著者
田中 寛之
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-8, 2023-02-13 (Released:2023-02-15)
参考文献数
32

認知症を呈す多くの疾患は進行性である。そのため,支援者は疾患の進行経過を理解し,対象者の今のステージを把握する必要がある。現在の医学では,アルツハイマー病をはじめとした認知症を呈する変性疾患の根治的治療は困難なため,いずれは中等度・重度の段階に至る。中等度・重度の段階は,軽度や軽度認知障害の段階と比較して,病態は複雑化し評価・介入が難しくなることもあるため,これまでは支援者の経験値に委ねられたものとなり,根拠に基づいた支援が行われていなかったように思われる。認知症者に適切なリハビリテーション・ケアを行うには病状を重症度ごとに,目的に合わせた評価法を用いて,その結果を解釈し,個別性のある介入戦略を立てる必要がある。しかし,中等度・重度の段階で使用できる各種評価法や介入のために活用できる概念モデルについては,これまであまり知られておらず,特に国内では浸透していなかった。本稿では,中等度・重度認知症者で用いることができる認知機能,日常生活活動(Activities of Daily Living; ADL),行動心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia; BPSD)の各種検査・評価法や介入の際に参考にできる概念モデルについて概説する。今後,この段階における研究がさらに進むことが望まれる。
著者
永井 宏達
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-6, 2023-08-21 (Released:2023-08-23)
参考文献数
5

いわゆる介護予防(要介護化の予防)のニーズの向上に伴い,近年は地域リハビリテーション活動支援事業や保健事業と介護予防の一体的実施の事業等を通して療法士が地域で活動する機会が増えている。地域での介護予防に関わる上では,療法士に求められている役割を正しく把握し,自身の関りで個人や地域にどのような好影響を与えることが出来るかを常に考えることが求められる。事業形態に合わせて対象者の状態を適切に評価するとともに,対象者の状態に応じて他の専門職との連携や他部門への接続を積極的に検討する。通いの場は互助に位置づけられることから,専門職が主導することなく,住民の主体性を支援する関りを心掛ける必要がある。一方,療法士が専門職として関わることによる介護予防のエビデンスは発展途上であり,専門性の強みを示していくことも併せて求められる。
著者
永見 慎輔
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-6, 2023-07-27 (Released:2023-08-01)
参考文献数
30

摂食嚥下リハビリテーションにおいて,先端技術の活用が進んでいる。超高齢社会における摂食嚥下障害患者の増加に対応するため,コンピュータ断層撮影(Computed Tomography: CT),超音波検査(ultrasonic examination: US),仮想現実(Virtual Reality: VR),ウェアラブルデバイスなどの医用画像やセンシング技術を用いた介入が注目されている。また,音響解析や電気刺激療法などの分野も発展している。先端技術の導入により,より正確な評価や効果的な治療,医療に参画する人々の拡大,そして患者のQOL向上などが期待されている。具体的な機器を紹介し,摂食嚥下リハビリテーションにおける先端技術の活用について概説する。今後,先端技術の効果的な活用が,摂食嚥下リハビリテーションの発展に寄与すると予想される。
著者
鈴木 瑞恵
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-6, 2023-02-14 (Released:2023-02-16)
参考文献数
24

加齢に伴い,摂食嚥下とコミュニケーションに関わる機能・能力は低下する。摂食嚥下の加齢性変化は「オーラルフレイル」と呼ばれ,健康有害事象との関連が明らかになっている。比較的新しい概念であるが,評価方法,そして予防介入に関する知見が集積されつつあり,今後のさらなる検証が期待される。一方,コミュニケーションについても,加齢に伴って機能および環境が変化し,その変化が高齢者にさまざまな影響を与えることが示されている。コミュニケーションは社会的要素を併せ持っており,加齢に伴う変化が必ずしも病的な低下を表さない可能性がある点に注意が必要である。これら2つの活動は主に言語聴覚士が関わる領域であるが,日常的に誰しもが営む重要な活動であり,職種に関わらず把握し,対象者のリハビリテーションに活かす必要があると考えられる。本稿では,地域在住高齢者の摂食嚥下とコミュニケーションにおける現状を整理し,課題についてまとめた。今後も高齢者の摂食嚥下とコミュニケーションに関する検証を進め,高齢者の健康寿命延伸に向けた一助となることを期待したい。
著者
中村 光
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-7, 2022-11-21 (Released:2022-11-23)
参考文献数
45
被引用文献数
2

