著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.250-262, 1936-12-15

143. コガネシダモドキ(新稱) Woodsia Saitoana TAGAWA はコガネシダ W. macrochlaena METT. によく似てゐるが,葉柄の關節は中部より少し上にあり,羽片は上部のものを除き無柄で中軸に沿着せず,嚢堆も少し小いから別種である.朝鮮咸鏡北道羅北(齋藤龍本)及び冠〓峰(大井次三郎)で發見せられた新種.學名は原標本の採集者齋藤氏を記念したものである. 144. イヌイハデンダ(新稱) Woodsia intermedia TAGAWA はイハデンダ W. polystichoides EAT. とコガネシダ W. macrochlaena METT. との中間に位するもので,どちらかといへばイハデンダに近い.葉柄には鱗片が少く,中軸及び羽片の下面には毛に混つて極めて疏に毛状の鱗片があり,上部の羽片は明に中軸に沿着してゐるからイハデンダとは異る別種である.原標本は小林勝氏が旅順の老鐵山で採集せられたもの.又内山富次郎氏は京城の南山で,吉野善介氏は備中國上房郡豊野村でも採集せられてゐる. 145. カウライミヤマイハデンダ(新稱) Woodsia pseudo-ilvensis TAGAWA はミヤマイハデンダ W. ilvensis R. BR. に頗るよく似てゐるが,葉柄には長軟毛がミヤマイハデンダに於けるよりも密に生じ,關節は葉柄の中部より上にあり,葉柄基部の鱗片は幅廣く,中軸及び羽片中肋の下面には毛状の鱗片が極めて疎に生じ,包膜は皿状で不規則に尖裂し長縁毛があるから別種にした.齋藤龍本氏が朝鮮咸鏡北道魚遊洞で發見せられたもの. 146. オホイハデンダ(新稱) Woodsia longifolia TAGAWA はヒメデンダ W. subcordata TURCZ. に近縁のものであるが,全體に強壮で葉柄も長く太く關節はその頂端にあり,葉身は線形で時に長さ30cm. 幅3.5cm. にも達し,羽片も長く,葉柄及び中軸に毛も多く,包膜の邊縁にある毛は長い.本種及びヒメデンダの葉柄は元來その頂端に關節があるが,最下の羽片は縮小し且つ脱落しやすいから,この羽片が脱落したときには關節は葉柄の途中にあることになる. 147. ホソバミヤマイハデンダ(新稱) Woodsia ilvensis R. BR. var. angustifolia TAGAWA はミヤマイハデンダの狹葉の變種で,葉身は線形又は狹披針形,長さ8-12cm. 幅1.5-2cm. 齋藤龍本氏が朝鮮咸鏡北道朱乙温で發見せられたもの. 148. ケンザンデンダ Woodsia tsurugisanensis MAKINO の切込みの少いものは北支那の W. Hancockii BAK. に一致し,切込みの深いものは同じく北支那の W. gracillima C. CHR. に一致する.畢竟この三種は同一種で,カラフトイハデンダ W. glabella R BR. の變種であらうと思ふが,今しばらく別種にして Woodsia Hancockii BAK. をその學名に採用しておかう.日本では阿波の劔山が唯一の産地である. 149. トガクシデンダ W. Yazawai MAK. はカラフトイハデンダ Woodsia glabella R. BR. と同種である.日本では樺太,北朝鮮,本州中部の高山(戸隱山,八ケ岳,横川岳,北岳等)にあるが,滿洲,支那(甘肅省),ダフリヤ,カムチヤツカ,ベーリング地方,西伯利亞,歐州中部及び北部,北亞米利加と分布の頗る廣いものである. 150. オホヤグルマシダ (土井氏新稱) Dryopteris Doiana TAGAWA は臺灣のマキヒレシダ D. cyrtolepis HAYATA によく似てゐるが,葉は大きく,羽片の先端は長く尾状に伸長し,裂片の邊縁には不規則に齒牙状の鋸齒がある.成熟した嚢堆の包膜は縱に二ツに裂けてゐるが,この特徴は近縁のヲシダ D. crassirhizoma NAKAI やミヤマクマワラビ D. polylepis C. CHR. には見ぬところである.川村純二氏が薩摩國櫻島の湯之で發見せられたもの.學名は九州南部の植物調査に多大の功献をせられ且つ和名の命名者たる土井美夫氏を記念したものである.
著者
堀田 満
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.153-162, 1967-05-31

