著者
紙谷 司 上村 一貴 山田 実 青山 朋樹 岡田 剛
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EbPI2415, 2011

【目的】<BR> 高齢者の活動範囲を拡大し、活動量を増やすことは運動機能、認知機能の維持・向上に寄与する。このため、自宅退院後の疾患患者や地域在住高齢者の活動範囲を可能な限り確保することは重要な課題と言える。活動範囲の拡大には、屋内に比べ圧倒的に外的要因の増える屋外環境を転倒や事故を起こさないよう安全に移動する自立歩行能力が必要不可欠となる。そのような活動内容の一つとして道路横断行為が挙げられる。この活動を安全に行うためには道路を転倒することなく安定して歩行できる能力を備えているだけでは十分とは言えない。自己で車の往来を視覚的に確認し、安全に横断可能なタイミングを瞬時に判断する能力が必要となる。本研究では、地域在住の高齢者を対象に歩行シミュレーターによる道路横断疑似体験を実施し、高齢者の道路横断行為について分析を行った。本研究の目的は道路横断中の安全確認行為という要素に着目し、非事故回避者の特徴を明らかにすることで、屋外自立歩行者に要求される能力的要素を検証することである。<BR>【方法】<BR> 対象は京都府警察が実施した交通安全教室にて歩行シミュレーターを体験した地域在住高齢者525名(平均年齢74.3±6.0歳)とした。使用したのはAPI株式会社製のシミュレーターで、三面鏡様に組み立てたスクリーン上に片側一車線の道路及び通行車両が映し出される。体験者はスクリーン前のトレッドミル上を歩行することで歩道から奥車線を通過するまでの道路横断を疑似体験することができる。体験者の頭頂部には6自由度電磁センサーLiverty (Polhemus社製)を装着し、水平面上の頭部の運動学的データから左右の安全確認回数、時間を測定した。なお、安全確認とは30°以上の頭部回旋を1回の確認と定義し、この動作を行った延べ時間を安全確認時間とした。解析対象は奥車線到達までの歩道及び手前車線での右・左各方向への安全確認行為をとした。対象者は事故回避の可否と事故遭遇地点から事故回避群、手前(車線)事故群(右側から向かってくる車と接触)、奥(車線)事故群(左側から向かってくる車と接触)に分類した。統計処理にはMann-WhitneyのU検定を用い、事故回避群と手前事故群、奥事故群の各安全確認回数、時間の比較を行った(有意水準5%)。<BR>【説明と同意】<BR> 参加者には紙面および口頭にて研究の目的および方法などに関して十分な説明を行い同意を得た。<BR>【結果】<BR> はじめに確認行為が0回にも関わらず事故を回避している偶発的な事故回避の疑いがある者を除外した496名のデータを統計解析に採用した。496名のうち事故回避群は461名(平均年齢74.5±6.0歳)、手前事故群は20名(平均年齢73.6±6.7歳)、奥事故群は15名(平均年齢71.6±4.7歳)であった。各群の年齢に有意差は認めなかった。事故回避群の歩道での右確認回数、時間はそれぞれ9.1±5.4回、44.2±21.4secであり、手前事故群の6.3±6.8回、29.1±18.5secに対し有意に高値を示した(p<0.01)。また、事故回避群の左確認回数は歩道7.9±5.6回、手前道路2.4±2.3回、確認時間は27.9±20.0secであり、奥事故群の確認回数(歩道8.9±6.3回、手前道路2.7±2.2回)、確認時間29.6±21.6secと有意差を認めなかった(確認回数 歩道p=0.53、手前道路p=0.46、時間p=0.95)。<BR>【考察】<BR> 手前車線での事故に関しては、手前事故群は事故回避群に比べ歩道での右確認行為が回数、時間ともに有意に少なかった。したがって右方向を十分に見たという行為が事故回避に繋がったと考えられる。しかし、奥車線での事故に関しては手前車線まででの左確認回数、時間ともに事故回避結果に影響を及ぼさなかった。つまり左方向を十分に見ていたにも関わらず事故を回避できなかったことになる。これは奥車線の安全確認は手前車線を歩行しながら行わなければならないという運動条件の付加による影響が考えられる。つまり、奥事故群においては、歩行という運動課題に注意配分が奪われることで、視覚での確認行為、または情報処理の過程に影響が及び、誤った状況判断に繋がった可能性が考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回は道路横断という屋外活動での一場面について検証したに過ぎないが、運動課題中の視覚認知、状況判断能力が屋外を安全に移動するために重要な要素である可能性が示唆された。したがって、通常の歩行訓練にこのような要素を付加することがより実践的であると考えられる。高齢者の活動範囲の拡大に向けて、理学療法学領域において運動時の視覚について更なる検討を行う意義は大きい。
著者
