著者
鈴木 真吾
出版者
和光大学現代人間学部
雑誌
和光大学現代人間学部紀要 (ISSN:18827292)
巻号頁・発行日
no.3, pp.151-174, 2010-03

本論は『家畜人ヤプー』の作者であり、その全貌がいまなお明かされていない覆面作家沼正三と、1970年頃から沼の代理人として活動し、1983年に自身が沼だと名乗り出て以降も、沼との距離を注意深く保ってきた作家、天野哲夫に関するものである。2008年11月30日に死去した天野が沼の本体だという意見が主流を成す一方、天野が沼の本体ではないという意見は今日においてもなお支配的である。しかし、本論は沼の真の正体を考察するものではない。元来、仮想の人格を持った架空の人物として設定されていた「沼正三」が、何故、現実に存在する一個人であるという前提で語られてきたのかという点を問題にしつつ、『家畜人ヤプー』の作者の正体をめぐる騒動であった1980年代初頭の「『家畜人ヤプー』事件」を中心に、沼という覆面作家を巡る議論がどのように展開されたかを論じると共に、体系的に語られることのなかった天野について、沼としての天野ではなく、沼と対位法を成す存在としての天野を論じていく。
著者
牧迫 飛雄馬 赤井田 将真 立石 麻奈 松野 孝也 鈴木 真吾 平塚 達也 竹中 俊宏 窪薗 琢郎 大石 充
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-7, 2022-03-01 (Released:2022-03-30)
参考文献数
42
被引用文献数
2

【目的】地域在住高齢者における軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)に関連する可変因子を探索し,それらの組み合わせによるMCIとの関連性を検討することを目的とした。【方法】地域コホート研究(垂水研究2018および2019)に参加した高齢者のうち,MCI群289名と非MCI群289名(プロペンシティ傾向スコアによる1:1のマッチング)の計578名(平均年齢76.15歳,女性63.7%)のデータを横断的に分析した。決定木分析によりMCIの有無に関連する項目を抽出してグループ化した。【結果】決定木分析の結果,握力低下(男性 28 kg未満,女性 18 kg未満),睡眠の質の低下,社会参加の有無の組み合わせによりグループが形成され,MCIの割合は握力低下なし+睡眠の質の低下なしの群で最も低く(37.7%),握力低下あり+地域行事の参加なしの群で最も高かった(82.0%)。【結論】筋力が維持され,睡眠の質が良好な高齢者では認知機能低下が抑制されている可能性が高く,一方で筋力が低下し,社会参加(地域行事などへの参加)が乏しい高齢者では認知機能の低下が疑われ,MCIを有する割合が高くなることが示唆された。筋力,睡眠,社会参加を良好な状態に維持すること,またはいずれかに低下が認められてもそれ以外の因子を良好な状態を保つことが認知機能低下の抑制に寄与するかもしれない。
著者
鈴木 真吾
出版者
公益財団法人 史学会
雑誌
史学雑誌 (ISSN:00182478)
巻号頁・発行日
vol.130, no.3, pp.61-85, 2021 (Released:2022-03-20)

本稿は、19世紀末から20世紀初頭のイズミルで発生した2つのコレラを事例に、細菌学という新たな科学知の受容、病気という現象の理解、そして現実の疫病対策への影響という理論と実践の両面から、近代オスマン都市の疫病対策を検討する。そしてコレラ対策の中心となった行政医たちに着目し、こうした疾病理解や新聞や雑誌の急速な発達の中で、近代オスマン帝国の衛生政策に地方社会がいかに組み込まれていったかを考察する。 1910年から11年のイズミルにおけるコレラ流行では、それに先立つイスタンブルでの細菌学研究所設立の影響もあり、上水道の断水や患者の隔離の徹底が対策の中心となるなど、1893年の流行の際とは異なる対策の新たな局面も見られた。しかし他方で、コレラの発症には人間側の条件、すなわち人間の身体にコレラ菌の生育に適切な環境が必要であるという理解の下、以前の流行の際に見られた行政・個人双方での諸対策も、「細菌の生育を防ぐ」対策として新たに位置づけられ、実行された。こうした事実から、時代の変遷によるコレラ理解と対策の変容のみならず、細菌学の到来により再編された疾病理解の枠組みの中に従来の対策が新たに意味づけられるという連続性も看取される。 イズミルのような地方都市で、こうした防疫実践を主導したのは、1867年にイスタンブルで開校した文民医学校出身の医師たちであった。帝国各地から集まった医学生は、卒業後、出身地の行政医に任ぜられ、帝国の衛生政策のエージェントの役割を果たした。彼らはコレラ対策の中心となるだけでなく、同時期に発達した新聞や雑誌などのメディアを通じて個人・家庭における日常的な健康維持を啓蒙した。このような活動を通じて、主体的に健康を維持する個人を作り出し、オスマン帝国の国家的な衛生政策に地方都市の個人を組み込む役割を果たしたのである。
著者
鈴木 真吾
出版者
和光大学現代人間学部
雑誌
和光大学現代人間学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Human Studies (ISSN:18827292)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.151-174, 2010-03

本論は『家畜人ヤプー』の作者であり、その全貌がいまなお明かされていない覆面作家沼正三と、1970年頃から沼の代理人として活動し、1983年に自身が沼だと名乗り出て以降も、沼との距離を注意深く保ってきた作家、天野哲夫に関するものである。2008年11月30日に死去した天野が沼の本体だという意見が主流を成す一方、天野が沼の本体ではないという意見は今日においてもなお支配的である。しかし、本論は沼の真の正体を考察するものではない。元来、仮想の人格を持った架空の人物として設定されていた「沼正三」が、何故、現実に存在する一個人であるという前提で語られてきたのかという点を問題にしつつ、『家畜人ヤプー』の作者の正体をめぐる騒動であった1980年代初頭の「『家畜人ヤプー』事件」を中心に、沼という覆面作家を巡る議論がどのように展開されたかを論じると共に、体系的に語られることのなかった天野について、沼としての天野ではなく、沼と対位法を成す存在としての天野を論じていく。
著者
鈴木 真吾
出版者
日本中東学会
雑誌
日本中東学会年報 (ISSN:09137858)
巻号頁・発行日
no.31, pp.1-27, 2015-07-15

In the second half of the nineteenth century, belediyye (municipality) was established in major Ottoman cities. Its principal role was to maintain public health by means of street cleaning and disinfection. Though it was the autonomous body, a Provincial Health Inspector (Vilayet Sihhiyye Mufettisi) regularly examined the task of sanitary services offered by the municipality. Also, he often ordered it to take preventive measures such as a medical care for the poor and a vaccination for children. Street sweepers who were recruited by Dutch auction cleaned the street, collected the garbage and disinfected the city. Hygiene guidelines issued by the municipality instructed its inhabitants on how to maintain public health. But at the same time, these kinds of municipal services were strongly demanded by inhabitants of Izmir who considered it essential to keep the environment clean in order to defend against poisonous air. Thus, it can be said that the sanitary reform of the municipality was not only the top-down process, but also the bottom-up process. Personal hygiene was stressed as well as public hygiene. With the progress in bacteriology, the sanitary measure in this period seems to have become an individual thing.