著者
井上 順一朗 酒井 良忠
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.35-40, 2022-12-26 (Released:2022-12-26)
参考文献数
33

がん患者では,がんそのものやがん治療に伴う有害事象や合併症により,体力低下や身体的・精神的な機能障害が生じ,日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)が低下してしまうリスクが高い.そのため,がん種や病巣部位,進行度を考慮したリハビリテーション治療や,がん治療後に生じることが予測される合併症や機能障害を治療開始前から予防するリハビリテーション治療を行うことが重要となる.また,がんの進行に伴い機能障害の増悪や二次障害が生じるため,それらへの適切な対応も必要となる.近年,がん領域のリハビリテーション医療においては,身体的・精神的な機能障害の改善だけでなく自宅療養や社会復帰支援,治療と就労の両立支援などの社会的な側面をも考慮したがん患者のライフステージに応じたサポートを行うことが求められている.これらのリハビリテーション治療やケアを行う際には医学的エビデンスに基づいたアプローチが必要である.
著者
大江 啓介 酒井 良忠 上羽 岳志 新倉 隆宏 三輪 雅彦 黒坂 昌弘
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.195-201, 2013 (Released:2013-05-31)
参考文献数
19
被引用文献数
1

目的:炭酸ガス療法は炭酸ガスを経皮吸収させることで血流増加やボーア効果による組織酸素分圧を上昇させる作用によって生体に効果を及ぼすものと考えられている.本稿では,炭酸ガスの経皮吸収がラットの運動パフォーマンスへ及ぼす影響とそのメカニズムについて検討した.方法:ラット(Wistar系)を回転かごで1 週間の走行テスト後,炭酸ガスを経皮吸収させる群(炭酸ガス群,8 匹),運動のみを行う群(運動群,8 匹),運動も炭酸ガスも行わない群(コントロール群,8 匹)の3 群に分け,運動群と炭酸ガス群に毎日(5 日/週)30 分間の運動を4 週間実施した後で,すべての群の前脛骨筋を摘出し組織学的・生化学的に筋線維を解析した.結果:炭酸ガス群でコントロール群と比べて有意に運動パフォーマンスが向上した.また,筋線維の解析では炭酸ガス群でIIB線維からIID線維,IIA線維への移行やミトコンドリア数および血管密度の増加を認めた.結論:炭酸ガス経皮吸収はリハビリテーション後やスポーツ後の疲労回復効果などの臨床においても応用が期待される.
著者
酒井 良忠
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

RA滑膜細胞ではミトコンドリア生合成が低下しており、その改善はRA滑膜細胞のアポトーシスを亢進させ、細胞増殖能およびMMP3/RANKL分泌を低下させた。CIAマウスへのAICARの投与は、手足の厚さ、関節炎スコアを有意に低下させ、滑膜炎症細胞浸潤、滑膜増殖、軟骨変性及び破骨細胞増勢を抑制し、骨破壊の抑制とともに、関節破壊抑制の効果をin vivoでも証明した。RA滑膜でのミトコンドリア低下は、炎症時のミトコンドリアのアポトーシスを低下させ、滑膜細胞の増殖を亢進させ、関節破壊の引き金となっている可能性があり、ミトコンドリアをターゲットにした治療の可能性が示唆された。
著者
井上 順一朗 牧浦 大祐 斎藤 貴 秋末 敏宏 酒井 良忠
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.155-161, 2022 (Released:2022-04-20)
参考文献数
27

