- 著者
-
青木 義次
大佛 俊泰
- 出版者
- 東京工業大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1991
我々は自分の頭の中に描いたある種の概念図形を利用して,実際には見ることのできない巨大な都市空間を理解している。本研究では,都市の基本骨格となるような環状の鉄道路線について,その地理的イメージを計量的に抽出し,どのような概念図形を用いて理解しているのかについて検討した。まず,イメージマップを用いた山手線に関する過去の研究をもとに,同じ環状構造を有する大阪環状線について同様の分析を行った。その結果,大阪環状線はほぼ円に近い円環状の形態として,また,内部を縦断する御堂筋線は直線に近い形態として,非常に単純化した概念図形のもとに理解されていることが判明した。さらに,居住歴の長い人ほどイメージ変形は小さいと予想されたが,イメージ変形の程度と居住歴との間には相関性は認められなかった。以上のような地理的イメージ形成に重要な概念図形は,文化的な枠組みを背景として形成されることから,文化の異なる場所では概念図形自身が異なっていたり,イメージ変形のメカニズムが異なっているという可能性がある。そこで,このことを比較検証するため,大韓民国ソウル特別市の環状線(2号線)について,韓国人と日本人(何れもソウル市に在住の人)に同様のイメージマップを用いた調査分析を試みた。その結果,山手線・大阪環状線についての調査結果と同様に,環状線である2号線を横長の楕円状の形状として,実際の形態を非常に単純化して理解していることがわかった。すなわち,図式による理解構造には,文化的枠組みの違いや,(ソウル市内での)居住暦の差異に依存した傾向は見いだすことができなかった。以上の結果を総合すると,本研究で調査分析した環状の鉄道路線に限って言えば,文化的な枠組みにはそれ程影響されない幾何図形のような普遍的なものが模式図として用いられていると言える。