前回はサトイモ科の雌雄同花の群とヤモノイモ科,ウツボカヅラ科及びスイレン科について,今回はサトイモ科の雌雄異花の群とヒナノシャクジョウ科について報告した.サトイモ科の Raphidophora, Scindapsus, Epipremnum の3属は胚珠の数により機械的に分類されているため,系統群としては再検討を要するが,一応慣例にしたがっておいた.また Homalomena geniculata はボルネオではサラワク西部に1カ所知られていただけのものである.ウツボカヅラ科の Nepenthes muluensis の所属する Motanae 群はスマトラ,マレ-半島の高地が分布の中心で,ボルネオ北部には知られていなかった.スイレン科の Barclaya 属も,ボルネオからは1種しか知られていなかった属である(アジア大陸に数種分布している).
著者
瀬戸口 浩彰 渡邊 かよ 高相 徳志郎 仲里 長浩 戸部 博
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.201-205, 2000-02-28

南西諸島西表島の船浦にあるニッパヤシ集団は1959年に天然記念物に指定されて以来,縮小の一途をたどっている。この集団の全ての個体(28個体)の遺伝的多様性をRAPDで解析した結果,27個体は全く同じRAPDバンドをもち,小型の1個体だけが僅かな多型を示した。従って,この27個体は遺伝的に同一なクローンである可能性がある。これは集団内で開花しても種子が全く形成されない事実にも関連していると思われる。ニッパヤシは根茎が水平方向に伸長して2分岐し,その各々の先端にシュートを形成しながら栄養繁殖をする性質があり,船浦においてもこの栄養繁殖によってのみ集団が維持されていると考えられる。集団サイズの急激な縮小,集団が栄養繁殖によるクローンであること,結実しないことなどを考えると,船浦のニッパヤシは絶滅の途をたどっていると言える。
著者
野口 順子
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.25-36, 1988-06-25
被引用文献数
1

The differentiation and history of H. middendorfii complex in Japan is suggested in this paper based on the geographical and ecological variations of the karyology with the C-banding method. Each interstitial C-band occurs in only the specific regions, respectively. The interstitial C-band on the long arm of the fifth pair of chromosomes occurs only in Hokkaido, that on the long arm of the eighth pair of chromosomes occurs only in Mt. Hakusan (2300 m alt.) and Takayama (600 m alt.) of Chubu district, that on the long arm of the ninth pair of chromosomes occurs only in the Kanto and Tohoku districts. The distributional range which each interstitial C-band shows suggests the very important facts on the differentiation and history H. middendorfii complex in Japan. It is inferred that the chromosomes having the interstitial C-bands have been formed by adding the part of the interstitial C-band. The range which the chromosome having each interstitial C-band appears seem to show the area which that has dispersed, and also to be to show the dispersal and migration of H. middendorfii complex in the respective regions since that occurs. The migration from lower cool temperate zone to subalpine zone in H. middendorfii complex seems to be relatively new phenomenon in the history of this species complex in Japan, probably after ice age. Since the eighth pair of chromosomes with the interstitial C-band on the long arm which show the most narrow range occur both in the subalpine zone of Mt. Hakusan and cool temperate zone of Takayama in Gifu Prefecture. Furthermore, the distributional range of each interstitial C-band suggests that the migration from lower cool temperate zone to subalpine zone or the occupations to the various habitats of H. middendorfii complex in Japan seem to occur independently in the respective regions.
著者
荻沼 一男 高野 温子 角野 康郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.47-52, 1996-07-10 (Released:2017-09-25)
参考文献数
13

日本産ヒシ属(ヒシ科)4taxaについて, 若い葉の細胞を利用して調べた核形態を初めて報告する。ヒメビシ(Trapa incisa)及びオニビシ(T.natans var.japonica)は共に2n=48, ヒシ(T.japonica)は2n=96, コオニビシ(T.natans var.pumila)は2n=ca.96の染色体をもつことが明らかになった。間期核はいずれも単純染色中央粒型を示し, 中期染色体長は0.3-1.2μmと小さく, また, 染色体基本数はχ=24(或いはχ=12)であることが分かった。2n=96(或いは2n=ca.96)の染色体数をもつヒシ及びコオニビシは共に, 2n=48のヒメビシ及びオニビシとの雑種起源の複二倍体或いは複四倍体である可能性が示唆された。
著者
大井 次三郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.61-65, 1932