コミュニケーションとは「意味の共有」と定義される。一方が共有を望んで頭の中の意味を記号化しメッセージとして発信し,他方がそれを受信して記号を解読し頭の中に同じ意味が生じれば,コミュニケーションが成立したことになる。また,コミュニケーションの場には必ずコンテキスト(文脈,状況)があり,同じメッセージであってもコンテキストによって意味は異なってくる。コミュニケーションの問題を引き起こす障害は,大きく4つに類別できる。①記号の入出力の問題が聴覚障害や音声・構音障害であり,②記号の操作の問題が大脳左半球の損傷で生じる失語症である。また,③主にコンテキストの利用の問題として,近年では認知コミュニケーション障害(CCD)という概念が提唱されている。CCDとは,注意・記憶・遂行機能などの認知機能障害を背景にしたコミュニケーション障害で,大脳の右半球損傷,前頭葉損傷,瀰漫性損傷によって生じることがある。さらに,④認知症は意味の問題に加えて②③も併発しているものと捉えることができる。失語症に関して日本では最近まで,機能障害水準の評価尺度がほとんどでコミュニケーション障害(活動制限)水準を直接評価する尺度は乏しかったが,現在は複数のものが開発・発表されつつある。CCDの評価尺度は開発の途上にある。最後に,老化におけるコミュニケーションの問題についても,CCDの研究・臨床で得られる知見が有用であろうと論じた。
著者
由利 禄巳 兼田 敏克 東 泰弘 由利 拓真 田中 歩
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-3, 2023-08-29 (Released:2023-09-05)
参考文献数
7

本研究の目的は,地域在住高齢者の買い物能力を評価する買い物工程分析表の内容妥当性を検証することである。COSMINに基づき関連性,包括性,分かりやすさを検討した。協議者は地域在住高齢者に携わる経験10年以上の作業療法士とした。結果,買い物準備から物品収納までの4工程10項目判定基準5段階からなる観察評価尺度を作成し,内容妥当性について合意を得た。今後は信頼性や妥当性を検討する予定である。
著者
外山 稔 中西 恵利菜
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-7, 2022-03-01 (Released:2022-03-30)
参考文献数
46

超高齢社会となった現在,加齢とともに出現する疾患や健康障害が大きな問題として位置づけられ,加齢性難聴と認知症への対策が課題となっている。加齢性難聴は,高齢者の身体に直接的な影響を及ぼすものではないが,コミュニケーション障害の原因となり,社会的孤立やうつを引き起こす要因となり得る。現在,加齢性難聴と認知症の因果関係について,十分な結論には至っていないものの,時間的に先行する難聴は認知症の発症や認知機能低下のリスクを高めることが明らかとなっている。コミュニケーション支援を専門とする言語聴覚士による観察・評価およびリハビリテーションの知識・技術は,難聴の早期発見と介入に役立つと考えられる一方,聴覚領域で働く言語聴覚士はごくわずかである。今後,補聴器装用が認知症の発症リスク軽減に寄与することが明らかにされれば,高齢者の聴覚と認知機能の評価はますます重要となる。オージオメータや専用の機器・装置がなくても実施できる入眠時聴性開眼反応,囁語法聴力検査,指こすり音聴取検査を用いた聴覚スクリーニングは多くの施設で導入可能である。また,有用なコミュニケーション手段の検討やコミュニケーション環境の調整は,言語聴覚士が専門的な臨床経験を有する分野である。加齢性難聴に対する関心が職種を超えて高まり,実現可能な介入方法の検討ならびに地域高齢者への啓発活動につながることが期待される。
著者
赤井田 将真 中井 雄貴 富岡 一俊 谷口 善昭 立石 麻奈 田平 隆行 竹中 俊宏 窪薗 琢郎 大石 充 牧迫 飛雄馬
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-6, 2022-06-01 (Released:2022-06-04)
参考文献数
30

【目的】地域在住高齢者ドライバーにおける自動車事故歴と転倒歴の関連性を調べることを目的にした。【方法】地域コホート研究(垂水研究2018または2019)に参加した65歳以上の自動車運転をしている高齢者602名(平均年齢72.8±5.6歳,女性50.0%)を対象とし,横断的に解析を行った。自動車事故歴は過去2年間の自動車事故歴の有無を聴取し,「事故歴あり」と「事故歴なし」に分類した。転倒歴は過去1年間における転倒の有無を聴取し,「転倒歴あり」と「転倒歴なし」に分類した。統計解析では,従属変数に事故歴の有無,独立変数を転倒歴の有無,共変量に年齢,性別とした二項ロジスティック回帰分析を行った。【結果】全対象者のうちで自動車事故歴がある者は5.6%,転倒歴がある者は13.0%であった。事故歴ありの者は,事故歴なしの者に比べ転倒歴を有する者の割合が有意に高かった(p=0.003)。二項ロジスティック回帰分析の結果,転倒の経験は自動車事故の経験と有意に関連することが示された(オッズ比:3.12,95%信頼区間:1.42–6.85,p=0.004)。【結論】地域在住高齢者ドライバーにおいて,自動車事故の経験を有することと転倒の経験を有することは関連することが示唆された。
著者
山 健斗 猿爪 優輝 山下 真司 神谷 健太郎
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-6, 2022-06-22 (Released:2022-06-22)
参考文献数
15