森野 佐芳梨 堀田 孝之 大橋 渉 有馬 恵 山下 守 山田 実 青山 朋樹 石原 美香 西口 周 福谷 直人 加山 博規 谷川 貴則 行武 大毅 足達 大樹 田代 雄斗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】妊娠により,女性の身体には様々な解剖学的および生理学的変化が生じ,腰痛に代表される多様な不快症状が発生する。これらの症状は医学的に母児への影響が少ないとされ,マイナートラブルと定義されている。しかし,この症状により妊婦のQOLが損なわれ,妊娠経過に悪影響を与えることから,対処を行う必要があるが,妊娠経過とマイナートラブルに関する調査は十分ではない。また妊娠前には,ホルモンバランスを整え,順調な妊娠経過を送るために,適正なbody mass index(BMI)を維持することが重要である。しかし,これは主に妊娠高血圧や妊娠糖尿病などとの関連において重要視されており,マイナートラブルとの関連についての十分な検討はなされていない。そこで本研究の目的は,妊娠中の女性に発生するマイナートラブルと妊娠前BMIとの関連を縦断的に検討することとする。【方法】対象は名古屋市内のXクリニックグループにおけるマタニティフィットネスに参加していた妊婦355名(31.1±4.1歳)とした。調査項目は2009年から実施されたメディカルチェックシート,および電子カルテから得られる身体情報(年齢,身長,妊娠前体重)である。メディカルチェックシートは,日本マタニティフィットネス協会が発案したものであり,睡眠,便秘,手指のこわばり,むくみ,足のつり,腰背痛,足のつけ根の痛み,肩こり・頭痛,肋骨下の痛み,食欲・むねやけの10項目について,妊婦が即時的に症状のある項目をチェックする自己記入式質問紙である。これをもとに,マイナートラブル有病率を算出し,記述統計的に検討を行った。また,妊娠前のBMI値からBMI低値群(BMI:18kg/m<sup>2</sup>未満),BMI標準群(BMI:18~22 kg/m<sup>2</sup>),BMI高値群(BMI:22kg/m<sup>2</sup>以上)の3群に群分けを行い,妊娠中期,妊娠後期のマイナートラブルの発症との関連を検討した。統計解析は,それぞれの時期において,従属変数を各マイナートラブルの有無,独立変数にBMI標準群をリファレンスとして低値群および高値群を投入し,年齢で調整した二項ロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】当該施設の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】BMI各群の人数は低値群47名(30.4±4.2歳,BMI:17.4±0.6kg/m<sup>2</sup>),標準群236名(31.2±4.0歳,BMI:19.8±1.0 kg/m<sup>2</sup>),高値群72名(31.2±4.2歳,BMI:23.5±1.8 kg/m<sup>2</sup>)であった。対象者全体での各種マイナートラブル有病率の推移は,妊娠経過が進むにつれて大部分の項目は増加傾向を示したが,便秘,肩こり・頭痛については減少傾向を示した。回帰分析の結果,BMI高値群において妊娠中期では足のつけ根の痛みの有病率が有意に高く(OR:2.38,95%CI:0.41-3.94),妊娠後期では睡眠障害(OR:2.00,95%CI:1.08-4.82),手指のこわばり(OR:3.00,95%CI:0.51-5.09),足のつり(OR:2.29,95%CI:0.50-2.40),腰背痛(OR:2.20,95%CI:0.99-3.98),足のつけ根の痛み(OR:2.14,95%CI:0.94-4.03),肩こり・頭痛(OR:2.01,95%CI:0.69-3.86)の有病率が有意に高かった(p<0.05)。一方,BMI低値群において妊娠中期では肩こり・頭痛の有病率が有意に高く(OR:2.84,95%CI:1.35-5.96),妊娠後期では便秘の有病率が有意に高かった(OR:2.28,95%CI:1.08-4.82)(p<0.05)。【考察】本研究の結果,マイナートラブルの中には,妊娠経過とともに有病率が増加するだけでなく,減少傾向を示す項目もあることが明らかとなった。また,妊娠前BMIとマイナートラブル有病率が関連することが示された。BMI低値群においてはBMI標準群と比較して,妊娠期のホルモン変化の影響を受けるとされる便秘や頭痛などの項目に関して強い関連がみられた。一方,BMI高値群においては腰背痛や足のつりなどの筋骨格系および循環系のトラブルの項目に関して強い関連がみられた。これまで妊娠準備のために適切なBMIを保つことが重要であることは指摘されていたが,マイナートラブルの発症を防止するうえでも重要であることが示された。マイナートラブルに関しては,妊娠中という治療法が限られる状況を考えると,妊娠前からの予防が重要である。今後は,BMI以外の要因も考慮に入れ,より詳細なリスク予測の指標を作成していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】近年,理学療法学の分野において,ウィメンズヘルス分野への参加が重要視されている。本研究結果より,妊娠期に問題とされる各種マイナートラブルについて,それぞれの発症が母体の妊娠前のBMIと関連する結果が示されたことから,理学療法士として妊娠前の女性の体型にアプローチする事で各種トラブルに対する予防・対処の方法を提案する一助となると考える。
