著者
金澤 素 福土 審
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.102, no.1, pp.17-24, 2013 (Released:2014-01-10)
参考文献数
17

機能性消化管障害(FGID)患者の病態として脳腸相関の異常が想定されている.大腸刺激時の局所脳血流量の変化を観察すると,健常者でみられる前帯状回を中心とした脳領域の賦活がFGID患者ではさらに亢進している事実から,内臓知覚過敏の原因の1つとして脳内プロセシングにおける感作と連合学習が示唆される.脳機能イメージングはFGIDの脳腸相関の病態ならびに治療効果を評価する有力な生物学的指標になりうる.
著者
福土 審 遠藤 由香 金澤 素
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.108, no.1, pp.46-54, 2019-01-10 (Released:2020-01-10)
参考文献数
20
被引用文献数
1

慢性便秘症においては,偏食,食事量のアンバランス,夜食,睡眠不足,運動不足ならびに心理社会的ストレスが症状の増悪因子であるため,これらの除去・調整を実施する.これらで不十分であれば,食事療法を基本とし,運動療法を加えるが,治療効果が確実なのは適切な薬物療法である.近年,使用可能となった2種類の上皮機能変容薬及び1種類の胆汁酸トランスポーター阻害薬の3種類の薬物は,それぞれ異なる分子を標的としており,エビデンスレベルも高い.それぞれの特性を知り,便秘患者の診療に役立てることが望まれる.
著者
村椿 智彦 金澤 素 福土 審
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.341-346, 2021 (Released:2021-05-01)
参考文献数
30
被引用文献数
1

マインドフルネス療法 (mindfulness-based therapy : MBT) は世界的にエビデンスが増加しつつある心身療法である. マインドフルネス瞑想は異常なストレス応答や痛み行動を改善することが知られている. またMBTは過敏性腸症候群 (irritable bowel syndrome : IBS) に特有の認知様式である破局視と消化管特異的不安を改善するため, IBSに対する有望な治療法の1つとして考えられている. IBSに対するMBTはいくつか有望なエビデンスを示しているが研究数が少なく, さらなる研究が求められる段階である. 本稿では, マインドフルネスの定義と実践法, 瞑想の神経生理, IBSに対するMBTの効果, そして瞑想の有害事象について概説する.
著者
濱口 豊太 金澤 素 福土 審
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.1-5, 2007 (Released:2014-07-03)
参考文献数
42

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome;IBS)は脳腸相関の異常が病態の中心をなす疾患群である。IBSの病態は、消化管運動異常、消化管知覚過敏、心理的異常で特徴づけられる。消化管知覚過敏の発生機序の解明に、脳腸ペプチド・免疫・粘膜微小炎症による消化管機能変化・遺伝子・学習・神経可塑性・脳内神経伝達物質およびヒトの心理社会的行動などから進歩が見られる。消化管への炎症や疼痛を伴う刺激が先行刺激となって内臓知覚過敏を発生させる機序の一つとしてあげられる一方で、腹痛や腹部不快感の二次的な増悪を心理ストレスが引き起こし、そのときの消化器症状が関連づけられている可能性がある。本稿は、消化管知覚過敏が発生するメカニズムとして考えられている消化管粘膜微小炎症後の消化管知覚過敏、繰り返される大腸伸展刺激後の内臓知覚と情動変化の視点から、ヒトの心理的背景と遺伝要因について概説する。
著者
福土 審 金澤 素
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

脳腸相関の詳細と過敏性腸症候群の病態を解明することは、心身医学的に重要であるだけでなく、社会的利益が大きい。本研究では、炎症回復後の過敏性腸症候群の動物モデルに対する副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)拮抗薬の投与が、動物の内臓知覚過敏と消化管伸展刺激による粘膜炎症の再燃の病態をともに改善させた。また、ヒトへのペプチド性CRH拮抗薬の投与が脳腸相関を介した過敏性腸症候群の中枢機能を改善させた。
著者
福土 審 青木 正志 金澤 素 中尾 光之 鹿野 理子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

脳腸相関とは、中枢神経系と消化管の機能的関連を言う。これは発生学的に古い現象であるが、不明な点が多い。脳腸相関には大きく分けて2つの現象・経路がある。一つはストレスにより、中枢神経系興奮が自律神経内分泌系を介して消化管機能を変容させる現象・経路である。もう一つは、消化管からの信号が求心路から中枢神経系に伝達され、中枢神経機能を変容させる現象・経路である。われわれは、ストレスにより、あるいは、消化管刺激により、脳の特定部位でcorticotropin-releasing hormone(CRH)を中心とする神経伝達物質が放出され、局所脳活動を賦活化する、そして、過敏性腸症候群においてはこの現象が増強されている、と仮説づけた。本研究は、この仮説を動物実験とヒトに対する脳腸検査によって検証することを主目的とし、positron emission tomography(PET)と脳波power spectra、topographyをはじめとする脳機能画像と併せ、脳腸相関におけるCRHならびにその他の物質の役割を明確にした。平成15-18年度の科学研究費により、過敏性腸症候群の動物モデルを作成することができた。この動物モデルの病態はCRH拮抗薬により改善した。また、消化管への物理ストレスにより内臓痛が生じ、視床と辺縁系で脳血流量が増加した。同時に、脳波power spectra、topogramが変化し、腹痛とともに不安が生じた。この時、消化管運動も変化した。過敏性腸症候群ではこれらの現象が顕著であるが、これらもCRH拮抗薬により改善した。過敏性腸症候群あるいはその病態を示す動物では、辺縁系におけるCRH遊離がこれらの結果を招くことが示唆された。これらの知見を平成15-18年度に得たことにより、脳腸相関におけるCRH系の関与を明らかにするという研究目的を達成することができた。