著者
金 玲花 中野 亜里沙 安藤 元一 Kim Ryonghwa Arisa Nakano Motokazu Ando
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.137-144,

自由行動ネコが野生鳥獣にどのような捕食圧を与えているか,神奈川県厚木市で調査した。神奈川県自然環境保全センターの傷病鳥獣保護記録を調べたところ,保護鳥獣の10%はネコに襲われたものであり,キジバトやスズメなど地上採餌性の種,あるいはヒヨドリなどの都市鳥が多かった。育雛期である5-7月には鳥類の巣内ヒナが半数以上を占め,ネコの襲いやすい位置に営巣するツバメなどが多かった。同市の住宅地帯および農村地帯におけるアンケート調査では,ネコは13%の世帯で飼育されていた。このうち屋外を自由行動できる飼いネコの比率は,住宅地で29%,農村で59%であり,生息密度に換算すると住宅地で2.2頭/ha,農村で0.35頭/haと推定された。こうしたネコが家に持ち帰る獲物の種類は,住宅地では小鳥と昆虫が多く,農村ではネズミ,小鳥や昆虫など多様であった。持ち帰った獲物の半分以上は食されなかった。これらのネコが年間60頭程度の鳥獣を捕らえると仮定すると,1年に捕食される鳥獣はそれぞれ132頭/ha,21頭/haと推定された。飼いネコによる生態系への影響を避けるためには,室内飼いが望まれる。
著者
金 玲花 中野 亜里沙 安藤 元一 Kim Ryonghwa Arisa Nakano Motokazu Ando
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.137-144, 2014-09

自由行動ネコが野生鳥獣にどのような捕食圧を与えているか,神奈川県厚木市で調査した。神奈川県自然環境保全センターの傷病鳥獣保護記録を調べたところ,保護鳥獣の10%はネコに襲われたものであり,キジバトやスズメなど地上採餌性の種,あるいはヒヨドリなどの都市鳥が多かった。育雛期である5-7月には鳥類の巣内ヒナが半数以上を占め,ネコの襲いやすい位置に営巣するツバメなどが多かった。同市の住宅地帯および農村地帯におけるアンケート調査では,ネコは13%の世帯で飼育されていた。このうち屋外を自由行動できる飼いネコの比率は,住宅地で29%,農村で59%であり,生息密度に換算すると住宅地で2.2頭/ha,農村で0.35頭/haと推定された。こうしたネコが家に持ち帰る獲物の種類は,住宅地では小鳥と昆虫が多く,農村ではネズミ,小鳥や昆虫など多様であった。持ち帰った獲物の半分以上は食されなかった。これらのネコが年間60頭程度の鳥獣を捕らえると仮定すると,1年に捕食される鳥獣はそれぞれ132頭/ha,21頭/haと推定された。飼いネコによる生態系への影響を避けるためには,室内飼いが望まれる。
著者
安藤 元一 上遠 岳彦 川嶋 舟 Motokazu Ando Kamito Takehiko Kawashima Shu 東京農業大学農学部バイオセラピー学科 国際基督教大学生命科学デパートメント 東京農業大学農学部バイオセラピー学科 Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture Department of Life Science International Christian University Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.275-286,

学生が大学入学前にどのような野生動物関連の知識と体験を有しているか,東京農大生を対象に2002年と2012年にアンケート調査した。野外で見たことのある動物は2002年には鳥類>哺乳類>魚類>爬虫類>両生類の順であったが,2012年には爬虫類,両生類,魚類が大きく減少した。後者は水辺などに行かねば見られない動物であることから,この10年間に若年層の自然に触れる機会が減少していると思われた。野生動物に関する知識や意識における10年間の変化は少なかった。野生動物の目撃場所では,自宅周辺や里山が多く,旅行中の目撃頻度は減少傾向にあった。学生がイメージできる野生動物関連職業の数は少なく,動物園や研究職など一部職種に集中していた。好きな日本産動物の上位は陸生の中・大型哺乳類で占められ,食虫目や翼手目への関心は極めて低かった。好きな世界の動物では動物園で見ることのできるライオン,パンダ,ゾウ,コアラ,トラなどの大型獣が上位であった。野生動物に関する情報源としては特定のテレビ番組が大きな役割を果たしており,本では動物図鑑がよく利用されていた。動物系学科で学ぶ学生(東京農業大学)と非動物系の学生(国際基督教大学)を比較すると,野生動物教育の経験を除いて,アンケート結果は類似しており,入学前における野生動物経験の多寡は大学選択に影響していなかった。動物系の異なる研究室(野生動物学と動物介在療法)に所属する学生の野生動物経験を比較したところ,回答傾向は概ね類似したが,後者では鳥類や獣害に対する関心が若干低かった。
著者
和久 大介 穴田 美佳 小川 博 安藤 元一 佐々木 剛 Waku Daisuke Mika Anada Hiroshi Ogawa Motokazu Ando Takeshi Sasaki
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.144-150,