著者
飯島 弘貴 青山 朋樹 伊藤 明良 山口 将希 長井 桃子 太治野 純一 張 項凱 喜屋武 弥 黒木 裕士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0814, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】変形性膝関節症(膝OA)は膝関節痛やこわばりを主訴とする代表的な運動器疾患である。その病態の中心は関節軟骨の摩耗・変性であるが,近年では病態の認識が改まり,発症早期より生じる軟骨下骨の変化が,関節軟骨の退行性変化を助長している可能性が指摘されるようになった。我々も同様の認識から,半月板損傷モデルラットを作成し,その早期から軟骨変性と軟骨下骨嚢胞が共存していることを明らかにした(Iijima H. Osteoarthritis Cartilage 2014)。理学療法を含む非薬物治療は,膝OAの疼痛緩和を目的とした治療戦略の大きな柱であるが,このような早期膝OAの病態を考慮した,OA進行予防策に関する研究蓄積は乏しい。また,病態モデル動物を用いた研究において,歩行運動が関節軟骨の退行性変化を予防しうる,という報告は散見されるが,そのメカニズムは不明であった。そこで,我々はこれらの課題に対して,早期の病態に関与する軟骨下骨変化を歩行運動によって抑制することが,膝OA進行予防に寄与するのではないかと着想し,これまで不明であった,運動による膝OA進行予防メカニズムの解明へと研究を進めてきた。本研究では,我々が報告した半月板損傷モデルラットを使用し,疑似的に早期膝OAの状態を作り出し,歩行運動が軟骨下骨変化に与える影響を評価し,軟骨変性予防効果との関連性を検討した。【方法】12週齢のWistar系雄性ラット24匹に対して,内側半月板の脛骨半月靭帯(MMTL)を切離する内側半月板不安定性モデルを作成した。MMTLの切離は右膝関節のみに行い,左膝関節に対しては偽手術を施行し,対照群とした。その後,術後8週間に渡り自然飼育を行うことで,OAを発症・進行させるOA群(n=8)と,早期膝OAの状態となる術後4週時点からトレッドミル歩行(12m/分,30分/日,5日/週)を行う運動群(n=8)の2群に分類した。時系列変化を評価するため,術後4週まで飼育する介入前群(n=8)を設定した。主な解析対象および群間の比較は,MMTLを切離した全群の右膝関節とし,対照群とも比較した。解析内容は,μ-CT撮影および組織学的手法を用いて,4週間にわたる歩行運動介入の効果を検討した。μ-CT撮影所見より軟骨下骨嚢胞の最大径を評価し,組織学的解析では破骨細胞マーカーである酒石酸耐性酸フォスファターゼ(TRAP)染色とともに,骨細胞死数,軟骨下骨損傷度(0-5点)を評価した。また,軟骨変性重症度(0-24点)を評価し,軟骨下骨損傷度との関連性の評価としてSpearmanの順位相関係数を算出した。【結果】μ-CT所見では介入前から脛骨内側関節面にて軟骨下骨嚢胞が確認されたが,運動群では最大嚢胞径が縮小し,介入前およびOA群よりも有意に低値を示した(P<0.01)。組織学的所見では,軟骨下骨嚢胞内にTRAP陽性破骨細胞が多数観察され,直上の関節軟骨が嚢胞内に落ち込む所見が介入前群では30%で確認された。OA群ではその後悪化し,80%で確認されたが,運動群では0%であった。併せて,介入前およびOA群では多数の骨細胞死が観察されたが,運動群ではいずれも軽度であり(P<0.01),軟骨下骨損傷度は介入前およびOA群よりも有意に低値を示した(P<0.05)。軟骨変性重症度は,運動群で最も低値を示し(P<0.05),軟骨下骨損傷との間に強い相関を認めた(P<0.01,r=0.91)。【考察】半月板損傷後に発症した早期膝OAに対する緩徐な歩行運動は,骨細胞死の減少とともにTRAP陽性破骨細胞活性に起因する軟骨下骨嚢胞を縮小させることが明らかになった。つまり,半月板損傷後に生じた損傷軟骨下骨は可逆的な状態にあり,自然飼育のみでは進行する一方,歩行運動によって治癒することを示している。軟骨下骨の損傷により形成された陥没は,関節軟骨に加わるひずみを増大させる要因となるだけでなく,関節軟骨-軟骨下骨間の炎症性サイトカインの交通を介してOAを進行させることが知られている。したがって,軟骨下骨の治癒が歩行運動によってなされることで,その直上の軟骨に加わる力学的,化学的ストレスを緩和させ,膝OAの進行予防に一部寄与しうることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】膝OAに対する従来の理学療法は,摩耗・変性した関節面へ加わる応力を,分散あるいは減弱させることを主目的としてその進行予防に寄与してきたため,歩行運動のような運動負荷を治療手段とするという考え方は希薄であった。本研究結果は,半月板損傷後の早期膝OAに対する一定の運動負荷がOA進行予防に寄与する可能性を提示し,そのメカニズムの一部を病態モデル動物を使用して病理組織学的にはじめて明らかにしたものである。
著者
加藤 尚吾 青山 朋樹 仙石 慎太郎
出版者
