著者
加藤 雅啓
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.79-91, 1972-07-25

1. The vascular structure of the rhizome, stipe, and rachis was observed for 41 species of the athyrioid ferns (Athyrium, Diplazium, Cystopteris, and their relatives), for the problematic genera for their athyrioid affinity (Acystopteris, Gymnocarpium, Hypodematium, Matteuccia, Onoclea, Stenolepia, and Woodsia), and for the several groups to which those genera have been related. 2. The vascular structures are common to all the athyrioid ferns in strict sense except for a few specialized cases. Among the genera cited above, Acystopteris, Gymnocarpium, Hyodematium, Matteuccia, Onoclea, and Woodsia have quite the same vascular structure as that common to the athyrioid ferns, with an exception of the dorsiventral rhizome of Hypodematium. The vascular structure of Stenolepia is distinct from that of the athyrioid ferns, resembling that of the dryopteroid ferns. 3. Based on the vascular structure as well as the other taxonomic characters such as the trichome, sorus, and spore, it is concluded that Acystopteris, Gymnocarpium, Hypodematium, Matteuccia, Onoclea, and Woodsia are all belonging to the athyrioid group, and Stenolepia is better placed in the dryopteroid group.
著者
岡田 博 森 康子
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類,地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.1-9, 2000
参考文献数
8
被引用文献数
2

インドネシア東カリマンタンおよび西カリマンタンからサトイモ科の3新種,Aridarum incavatum, Bucephalandra magnifolia, Hottarum brevipedunculatumを記載した。これらは全て渓流沿い植物である。体細胞染色体数はいずれも2n=26であった。
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.77-92, 1990-09-25

Recently many Chinese specimens were collected by Chinese and Japanese botanists, chiefly in Yunnan, and sent to the herbariums of the Kunming Institute of Botany, the Tokyo University and the Kyoto University. I am still interested in the study of Compositae and identified these specimens. The critical study by new materials is the aim of this report. There are many common species between China and Japan, in this report, newly some common species are added. Acquainted with Yunnan compositae, I studied the Composit specimens of Bhutan formerly collected by S. NAKAO and added some news.
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.277-296, 1932-12-01

シヤウジヤウハグマ族(Vernoniae) シヤウジヤウハグマ屬(Vernonia). I. 海濱に生ずる約10糎ばかりの小さき植物…ハマシヤギク(Vernonia maritima HAYATA). 2米乃至10米に達する攀〓植物…シヤウジヤウハグマ(Vernonia gratiosa HANCE). 30糎乃至80糎に及ぶ直立性の草本…II. II. 果實に毛なく油點がある…ウラジロカツコウ(Vernonia patula MERR.). 果實に毛あり…III. III. 總苞の長さは3.5粍…コバナムラサキムカシヨモギ(Vernonia parviflora REINW.). 總苞の長さは5粍…ムラサキムカシヨモギ(Vernonia cinerea LESS.). シヤウジヤウハグマは本島の特産である。ハマシヤギクはフイリツピンのバタン島にもあるがきはめて稀な植物である。コバナムラサキムカシヨモギはジヤバ,フイリツピン,臺灣南部,小笠原に分布する。ムラサキムカシヨモギは印度,支那,臺灣北部,琉球,九州に及ぶ。ウラジロカツコウは印度,印度支那,馬來,フイリツピンに分布する。本屬は熱帶に大いに繁榮分化したもので,内地には一種ムラサキムカシヨモギのみ九州に分布する。
著者
加藤 雅啓
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.152-159, 1975-03-31
被引用文献数
2

Detailed observation is made for the scales and the position of sori in Davallia divaricata, its close relatives, D. dimorpha and several species in Davalliaceae with the result that the following species have non-peltate scales besides Leucostegia and D. divaricata already described: all species of Araiostegia, D. dimorpha, close relatives of D. divaricata and Davallodes viscidulum, and that the sori are placed at the end of veins in Leucostegia, at the bending point and junction of veins in Araiostegia, at the bending point in Davallodes and at the junction in Davallia. These characters are discussed taxonomically. The definitions of Araiostegia, Davallia and Davallodes are revised on the basis of such characters as scales, soral position, hairs and the arrangement of basal pinnules on a pinna. According to this definition, D. divaricata, its close relatives and D. dimorpha are here transferred to Araiostegia.
著者
長谷川 二郎 和田 清美
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.37-43, 1992-08-05
被引用文献数
2

