著者
岡本 素治
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.10-17, 1983-04-25

スダジイの花の各花言葉が発生する様子を観察した。花の初期発生では、雄花と雌花は、ほとんど区別しがたいほど、よく似ている。雌花では各花言葉の発生順序は次のようになる。外花被(3)→内花被(3)→外花被に対生する雄ずい(3)。この内花被に対生する雄ずいとほぼ同時に、花被に互生する雄ずいが形成されはじめる。その位置は外花被に対生する雄ずいの両側である。外花被に対生する雄ずいの内側に、雌ずいの原基があらわれる。花被に互生する雄ずいは、放射方向に細長い原基としてあらわれる。成熟した段階ではこの雄ずいは横向きである。一方花被に対生する雄ずいは内向きとなる。なお、雌花ではこれらの雄ずいは生長が停止し、仮雄ずい的となり、開花時にも花被に包まれたままのことが多い。雄花も雌花とほぼ同様の発生順序をたどる。ただし、雄花では花の向軸側の発生が背軸側に比べ著しく早い。雌ずいの原基も雌花に於けると同様に発生するが、子房室は最後まで閉じることなく、密線となる。このような花の発生様式をどのように解釈すべきか議論した。また花序の先端に花のような構造ができることに言及した。
著者
田端 英雄
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.125-134, 1992-12-30

Betula nikoensis Koidz.マカンバは, Betula ermanii Cham.var.japonica(Shirai)Koidz.ナガバノダケカンバとして扱われることが多いが, Betula ermaniiダケカンバとは形態的に明確に区別できるばかりでなく, 生態的にも明確な違いがあるので, 別種として取り扱うのが適当であると考え, 私はB.nikoensisを採用してきた(Tabata, 1964,1976)。しかし, 大陸にあるBetula costata Trautv.とよく似ているので, 分類学的検討をする必要があると長年考えていたが, 生育環境や生育状況の観察ができなかったので検討できなかった。1988年に, 韓国でBetula costataを採集し, その生育場所を観察する機会を得たので, Betula nikoensis, B.costata, B.ermanii 3種の比較検討を行なった。ここでは, 従来B.nikoensis Koidz.とされてきた植物を, 仮に'makamba'として議論をすすめる。約0.5cmの枝をSchultze法でマセレーションし, 道管の穿孔板のバーの数の比較を行なった。外部形態は, 葉身の長さと幅, 側脈の数 を測定し, おもに SAS(1985)でANOVA, CANDISC, DISCRIMなどの統計処理を行なって, 比較検討した。道管の穿孔板(perforation plate)のバーの数(図1), 側脈の数(図2)に関しては, 'makamba' と B.costataは分布の形がよく一致した。葉の縦/横比から見ると, 'makamba'とB.costataがそれぞれ1.75±0.17(n=164), 1.85±0.19(n=168)で, 1.38±0.16(n=115)のB.ermaniiと比べると葉が細長い。側脈の数では, 'makamba'とB.costataは有意差なしで, この両者とB.ermaniiは, 有意に異なる(表1)。葉の長さと幅の関係に関しても, 'makamba'とB.costataは分布が重なり, B.ermaniiとは異なった分布を示すだけでなく, SAS の GLMによる回帰直線の傾きの検定でも, 'makamba'とB.costataとでは有意差がなく(p>0.05), これら2種と B.ermaniiとは有意に異なっていた(p<0.001)(図3)。葉の3つの形質(側脈の数, 葉身の幅と長さ)を用いて, SAS の candiscriminant分析と discriminant分析を行なった。candiscriminant分析の結果は, 表2と図4に示すように, 'makamba'とB.costataとはよく似ており, これら2種とB.ermaniiとの識別に葉の幅の寄与が大きいことが示された。discriminant分析の結果, B.ermaniiの葉は, 約95%の葉がB.ermaniiと正しく分類され, 'makamba'やB.costataに分類されるのは極くわずかであるのにたいして, B.costataの葉はB.ermaniiに分類されるのほとんどないが, 約35%の葉が'makamba'に分類され, 'makamba'の葉は約28%がB.costataに分類された(表3)。このことは, 'makamba'とB.costataを区別することが難しいことを示している。果鱗の形態は, 'makamba'と B.costataでは, 中央の鱗片が長く側鱗片の約2倍ある。B.ermaniiでは, 中央の鱗片が側鱗片より長く, 側鱗片は形が変異にとむ(図5)。果実の翼の幅は, B.ermaniiでは果実の幅の約半分で, 'makamba'とB.costataでは, 果実の幅と同じか果実の幅より狭い。生態的にも, B.ermaniiと違って, 'makamba'とB.costataは, 川沿いや谷沿いの水分条件の良いところに見られる(図6)。Komarov(1904)は, 満州植物誌のなかで, B.costataが川沿いにのみ純林をつくると記載している。B.costataは, しばしば純林を作るようであるが, 'makamba'は, 個体数も少なく, 普通純林を形成することは稀である。これにたいして, B.ermaniiは純林を作ることが多い。また, 'makamba'の垂直分布は, B.ermaniiと著しく異なっており, 普通冷温帯上部に見られることが多く, 針葉樹林帯に見られることは稀である。B.costataの垂直分布については, 韓国で標高2300mまで生育するという報告もあり, 検討する必要がある。これらの比較を行なった結果, 'makamba'とB.costataとの間には, いくつかの形質でわずかな形態的な差異が見られるが, どの形質もその変異が大きく重なっており, 両者を分けることができないので, B.nikoensisは, B.costataの概念のなかに含まれるとするのが, 適当であると結論した。その結果, 日本におけるB.costataチョウセンミネバリの分布は, 図7に示すようになる。したがって, 日本産の B.costata は, 最終氷期終了後, 日本列島と大陸とのつながりが切れた後も, 日本列島の中央部の関東地方と中部地方の, 一部のごく限られた地域に隔離分布して, わずかに見られる遺存植物の一つであると考えられる。
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.41-45, 1957-12-10
被引用文献数
3
著者
小林 義雄
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.201-205, 1982