ユーラシアカワウソ(Lutra lutra)はユーラシア大陸に広く分布する中型食肉目である。本種には11の亜種がおり,欧州亜種L. l. lutra,東南アジア亜種L. l. barang,中国亜種L. l. chinensis などが国内外の動物園や水族館で飼育されている。欧州の動物園や水族館にはA-line(L. l. lutra)とB-line(L. l. lutraとL. l. barangが交雑した可能性がある系統)という2つのlineが存在し,日本の動物園や水族館にも導入されている。本来は同じ亜種内で繁殖がおこなわれるが,日本では本種の個体数が少ないためA-lineとB-lineで繁殖がおこなわれている。実際にB-lineが東南アジア亜種の遺伝子を持っているか評価がおこなわれ,B-lineとA-lineの間に違いがあることが示された。ただし先行研究では,解析配列が307bpと短いことが問題として上げられる。本研究ではミトコンドリア(mt)DNA Cytochrome bの全長配列(1140bp)をA-line,B-line各1個体,中国亜種2個体から決定し,先行研究で決定されたB-lineの配列を含む4配列を加えて配列比較,系統解析をおこなった。その結果,A-line,B-lineそれぞれが特徴的な変異サイトを示し,系統解析では先行研究と同じようにB-lineは中国亜種とクレイドを形成し,A-lineは欧州亜種独自のクレイドを形成した。よって解析したB-lineのmtDNAは東南アジア亜種に由来する可能性がある。2015年現在,日本のB-line個体は全て本研究で解析したB-lineの子や孫である。亜種間交雑が示唆された国内のB-lineは,本種の繁殖・維持に活用できるが,A-lineや中国亜種の系統維持に活用することはできない。
著者
高中 健一郎 山縣 瑞恵 安藤 元一 小川 博 TAKANAKA Kenichiro Mizue YAMAGATA Motokazu ANDO Hiroshi OGAWA
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.111-117, 2011-09

側溝に落下して死亡する小型哺乳類が多いことから,本研究では側溝の深さと側溝内の水位が小型哺乳類の脱出成功率にどのように影響するかを調べると共に,保全対策として脱出用スロープの形状を検討した.脱出できなくなる道路側溝の深さは,モグラ類(ヒミズ,アズマモグラおよびコウベモグラ)では15cm,ジネズミでは24cm,スミスネズミおよびハタネズミは30cmであった.アカネズミおよびヒメネズミは深さ30cmの溝からは概ね脱出可能であり,静かな環境では深さ45cmからも一部の個体が脱出できた.脱出に際して地上性のアカネズミはよじ登りよりもジャンプを用いる傾向が強く,半樹上性のヒメネズミはよじ登りを多用した.側溝内に止水がある場合,ネズミ類は小さな側溝からは水位にかかわらず脱出できたが,大きな側溝ではスミスネズミやハタネズミは水位1cm以上で,アカヤズミとヒメネズミは水位5cm以上で脱出できない個体が現れた.ネズミ類の保護対策としては側溝の深さをできるだけ浅くすることが望ましく,モグラ類についてはスロープ付き側溝を用いることが望ましい.スロープには1.5~4.5cm間隔で段差を付け,傾斜角度を45°以下にするとともに,スロープを側壁で挟んで通路幅を5cm程度にとどめることが望ましい.
著者
安藤 元一 上遠 岳彦 川嶋 舟 Motokazu Ando Kamito Takehiko Kawashima Shu
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.275-286, 2013-03