On the basis of observation in 12 Japanese species of the Anthocerotae as well as of a comprehensive survey of literature, the genera of the Anthoceroate are found to have in a sporophytic cell ; (1) one chloroplast(Dendroceros, Folioceros, Notothylas and Phaeoceros), (2) two (Anthoceros) or (3) two or more (up to 12) chloroplasts (Megaceros).This fact requires correction of the generally accepted view that the Anthocerotae contain a single chloroplast in each cell of gametophytes and two chloroplasts in each cell of sporophytes. We further discuss the taxonomic significance of this character together with a distinctness of the genus Anthoceros in the Anthocerotae.
著者
小泉 源一
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-13, 1938-02-28

1. フセンキエボシサウ(新種) (第一圖) 咸南赴戰高原に登る松興線インクラインの終點赴戰嶺驛附近の山中に發見す.花は黄白色,全形タチキエボシサウに近けれど長梗を有するを以て著し.本種亦白岩山及江原道金剛山中にも産す,Aconitum puchonroenicum UYEKI et SAKATA と新稱せり. 2. カイマ(蓋馬) トリカブト(新種) (第二圖) 本種は南鮮智異山産の淡黄トリカブトに近似すれども子房は常に5-6個,稀に4個あり,葉形は全く異なる.花は帶黄白色,白岩山1200-1300米高附近の斜面に多く生ず,尚漢垈里の赴戰山荘の北方約3KMの路傍の草叢中に1株開花せるを車上より目撃したれば高原一帶に生ずるならむ.Aconitum kaimaense UYEKI et SAKATA と新稱せり. 3. ビロウドヒナノウスツボ(新變種) 松興線インクライン最高點白巖山驛(1580M)附近の山中に生ず,テウセンゴマノハグサの全草白毛を被り葉裏絨毛を敷く一變種と思考せらるも,昨夏長津郡の山中にて採種せられし標品をも見たれば或ひは高原一帶に産する獨立種と見倣しScrophularia paikamicola SAKATA と新稱する方可ならむ. 4. 八重ノルリハンシヨウヅル(新品種) 咸南遮日峰近くの草本帶の岩石地に稀産す,ルリハンシヨウヅルの花八重のものなり,Clematis nobilis f. plena UYEKI et SAKATA と新稱す. 5. キレベンチシマイチゴ(新品種) 前記草本帶岩石地に小區域を限りて生ず,チシマイチゴの花瓣齒縁となれるものなり,新に Rubus arcticus f. dentipetala UYEKI et SAKATA と稱す. 6. エダウチホソバキリンサウ(新變種) 赴戰高原漢垈里の山荘より雲隱嶺麓の石店街附近に至る岩上,路傍等に處々生ず,分岐性甚だしく腋出枝を數多出し,其頂及莖頂に岐繖花序の黄花を附けたるホソバキリンサウの一變種なり,水原に於ける栽培の結果此の分岐性は土地的の變異にあらざるを知る,新に Sedum Aizoon var. ramosum UYEKI et SAKATA と命名す. 7. 白花カメバヒキオコシ(新品種) 本夏筆者の一人佐方は知友を介して新興林業社長の厚意に依り,トロツコにて大沙水里事務所より松興へ下山の途中,伐木運搬用索道始發點近くの崖上に基本種紫花のカメバヒキオコシ中に白花品一株混生せるを發見したれば急停車を命じて採集し得たり,蕚は緑色,花は純白色,全然紫色を帶ぶる事なし,Amethystanthus excissus var. typicus f. albiflorus SAKATA と命名せり,又筆者植木は殆んど時を同うして之を金剛山中(集仙峯)に發見したるは奇とすべし.
著者
ブフォード D.E.
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.133-154, 1987-09-25