Pollen tetrads of 36 species belonging to 26 genera of Japanese Orchids were observed in details. The results are as follows : 1) Confirmation of types of the pollen tetrads and morphological variation in each type of them ; The arrangement of the four young pollens in the tetrads is variable within 36 species observed, although they could be classified into six types such as tetrahedral, square, decussate, rhomboidal, T-shaped and linear ones. Throughout the species observed the pollens constituting a tetrad were intact, and aberrantly large or small ones in the aberrant tetrads were not recognized. 2) Estimation of mixing ratios in each type of the pollen tetrads ; All six types of the pollen tetrads were recognized in 30 among 36 species observed. The ratios in each type of the pollen tetrads are shown in Table 1. The decussate tetrads show the highest ratio, about 50% throughout the species except Habenaria radiata and Goodyera maximowicziana. Values of the ratios of each type decreased from the decussate tetrads in sequence of rhomboidal, tetrahedral, square, T-shaped and linear ones. Detailed observation on the ratios among the pollen tetrads in each type of Calanthe discolor showed that the ratios were similar through five individuals collected from three different localities ( Table 2). In Goodyera maximowicziana, higher ratios of the T-shaped tetrads and linear ones were observed in extremely slender basal part of the pollinium than those of T-shaped and linear ones of the other part of the pollinium. 3) Ontogenetical observation on each type of the pollen tetrads ; All tetrads observed were produced by simultaneous membrane formation. The course of the tetrad formation was proceeded in the pollen mother cells which were gathered into parenchymatously compact mass. The courses of the pollen tetrad formation of each type are schematically shown in Fig. 1 with photographs in Figs. 2 and 3. It seems that different types of the pollen tetrads are caused by the different forms of the pollen mother cells and by the difference of the direction of the two axes of the second nuclear divisions. It is concluded that the species in the Orchidaceae observed have several types of pollen tetrads within a single pollinium which all develop normally and that the types of pollen tetrads in this family would be determined by the direction of axis of cell division and the forms of pollen mother cells. The forms may be correlated to those of the pollinia and to the parenchymatously compact gathering of the pollen mother cells throughout the course of the tetrad formation.
著者
大井 次三郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.230-233, 1935-12-01
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.142-147, 1983-11-29
被引用文献数
1
著者
武素 功 光田 重幸
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.22-26, 1985-06-29
被引用文献数
1

