- 著者
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西村 直子
西條 辰義
- 出版者
- 信州大学
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2002
本研究は,理論・実験の両側面から,自主流通米価格形成センター方式の入札市場における価格形成メカニズムの意味を解明し,コメの実勢需給をより反映できる代替市場制度を提案することを目指すものである。コメ市場は銘柄米ごとに,1人の売り手(農協)に多数の買い手(卸)が入札する,売り手独占体制である。また,買手と売り手ともに市場の常連である。参加者は互いの状況に関する豊富な情報を持っていると考えてよいため,オークション分析ではあまり用いられない完備情報ゲームとして分析するのが適当である。理論研究においては,コメ入札市場のゲームモデルを構築し,その均衡の特性を分析した結果,コメ価格設定ルールと上記情報環境の特殊性により,売り手独占市場にも関わらず,独占価格や競争均衡価格を含む多くのナッシュ均衡が存在することがわかった。さらに,その複数均衡から精緻化を経て抽出した均衡では,競争均衡に近い配分のみが達成されることがわかった。加えて,実際のコメ市場では,売り手の指値に上限を与えるルールがあるが,これはむしろ,売り手が将来の需要変化を懸念する場合には,指値設定を高止まりさせる誘引を与えることがわかった。以上の理論分析を基にデザインした実験を実施した結果,上記理論に整合的なデータが観察された。したがって,コメ入札市場現場では約定価格下落が懸念されているが,むしろこれは適正価格(=競争均衡価格)への収斂過程における下落傾向である可能性が強いことが判断できる。一方コメ入札市場との比較対象として第二価格入札市場を分析したが,完備情報下では通常の入札行動とは異なる行動が生じることに気づいた。これは参加者心理的な側面に由来するものと思われる。関連して,第二価格入札と競りとの同値性にも疑問が生じた。この点については今後の研究課題として継続していく予定である。2005年,実験経済学の世界組織ESAの公認を受けた初のコンファレンスを主催した。