著者
谷口 豪 鮫島 達夫
出版者
一般社団法人 日本総合病院精神医学会
雑誌
総合病院精神医学 (ISSN:09155872)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.113-120, 2016-04-15 (Released:2019-03-19)
参考文献数
32

電気けいれん療法(ECT)は1938年に統合失調症の治療法として開発されたが,背景にはけいれんと精神病症状は生物学的に拮抗するという仮説があった。その後,ECTは統合失調症以外にもうつ病にも有効であることがわかり,近年ではパーキンソン病や視床痛などにも適応を拡大している一方で,てんかん患者の精神症状に対するECTに関しては報告が少なく不明な点が多い。そのため今回は海外文献を基に考察を行った。その結果,てんかん患者の精神症状へのECTの安全性に関しては大きな問題はないと考えられるが,有効性に関しては統一的な見解が出せる段階とは言い難いと考えられた。さらに近年では,てんかんと精神症状の関係は当初考えられていた「生物学的拮抗」な関係より複雑であると考えられている。このため今後は,日本のてんかんを専門とする精神科医とECTを専門とする精神科医が連携して知見を蓄積し,世界に向けて発信していく必要があると考える。
著者
鮫島 達夫 奥村 正紀 濱田 文仁 大西 良 三野原 義光
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.393-403, 2020-07-15 (Released:2020-08-27)
参考文献数
17

電気痙攣療法(electroconvulsive therapy:以下ECT)は,うつ病,統合失調症などで,自殺が差し迫っている症例などで,早急な改善が望まれる場合の唯一無二の方法である.安全性の観点から,麻酔薬,筋弛緩薬を使用する修正型ECT(modified-ECT)が行われている.m-ECTは,一般病院を中心に行われてきたが,最近では精神科病院でも行われる.平成30(2018)年度より,ECTの麻酔管理料の加算が行われるようになった.麻酔科医によるECTの有害事象への対応やハイリスク症例への対応が求められている.今後安全性をより高めるために,精神科と麻酔科,精神科病院と一般病院の医療連携が望まれる.
著者
鮫島 達夫 前田 岳 土井 永史 中村 満 一瀬 邦弘 米良 仁志 武山 静夫 小倉 美津雄 諏訪 浩 松浦 礼子
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.126-133, 2000

神経ブロック, 各種薬物療法などの効果なく, 反応性にうつ状態を呈した帯状疱疹後神経痛 (PHN) 10例に対し電気けいれん療法 (ECT) を施行し, その長期観察を行なった. 全例で持続性疼痛, 発作性疼痛, allodynia がみられ, 意欲低下, 食思不振など日常生活に支障をきたし, 抑うつ症状がみられた. 第1クールでこれらは改善したが, 7例に2~26カ月で疼痛, allodynia の再発がみられた. Allodynia の再発は, 知覚障害のある一定部位にみられ, 徐々に拡大した. しかし, 抑うつ症状の増悪はなかった. ECT第2クールは, 第1クール後5~26カ月後に施行し, より少ない回数で同様の効果を得ることができたことから, ECTの鎮痛効果に耐性を生じにくいことが示唆された. 以上より, ECT鎮痛効果は永続的ではないが, 1クール後数週間に1回施行する維持療法的ECT (continuation ECT: ECT-Cまたは maintenance ECT: ECT-M) を施行することで, 緩解維持できる可能性が示された. 対象に認めた抑うつ症状は疼痛の遷延化による2次的なものであり, 抑うつ症状の改善もECTの鎮痛効果による2次的産物であることが示唆された.<br>ECTは「痛み知覚」と「苦悩」の階層に働きかけるものであり,「侵害受容」,「痛み行動」には直接効果を示さないことから, その適応には痛みの多面的病態把握, すなわち生物-心理-社会的側面からの病態評価が必要となる.
著者
川久保 友紀 鮫島 達夫 笠井 清登 川久保 友紀
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

これまでわれわれは脳機能イメージング(近赤外線スペクトロスコピー:NIRS)によって精神疾患における前頭葉機能障害を捉えてきた。特に統合失調症におけるNIRS信号の前頭葉異常は、全般的な生活機能評価と有意な関連があることを見出した(Takizawa, et. al., 2008)。NIRSは光を用いた安全で非侵襲的な技術であり、自然な姿勢・環境で被検者に負担が少ない検査を実現しているため、将来、精神疾患の臨床場面において、補助診断、薬効予測や症状評価への応用が期待されている。本研究ではさらに一歩進めて、こうしたNIRS信号の意義を明らかにするため、これまでに統合失調症の認知機能障害との関連についての先行研究があるcatechol 0-methyltransferase (COMT) (val^<108/158>met)遺伝子多型に着目し、完全に非侵襲性な脳機能計測技術(NIRS)と分子遺伝学的分析を双方向に組み合わせ、統合失調症の前頭葉機能異常を明らかにすることを目的とした。平成18年度から成19年度にかけて、計画通りにさらに被検者数を増やすことができた。サンプル数を増加させても結果に変化はなく、各群で語流暢性課題遂行成績に有意差はないにも関わらず、COMT遺伝子多型のMet carrier群では、Val/Val群に比べて、課題遂行中の[oxy-Hb]増加が大きく、有意差のあるチャンネルを前頭前野に認めた。本研究でも統合失調症の前頭葉機能への神経伝達物質関連遺伝子との関連が示唆された。こうした結果を、平成19年度に第62回アメリカ生物学的精神医学会(San Diego, USA)等、国内外の学会や雑誌で発表してきた。現在、英文雑誌へ投稿中である。そして今後も、薬効予測・薬効評価につながるNIRSの精神疾患への臨床応用を裏付ける研究を続けていく方針である。