【目的】地域在住高齢者を対象に通所介護サービス初回利用時の目標内容を計量テキスト分析にて解析し,サービス開始時の動機付け因子となる要因を明らかにすることとした。【方法】通所介護を利用している事業対象者・要支援者の96名(平均年齢79.4歳,女性59名)を対象とした。目標設定は構造化された枠組みに沿って行われた後,KH coderを用いたテキストマイニング法にて関連のある用語の抽出と共起ネットワークにて関連性を認めた抽出語をクラスタリングし,カテゴリー,サブカテゴリー分けを実施した。分類したカテゴリーと介護度,年齢,日常生活自立度,性別のバブルチャートを作成した。【結果】目標のカテゴリーとして①身体機能の改善,②歩行の耐久性の向上,③生活水準維持に必要最低限の生活空間での自立,④駅までの外出,⑤公共交通機関の利用,⑥社会活動の獲得,⑦運動関連の余暇活動に分類された。また,バブルチャートにて介護度と年齢は目標の生活空間の広さ,日常生活自立度と性別は目標の社会活動のレベルに一定の関連があることを示した。【結論】社会参加に関連した目標だけでなく,生活範囲の維持等を目的とした身体機能や活動面も目標となり,介護予防対象者へ効果的な動機付けの一助を担える可能性が示唆された。
著者
久米 裕
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-6, 2023-02-17 (Released:2023-02-20)
参考文献数
29

睡眠,食事,仕事,余暇活動を含む一日を通した生活リズムを整えることは,人の健康を保つために周知の事実である。認知症高齢者に観察される夜間せん妄や徘徊などの不穏行動には,生活リズムの障害が背景にあると指摘されており,毎日の生活にリズムをもたせ,そのリズムに沿って休息をとり活動することは,認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia, BPSD)を軽減させるのみならず,心身の健康を維持または改善するために重要である。しかしながら,日々の活動や休息を自力では管理が難しい認知症高齢者に対して,周囲が認知症における生活リズムの特徴を捉えて支援しなければならない。近年のInformation and Communication Technology(ICT)が応用されたウェアラブル技術は,認知症の生活リズムをより定量的に把握する上で有用であることがわかってきた。特に,腕時計型ウェアラブル端末Actigraphを応用した国内外の研究知見は,認知症における休息・活動リズム(Rest-Activity Rhythm)の特徴を明らかにしている。認知症の生活リズムを適切に理解することによって,専門職による治療的介入の発展につながるだけでなく,対象者本人とその関係者の健康を保つ一助となることを期待する。
著者
松沢 良太
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-9, 2022-11-15 (Released:2022-11-16)
参考文献数
55
被引用文献数
2

本邦において腎代替療法を必要とする末期腎不全患者は年々増え続けている。また,腎臓病の成因および病態の変化や透析療法の長期化に伴い,血液透析患者の深刻な高齢化が報告されている。高齢透析患者には慢性的な低栄養の遷延,透析療法に伴うアミノ酸喪失,慢性炎症,インスリン抵抗性,代謝性アシドーシス,尿毒症,異化亢進/同化抵抗性,度重なる入院イベントおよび多疾患併存といったフレイルにつながる危険因子を数多く有する。定期的な身体機能・身体活動量評価や評価結果に対するフィードバック,さらには評価結果に応じた運動療法指導の実施が行われることは腎不全患者の日常生活動作レベルやquality of lifeの維持・向上につながり,生命予後の改善,さらには腎移植への道も開けるかもしれない。透析医療を含む腎臓病領域において,フレイル管理は未だルーチンケアには含まれていないのが現状であり,これから療法士が参入していく必要性を筆者は強く感じている。
著者
井上 達朗
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-6, 2023-05-29 (Released:2023-05-31)
参考文献数
8