ヤブソテツ属Cyrtomiumとテンチョウシダ属Cyrtogonellumの新種を報告する.この仲間は中国の南西部,とくに貴州・云南・四川の三省に種数が多く,また,一部の種は石灰岩域とも関係が深い.ここで報告した二新種も石灰岩域のもので,Cyrtomium latifalcatumは有性生殖をおこない,ヤブソテツ属では,ミヤジマシダ,ホソバヤブソテツ,オニヤブソテツについで4番目の有性生殖種となる.オニヤブソテツ2倍体(ヒメオニヤブソテツ)とのちがいは本文を参照されたい.Cyrtogonellum xichouenseはこの属の多種と同様に無配生殖をおこなうが,葉脈は遊離しており,形態的に最もイノデ属に近い点が注目される.新大陸中南部に産するPhanerophlebiaは,一般にはヤブソテツ属に最も近縁とされているが,Ching(1938)も述べているとおり,葉脈の走り方や葉質の点でむしろテンチョウシダ属に似た点が多い.これまであまりこの点に注目する人がいなかったのが不思議なほどである.それは,この属のほとんどの種が中国南西部とベトナムの一部の石灰岩地に稀産し,あまり人々の眼にふれることなく来てしまったという事情によると思われる.南米のアンデスに産するCyrtomiphlebium dubiumと,今回発表したCyrtogonellum xichouenseはともにイノデ属に近い形態を持ち,これら数属の系統関係を解明するうえで重要な種となることだろう.
著者
井上 浩
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.140-142, 1982-04-20
被引用文献数
1

A new locality of Takakia lepidozioides HATT. et INOUE was found in the Shiga Highlands, Nagano Pref., where this species was found on more or less moist andesite rocks along small valley, at about 1700 m. alt. The forest vegetation around the habitat of Takakia lepidozioides is dominated by Abies mariesii, Tsuga diversifolia, and Betula ermanii, and the habitat condition was markedly different from that in the previously known localities in Japan. Another new locality was found on Mt. Iide, Yamagata Pref., where this species was found on most granite rock at 1810 m. alt., in alpine vegetation zone ; the present new locality will fill up the gap between Mt. Daisetsu in Hokkaido and high mountains in central Honshu, and it may suggest that this species will distribute in more several other mountains in Tohoku district, northern Honshu. When cultured in moist chamber in the laboratory (at room temperature and diffused sun right), several leaves of Takakia lepidozioides produced mucilage hairs just like those previously known on leafy-stem and rhizomatous stem. This fact may indicate that the leaves are physiologically or histologically undifferentiated from the stem, thus showing very primitive nature of Takakia lepidozioides.
著者
中村 俊之 植田 邦彦
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.125-137, 1991-12
被引用文献数
3

