著者
馬居 政幸 外山 知徳 阿部 耕也 磯山 恭子 唐木 清志
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

95年度から実施してきた調査を踏まえ、平成14年度から3年計画で次の3種の調査研究を実施した。1.日本文化開放政策進行に伴う韓国青少年の意識と行動の変化把握のためのソウル市、大田市、釜山市での継続・発展調査。2.日本理解・批判に関係する学習機会の青少年への影響と社会的文化的基盤解明のための新調査。3.日韓相互理解教育のためのプログラム開発とモデル授業実施。これらの調査結果の分析から、現代韓国青少年が日本と同様に個人化が進行する豊かな社会に育ち、社会的自立への課題を日本青少年と共有することを明らかにした。さらに、日本文化への接触状況と日本・日本人への評価の継続調査の総合分析から、漫画を中心に日本文化開放以前に浸透した日本文化が韓流文化の源流を形成し、文化開放の進行に伴いアニメや歌謡も類似の傾向が見られることを把握した。また日本・日本人観の変化の5類型を析出し、相互理解を阻む新たな意識構造を解明した。特に韓国中高生の「日本・日本人評価」と「推測する韓国・韓国人評価」の比較から、日本と同水準の生活を享受する青少年による既存世代と異なる韓国上位の意識形成を確認。これらとモデルプログラム実施結果との総合分析から相互理解教育促進への次の課題を解明した。1.インターネットを代表にIT化の進行が自国文化・言語内に閉じた意識と行動を強化するため、従来と異なる相互の理解(誤解・不信)に関わる多様な情報サイトの影響の実証研究と相互理解促進のための情報サイトの増設が必要である。2.両国の現代文化共有化は相互理解の基盤形成に寄与する反面、両国社会の問題点を認識させる側面もある。その克服は規制ではなく、より積極的かつ多面的な現代文化共有化の機会拡大が必要である。3.世代間格差を伴う新たな相互理解の障壁形成を克服するために、差異の相互認知に止まらず相互に修正をも要求しあうことで二国間を超えて共有すべきアジア的シチズンシップの構築とその教育システムが必要である。
著者
馬居 政幸 夫 伯 李 昌洙 ちょう 永達 POE Baek CHO Youngdal LEE Chang-soo
出版者
静岡大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

韓国では今なお過去の歴史に起因する反日意識は根強い。加えて、青少年の間に広がりつつある日本の漫画・アニメ等の大衆文化に対して、日本の新たな文化侵略であり、その内容が青少年教育にとって有害であるとの批判が青少年教育関係者から提起されている。他方、日本の大衆文化の良質のものを受容すべきである、との意見もある。本調査の目的は、(1)このような韓国青少年への日本の大衆文化浸透状況とそのことへの評価の実態を明らかにするための資料やデータを収集し、(2)その分析を通じて日韓両国の青少年における相互理解促進のための課題と方法を明らかにするとともに、(3)韓国だけでなく、アジア全体に広く浸透しつつある日本の大衆文化の影響や問題を解明するための調査研究の方法を検討するための基礎データを得ることである。そのため、日本の大衆文化浸透状況把握を目的に、(1)小・中・高校生とその父母、(2)大学生、(3)企業で働く青年に対して、また、評価の実態把握のため、(4)小・中・高等学校の教師、(5)青少年教育関係者、(6)教育研究者、(5)マスコミ関係者、(6)日本の大衆文化の翻訳、出版、販売事業の従事者・関係者に対して聞き取り調査を実施。その結果をふまえ、小・中・高校生300名への質問紙調査を実施。収集した資料やデータを「公的-私的」、「日常的-非日常的」の二の軸で分類・分析した結果、韓国青少年が小・中・高と成長する過程で次の(1)〜(6)のような社会過程が総合され、戦後(解放後)50年を経てもなお“反日意識"がより強く育成され続けていることが確認された。(1)日常的に学校教育を通じて教えられる公的な事実としての歴史認識 (2)日常的なテレビ・新聞等の情報環境における公的な反日情報と歴史認識の再確認 (3)日常の身近な人間関係や生活習慣に刻まれた私的な植民地時代の被害事実 (4)慶祝日や名所・旧跡の碑文などによる非日常的で聖的な価値に基づく公的な歴史認識の正当化 (5)家族や一族の忌日(命日)などで確認される非日常的で聖的な価値に基づく私的な反日意識の正当化 (6)このような韓国の現状を無視するとしか韓国の人達にとらえられない日本の側の対応とその事実を増幅する報道。このように韓国では今なお過去の歴史に基づく反日意識が根強く、公式には日本の現代文化は輸入禁止だが、小・中・高校生への調査結果から日本文化の浸透度について次のことが明らかになった。まず、ハングル訳の日本の漫画単行本を全体で61%、特に高校男子が90%、高校女子も79%が読んでいる。ハングル訳の日本のアニメを見た者はより多く全体の82%、特に小学男子は92%、小学女子も77%。ハングル訳でない日本のアニメを見ている高校男子も59%いる。日本のテレビゲーム経験者は全体の74%、高校男子は92%。日本の歌謡を高校女子の51%、高校男子の39%が聞き、日本の歌手を高校男子の39%、高校女子の30%が衛星放送で見ている。この実態から日本の大衆文化は韓国青少年の私的な日常生活に極めて広く浸透し、しかも、小・中・高と成長するにしたがい接触頻度や関心・意欲が高まることが聞き取り調査から確認できた。さらに本年度の調査結果から、日韓両国青少年の相互理解推進の課題を解明するためには、次の理由により新たな調査研究が必要との結論に至った。第一に、韓国独立50周年を契機に、改めて日本大衆文化容認を巡る賛否が激しく議論されたが、世論調査では容認派増の傾向がみられ、日本文化への評価はここ数年で大きく変化することが予測され、この変化過程の継続調査が必要である。第二に、韓国ではソウル市都市圏とそれ以外の地域との文化の差が極めて大きく、韓国全体の傾向ならびに今後の変化を分析する上で、ソウル市と韓国中・南部地域との比較調査が必要である。第三に、日本文化を受容する韓国青少年の意識と行動の構造を解明する上で、近年の急激な民主化と経済成長に伴う学校教育ならびに家庭や地域社会での生活様式の変化の多面的な調査が必要である。他方、このような急激な民主化と経済成長による青少年の生活様式の変化や都市部と非都市部の比較調査は、同様の社会変化の中にあるアジア各国における日本文化浸透の影響や問題を解明するための課題と方法を検討する上で貴重なデータとなりうることも確認できた。