- 著者
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大辻 隆夫
塩川 真理
- 出版者
- THE JAPANESE ASSOCIATION FOR MENTAL HEALTH
- 雑誌
- こころの健康 (ISSN:09126945)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, no.1, pp.69-78, 2000
共感 (empathy) には, 治療的共感と発達的共感が考えられる。本研究は, 後者の発達的共感について就学前児とその母親を対象とし, 特に幼児の不安に対する母親の応答と子どもの共感能力の関係を実験的に検討した。被験者の子どもには, 主としてMillerらを参考に構成した, 次の手続を通して共感指標を得た。(1) 闘病生活を送る子どもを主人公とするVTRを見せた後, その主人公に対する感情を尋ねる (感情報告)。(2) VTRの主人公に対し, 寄付を行うか否かを選択させる (向社会的行動)。(3) 道徳的葛藤場面における行動のしかたとその理由を尋ねる (道徳的推論)。被験者の母親には, 罪悪感等を原因として子どもが不安を喚起される場面を2コマの絵と物語 (PPSTE) で示した質問紙に, 被験者自身であればどのように子どもに応答するかを回答させる。母親の回答については, 受容-拒否および表出-道具の2軸に基づき応答を4つの型に分類した。筆者らは, 共感が認知的に知ること (cognitive knowing) よりもむしろ情動的に知ること (emotional knowing) に基礎づけられていることから, 子どもと母親の各指標間の関係を検討し, 母親の応答が幼児の共感性の発達に与える影響について, 次の知見を得た。母親による子どもの感情の代理的な表出及び感情的要求の理解の伝達等の受容-表出的応答は, 男児の共感性を高める (適切な感情反応: r=.684, p<.01及び高次の道徳的推論: r=.558, p<.02) が, 女児においてはこの限りではなく, そこに性差が見られた。