チャルメルサウ屬は亞細亞及北米の暖帶及至亞寒帶に分布する虎耳草科の多年生草本で世界に約二十數種を産し北米に最も多く分布してゐる。兩大陸に共通な種は唯マルバチャルメルサウ一種だけで他は北米及本邦の特産に屬する。本邦領内では北は北海道,朝鮮,から南は臺灣の高山まで産するが比較的南方に種類が多い。本邦産チャルメルサウ屬植物は餘り澤山の種類はなく總計八種に過ぎぬが閑却された傾きがあるので此所に檢索表をあげ檢定に便宜な様にした。§子房と花托は殆んど癒合せず,雄蕋は10個又は5個,5個の場合は蕚裂片と對生。*雄蕋は5個,花瓣は分裂せず,莖上に1-3個の葉あり。…1)エゾノチャルメルサウ *雄蕋は10個,花瓣は羽状に分裂す,莖には葉なきか又は唯一個小形のものあり。…2)マルバチャルメルサウ §子房は大部分花托と癒合す,雄蕋は5個花瓣と對生す。 *葉の幅は長さと殆んど等長,花序は花數少なく多くは10個以下,花糸は花托上に坐す,花柱は二個,全縁なり。…3)コチャルメルサウ *葉の幅は長さより短かし,花は通常數多し,花糸は花瓣の基脚に坐す,花托は二個短かく且肥厚し,先端2-4裂す。 1)葉柄及葉身の下面は平滑なり。…4)モミヂチャルメルサウ 2)葉柄及葉身には毛茸あり。 I) 蕚裂片は花時直立し卵状三角形。△)花糸は葯より三倍長し,葉は鋭頭。…5)アカゲチャルメルサウ △)花糸は葯より短かし,葉は多くは鈍頭…6)チャルメルサウ II) 蕚裂片は花時開張し偏平なる三角形をなす,花糸は葯より短かし,葉は鋭頭又は鈍尖頂。 △)托葉は多くは縁毛あり,葉柄には短毛あり,花柱は頂端四裂す,種子は表面稜起せる縱線あれども突起なし。…7)オホチャルメルサウ △)托葉は多くは全邊,葉柄には長き毛茸あり,花柱は頂端二裂す。種子は背部に乳頭状突起あり。…8)ツクシチャルメルサウ Mitella japonica の名はMAXIMOWICZ, MIQUEL, MAKINO 三氏の名前によつてチャルメルサウ,コチャルメルサウ,オホチャルメルサウ三種に用ひられたが,その根本のMitellopsis japonica SIEB. et ZUCC. なる植物及び最初に之をMitella屬に移したMAXIMOWICZ氏の標本の一部は私の云ふオホチャルメルサウに相違ないので此の學名はオホチャルメルサウに冠するのが當然である。尚Mitella triloba MIQ. も同じ植物を指したものであつてモミヂチャルメルサウではない。チャルメルサウの學名はMitella stylosa BOISS. よりもMitella longispica MAKINOの方が早いが残念ながら記載がないので後者は用ひる事が出來ぬ。尚詳細な分布や異名等は歐文欄を參照して頂きたい。
著者
田川 基二
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.132-148, 1935