【目的】筋筋膜性疼痛症候群を生じた進行性卵巣癌患者に対して,運動療法と経皮的電気刺激治療の併用により疼痛の緩和,オピオイド鎮痛薬使用量の減量,身体活動・身体機能・QOL の改善を認めた症例を経験したので報告する。【症例紹介】卵巣癌術後再発,肝転移,遠隔リンパ節転移,腹膜播種を有する40代の女性であった。再発・転移に対する化学療法中より頸部から殿部にかけて筋筋膜性疼痛症候群を認めた。【治療プログラムと経過】頸部から殿部にかけての筋筋膜性疼痛症候群に対して,運動療法に加え,疼痛部位に対する経皮的電気刺激治療を施行した。【結果】疼痛は理学療法開始後より経時的に緩和した。疼痛緩和に伴いオピオイド鎮痛薬使用量も経時的に減量した。また,身体活動,身体機能,QOL にも改善が認められた。【結論】運動療法と経皮的電気刺激治療の併用は,がん患者の筋筋膜性疼痛症候群に対する治療・サポーティブケアのひとつとなる可能性が示唆された。
著者
奥村 真帆 福田 章真 斎藤 貴 牧浦 大祐 井上 順一朗 酒井 良忠 小野 玲
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1453, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】がん患者における術前の筋肉量低下は,術後の合併症や,生存率に影響を及ぼすと報告されている。近年,一般高齢者において筋肉量低下に関連する因子の一つに睡眠障害が注目されている。がん患者は高い確率で睡眠障害を発症するため,睡眠障害が筋肉量低下に関連していることが予測されるが,現段階ではこれらの関連は明らかとなっていない。本研究の目的は,術前の消化器がん患者における睡眠障害と筋肉量低下との関連性を調査することである。【方法】本研究の解析対象は,2016年6月から2016年9月の間に手術施行予定の患者の中で,術前に評価可能であった胃がん,食道がん,大腸がん患者40名(年齢70.5±7.5,男性31名)とした。筋肉量低下の診断は,Asian Working Group for Sarcopeniaの基準に従い,男性:骨格筋量指標<7.0kg/m2,女性:骨格筋量指標<5.7kg/m2から診断した。筋肉量の測定には,インピーダンス測定機器Inbody430(バイオスペース社製)を用いた。睡眠障害の評価には,日本語版Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)を用いた。睡眠の質,入眠時間,睡眠時間,睡眠効率,睡眠困難,眠剤の使用,日中覚醒困難の7つの各項目を0-3点の4段階に分類した。また,PSQIの各項目の総合得点が6点以上を睡眠障害有とした。その他に,年齢,性別,身長,体重,教育歴,同居人の有無,CRP,アルブミン,ヘモグロビン,performance status,がん種,合併症(Carlson Comorbidity Index),喫煙,飲酒,clinical stage,身体活動量(International Physical Activity Questionnaire),認知機能(Mini-Mental State Examination),抑うつ(Geriatric Depression Scale短縮版),栄養状態(Mini Nutritional Assessment-Short Form)を測定した。筋肉量(低下群vs.維持群)の比較は,Fisherの正確確率検定,t検定,Mann-Whitney U検定を用いた。PSQIに関しては,各下位項目と睡眠障害の有無のそれぞれについて検討した。p値が0.1未満であった項目を独立変数とし,筋肉量を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。すべての検定において,有意水準は5%未満とした。【結果】対象者の12名(30%)が筋肉量低下群であった。筋肉量低下群は,筋肉量維持群と比較して,体重が軽く(51.79±7.44kg vs. 65.60±9.83kg,p<0.05),入眠時間が長かった(p=0.03)。体重,入眠時間に加え,単変量解析にてp<0.1であった栄養状態を投入し,多重ロジスティック回帰分析を行った結果,体重(オッズ比0.79,95%信頼区間0.68-0.93)と入眠時間(3.23,1.08-9.68)が術前の筋肉量低下に関連していた。【結論】本研究では,睡眠障害のうち入眠時間が,消化器がん患者における術前の筋肉量低下と関連していることが示唆された。術前に入眠時間を評価・管理することが,筋肉量低下の進行を予防する可能性がある。今後は,睡眠障害と筋肉量低下の因果関係について検討する必要があると考える。
著者
市橋 康佑 上田 雄也 松野 凌馬 中村 瑠美 神崎 至幸 林 申也 橋本 慎吾 丸山 孝樹 酒井 良忠
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0014, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】近年,人工足関節全置換術(TAA)は,重度な変形性足関節症や関節リウマチにより高度に破壊された足関節に対する治療法として,選択施行されている。TAAの長期予後として,優れた除痛効果と関節可動域(ROM)の温存ならび改善に優れると報告されている。しかし,TAA術前から術後早期に身体機能変化について検討したものは見当たらない。また,術後の最大歩行速度(MWS)の低下は,手段的日常生活動作の低下や転倒のリスク因子であると報告されている。しかし,TAA術後のMWSに関連する因子についての報告はない。そこで,本研究の目的は,TAA術前と術後3ヶ月の身体機能の変化を比較検討するとともに,術後のMWSに関連する因子について検討することとした。【方法】対象は,2014年4月~2015年7月の期間に当院整形外科にて,TAAを施行された13名13足(男性3名,女性10名,年齢75.6±6.0歳)とした。13足のうち,変形性足関節症が12足,関節リウマチが1足であった。測定項目として,以下の項目を術前と術後3ヶ月で測定した。(1)他動ROM:足関節背屈および底屈のROMを測定した。(2)疼痛:歩行時の足関節の痛みについてVisual analog scale(以下VAS)を用いて数値化した。(3)歩行速度:10m歩行路の歩行時間を測定し,MWS(m/分)を算出した。統計解析として,術前と術後3ヶ月の各測定項目についてPaired t-testを用いて比較した。また術後3ヶ月において,MWSと背屈ROM,底屈ROM,VASの関連についてPearsonの相関分析を用いて検討した。すべての統計解析にはJMPver11.0を用い,有意水準は5%とした。【結果】背屈ROMは術前3.5±4.3°から術後7.3±3.9と有意に改善したが,底屈ROMは31.5±8.3から30.7±10.0°と有意な変化を示さなかった。また,VASは69.8±18.6から37.0.±20.7,MWSは54.4±20.0m/分から69.6±18.4m/分と有意な改善を認めた。術後3ヶ月において,MWSと背屈ROM(r=0.71),底屈ROM(r=0.56),VAS(r=0.56)とそれぞれ有意な相関関係が認められた。【結論】TAA術後3ヶ月では,術前に比べ背屈ROM,歩行時のVAS,MWSに有意な改善を認めた。術後3ヶ月におけるMWSに関連する因子として,背屈ROM,底屈ROM,VASに関連があることが示唆された。