学生が大学入学前にどのような野生動物関連の知識と体験を有しているか,東京農大生を対象に2002年と2012年にアンケート調査した。野外で見たことのある動物は2002年には鳥類>哺乳類>魚類>爬虫類>両生類の順であったが,2012年には爬虫類,両生類,魚類が大きく減少した。後者は水辺などに行かねば見られない動物であることから,この10年間に若年層の自然に触れる機会が減少していると思われた。野生動物に関する知識や意識における10年間の変化は少なかった。野生動物の目撃場所では,自宅周辺や里山が多く,旅行中の目撃頻度は減少傾向にあった。学生がイメージできる野生動物関連職業の数は少なく,動物園や研究職など一部職種に集中していた。好きな日本産動物の上位は陸生の中・大型哺乳類で占められ,食虫目や翼手目への関心は極めて低かった。好きな世界の動物では動物園で見ることのできるライオン,パンダ,ゾウ,コアラ,トラなどの大型獣が上位であった。野生動物に関する情報源としては特定のテレビ番組が大きな役割を果たしており,本では動物図鑑がよく利用されていた。動物系学科で学ぶ学生(東京農業大学)と非動物系の学生(国際基督教大学)を比較すると,野生動物教育の経験を除いて,アンケート結果は類似しており,入学前における野生動物経験の多寡は大学選択に影響していなかった。動物系の異なる研究室(野生動物学と動物介在療法)に所属する学生の野生動物経験を比較したところ,回答傾向は概ね類似したが,後者では鳥類や獣害に対する関心が若干低かった。
著者
キム ヒョンジン ハン ソンヨン 佐々木 浩 安藤 元一 Kim Hyeonjin Sungyong Han Hiroshi Sasaki Motokazu Ando 東京農業大学大学院農学研究科畜産学専攻 Korean Otter Research Center 筑紫女学園大学短期大学部幼児教育科 東京農業大学農学部バイオセラピー学科 Department of Animal Science Graduate School of Agriculture Tokyo University of Agriculture Korean Otter Research Center Department of Early Childhood Education Chikushi Jogakuen University Junior College Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.29-38,

ユーラシアカワウソLutra lutraが経済成長に伴う環境変化からどのような影響を受けるのか調べることを目的に,工業集積の進む韓国慶尚南道の海岸における本種の生息痕を1982年,1991-94年,2002年および2009年にわたってモニタリングした。慶尚南道馬山地域における糞密度は,1990年代には減少傾向を示したが,2000年代後半には回復傾向に転じた。回復傾向は釜山市などでも見られた。本種が安定的に生息する海域のCODは約4mg/L以下のレベルであった。糞が多く見られたのは,岬の湾口にある磯海岸,海岸近くの小島,河川の人工湖などであり,これらは餌資源の多いことや,隠れ場所として適していることが共通していた。本種は人工護岸のわずかな隙間や,沖合の水産養殖イカダの上をサインポストとして利用しており,人工環境への適応力も備えていた。調査期間中に調査地の陸域における各種経済指標は高い伸びを示したが,湾奥部におけるカワウソが生息しない地域が若干広がったことを除くと,陸域における経済発展や開発は本種の生息に直接的な影響は与えないことがわかった。Distribution of otter spraints along sea coasts at Masan area of Gyeongsangnam-do, Korea was monitored for 27 years from 1982, 1991-94, 2002 to 2009. Densities of spraints once decreased in the 1990's. In the late 2000's, however, this turned to a tendency to increase, although recovery was insufficient. Similar recovery was also identified in Busan. Spraints were not found at areas that were far from the closed-off section of the bay by 0-9km. The otters were able to inhabit up to the vicinity of industrialized area. At coasts where otter spraints were regularly found, COD level was around 4mg/L. Spraints were often found at rocky coasts along capes, heads of bays, small islets and reservoirs, indicating that prey fish was abundant in those areas. At coasts with steep artificial walls, otters managed to find landing places by locating narrow gaps and harbors. Otherwise, they used coastal fishpens as signposts, indicating their adaptability to artificial environments. Economic indicators in the land area of the investigation place heightened considerably during the monitoring period. The above findings indicate that terrestrial economic growth does not necessarily lead to the decrease of the otter population.
著者
原口 美帆 安藤 元一 Haraguchi Miho Motokazu Ando 東京農業大学大学院 農学研究科バイオセラピー学専攻 東京農業大学大学院 農学研究科バイオセラピー学専攻 Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.128-136,