86. ヒメムカゴシダ(荒木) 本種はムカゴシダ Monachosorum subdigitatum Kuhn とオホフジシダ M. flagellare Hayata との中間に位置するものである.オホフジシダより遙に大く,中軸上に無性芽のできる點が最も顯著な異點である.丹波國船井郡長老嶽で荒木英一氏の發見せられたもの.學名は同氏を記念して Monachosorum Arakii Tagawa といふ. 87. タイワンハシゴシダ(新稱) 琉球のオホハシゴシダ Dryopteris hirsutipes C. Chr. に似てゐるが,葉柄は栗色,其の基脚には長い軟毛の代りに鱗片があり,羽片の裂片は狹く全縁で側脈の数は約7-8對,包膜は小い,臺北の北方竹子湖や北投方面にある.學名は Dryopteris castanea Tagawa と云ふ. 88. タイワンハリガネワヲビ 一名 ウライチシダ Dryopteris uraiensis Rosenst. が發表せられたのは1915年7月28日,その type locality は臺北州文山郡の蕃地ウライである.又 Dryopteris hirsutisquama Hayata は同年11月25日に發表せられ,その type locality はウライから西南に3里とはなれてゐないトンロクとリモガンとの間である.兩種は全く同種であるから Dryopteris uraiensis Rosenst. が有効な學名である.ヤハラシダ Dryopteris laxa C. Chr. に似たもので臺灣の特産. 89. イタチベニシダ イタチベニシダはイタチシダ Dryopteris varia O. Ktze. の一種でキノデ屬 Polystichum に入れておくよりも廣義のヲシダ屬 Dryopteris に入れて置く方が適當であるから學名を Dryopteris hololepis (Hayata) Tagawa と改めた.イタチシダの類は分類上の位置の確定しないものであるが近年はヲシダ屬に入れる學者が多くなつてきた. 90. サカゴケシダ一名 ミンゲツシダ サカゴケシダとミンゲツシダとは同種である.多数の標本を比較した結果この兩種は區別の出來ぬものであることを知つた.學名は一年早く發表せられた Dryopteris reflexosquamata Hayata を採用すればよい. 91. タイトウベニシダ(新稱) ベニシダに比較すれば葉柄の鱗片は少く中軸及び羽片の中軸は平滑且つ羽片には著い柄があり,又ナガバノイタチシダに比べて葉柄基部の鱗片はその質薄く羽片や小羽片の形も異り包膜は小い.臺東から高雄州に出る知本越道路に沿ふ霧山と知本山との間で發見した新種である.學名は Dryopteris taitoensis Tagawa といふ.
著者
川窪 伸光
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.153-164, 1995-01-28 (Released:2017-09-25)
参考文献数
10

日本産アザミ属植物はすべてが両性花を咲かせる雌雄同株として取り扱われてきたが, 最近になってノマアザミCirsium chikushiense Koidz.がメス株を分化させた雌性雌雄異株(gynodioecy)であることが判明した。そこで日本産アザミ属全体に, メス株を分化させた分類群が, どの程度存在しているかを明らかにするために, 京都大学理学部所蔵の乾燥標本(KYO)を材料として雄ずいの形態と花粉の有無を観察した。その結果, 観察した97分類群のうち約40%の39分類群において, 花粉を生産しない退化的雄ずいをもつ雄性不稔株を確認した。これは種レベルで換算すると, 68種中の約43%の29種で雄性不稔が発生していることを意味した。発見された退化的雄ずいのほとんどは株内で形態的に安定しており, 雄性不稔の原因が低温障害などの一時的なものではないと考えられた。また22種類の推定雑種標本中, 5種類においても雄性不稔を確認したが, それらの雑種の推定両親分類群の少なくとも一方は, もともと雄性不稔株を生じていた分類群であった。雄性不稔株を確認したすべての分類群がメス株を分化させているとは言えないが, 雄性不稔株の発生頻度の高い分類群の多くは遺伝的にメス株を維持し, 雌性雌雄異株の状態にあるのかもしれない。
著者
邑田 仁
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.185-208, 1995-01-28
被引用文献数
7