ミズタマソウ属は北半球に広く分布し、落葉樹林の湿った林床に生育する匐枝を持つ多年草である。本属は2つの群に分けられる。第一群の花は総状花序の軸から開出した小花柄につき、(Fig.1-d)、花序が伸長した後に開く。柱頭が雄ずいより長いため、葯は直接柱頭に花粉を落とせない。また、葯の裂開も一斉ではない。一般に、毎日一花序あたり1~2個の花が開く。この群の多くは蜜腺が花筒の開口部からつき出している(Fig. 1-e)。開花は気候と温度に関係があり、蕾が開きはじめる15℃は本属の訪花昆虫が活発になる温度である。花が互に離れているので、訪花昆虫は花から花へ飛び移る必要がある。この群は本来他家受粉であるが、自家受粉の可能性もある。第二群の花は総状花序が伸長する前に数個同時に開く。この時に小花柄が直立しているので、アブラナ科に見られるように、開いた花は互に接している(Fig. 1-a)。この群の花を訪れる昆虫は開花している花を花から花へと歩きまわって訪れることができ、飛ぶ必要がない。柱頭と雄ずいの長さは等しく、受粉はしばしば蕾の中で行なわれていることがある。このことは天候不順時に普通に見られるが、良い天気の時には葯が烈開する直前に花が開くこともあるので、他家受粉も可能である。訪花昆虫の主なものはSyrphidae(双翅目、ハナアブ科)とHalctidae(膜翅目、コハナアブ科)である。一般に、ハナアブ類は湿った。日影に生える植物を訪れるが、コハナバチ類は乾いた、日当たりの良い所を好む。これらの昆虫は花を動きまわっている間に、受粉を行っている。舌の短いハエやハチの訪花は植物群に選択性を与えてきたようである。その結果、外交配をする第一群の多くは蜜腺を持っている。一方、一部の外交配機構を残しながら、自家受粉機能を発達させた第二群は、冷温帯の林床に生育するミヤマタニタデに顕著な分化をもたらした。
著者
川窪 伸光
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.153-164, 1995-01-28
被引用文献数
1

日本産アザミ属植物はすべてが両性花を咲かせる雌雄同株として取り扱われてきたが, 最近になってノマアザミCirsium chikushiense Koidz.がメス株を分化させた雌性雌雄異株(gynodioecy)であることが判明した。そこで日本産アザミ属全体に, メス株を分化させた分類群が, どの程度存在しているかを明らかにするために, 京都大学理学部所蔵の乾燥標本(KYO)を材料として雄ずいの形態と花粉の有無を観察した。その結果, 観察した97分類群のうち約40%の39分類群において, 花粉を生産しない退化的雄ずいをもつ雄性不稔株を確認した。これは種レベルで換算すると, 68種中の約43%の29種で雄性不稔が発生していることを意味した。発見された退化的雄ずいのほとんどは株内で形態的に安定しており, 雄性不稔の原因が低温障害などの一時的なものではないと考えられた。また22種類の推定雑種標本中, 5種類においても雄性不稔を確認したが, それらの雑種の推定両親分類群の少なくとも一方は, もともと雄性不稔株を生じていた分類群であった。雄性不稔株を確認したすべての分類群がメス株を分化させているとは言えないが, 雄性不稔株の発生頻度の高い分類群の多くは遺伝的にメス株を維持し, 雌性雌雄異株の状態にあるのかもしれない。
著者
田村 道夫
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.127-131, 2001-04-02