明治時代から現在に至るハンターの関心事項の変遷を探るため,1891-2008年に発行された狩猟雑誌4誌(猟之友,銃猟界,狩猟と畜犬,狩猟界)の記事内容を調査した.雑誌1冊あたりの総ページ数,記事総数,広告数は,1950年代から1970年にかけての狩猟ブームの折に急増し,以降は減少傾向が続いた。これらの傾向は狩猟人口の変化と一致していたが,猟犬関連の記事にはそうした相関は見られなかった。記事が扱う鳥獣は,1950年代までは鳥類が主であったが,1980年代からは獣類の方が多くなった。クマは実際の捕獲数と比べて記事の数が多く,ハンターの関心の高さがうかがえた。獣類記事の中では1970年代までウサギが多かったが,1980年代以降はシカ・イノシシが8割以上を占めた。これらの傾向も実際の狩猟頭数や有害駆除頭数の変化を反映しており、狩猟がスポーツから獣害対策の手段に変化したことを示していた。This study was intended to investigate the change of article contents in hunters' magazines and animal/bird-related books for about 120 years from Meiji Era to the present. The following four hunters' magazines that were published during 1891-2008 were investigated: `Ryo-no-tomo (Friends of hunters)', `Juuryo-kai (Hunting gun world)', `Shuryo-to-chikken (Hunting and dog)' and `Shuryokai (Hunting world). Total page numbers per copy of hunting magazines steadily increased towards 1970 and started to decrease slowly thereafter. Total number of articles and the number of advertising articles also showed similar trends. Except for wartime (1918 and 1940), those changes were in proportion with the population number of registered hunters. Among advertising articles, those about hunting guns were dominant from the 1950s through 1970s. From 2000s, advertisements on hunting-related materials such as traps and clothing became the majority. In particular increase of trap-related advertisements increased sharply. In articles of hunting techniques, main target animals were birds in the 1950s, but shifted to mammals in the 1980s. Mammal-related articles were mainly on hares until the 1970s, but they shifted to deer and wild boars after the 1980s, occupying more than 80% of articles. This seemed to be a reflection that the number of hunted hares started to decrease after the 1970s and the number of hunted deer and wild boar for wildlife damage control increased after 2000. It turned out that the increase and decrease of total page numbers in hunting magazines was in proportion to the population of hunter, with the exception of wartime. They also reflected levels of wildlife damage and the actual hunting head count.
著者
キム ヒョンジン ハン ソンヨン 佐々木 浩 安藤 元一 Kim Hyeonjin Sungyong Han Hiroshi Sasaki Motokazu Ando 東京農業大学大学院農学研究科畜産学専攻 Korean Otter Research Center 筑紫女学園大学短期大学部幼児教育科 東京農業大学農学部バイオセラピー学科 Department of Animal Science Graduate School of Agriculture Tokyo University of Agriculture Korean Otter Research Center Department of Early Childhood Education Chikushi Jogakuen University Junior College Department of Human and Animal-Plant Relationships Faculty of Agriculture Tokyo University of Agriculture
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.29-38,

ユーラシアカワウソLutra lutraが経済成長に伴う環境変化からどのような影響を受けるのか調べることを目的に,工業集積の進む韓国慶尚南道の海岸における本種の生息痕を1982年,1991-94年,2002年および2009年にわたってモニタリングした。慶尚南道馬山地域における糞密度は,1990年代には減少傾向を示したが,2000年代後半には回復傾向に転じた。回復傾向は釜山市などでも見られた。本種が安定的に生息する海域のCODは約4mg/L以下のレベルであった。糞が多く見られたのは,岬の湾口にある磯海岸,海岸近くの小島,河川の人工湖などであり,これらは餌資源の多いことや,隠れ場所として適していることが共通していた。本種は人工護岸のわずかな隙間や,沖合の水産養殖イカダの上をサインポストとして利用しており,人工環境への適応力も備えていた。調査期間中に調査地の陸域における各種経済指標は高い伸びを示したが,湾奥部におけるカワウソが生息しない地域が若干広がったことを除くと,陸域における経済発展や開発は本種の生息に直接的な影響は与えないことがわかった。
著者
原口 美帆 安藤 元一 Haraguchi Miho Motokazu Ando
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.128-136,