特定非営利活動法人 産学連携学会
雑誌
産学連携学
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1_47-1_58, 2018

中小企業は我が国の持続的な経済成長や地域経済の基盤を担っているが,大企業と比べて先端科学技術分野への参入は容易ではない.本研究では,産学公連携のために形成・運営されるコンソーシアムが,中小企業の新規参入や事業開発を促進する可能性を論じる.具体的には,幹細胞・再生医療分野に注目し,本分野のコンソーシアム事例を観察・分析した結果,これに参画する中小企業は大企業に比して,大学・公的研究機関との地域を超えた協業機会,ブランドや信用の補完効果をコンソーシアムより享受していることが示された.本結果は,産学公連携のコンソーシアム組織が,意欲ある中小企業の事業展開にさらなる貢献を果たす可能性を示唆するものである.<br>
著者
萬 礼応 青山 朋樹 福本 貴彦 森口 智規 高橋 正樹
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
日本機械学会論文集 (ISSN:21879761)
巻号頁・発行日
vol.83, no.855, pp.17-00223-17-00223, 2017 (Released:2017-11-25)
参考文献数
17

Gait measurements and physical fitness tests are carried out in the community health activities for health promotion and care prevention services in the growing elderly population. In particular, the timed up and go test (TUG) is the clinical test most often used to evaluate functional mobility in many clinical institutions or local communities. To evaluate the functional mobility during the TUG, a gait measurement system (Laser-TUG system) using a laser range sensor (LRS) has been proposed. The system tracks both legs and measures the foot contact positions to obtain walking parameters such as stride length and step length. To reduce the false tracking and improve the measurement accuracy during the turning phase of the TUG, a data association considering gait phase and a spline-based interpolation have been proposed. However, the false tracking is likely to be occurred in the elderly and the measurement accuracy during the turning phase is still deteriorated because of occlusion and inaccurate observation of legs. Therefore, this paper presents a high-accuracy gait measurement system using multiple LRSs. Using multiple LRSs is able to reduce the situation of leg occlusion. However, the measurement accuracy of leg position depends on the distance from the LRS. To improve the measurement accuracy, an integrated leg detection method by a weighted mean of the observation candidates from each LRS data based on the distance from the LRS is proposed. We confirm that the proposed leg detection method can improve the success rate of leg tracking in the elderly and measurement accuracy of the leg trajectory and walking parameters.