著者
西廣 淳 赤坂 宗光 山ノ内 崇志 高村 典子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.147-154, 2016 (Released:2017-07-17)
参考文献数
33
被引用文献数
4

種子や胞子などの散布体を含む湖沼の底質は、地上植生から消失した水生植物を再生させる材料として有用である。ただし、底質中の散布体の死亡などの理由により、地上植生から植物が消失してからの時間経過に伴い再生の可能性が低下する可能性が予測される。しかし、再生可能性と消失からの経過時間との関係については不明な点が多い。そこで、水生植物相の変化と底質中の散布体に関する知見が比較的充実している霞ヶ浦(西浦)と印旛沼を対象に、水生植物の再生の確認の有無と、地上植生での消失からの経過時間との関係を分析した。その結果、地上植生から記録されなくなった植物の再生の可能性は時間経過に伴って急激に低下し、消失から40~50年が経過した種では再生が困難になることが示唆された。散布体バンクの保全は、湖沼の生態系修復において優先すべき課題であると考えられる。
著者
西川 潮 今田 美穂 赤坂 宗光 高村 典子
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.261-266, 2009 (Released:2011-02-16)
参考文献数
13
被引用文献数
1 12

外来種はため池生態系の生物多様性を大きく減少させる主要なストレス要因である。ため池は,氾濫原湿地を棲み場とする生物の避難場所を提供することから,生物多様性の宝庫となっており,従来の灌漑用途だけでなく,生物多様性を含む多面的機能に配慮した管理法が問われている存在である。本研究では,兵庫県の64のため池を対象として社会調査と野外調査を行い,ため池の管理形態が水棲外来動物の出現に及ぼす影響を考察した。野外調査の結果,外来動物では,ブルーギル(Lepomis macrochirus)とアメリカザリガニ(Procambarus clarkii)が出現率およびバイオマスの面でもっとも優占していた。一般に外来魚の駆除対策として池干しが行われるが,予想に反し,ブルーギルの出現は池干しの有無には左右されなかった。一方,アメリカザリガニは池干しをする池に多く出現することが明らかになった。ブルーギルは,ダム水および農業排水を主要な水源とするため池で多く出現することから,ダム湖や用排水路などから再移住してくるものと考えられる。ブルーギルとアメリカザリガニの(排他的)分布が種間関係によって決まっている場合には,一方を駆除すると他方の個体数が増える危険性がある。
著者
曽我 昌史 山野井 貴浩 土屋 一彬 赤坂 宗光
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

急速な都市化や生活様式の変化に伴い、我々が自然と接する頻度は減少の一途を辿っている。こうした現代社会に蔓延する「自然離れ」は「経験の絶滅」と呼ばれ、保全生態学や公衆衛生など複数の学術分野で重要な問題として認識されつつある。本研究では、経験の絶滅の実態(発生・伝播プロセスや人と環境保全に与える負の影響)を全国規模で把握するとともに、将来求められる緩和策を提案することを目標とする。
著者
大澤 剛士 赤坂 宗光
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.151-155, 2007-11-30
被引用文献数
2

多年生草本植物オオハンゴンソウ(Rudbeckia laciniata L.)の地上部を6月に刈り取ることが、植物体に及ぼす影響を調査した。結果、6月の刈り取りは、当年の開花を抑制するものの、地下部を肥大させている可能性が示された。刈り取りを行っていない場所で地下部サイズと花数の関係を調べたところ、地下部サイズと花数の間には高い正の相関が見られた。このことから、年1回6月に刈り取りを行うと、刈り取りを止めた場合に、大量に開花と種子の生産を引き起こしてしまう可能性が示唆された。以上のことより、オオハンゴンソウに対して年1回6月に地上部を刈り取ることは、当年の開花を抑制させる効果はあるが、駆除を目的とした管理手法としては有効とはいえないと考えられた。
著者
赤坂 宗光 露崎 史朗
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.334, 2004