明治時代から現在に至るハンターの関心事項の変遷を探るため,1891-2008年に発行された狩猟雑誌4誌(猟之友,銃猟界,狩猟と畜犬,狩猟界)の記事内容を調査した.雑誌1冊あたりの総ページ数,記事総数,広告数は,1950年代から1970年にかけての狩猟ブームの折に急増し,以降は減少傾向が続いた。これらの傾向は狩猟人口の変化と一致していたが,猟犬関連の記事にはそうした相関は見られなかった。記事が扱う鳥獣は,1950年代までは鳥類が主であったが,1980年代からは獣類の方が多くなった。クマは実際の捕獲数と比べて記事の数が多く,ハンターの関心の高さがうかがえた。獣類記事の中では1970年代までウサギが多かったが,1980年代以降はシカ・イノシシが8割以上を占めた。これらの傾向も実際の狩猟頭数や有害駆除頭数の変化を反映しており、狩猟がスポーツから獣害対策の手段に変化したことを示していた。
著者
岩下 明生 小川 博 安藤 元一 Iwashita Akio Hiroshi Ogawa Motokazu Ando
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.69-76, 2015-09

アライグマ(Procyon lotor)の密度指標として捕獲効率(CPUE)が有効であることはすでに知られているが,このデータは捕獲作業を実施しなければ得られない。そこで,自動撮影データから得られた諸指標[撮影効率,撮影するのに要した期間(LTD),撮影メッシュ率]を捕獲効率と比較することによって,自動撮影データの密度指標として有効性を検討した。アライグマの生息状況が異なる神奈川県内の3地域の林地を主な調査地として,2010-2011年に自動撮影調査を行った。捕獲効率,捕獲するのに要した期間(LTC)および捕獲メッシュ率は,行政による防除事業データから算出した。これら指標を地域間で比較すると,撮影効率,撮影メッシュ率,捕獲メッシュ率は,捕獲効率と同様の傾向を示したが,LTDとLTCはそうではなかった。一般化線形混合モデルにより解析したところ,撮影効率は捕獲効率に対して有意な正の関係がみられたが,LTCにおいてはみられなかった。これらのことからアライグマの密度指標として,撮影効率は有効であった。
著者
高中 健一郎 山縣 瑞恵 安藤 元一 小川 博 TAKANAKA Kenichiro Mizue YAMAGATA Motokazu ANDO Hiroshi OGAWA
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.111-117,

側溝に落下して死亡する小型哺乳類が多いことから,本研究では側溝の深さと側溝内の水位が小型哺乳類の脱出成功率にどのように影響するかを調べると共に,保全対策として脱出用スロープの形状を検討した。脱出できなくなる道路側溝の深さは,モグラ類(ヒミズ,アズマモグラおよびコウベモグラ)では15cm, ジネズミでは24cm, スミスネズミおよびハタネズミは30cmであった。アカネズミおよびヒメネズミは深さ30cmの溝からは概ね脱出可能であり,静かな環境では深さ45cmからも一部の個体が脱出できた。脱出に際して地上性のアカネズミはよじ登りよりもジャンプを用いる傾向が強く,半樹上性のヒメネズミはよじ登りを多用した。側溝内に止水がある場合,ネズミ類は小さな側溝からは水位にかかわらず脱出できたが,大きな側溝ではスミスネズミやハタネズミは水位1cm以上で,アカヤズミとヒメネズミは水位5cm以上で脱出できない個体が現れた。ネズミ類の保護対策としては側溝の深さをできるだけ浅くすることが望ましく,モグラ類についてはスロープ付き側溝を用いることが望ましい。スロープには1.5~4.5cm間隔で段差を付け,傾斜角度を45°以下にするとともに,スロープを側壁で挟んで通路幅を5cm程度にとどめることが望ましい。