現段階で,栄養サポートチーム(NST)での理学療法士の役割に関する最適解は存在するのだろうか。高齢化,病態の多様化,医療技術の高度化等に特徴づけられる現代医療の変革の中で,その役割を現在進行形で確立していく必要がある。手がかりはある。「リハビリテーション・栄養・口腔の三位一体」に代表されるキーワードは,我々がこの新領域で他職種と協働するためのヒントとなる。本稿では,未だ確立されていないNSTでの理学療法士の役割について,決して最先端とは言えない筆者の経験を基にあえてナラティブに解説,紹介する。
著者
石橋 裕
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-5, 2022-11-28 (Released:2022-12-08)
参考文献数
30

生活行為とは人々が毎日行っている活動のことであり,高齢者は疾患や障害,フレイルにより日々できることが少なくなる。また,生活行為の問題は,認知症の生活障害のように,疾患の特徴として報告されることもある。生活行為には様々な方法で評価できるが,それぞれ異なった特徴を有している。具体的には,包括尺度なのか特異的尺度なのか,抽象化された質問か具体的な質問か,可否を問うのか実施状況を問うのかなどである。それらの中には,対象者に生活行為の意味や優先度を尋ねることにより,支援に生かすこともできる評価もある。生活行為の評価方法の違いは,生活行為に対する包括的支援なのか,集中支援なのかといった違いにもつながっている。一方で,最近はプログラム中に生活行為の目標を明確にするなどの取り組みも行われるようになり,双方の利点を生かしたプログラムも開発されるようになった。生活行為の評価と支援のためには専門的な知識が必要ではあるが,今後は広く社会に普及するための評価と支援方法の開発が望まれる。
著者
土井 剛彦
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-6, 2022-03-01 (Released:2022-03-30)
参考文献数
39

健康寿命延伸のために,フレイルや認知症の対策が重要であり,理学療法士を含めた専門職が果たす役割に期待が寄せられている。そのような状況において,フレイル,認知症に対して適切に理解することが求められる。フレイルの評価として,身体的な側面だけでなく社会的な側面や認知機能にも着目し,包括的に高齢者の状態を把握することが求められる。認知症については,認知機能評価を行い,状態に応じた対応が求められ,mild cognitive impairment(MCI)は積極的な介入が求められる対象である。フレイルに対する介入としては,運動を中心とした方法が推奨されており,認知機能低下抑制に対しても運動は実施すべき介入方法の一つとして考えられている。高齢者を対象に,運動介入や身体活動促進をおこなうことで身体機能にポジティブな効果がもたらされることは広く知られているところである。また,身体機能や身体活動と認知機能の関連性を明らかにすべく,疫学研究,脳画像研究や介入研究など幅広く検討がなされてきた。これらの内容を適切に理解することで,専門職がフレイル,認知症対策により積極的に関わることにつながると考えられる。
著者
田平 隆行 池田 由里子 丸田 道雄 下木原 俊
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-6, 2022-03-01 (Released:2022-03-30)
参考文献数
32

Healthy Aging(WHO)や世界的な作業療法の潮流を受け,個人にとって意味のある活動(Meaningful Activity; MA)を基にした作業療法実践が重要視されてきている。MAは「個人,集団,地域にとって個別的意味があり,納得のいく経験を促すために選択され,遂行される作業」と定義されているが,世界的なコンセンサスは得られていない。しかし,地域在住高齢者のMAを発掘し,MAに焦点を当てた実践によってIADLやQOLに効果があることが分かってきた。我々が取り組んでいる地域在住高齢者に対するMA調査においても,MAの満足度と抑うつやアパシーとは有意な関連があり,MAの満足度を高める支援が必要と考える。さらに,身体フレイルを有する高齢者は身体活動を,認知機能障害を有する高齢者は認知活動をそれぞれMAとして選択する割合が有意に低く,フレイルの各側面に応じてMAが影響を受けることも分かった。住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けるためにMAに従事し満足できるよう,本人のできることを最大限に活かした作業療法を展開していきたい。
著者
釜﨑 大志郎 大田尾 浩 八谷 瑞紀 久保 温子 大川 裕行 藤原 和彦 坂本 飛鳥 下木原 俊 韓 侊熙 丸田 道雄 田平 隆行
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-8, 2023-01-06 (Released:2023-01-07)
参考文献数
31

