において日本語文字によるコミュニケーションが成立していないのではないかという問題関心から、日系ブラジル人集住地区(愛知県豊田市保見団地)で、日系ブラジル人を対象とした大規模な読み書き能力調査を実施した。また、その調査結果をもとに、読み書き能力の習得を位置づけた日本語教育プログラムの開発を試みた。本研究の成果は以下にまとめることができる。(1)外国人住民の日本語読み書き能力が低く、極めて深刻な状態にあることを明らかにした。自動車・家電製品の工場で働く人の7割強が、「危険」を「読めないし意味もわからない」状態にあることが明らかとなった。また、46%しか、自分の姓名をカタカナで正確に書けないことも明らかとなった。(2)集住地域に対象を限定し、地域内で被調査者が日常的に見る標識や表示を調査に利用するという特徴的な調査であったために、当該地域において文字によるコミュニケーションが成立していない可能性が極めて高いこと示す結果を得た。(3)漢字に比べると、ひらがな・カタカナの習得状況は良く、日本で働き生活する外国人住民の基礎教養としてひらがな・カタカナの習得を促す根拠を明らかにできた。以上のような成果をもとに、日本語教育政策の新たな展開と、日本語読み書き能力の習得を伴う新しい日本語教育プログラムの開発を試みることができた。
著者
衣川 隆生
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、中上級レベルの日本語学習者の口頭発表におけるモニタリング能力を育成することを目標としてデザインされた教室活動の効果、妥当性を検証した。その結果、相互評価活動を繰り返し行うことで、モニタリングの基準の意識化が促進されることが示された。さらに目標設定、口頭発表、モニタリング、相互評価というメタ認知過程を繰り返すことにより、モニタリングの基準の精緻化、構造化が促進され、モニタリング能力も向上することが示された。
著者
衣川 隆生 田中 典子 内山 喜代成 近藤 行人 松尾 憲暁
出版者
日本語教育方法研究会
雑誌
日本語教育方法研究会誌
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.94-95, 2016-03-19

Nagoya University created teaching materials centered on social issues when they became a popular topic in modern Japanese society. These materials aim to foster academic literacy required from international students. This study examines a practice led by teaching materials on "Black baito", and analyzes what kind of dialogic activity and students' interpretation has occurred. The results of the analysis show that students created their own interpretation through the act of redefining the term "Black baito" as part of an explanation activity that entails looking at the working environment from both the employers' and employees' points of view.
著者
加納 千恵子 衣川 隆生 小林 典子 酒井 たか子 小野 正樹
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

非漢字圏学習者の漢字語彙処理能力を字形識別力、意味理解力、読み処理能力、書き処理能力、用法処理能力、音声処理能力などの観点から測定するための標準テストを開発した。平成12年度は、筑波大学留学生センター及び米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)において予備テスト(第1版テスト)の実施・検討を行い、本テストに関する資料を準備し、次年度以降のテスト実施に協力してくれる機関、教育関係者に連絡を行った。平成13年度は、本テスト(第2版テスト)を完成し、筑波大及びUCSDにおいて実施、受験者のデータを収集した。また、テスト資料および実施マニュアルを作成し、本研究の協力校として米国ハワイ大学の日本語教育担当者に配布、3月に打合せと研究成果報告を行った。平成14年度は、第2版テストの結果の分析・考察を行って標準化を図り、その研究成果を米国カリフォルニア大学サンディエゴ校で7月11日〜14日に開催された第3回「日本語教育とコンピュータ」国際会議『CASTEL/J2002』において発表した。またその成果に基づいて、テスト問題の形式、内容を修正・改訂し、WEB上で受験可能な漢字語彙力測定テストのプロトタイプ版(第3版テスト)を完成した。そして筑波大の日本語コースにおいてこのWEB版テストを実施し、受験データを収集した。さらに、3月に韓国の慶熙大学校国際教育院を訪問し、現地の日本語教育関係者との意見交換および情報収集を行って、テスト受験者として想定している非漢字圏学習者の中に韓国人学習者を含めるかどうかを検討した。平成15年度は、WEB版テストの外部公開を目指し、筑波大においてさらに受験データを収集、テスト画面および内容の改善を行った。WEB版(プロトタイプ版)漢字語彙力測定テストは、海外の協力機関においては動作環境の確保が難しくまだ実施できていないが、最終年度に当たり、研究成果報告書および「受験のためのマニュアル」資料を作成して印刷した。
著者
衣川 隆生
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.178, pp.36-50, 2021-04-25 (Released:2023-04-26)
参考文献数
3

本報告では「日本語教育の推進に関する法律」の公布,施行に先行する形で地域日本語教育の体制づくりに取り組んできた豊田市の事例を紹介する。豊田市は最低限の日本語能力を習得するための日本語教育の機会を提供することと,わが国に関する基礎的知識を身につけるための導入教育を行うことが地方公共団体の責務であるという方針を定め,その方針に基づいて豊田市国際化推進計画を策定し,その計画に沿って「とよた日本語学習支援システム」の構築,運営,「導入教育」の仕組みづくりに取り組んできた。報告の最後では,地域日本語教育の構築,運営に際しては,地域の状況を把握するための調査及び理念を具体化するための持続的な対話が重要であることを提言する。
著者
衣川 隆生 衣川 隆生
出版者
筑波大学文藝・言語学系
雑誌
文芸言語研究 言語篇 (ISSN:03877515)
巻号頁・発行日
no.43, pp.71-85, 2003

1990年の出入国管理及び難民認定法の改正、施行以降、就労を目的として滞在する外国人(以下、就労外国人と呼ぶ)は増加の一途をたどっており、2002年の国勢調査によると、その数は694,916人に達している。このような就労外国人の増加に伴い、労働、福祉、医療、住宅、教育、文化など、彼等に関わる数多くの問題の解決を図る第一歩として、豊田市保見団地に存在する外国人住民の日本語文字(ひらがな、かたかな、漢字)による読み書き能力の実態を明らかにし、実態に即した日本語教育および社会教育プログラムを開発することを目的として行われたものである。本稿では、このうち、2000年12月から実施された横断的調査の結果から書字能力調査を取り上げ、就労外国人における一般的傾向を把握するとともに、先行研究で示唆された可能性を再検討することを目的としている。分析の結果、1)カタカナによる姓名書字に関しては約半数の人が可能であるが、その他の表記では2割強の人しか自分の姓名の全部を正確には書けない、2)住所に関してはどの表記でも、2割以下の人しか書字できず、来日時期、職業に関しては、1割以下の人しか書字できない、3)前回の調査時点1995年から、2001年の調査時点までの就労外国人における書字能力は、変化していない、という結果が得られた。本稿の最後では、調査結果に基づき、今後の課題を議論する。 ...