マムシグサ群は長い偽茎と, 葉軸の発達する鳥足状小葉により特徴づけられるテンナンショウ属マムシグサ節sect.Pedatisectaの一群である。形態的に多型であり, 多くの分類群が記載されてきたが, 遺伝的には分化がきわめて小さいことが明らかになっている。また, 群内で認められた形態群間に低頻度ではあるが中間型がある, 自然雑種がある, F_1雑種の花粉稔性が低下しない, など雑種形成を通じて遺伝的な交流があることを示唆する状況証拠もある。しかし一方では, 多くの場所で, 異なる形態群が形態上の差異を保ちつつ同所的に分布しているのも事実である。本稿では, 低頻度の中間型を除いた場合, マムシグサ群内にどのような形態群が認められ, どのような分布を示すかについて現在までの知見をまとめることを試みた。また, 認めた形態群に関して発表されている学名との対応を試みた。マムシグサ群を, 花期が遅く, 仏炎苞が葉よりも遅く展開し, 舷部内面に細かい縦皺がある第1亜群(カントウマムシグサ亜群), 花期が早く, 仏炎苞が葉よりも早く展開し, 舷部内面が平滑な第2亜群(マムシグサ亜群), 花期や仏炎苞展開のタイミングがそれらの中間的で, 舷部内面や辺縁にしばしば微細な突起を生ずる第3亜群(ホソバテンナンショウ亜群)に大別する。第1群にはカントウマムシグサ(トウゴクマムシグサ), ミクニテンナンショウ, コウライテンナンショウ, ハチジョウテンナンショウ, オオマムシグサ(イズテンナンショウ, ヤマグチテンナンショウ), ヤマトテンナンショウ, ヤマザトマムシグサ, ヤマジノテンナンショウ, スズカマムシグサ, 第2群には, マムシグサ(ヤクシマテンナンショウ), ヒトヨシテンナンショウ, タケシママムシグサ, 第3群にはホソバテンナンショウ, ミャママムシグサ, ウメガシマテンナンショウ, "中国地方型のホソバテンナンショウ", などが認められる。しかし, 現地調査はまだ不十分なものであり, フェノロジーやポリネーターに関することも含め, より詳細な検討が必要である。
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.165-170, 1978-11-30
被引用文献数
1

キク属はこれまでは大きくまとめて,Chrysanthemum L. に包含していた.すなわち L_<INNE> はシュンギク,モクシュンギク,フランスギク,アキノコハマギク,シマカンキクなどをこの属に含めている.その後, B_<ENTHAM> と H_<OFFMANN> などもこの大きな見解をとり,私もこの見解を採用していた.今度は従来のキク属があまり大き過ぎるので,この属を分ける見解を採用した.リンネの Chrysanthemum L. (1753) はトールヌフォールの J. P. T_<OURNEFORT> の「植物分類原論」(1719) にある Chrysanthemum と Leucanthemum とを合一して,それに Chrysanthemum の名を用いたものである.トールヌフォールの Chrysanthemum はシュンギク C. coronorium L. やアラゲシュンギク C. segetum L. を含んでいる.これはディオスコリーデスが一世紀に書いた「薬物について」にある Chrysanthemon から引いたものである.この Chrysanthemon はシュンギクであるから Chrysanthemum の type はシュンギクである.シュンギクは雌花の花冠が黄色で,その痩果が3角柱有翼で,両性花の痩果は円柱形である.この特徴をもつものをシュンギク属 Chrysanthemum L. とする.リンネの Tanacetum L. (1753) はエゾヨモギギク T. vulgare L. が type である.エゾヨモギギクは頭花が小さくて多数あり,密散房状につく.雌花の花冠は筒状で先は3裂し,痩花は両性花のものと同様,5肋があり,先に短い冠がつく.痩花は粘質の細胞や樹脂道がなく,水にひたしても粘らない.Pyrethrum Z_<INN> (1757) では痩花に粘質の細胞と樹脂道があり,水につけると粘るので,T_<ZVELEV> は Tanacetum から区別している.Leucanthemum M_<ILLER> (1754) はフランスギク L. vulgare L_<AM> が Type である.痩花は雌花でも両性花でも冠がない.T_<ZVELEV> はこの点で Tanacetum から区別している.また,ミコシギクは Leucanthemella lineare (M_<ATSUM>.) T_<ZVELEV> とした.モクシュンギク属 Argyranthemum W_<EBB> ex S_<CH>.-B_<IP>. はモクシュンギク A. frutescens (L.) S_<CHULTS> B_<IPONTINUS> が Type である.モクシュンギクは多年生で低木状となる.雌花は広い3翼があり,膜質の冠がある.両性花の果実はやや扁平で狭翼が一つあり,膜質の裂けた冠がある.これはシュンギクとは多年生であること,舌状花冠が白いのでちがうが,近縁であって,交配すると雑種ができ,舌状花冠の黄色のものが広く栽培されている.キク属 Dendranthema (DC.) D_<ES> M_<OUL>. (1855) はキク D. grandiflorum (R_<AMAT>.) K_<ITAMURA> を type として設けられた属である.はじめデカンドールは Pyrethrum の sect. Dendranthema とし,シマカンギクとキクとを入れている.舌状花が多列となり,その間に膜質の苞が入ることを特徴としているから,キクが type である.茎が木質だとするがキクは草である.Dendranthema は木の花の意である.節だから Dendranthemum の複数形にしたのだから,属では Dendranthemum とした方がよかった.この属の性については,Des M_<OULINS> は D. indicum (中性) と D. sinensis (女性または男性) として混乱しているが,T_<ZVELEV> は中性とした.キクの学名は Dendranthema grandiflorum (R_<AMAT>.) K_<ITAMURA> となる.Anthemis grandiflorum R_<AMATUELLE> が1792年に発表され,これが最も古い種名である.R_<AMATUELLE> はもし Chrysanthemum に入れるなら Chrysanthemum morifolium R_<AMAT>. とすべきであるとしているから,これは nom. prov. で採用できない.キク属は多年草で,痩花は横断面が円柱形で下端は狭まり,上端は切形で冠はない.舌状花が発達するものと発達しないものとがあり,この間きわめて近縁で,よく交配する.多くは葉裏にT字状毛がある.痩花は水にひたすと粘る.ハマギク属は多年生で低木.雌花の痩花は鈍三角柱で少し扁平でやや曲り,両性花の痩花より小さく短い冠をもつ.両性花の痩花は細い円柱形で10肋があり,先に切れこんだ冠をもつ.
著者
大井 次三郎
出版者
Japanese Society for Plant Systematics
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.58-70, 1935-05-30 (Released:2017-09-25)