はじめてこの植物について記したH.Eichlerは、Revision d. Ranunculaceen Malesiens(1958):53において、「Naraveliaのまだ記載されていない種がタイにある。この植物、Kerr 2903(BM,K)は茎の特徴や葉質ではN. siamensisに近く、葉は2回羽状複葉で、羽片は3小葉よりなり(全体で12小葉)、巻きひげがある。痩果は明るい褐色で、種子のあるよじれた部分は無毛である。CraibはFI. Siam. Enum. 1(1925):18において、この標本をN. siamensisとして引用している。さらにこの属の入念な研究が望まれる」と述べている。Kerr 2903は、大英博物館、キュウ王立植物園のほか、エジンバラ王立植物園にも保管されている。Naraveliaの花にはさじ状または棒状の花弁があり、葉の最下の小葉は全縁、先の3小葉は巻きひげに変化している。Kerr 2903は果実の標本で、痩果はNaraveliaと酷似しており,私もこの植物をNaraveliaと考え、N. eichleri Tamuraとして記載した(Tamura,1986)。その後、1995年11月末、当時、Huay Kaew樹木園にいたRachan Poomaより、変わったボタンヅル属の植物がQueen Sirikit植物園にあるので見にこないかとの連絡を受けたが都合がつかず、,翌1996年2月中旬に行った。その時、Huay Kaew樹木園にはR. Poomaと交替してPrasit Sa-adarwutがいたが、Queen Sirikit植物園のSawat Chantabunらの協力により、その時すでに果実になっていた植物を採ることができた(この時の標本Pooma 1926は私の採集品である)。その場所は、同植物園内600〜700mのMae Rim渓谷である。その果実は全くKerr 2903と同じであるが、葉には巻きひげはなかった。同年11月下旬、Chamlong Phengklai博士、P. Sa-adarwut、S. Chantabunらと行って花を探った。しかし、以前あった場所とは数10メートルも離れたところで、同じ場所ではなかった。花には花弁はなかった。1997年11月初旬にも、P. Sa-adarwut、S. Chantabunらと行って花を確認したが、その時もかなり離れた別の場所で見つけた。Clematisの分類には芽生えにおける葉序変化が重要な特徴となるので、痩果を探ろうとし、その年の11月上旬、翌1998年の1月下旬、さらに1999年1月下旬にも探したが見つからなかった。この植物の葉には巻きひげがなく、花には花弁のないことが分かったが、果実の状態はNaraveliaそっくりで、この植物こそKerr 2903に違いないと確信した。Kerr 2903の葉は大形で、3枚のタイプ標本を見ても巻きひげは見当たらない。Eichlerが巻きひげと思ったのは、多分、小葉柄、葉柄、細い枝などを見間違えたものと思う。また、Naraveliaの主葉脈は,葉の基部より少し上で分かれるが、この植物はボタンヅル属の多くの種と同様、葉の基部で分かれる。そこで、1997年秋、この植物をボタンヅル属に組み替えてClematis eichleri (Tamura) Tamuraとした(Tamura,1997)。このように、Queen Sirikit植物園の植物がなくなったので、ほかに産地はないかと調べてみると、Chiangmai大学の森林回復研究所(The Forest Restoration Research Unit)のJ.F.Maxwellが他の2ヵ所、すなわちDoi SutepのRu-See渓谷と、Doi Kunn国立公園のPah Droop滝で採集していることが分った。後者はかなり難しい所だというので、1999年11月30日、前者へ連れていってもらった。ところが、以前あった場所には無くなってしまっていて、新しい所で見つけた。先の場所と同じ渓流沿いの常緑広葉樹林のなかで、つるは高さ5m以上あり、太さは約1cmくらい、花は高い所に咲いていた。そして、2000年2月29日、やっとのことで果実を採集した。その時、葉はほとんど枯れてしまっていたが、ひょっとして株全体が枯死したのではないかと思った。しかし、ボタンヅル属には落葉性のものも多いので、さらに、同年6月28日、再びそこを訪れ、個体全体が枯死していることを確認した。一回結実性という性質はボタンヅル属では聞いたことがない。熱帯-亜熱帯広葉樹林において、このような性質がどのような役に立つのか分からない。しかし、これでこの植物が毎年花の場所を代えていた理由は分かった。その時採集した果実はChiangmai大学の森林回復研究所の苗園に播種し、現在、高さ40cmくらいに育っている。ボタンヅル属の芽生えには、始めのうち葉が互生するものと、始めから対生するものとがある。この植物の初期案序は互生しており、第5、または、第7葉あたりより節間が伸長し、葉は対生する。しかし、2枚の対生する葉の展開には大変差があり、少なくとも第15葉節あたりまでは、出来上がりは等しくても、1枚は完全に展開しているが、もう1枚はまだ小さいままである。次にこの種(Fig.1)の簡単な記載を示す。植物は蔓性で、大きくなれば高さ5mを越え、茎には縦に20以上の条がある。1回結実性、多分半落葉性。葉は草質で乾燥すれば黄褐色、30-50cm、そのうち葉柄は約10cm、羽状複葉で5-7個の羽片をもち、最下の羽片は3出、有柄、最上の
著者
田村 道夫
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.106-110, 1986-12-25
被引用文献数
1