カンサイガタコモウセンゴケDorosera spathulata ssp, tokaiensisの分類学的再検討を行った結果,コモウセンゴケD. spathulataとモウセンゴケD. rotundifoliaの雑種起源の分類群であり,独立種として認識されるべきものであるとの結論に達した。従って,学名をDrossera tokaiensis (Komiya & C. Shibata) T. Nakamura & Uedaとし,通称名であったカンサイガタ(関西型)コモウセンゴケを改め,標準和名としてトウカイコモウセンゴケを提唱する。トウカイコモウセンゴケは種子の形態,大きさ,腺毛の発達する部分の葉長に対する比,托葉の形態,裂片数においてコモウセンゴケとモウセンゴケの中間型を示す。また核型は,トウカイコモウセンゴケが2n=60=20L+40Sであり,モウセンゴケの2n=20=20Lとコモウセンゴケの2n=40=40Sの双方のゲノムを有している。なお,これまで葉形についてコモウセンゴケはヘラ型,トウカイコモウセンゴケはスプーン型とされてきた。東海地方では通常確かにそうであるが,近畿地方の集団に顕著にみられるように後者にもヘラ型的な個体が多く,両者の識別点にはならない。形態上の識別点として有効なのは托葉の形態である(Fig. 10)。さらに,トウカイコモウセンゴケは核型と托葉の形態を除けば,東海地方と近畿地方の集団では形態上かなりの点で異なっていることが判明した。この差異がトウカイコモウセンゴケが分類群として成立してからの分化なのか,異なった起源によるのかは今後の課題である。トウカイコモウセンゴケがコモウセンゴケの関西型として認識されだしたのは1950年代後半ごろからのようであり,新分類群として記載されたのは1978年である。しかし,東海,近畿地方の植物誌などでは本種には言及されず,どちらもコモウセンゴケとして扱われてきた。現在の分布状況から判断すると,そのほとんどはトウカイコモウセンゴケであると思われるが,判断は不可能である。湿地が急速に失われていく現状では標本が保管されていない産地にどちらの種が生育していたのか調べようがなく,不明のままであることが多い。改めて,公的機関での永続性のある標本の蓄積の重要性を認識した次第である。
著者
菅原 敬 中村 文子 神林 真理 星 秀章 三上 美代子
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.23-31, 1994-09-30
被引用文献数
2

エゾカワラナデシコ(ナデシコ科)には両性花をつける株に混じって雌花のみをつける株が見られることが知られている。しかし, このような雌雄性の分化(雌性両全性異株性)にともなって, この植物の両性花と雌花との間で花の形態や開花習性, 送粉や交配にかかわる特性にどのような差異が生じているのか, また野外での種子や果実の形成, 花粉媒介者はどのようなものか, などについてはほとんど知られていない。そこで, 性型の異なる二つの花の基本的特性を明らかし, 野外での送粉や繁殖の様子を探ることを目的に, 青森県内の2つの集団を用いて調査を進めてきた。両性花と雌花との間には, 花の付属器官(花弁やがくなど)における大きさの違いが認められるが, 開花習性の上でもいくつかの興味深い違いが認められた。その一つは, 花柱発達時期(雌性期)のずれである。雌花では, 開花時にすでに花柱を高く伸ばして柱頭組織を発達させ, 受粉可能な状態にあるが, 両性花では雌性期が開花から2,3日後であった。もう一つは, 開花期間における雌性期の長さで, 雌花では両性花よりもかなり長い雌性期をもっていることが明らかになった。これらは, 雌花の受粉の機会を高めているように思われる。しかし, 野外での果実あたりの種子の生産数は必ずしも両性花より高くなく, 同様な性型を示す他の植物とはやや異なる状況であった。
著者
永友 勇 赤井 重恭
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.48-55, 1953-10-30

1.本論文にはエビウラタケ(Gloeoporus dichrous (FR.) BRES.)に就いて行った實驗結果を記載した。2.本菌はアジア、ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカ、オーストラリア、アフリカ等に亘って廣く分布し、我が國に於ては北海道、宮城、福井、京都、大阪、愛媛及び九州等に産する。3.本菌は我が國に於ては、廣葉樹の枯枝幹に生ずることのみが知られているが、海外に於ては針葉樹10種以上、廣葉樹21種以上の寄生植物が知られている。筆者等は本菌をソメイヨシノ(Pruns yedoensis)、シダレヤナギ(Salix babylinica)、クヌギ(Quercus acutissima)及びサクラの1種(Prunus sp.)の枝幹上で採集したが、前の3種は本菌の新寄生植物と認むべきものである。4.本菌菌糸の發育と培養温度との關係に就いて、乾杏煎汁寒天、〓芽煎汁寒天、馬鈴薯煎汁寒天の3培養基を用いて實驗した結果では、其の發育最低温度限界は6°-11℃.に、發育最高温度限界は40°-43℃.にあって、發育最適温度は28°-30℃.にあるものと思われる。5.本菌のBAVENDAMM氏酸化酵素反應、並に寄主材料の腐朽型等から見て、本菌はリグニン溶解菌に屬するものと認めた。6.本菌に封する各種樹木材片の比較抵抗力を針葉樹4種、廣葉樹7種に就いて實驗した結果によると、針葉樹は一般に抵抗力が強く、就中スギ(心材)は最も強大で僅かに1.0%の重量減少率を示したに過ぎなかった。これに反し、廣葉樹は一般に抵抗力が弱く、就中センノキは全供試材片中最も激しく腐朽し、24.5%の重量減少率を示した。針葉樹中、アカマツ(心材)は稍、抵抗力が弱く、6.9%の重量減少率を表した。
著者
荻沼 一男 ギレルモ イバラーマンリケス 戸部 博
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.135-137, 1992-12-30
被引用文献数
14