火山における実生の生物学的侵入パターンが異なるマイクロハビタットにより標高傾度によりどのように変化するのか、また実生のパフォーマンスは攪乱地への侵入にとって有利となるかを明らかにするため、渡島駒ケ岳において急速に分布を拡大している北海道非在来種カラマツと、最も優占する在来種のダケカンバに対して播種実験および天然更新実生の分布の調査を行った。発芽、生存、資源分配、分岐パターン、および天然更新実生の分布パターンを3標高帯×3マイクロハビタット(裸地=BA、ミネヤナギパッチ=SP、カラマツ樹冠下=UL)で比較した。<br>対象2種ともに発芽率はLUがBA、SPよりも高かったが、標高間で差は見られなかった。生存率は標高間およびマイクロハビタット間で差は見られなかった。カラマツはダケカンバよりも高い生存率を示した。カラマツは全ての標高において、SPでの天然更新実生の密度が高く、ミネヤナギがシードトラップの役割を果たすことが示唆された。ダケカンバ実生は殆どみられなかった。カラマツは地上部重/地下部重比、高さ/直径比、分岐頻度で示される実生のパフォーマンスを標高・マイクロハビタットで変化させたが、葉重/個体重比は一定であった。BAにおいてカラマツは、地上部の高さ生長が抑制され、分岐の多い形態を示し、より地下部へ多く資源分配していた。この形態は風が強く、貧土壌栄養の環境に適応していると考えられた。カラマツ実生がSPでより細長くなったことから、被陰されたハビタットでは光獲得がより重要であることが示唆された。一方ダケカンバは、殆どパフォーマンスの変化が見られなかった。<br>これらから環境が厳しく、変動が激しい環境では、優れた実生パフォーマンスによって侵入種は在来種よりも全てのマイクロハビタットで高い生存と成長率を示すことができることが明らかになった。樹木限界やさらに高標高の植物群集は生物学的侵入による改変を受けやすいと考えられる。<br>
著者
山ノ内 崇志 赤坂 宗光 角野 康郎 高村 典子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.135-146, 2016 (Released:2017-07-17)
参考文献数
44
被引用文献数
2

全国の湖沼の水生植物の種多様性を保全することを目的とし、得点化と相補性に基づき優先的に保全すべき湖沼を評価した。文献より植物相の情報が得られた全国361湖沼のうち、近年(2001年以降)の情報が得られた最大74湖沼について解析した。得点化による手法として、現存種数、希少性、残存性の3指標により順位付けを行った。評価の結果、いずれの指標でも類似した湖沼が上位に入る傾向があり、3指標それぞれで20位以内(以下、上位)となった全26湖沼のうち、14湖沼が全ての指標で上位に入った。このことは、一般的に現存種数が多い湖沼は絶滅危惧種が多く、残存性も良好な傾向があることを示すと考えられた。相補性解析では、近年の情報が得られた85種を最低1湖沼で保全する保全目標で評価した。1000回の試行の全てにおいて、20湖沼の選択をもって保全目標を達成し、得点化による指標で抽出された湖沼に加えて、種数は少ないが汽水性や北方系など特徴的な希少種が分布する湖沼が選択された。このことから、現在得られている情報に基づく限りにおいて、相補性解析だけでも現実的な湖沼数の選択が可能と考えられた。保全すべき湖沼の解析対象は近年の情報が得られた湖沼に限ったため、これを補う目的で過去(2000年以前)の情報のみが得られた湖沼を再調査の候補地として評価した。過去の種数および希少性を指標として湖沼を順位付けするとともに、近年の記録が得られていない種(現状不明種)28種の分布記録がある湖沼を抽出した。これにより、過去の記録種数・希少性指標での上位20湖沼と現状不明種指標で抽出された全湖沼として、計61湖沼が調査候補として抽出された。保全優先湖沼として抽出された湖沼は日本各地に分布しており、湖面積や最大水深に偏りは見られなかった。水生植物の保全を考える上では、大湖沼に限らず様々なタイプの湖沼に注目する必要がある。