- 著者
-
笠松 雅彦
鈴木 智大
八幡 奈緒
村松 那美
- 出版者
- 日本野生動物医学会
- 雑誌
- 日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
- 巻号頁・発行日
- vol.27, no.2, pp.99-109, 2022-09-01 (Released:2023-01-01)
- 参考文献数
- 31
受診トレーニングは,動物診療において自発的な無保定状態で対象動物に検査および治療に必要な体勢を維持させる方法であり,海棲哺乳類の飼育管理に不可欠なトレーニングである。本研究では2006年から2020年の間に鳥羽水族館において7種69頭の鰭脚類を対象に行った2653件の受診トレーニングの内容を調査し,受診トレーニングの実施が海棲哺乳類医学ならびに飼育管理に与えた影響について評価することを目的とした。受診トレーニング件数は2015年以降に著増しており,調査期間を通じてセイウチに関するものが最も多かった。受診トレーニングの内容は,採血と超音波検査がそれぞれ71.1%および26.5%と大半を占め,目的別割合は定期検査と繁殖に関連するものが,それぞれ48.4%および40.0%と多かった。繁殖関連では,継続した受診トレーニングによって,オタリアの着床遅延期間が排卵後15週であることやミナミアフリカオットセイの胎子成長率(子頭大横径)が0.85 cm/月であることが明らかになった。また,眼科診療や麻酔導入においてもその有用性が認められた。受診トレーニングは目的とその評価が重要であり,受診トレーニングによって得られた生体情報を詳細に検討し,海棲哺乳類の飼育管理や動物福祉に貢献できるトレーニング方法を発展させていく必要があると考えられた。