193) ホソバウシクサ ニューカレドニアからルゾンに分布する Andropogon obliquiberbis Hack. に酷似したもので.若し此の臺灣の植物の小穗が今一廻り大形で下方に毛があつたら直ちにその種にあてゝ疑はなかつたと考へる.A. obliquiberbis Hack. が變異の甚だしいものであるならば臺灣のも同種であらう.ウシクサとは外觀は似て居るが葉が狹くて稍厚く二つに折れる性質があるのと花軸や小花梗に長い毛が生えて居るのが區別點に成る.尚ウシクサは本邦では九州以南に知れて居らなかつたが琉球及臺灣にも分布する. 194) キツネガヤ Thunberg, Steudel 以來此植物は永く Festuca に入れて居て本田博士も之れに從つて居られるが Hackel は何の記事も付せずに Bromus に移して居る.その爲めにその後は Bromus にする人が多く成つた.實際 Poa, Festuca, Bromus, Glyceria, Puccinellia の諸屬は互に酷似したもので往々にして區別の難かしいものに出逢ふのである.Hitchcock 等は北米の Bromus と Festuca とを分けるのに外護頴の先端が全縁なのが Festuca で.その先きが二裂するか又は先端よりも少し下から芒が出るのが Bromus だと云つて居る.北米のものはそれでよいか知れぬが本邦のものではあてはまらぬものがある.歐洲産の Festuca gigantea Vill. やそれに似た本邦の Festuca extremiorientalis Ohwi (オホトボシガラ.タウトボシガラ)等では二裂するにも拘はらず明瞭な Festuca であり.又キツネガヤが頂生するのに之れに酷似した臺灣の Bromus morrisonensis Honda では芒は先端よりも下から出て居る.從つて此の特徴は二屬を區別する最も重要なものとは云ひ難い.で此の兩屬の區別としては從來傅へられた樣に花柱が子房の先端から出るか.その側面から出るかヾ最も大切と思はれる上に此れで分類すると外觀から見た習性にもよくあてはまる.左様するとキツネガヤはやはり Bromus に成るが Bromus pauciflorus Hack. の名は使用出來ないから Bromus remotiflorus (Steud.) Ohwi が正しい.キツネガヤは國外では支那に記録があるが此れは少々疑はしい.
著者
堀田 満
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.57-66, 1998
参考文献数
9
被引用文献数
2