Naraveliaはキンポウゲ科のなかで分布域が熱帯に限られている雄一の属である。インド南部よりインドシナを通って中国西南部に、また、マレーシアを通ってモルッカ諸島にまで分布しており、7属が知られる。この属はセンニンソウ属Clematisにごく近いが、細長い花弁があることと、巻きひげがあることで区別されている。この属の花弁は細長く、がく片よりも長くて先が膨らみ、大ていは棍棒状かスプーン状である。センニンソウ属でも、ミヤマハンショウズル節Clematis sect. Atrageneは花弁をもつが、この節の花弁は巾が広くてへら状となり、雄蕊との間に移行型がある。Linne(1753)は花弁をもつことを重視して、Naraveliaをミヤマハンショウズルの仲間とともにAtragene属に分類している。しかし、両軍の花弁は大へん異なっており、独立に起源したものと考えられる。この属の雄蕊では、葯隔が突出したり、また、巾が広くなって葯が内出することが多く、著しい場合には、木本性多心皮類にみられる葉状雄蕊のようになる。そのような著しいものはないが、センニンソウ属でも花糸が広がり、葯が多少とも内向することはごく普通にみられるし、また、葯隔の突出するものも少なくない。葯隔がかなり著しく突出するものには、東南アジアに分布するヤエヤマセンニンソウ節Clematis sect. Naraveliopsis やオセアニアに分布するC. subsect. Aristatae などがある。これらの分布範囲はNaraveliaと重なるか、隣接して、何らかの系統的関係が示されているのかもしれない。Naraveliaの葉はふつう1対の小葉をもち、葉の軸はその先で3分し、3本の巻きひげとなる。したがって、この巻きひげは、頂小葉および上部の1対の小葉の変形したものと見なされる。Naraveliaにおける諸形質の変わり方はセンニンソウ属によく似ており、例えば、センニンソウ属と同様に、茎に12本の太い維管束があって12条の稜が目立つもの(N. dasyoneura, N. siamensis, N. pilulifera)を多くの条があって断面をほぼ円いものに分けることができ、また、腋生する花序の花の数(N. dasyoneura, N. paucifloraでは花数が少ない)も種を区別する重要な特徴になる。さらに、N. dasyoneuraの痩果の花柱は、Clematis brachyuraやC. cadmiaのように短くて羽毛状に伸長しない。このようにVaraveliaをセンニンソウ属と区別する特徴は、花弁のように、センニンソウ属にも見られるもの、または巻きひげのようにセンニンソク属にあるものの変形にすぎず、また、形質の変化のしかたもよく似ており、Naraveliaはセンニンソウ層内の特殊化した一群とみなす方がよいかもしれない。POIRET(1811),O.KUNTZE(1885)らはこれをセンニンソウ属に含めているし、PRANTL(1887, 1888)はそのなかの一節Clematis sect. Naraveliaとして扱っている。しかし、便宜上のことではあろうが、近年は独立属として扱われることが多い。Hj. EICHLER(1958)は'Revision der Rannnculaceen Malesiens'のなかでタイのBan Pong Yengで採集されたNaraveliaの標本、Kerr2903に言及している。この植物は葉は2回羽状で3出すると羽片と巻きひげをもち、痩果の種子は入っていてよじれている部分は無毛またはほとんど無毛であり、茎と葉質の特徴はN. siamensisに似ている未記載の種であるという。筆者はタイ植物誌のためにキンポウゲ科をまとめた際、各地の標本庫や野外でこの植物を探し求めたが、同じ植物から採集された3枚のKerr2903以外見つけることはできなかった。これら3枚の標本はキュウ王立植物園、エジンバラ王立植物園、大英博物館に保存されている。他のすべての種では、羽片は、単一、時に2裂し、痩果は細毛に被れており、(ただし、巻きひげについては、葉がこわれていて確認できなかった)、一見して区別できるので、乏しい資料ながら新種N. eichleriとして発表する。
著者
山城 朝美 兼本 正 傅田 哲郎 横田 昌嗣
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 = Acta phytotaxonomica et geobotanica (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.21-29, 2000-09-12