最近コスタ・リカとメキシコからの新属として発表された Tuxtla の唯一の種 T.pittieri(Greeman in W.W.Jones)Villasenor and Strotherについて, 染色体数と核型が初めて明かにされた。 染色体数は2n=34(x=17)で, 間期核は"diffuse-complex type"であった。34本の染色体のうち, 30本は中部に, 2本は次中部に, 残り2本は次端部から端部に動原体を持つ。染色体基本数(x=17)が一致することから, TuxtlaがVerbesinaと近縁であることが示唆された。
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1-19, 1968-08-31

東南アジアおよびヒマラヤのキク科植物の研究のうち,日本に関係の深い植物について,摘要する.ヤマノコギリソウ Achillea alpina L. var. discoidea (PEGEL) KITAMURA が北ベトナム,チヤパに産することがわかった.従来印度支那植物誌ではセイヨウノコギリソウ A. Millefolium L. にあてられていたが,セイヨウノコギリソウは葉が3回羽裂し,葉が2回羽裂するヤマノコギリソウとちがう.セイヨウノコギリソウは,ヨ-ロッパからシベリアに広く分布するが,ヒマラヤでは西からクマオンまであるがネパ-ル以東と東南アジアには野生していない.ヒマラヤのセイヨウノコギリソウは葉に綿毛が多く,日本で時に野生化しているセイヨウノコギリソウとは少し異なる.セイヨウノコギリソウは変異が多いので,綿毛の多いものも同一種に含むべきものと思う.北ベトナムのチヤパは高地で,ヤマノコギリソウのほかにヤマニガナ,ムラサキニガナも日本と同じものがあり,この高地は日華区系の中に含まれるのであろう.然し北ベトナムの低い所は勿論東南アジア区系である.これらは,早田文蔵博士が1917年に当時の仏印で採集された資料にもとずく.ヤマノコギリソウの学名は従来 Achillea sibirica var. discoidea REGEL であったが,ソ聯の APHANASEV (1961) によると,それより古い A. alpina L. (1753) があるので,A. sibirica LEDEB. (1811) は用いられないという.私は A. alpina L. の type は見ていないが,IDC の micro-edition の type 写真で見るとノコギリソウである.Type locality は Siberia であるし,原記載も短いがノコギリソウに一致するので,ノコギリソウの学名に,A. alpina L. を用いるのが正しいと思う.それにもとづいて,ヤマノコギリソウの学名を変更し,また,シュムシュノコギリソウ A. alpina subsp. camtschatica (HEIMERL) KITAMURA,アソノコギリソウ A. alpina subsp. subcartilaginea (HEIMERL) KITAMURA,ホロマンノコギリソウ A. alpina subsp. japonica (HEIMERL) KITAMURA,アカバナノコギリソウ A. alpina subsp. pulchra (KOIDZUMI) KITAMURA その他の学名を更新した.
著者
山中 三男
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, 1993-08-30
著者
永益 英敏
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.169-170, 1992-12-30
著者
横川 水城 堀田 満
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.165-183, 1995-01-28
被引用文献数
6