【目的】本研究の目的は,プレフレイルからロバストへの改善に関連する基本チェックリスト(kihon checklist: KCL)の各領域の特徴を検討することとした。【方法】対象は,半年に1回の体力測定会に参加した地域在住中高年者とした。改訂日本版cardiovascular health study基準(改訂版J-CHS)でプレフレイルの有無を評価し,半年後に同様の評価を行った。ベースラインから半年後にプレフレイルからロバストに改善した群と変化がなかった非改善群の2群に分けた。また,KCLで生活に関連する機能の評価を行った。改善群と非改善群を従属変数,KCLの各領域の点数を独立変数とした2項ロジスティック回帰分析を行った。また,有意な関連を示したKCLの下位項目に回答した割合を比較し,特徴を検討した。【結果】分析対象者は,地域在住中高年者60名(71.9±7.8歳)であった。2項ロジスティック回帰分析の結果,プレフレイルからロバストへの改善の有無にはKCLの社会的孤立(OR: 0.04, 95%CI: 0.00-0.74, p=0.031)が関連することが明らかになった。また,ロバストに改善した群は,社会的孤立の中でも週に1回以上外出している者が有意に多かった。【結論】プレフレイルの地域在住中高年者へ外出を促すことで,ロバストへ改善する可能性が示唆された。
著者
齋藤 崇志 矢田部 あつ子 松井 孝子 清水 朋美
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-9, 2023-09-14 (Released:2023-09-22)
参考文献数
18

目的:ロービジョンケア(LVC)は,視機能低下を有する人々の生活の質の向上を目指すサービスであり,LVCに関わる医療や福祉の有資格者(LVC専門職)によって実施される。本研究の目的は,高齢者介護の専門職(医療介護職)とLVC専門職の間の連携の実施状況,ならびに,医療介護職による視機能把握の実施状況とLVCに関する認知度を明らかにすることである。方法:調査会社にモニター登録している医療介護職(介護福祉士,介護支援専門員,看護師,理学療法士,作業療法士)を対象としたオンラインアンケートを実施した。LVC専門職との連携経験,高齢者の視機能の把握状況,LVCに関する認知度の3項目を調査した。解析として,記述統計の算出と,職種間の差異を検討するためz検定を実施した。結果:1,011名から有効回答を得た。眼科医との連携経験を有する者が73.59%,視能訓練士との連携が45.1%であった。78.93%の対象者が高齢者の視機能を「把握している」と回答し,57.86-63.40%の対象者が各LVC専門職の名称を「聞いたことがあり意味も知っている」と回答した。介護職は,リハ職・看護師と比べ,連携経験(ある)と視機能の把握状況(把握している),LVCに関する認知度が有意に高かった(p<0.05)。結論:両専門職の連携の現状,医療介護職の視機能の把握状況とLVCに関する認知度が明らかとなった。連携の発展に向けて関連知見の蓄積が必要である。
著者
牧迫 飛雄馬 赤井田 将真 立石 麻奈 松野 孝也 鈴木 真吾 平塚 達也 竹中 俊宏 窪薗 琢郎 大石 充
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-7, 2022-03-01 (Released:2022-03-30)
参考文献数
42
被引用文献数
2

【目的】地域在住高齢者における軽度認知障害(mild cognitive impairment: MCI)に関連する可変因子を探索し,それらの組み合わせによるMCIとの関連性を検討することを目的とした。【方法】地域コホート研究(垂水研究2018および2019)に参加した高齢者のうち,MCI群289名と非MCI群289名(プロペンシティ傾向スコアによる1:1のマッチング)の計578名(平均年齢76.15歳,女性63.7%)のデータを横断的に分析した。決定木分析によりMCIの有無に関連する項目を抽出してグループ化した。【結果】決定木分析の結果,握力低下(男性 28 kg未満,女性 18 kg未満),睡眠の質の低下,社会参加の有無の組み合わせによりグループが形成され,MCIの割合は握力低下なし+睡眠の質の低下なしの群で最も低く(37.7%),握力低下あり+地域行事の参加なしの群で最も高かった(82.0%)。【結論】筋力が維持され,睡眠の質が良好な高齢者では認知機能低下が抑制されている可能性が高く,一方で筋力が低下し,社会参加(地域行事などへの参加)が乏しい高齢者では認知機能の低下が疑われ,MCIを有する割合が高くなることが示唆された。筋力,睡眠,社会参加を良好な状態に維持すること,またはいずれかに低下が認められてもそれ以外の因子を良好な状態を保つことが認知機能低下の抑制に寄与するかもしれない。
著者
島田 裕之
出版者
一般社団法人 日本老年療法学会
雑誌
日本老年療法学会誌 (ISSN:2436908X)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-5, 2022-03-01 (Released:2022-03-30)

日本老年療法学会は,高齢者の健康増進,障がいの一次,二次,三次予防の効果的な知見を創出するために,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士等の専門職が一体となって議論する場を提供し,知見の共有やイノベーションの創出を目的としている。この目標を達成するためには,研究を通じた生涯学習の促進が必要であり,研究実施の手順を自己の経験を踏まえながら記述した。本学会を通して質の高い研究が広く公表されることを期待している。