沖縄島の固有種クニガミサンショウズルの染色体数について詳細な調査をおこなった結果,染色体数2n=16,26,38,39,52の5つのサイトタイプが確認された。このうち,2n=26以外の染色体数は初めての報告である。2n=16の染色体数を持つサイトタイプの起源は明らかではないが,残り4つのサイトタイプは,それぞれ,x=13に基づく二倍体,低数性三倍体,三倍体,四倍体であると思われる。5つのサイトタイプの中では二倍体が最も多く,分布域全体を通して高頻度で出現した。一方,倍数体は比較的稀で,二倍体の分布域の中に散在的に出現した。二倍体と倍数体は同所的に生育しており,両者の生育環境に顕著な違いは見られなかった。また,二倍体と倍数体の間に形態的差が認められないこと,クニガミサンショウズルが近縁種から地理的に隔離されていることなどから,クニガミ,サンショウズルの倍数体は同質倍数体ではないかと思われる。
著者
角野 康郎 碓井 信久
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 = Acta phytotaxonomica et geobotanica (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.131-135, 1995-12-01
被引用文献数
2

タシロカワゴケソウは, 1977年8月に鹿児島県の大隅半島にある田代町「奥花瀬」の雄川上流で新敏夫博士によって発見された(新, 1977)。新博士はこれをカワゴケソウ属の新種と考えたが, 花を得られなかったために正式の発表を控えた。新博士はその後まもなく病床に伏し1982年に逝去されたため, 正式の報告がないまま"幻の新種"となって今日に至っている。我が国におけるカワゴケソウの発見者である今村駿一郎博士も, これを新種と考え, "タシロカワゴケソウCladopus austro-osumiensis"という和名と学名を付した資料を残されている(「カワゴケソウ科分布現況略図」と題する手書きの地図で, 水草研究会会報23号の拙稿「今村駿一郎先生を悼む」に転載してある)。この名前が新博士によるものか今村博士によるものかは不明である。新博士と親交のあった土井美夫氏は, 『広島県植物目録』(1983)の末尾に「鹿児島県植物目録追加」としてタシロカワゴケソウ発見の経緯を記録し, 「在鹿の人により正式の発表」がなされることへの期待を述べている。その後, 鹿児島大学理学部ならびに水産学部の卒業研究などでカワゴケソウ科植物の現状に関する調査は幾度か進められたが, タシロカワゴケソウの記載は行なわれないままになっていた。このような状況の中で1990年12月, 筆者のうちのひとり碓井は雄川上流の田代町新田南風谷橋付近で良好に生育するタシロカワゴケソウの群落を再発見した。そして, その標本を角野に託した。今回得られた標本は, 採集時の水位の関係と思われるがつぼみの状態か既に果実になったものばかりで, 開花中のものは無かった。しかし, 幅0.4〜1mmしかない細い葉状体は他種には見られない特徴で, 花は無くとも新博士の慧眼どおり新種に間違いないと判断し, 記載の準備を開始した。一方, ほぼ同じころ, 鹿児島大学理学部堀田満教授研究室に所属する学生の谷口宏君が, 同じ場所でタシロカワゴケソウの調査を進め, 花についても詳しい観察資料を得ていたことが後日判明した。私どもは, 保全の取り組みのためにもまず種として正式に認知することが急務と考え, 手元にある標本に基づいて記載の準備を進めていたが, 今回の報告に際し堀田先生から谷口君の観察資料の一部を御提供いただくことになった。花の記載を盛り込むことができたのは, 堀田先生の寛大な御好意の賜物であり, 心より感謝する次第である。周知のように, カワゴケソウ科植物は急流にのみ産する特異な植物として注目され, 日本では鹿児島県と宮崎県の11水系の河川から2属6種が知られていた。しかし, 近年, 河川改修や水質汚濁の進行などでほとんどの種が絶滅の危機に瀕し, 保護の重要性と研究の必要性が訴えられている。タシロカワゴケソウも例外ではない。今回の新種記載を契機として, その形態についてのさらに詳しい研究が行なわれるとともに, 生態や現状についての詳しい調査が進むことを期待する。
著者
光田 重幸
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.75-83, 1984-05-29