1.霧島山系におけるミヤマキリシマ, キリシマツツジ, ヤマツツジの形質変異と訪花昆虫相について調査を行った。2.諸形質の解析と生育地域の空間構造からキリシマツツジ集団はミヤマキリシマ集団やヤマツツジ集団からは, 区別する事が出来る。3.ヤマツツジ(南九州型)は標高800mまでの低地の林縁沿いに生育し, ミヤマキリシマは火山性山岳の標高1000m以上の比較的開けた斜面に生育する。一方, キリシマツツジはヤマツツジとミヤマキリシマの中間ゾーンに分布し, 形態的にはややヤマツツジに近いながらも花色に著しい変異をもつ自然雑種起源と推定される集団である。4.キリシマツツジ集団の成立にはミヤマキリシマとヤマツツジの交配親和性の高さが原因となっていると推定される。5.ヤマツツジ集団とミヤマキリシマ集団の訪花昆虫相は, 送粉者として適合的な種では, 互いに異なっており, 自然状態では両種間の生殖隔離は一応保たれている。6.一方, キリシマツツジを含む2集団間, あるいは3集団間に共通する訪花昆虫も存在し, これらによってヤマツツジ集団とミヤマキリシマ集団間の遺伝的隔離が部分的に破られ, 雑種集団のキリシマツツジが成立し, この集団を通してさらに遺伝子の浸透性交雑が進行していると推定される。
著者
三中 信宏
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.151-184, 1993-12-30

歴史生物地理学におけるvicarianceの概念について, それがたどってきた概念史を概観した。もともと生物地理学で用いられてきたvicarianceは近縁種の空間的な「代置」(substitution)という分布パターンを意味しており, Hennig理論に基づく系統生物地理学はこの用法に準拠していた。一方, Croizatに始まる汎生物地理学もまた代置の意味でこの言葉を用いているが, 「代置的生物進化」(vicariant form-making)という進化理論を背景にしている点に特徴がある。これらの用法に対し, 分断生物地理学では同所的に分布する複数の生物群に対する共通原因すなわち生物相の「分断」(fragmentation)の意味でvicarianceを用いた。共通原因/個別原因としての分断/分散は, 分岐分析における共有派生形質/ホモプラシーに相当する関係にある。次に, 分断生物地理学が解こうとしている地域間の近縁性の問題を「居住地/居住者問題」(the "habitation-inhabitant"problem)として一般化した。居住者の系統関係と地理的分布の情報に基づいて居住地の系統関係を推定するというこの居住地/居住者問題は, 生物地理学だけでなく分子系統学・共進化解析などとも共通する問題である。これらの問題の共通点は, 「形質」それ自身が「系統」を持つという点である。最後に, 分断生物地理学の観点からこの居住地/居住者問題を解決するためのいくつかの解析的手法-成分分析法・ブルックス最節約法・群整合性分析法・三対象分析法-について議論した。種分岐図における欠損地域・広域分布種・重複出現がこれまで分断生物地理学において論議の的となってきた一つの理由は, それらを含む分岐図が通常の分岐分析で生じる分岐図の性質を満足していないことにある。半順序理論などの離散数学を用いることによりこれらの問題にアプローチできるだろう。
著者
北川 尚史
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.179-189, 1982-04-20
被引用文献数
2

1) Conocephalum supradecompositum, annual species restricted to the northern part of East Asia, is considered to be derived from C. conicum, perennial species widely distributed throughout temperate regions of the Northern Hemisphere. 2) C. supradecompositum produces in autumn numerous gemmae endowed with a strong resistance to cold and dryness. The gemmae are modified branches of the thallus ; prior to formation of gemmae, the thallus performs frequent dichotomous branching, and the terminal dichotomy itself is transformed into a gemma. Thus, each gemma has two growing points covered with scales, and it exhibits a strong, inborn dorsiventrality in germination. 3) C. supradecompositum is unique among bryophytes in cylindrical, sausage-shaped spore mother cells, linear spore tetrads, and dimorphic spores. 4) The genus Conocephalum is very characteristic in elaters ; elaters in a capsule are 2-3 times as many as spores (in other genera of the Hepaticae, the number of elaters is far smaller than that of spores) ; and they show an extremely wide range of variation in size, shape, and number and orientation of spiral thickenings-and there occur rarely elaters with dextrorse spiral thickenings (so far as examined by the writer, the spiral thickenings of elaters are universally sinistrorse in other genera of the Hepaticae). The exceptional dextrorse elaters are assumed to be induced from the originally sinistrorse ones through conversion of the axis as shown in Fig. 3, x-z'.