- 著者
-
安井 敬三
長谷川 康博
- 出版者
- 三輪書店
- 巻号頁・発行日
- pp.606-611, 2015-07-25
はじめに
四肢にしびれ感を自覚する日本人は加齢とともに増加し,国民生活基礎調査では本邦の50歳代の約3.8〜4.6%10),救急外来受診患者では7.9%にみられる11).しびれ感のほかに麻痺があれば脳卒中を疑い,強い痛みがある場合は脊髄疾患を疑うことは比較的容易である.主訴がおよそしびれ感単独で外傷なく1カ月以内の発症である症例を抽出すると,そのうち短期間で症状が悪化し得る疾患と判明した症例は13.2%含まれ,内訳は脳血管障害80.7%,頸椎症と頸椎ヘルニア7.0%,その他の脊髄疾患5.3%であった11).
頸椎症と脳血管障害は中高年に発症するありふれた疾患で,しびれ感の鑑別として重要である.頸椎症は神経根症と脊髄症に分類され,前者は頸部痛を伴って障害高位に従った知覚障害と脱力がみられる.後者は上肢のしびれ感で始まり,長経路徴候として下肢に異常がみられる.一方,脳血管障害は片側上下肢に同時に広がるしびれ感や麻痺が突然起きるのが通常で,鑑別は容易であることが多い.しかし,脳血管障害には,頸部痛を伴って軽微な神経症状を呈する延髄梗塞や,しびれ感や脱力が限局した部位にのみ現れて頸椎症を思わせるcheiro-oral-pedal症候群,precentral knob梗塞があり,ときに鑑別が必要となる.脊椎画像で障害高位が存在しても,神経症状と障害髄節の神経徴候とが合致しない場合は,頭蓋内疾患を疑う必要がある.
本稿では,特に頸椎症と鑑別を要する感覚障害を呈した代表的頭蓋内疾患(脳血管障害)の3型を提示し,解説する.