スマトラ島やジャワ島は早くからオランダの植民地となっていた関係から生物相の調査の歴史も古く、BLUMEの「ジャワ植物名彙」などすでに1828年に出版されている。それだけに植物相調査のように時間とともに進展してゆく仕事は大いに進んでいると思われがちであるが、それはそれまでの資料の集積によるモノグラフ等がやっと順調に出はじめた第二次大戦前までの話で、独立運動によってインドネシアを失った後のオランダは、往時の活動は望むべくもないのかもしれない(顕花植物のvan STEENISのような人がいなかったら、それこそ沈滞といってもよい所である)。いっぽう現地のボゴール標本庫に残された標本も研究体制が整わないまま、その大半が放置されているというのが現状である。この地域におけるシダ植物相の調査報告は、今世紀にはいってからかなり乏しい。まとまった報告としては1925年にジャワ植物ハンドブック1が出ていて、ミズワラビ科、ウラジロ科、カニクサ科、リュウビンタイ科、ハナヤスリ科、トクサ科、ヒカゲノカズラ科、マツバラン科などが扱われているが、植物誌としては断片的なものにすぎない。1940年になって、シダ植物全体を扱った植物誌がライデンのリークスハーバリウムで刷られているが、これは標本館向きの私家版で謄写印刷であり、内容も覚書きといった程度のものらしい(筆者はまだ実物を見る機会を得ない)。それ以後では、KRAMERのホングウシダ科やHOLTTUMのヘゴ科等、分類群によっては調査が進んでいるものもあるが、これらの目的もマレーシア全体の調査の一環としてなされたものであって、まだスマトラ・ジャワの植物相全体の固有の性格に言及するというところまでは及んでいない。堀田満博士達の植物相調査は、西スマトラの一部ですでに3年にわたって継続されており、京都大学に集められた標本の数も次第に増えてきている。この報告で扱ったのは1983年夏の採集の分までで、しかも西スマトラの一地域のものにすぎないが、それでも180種をこえる種が明らかになった。中には新種かと思われるものもいくつかあるが、この地域の文献や情報がもう少し揃うまで保留しておいた。スマトラ島やジャワ島は熱帯圏にあるので、その植物相は日本や中国南部のものとは大きく異なっていると想像されがちであるけれども、山地の植物相について言えば、じつはそうではない。van STEENISの書いた「ジャワ山地の植物相」(1972)には316属の顕花植物が収録されているが、そのうち207属ほどは屋久島以北の日本にある属と共通であり、更に26属ほどのものを沖縄諸島に見いだすことができる。単純な計算によれば、山地性の属では、その73.3%、つまり約4分の3が日本と共通しているのである。この本に扱われている植物は、花の美しいものや、調査のゆきとどいた地域から選択されている可能性もあるので、これをもってジャワの山地全体におしひろげることはできないけれども、べつに日本の読者向けに書かれた本ではないので、この数字は調査が進んでも大きくかわることはないと思われる。中国南部の属を加えると、共通の属は80%を越えるのではないかと、筆者は考えている。だが、こういう属の数字上の共通部分が多いからといって、両者が同じ起源による同じ性格の植物相であるということは早計である。熱帯の山地などの植物相では、種間の棲み分け現象がはっきりないことがわかっているが、これらの共通部分も、もとあった異質な植物相をベースにして、大陸側から何度も植物が侵入していった結果として成りたったものかもしれない。こういう問題を調べるには、それぞれの林の構成種が大陸側のもととどの程度置きかわっていて、どの種とどの種が対応しているかといった観点が大切であるが、それは今後の調査にまたなければならない。このレポートでふれたトウゲシバ、クラマゴケ、Osmunda vachellii等は、そういう意味で興味ぶかい種と言えると思うのである。
著者
エデオガ H.O. オサウェ P.I.
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.41-46, 1996-07-10

ナイジェリア産Senna(=カワラケツメイ属)(マメ科ジャケツイバラ亜科)の5種の表皮系について, 光学顕微鏡により比較研究を行った.毛や気孔の形態の違いに基づいて, それらの分類学的意義を議論した.Senna hirsutaは単細胞の毛と多細胞の毛をもつ点で他の種と区別されることが明かにされ, 同時にSenna属がこれら二つの毛をもつことが初めて記録された.
著者
Edeoga H.O. Ogbebor N.O.
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.51-58, 1999-08-28