九州南部に分布する「ヤマラッキョウ」とされていたものは,葉が中実で雌しべの基部の蜜腺に帽子状の覆い構造が発達しないことでヤマラッキョウから区別できるので,ナンゴクヤマラッキョウAllium austrokiushuenseとして新種記載した。初島住彦によってヤクシマヤマラッキョウと呼ばれていたものはイトラッキョウに所属することが確かめられたので,新しくヤクシマイトラッキョウAllium virgunculae var. yakushimenseとした。また,アマミラッキョウA. amamianumは夕マムラサキA. pseudojaponicumと同種で,しばしばヤマラッキョウと混同されてきたこのタマムラサキは形態的にも,染色体数でも異なる明確な種であることを明らかにした。
著者
根来 健一郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.90-104, 1981
被引用文献数
1

琵琶湖ができたのは,今から450-500万年前の第三紀鮮新世のころであると言われている。最初の琵琶湖は伊賀上野盆地に存在したが,それが現在の琵琶湖がある位置,すなわち近江盆地に移動するまでに,琵琶湖は絶えずその湖底に堆積物,いわゆる湖底泥を形成し,それを夫々の時代に応じて湖が在った位置に残し続けてきた。この湖底堆積物は,琵琶湖固有の貝類化石を含み,粘土・砂・礫などから成るものであるが,その全体の厚さは1500-1800mに及び,伊賀上野附近から近江堅田附近まで,現在の琵琶湖の主として南部の丘陵に拡がっている。この堆積物を地質学では古琵琶湖層群と呼ぶ。古琵琶湖層群は数十枚の火山灰層を含んでいる。火山灰層は,数cmの薄いものから,1m以上の厚いものまで,さまざまであるが,これらの中で厚くて,しかも広く分布しているものは,地層の対比に役立つので,鍵層と呼ばれている。この鍵層を主たる拠りどころとし,更に埋蔵化石の種類などを考慮して,古琵琶湖層群は6つの累層に分類される。それらは古いものから,新しいものへの順に,島ケ原累層,伊賀油日累層,佐山累層,蒲生累層,八日市累層,堅田累層と称せられる。著者は1978年11月に,国立科学博物館の友田叔郎博士から古琵琶湖層群の比較的古い部分の資料を貰い,その中に含まれている化石珪藻について研究したところ,約11種類のものを見出すことができた。主なものとしては,約350万年前の伊賀油日累層からはMelosira islandica群とStephanodiscus carconensisが,約250万年前の佐山累層からはMelosira islandica群とStephanodiscus carconensisとStephanodiscus carconensis fo. maximaが,また約170万年前の蒲生累層からはMelosira undulataが認められた。Melosira islandica群と称するものは,現生のMelosira islandica O. MULLERとは形態的に可成り異るものであって,殻套上を大きい点紋の列が細胞の上下軸に平行して,10μm間に7-8本の割合に走るものがあるが,現生の琵琶湖の準固有種(semi-endemic species)のMelosira solida EULENSTEINは,この化石種群から由来したものと思われる。群として示し,主として同定しなかったのは,現在までに記載されているものの中で,M. canadensis HUST., M. pensacolae A. SCHMIDT, M. Goetzeana O. MULL., M. nyassensis O. MULL.などが,古琵琶湖層群のMelosiraの夫々1部に相当するのだが,古琵琶湖層群のものは細胞の大きさと形に相当の差異があるものであって,決して数種の混合したものとは認められないからである。従って,ここで群として示したのは暫定的な取扱いであって,将来1つの独立した種として同定することになる可能性のあるものと思って頂きたい。古琵琶湖層群のMelosira islandica群と全く同じものと思われるものが,北米のMontana州やOregon州の鮮新世の堆積物中から見出されている。しかしこれを研究したS. L. VAN-LANDINGHAM(1964-1972)は,Melosira granulataと同定しているが,これは誤りであって,北米のものもM. islandica系統のものであることに間違いないと思われる。古琵琶湖層群のStephanodiscus carconensisは,現生の琵琶湖の準固定種のそれとは多少異る。化石種はStephanodiscus niagarae var. intermediaに近いものであるが,現生種はこの化石種から由来したものと思われる。Stephanodiscus carconensis fo. maximaは,Stephanodiscus 属中の恐らく最大種であろうが,化石としてのみ存在し,現在生き残っているものはないであろう。Melosira undulataは,Melosira属中の巨大種で,現在は熱帯に生育しているだけであるが,第三紀には北半球全域に広く分布していたものと考えられている。
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.12, no.4, pp.178-185, 1950-11-30
被引用文献数
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