ナイジェリア産Aneilemaの4種(A. aequinoctiale, A. beniniense, A. paludosum and A. unbrosum)について光学顕微鏡を用いて,葉,茎,根について解剖学的構造について観察を行った。葉には含有水分のために無色になった大きな下表皮細胞があり,それが貯蔵組織であることを示している。A. aequinoctialeの根には16本の維管束があり8本の維管束がある種と異なっていた。この研究は,Aneilemaの種では解剖学的特徴が分類に有効であることを確かめた。
著者
北村 四郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.56-60, 1932-04-20

ガランビアザミ(Cirsium albescens KITAMURA.) タカサゴアザミに一見似た形であるけれども總苞の外片が線状披針形で15-13mm.もの長さがあり頭花の直下には澤山にとげの多い苞がある。花は白花が主であるが少しばかり桃色を帶びてゐるものもある。臺灣南端鵞巒鼻に頗る多く風の強いところでは丈は短かいが風のあたらぬところではタカサゴアザミ位になる。モモヤマアザミ(Cirsium Hosokawai KITAMURA.) 高さは22cm.位あり莖には綿毛を密布し下部の葉は橢圓形で11cm.の長さに4cm.の幅がある。先端はするどく尖り底部は莖を抱いてゐる。羽状中裂で7-6對あり裂片の先端にはするどいとげをそなへてゐる。上部は少しく綿毛を布き下部には眞白に綿毛が密布してゐる。頭花は莖や枝の頂きにつき3cm.位の幅がある。總苞の外片は披針形で15-12mm.長2-1mm.幅である。内片は17mm.長位である。各片は直立してゐる。シロバナタカサゴアザミ(Cirsium japonicum DC. var. takaoense KITAMURA.) タカサゴアザミの白花であるノアザミの白花は紫花のものとまぢつて發見されるが臺灣の南部700m.より1500m.まであたりには澤山にこの白花があるけれども北部に多い紫花のタカサゴアザミは見かけない,分布も異なつてゐる。スズキアザミ(Cirsium Suzuki KITAMURA.) 高さ一米に達する植物で葉は莖を抱き葉裏には一面に綿毛を布き眞白である。長く伸びた花梗の先端に花時點頭する大きな頭花をつける。總苞の外片はきはめて小さく卵状橢圓形で3mm.ほどの長さで内にあるものほど次第に長く最内片は線状披針形で18mm.ばかりもある。いづれも其の背部はねばり黒ずんでゐるのが特徴である。ミツザケヂシバリ(Lactuca trifida KITAMURA.) 一寸ヂシバリに似てゐるが葉が大變に違ふのですぐ區別される。葉身は卵形で長い葉柄をそなへてゐて深く三裂する頂部裂片はヘラ形で5-3cm.長側部裂片は3-2cm.長ある。いづれも縁邊は波状をなす。ハマニガナとの區別は其の總苞を見ればよい。ハマニガナでは外片より最内片まで長さにうつり行きがあるがミツザケヂシバリでは外部のものは著しく小さく4-3mm.長しかない。中間の長さのものはなく内片はずつとぬき出て13mm.ばかりの長さである。
著者
谷口 森俊
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.155-160, 1958-09-25

1. 志摩半島南部の植物群落について調査した結果次ぎの諸群落を認めた。スダシイ-タイミンタチバナ群落,タブ-ホソバカナワラビ群落,ウバメガシ群落,クロマツ-トベラ群落,クロマツ-コシダ群落,コナラ-アズマネザサ群落,キノクニシオギク群落,ハマゴウ群落,その他。2. 極相林スダシイ-タイミンタチバナ群落は組成的に紀州南端 四國宇佐,九州大隅で認められたスダシイ林と類似であり,當地域がそれらの地方と密接な関係にあることが明らかとなった。3. 二次林としてはクロマツ-コシダ群落がもっとも顕著である。又クロマツ-トベラ群落についてはこれを2型に分けてその分布状態を記した。4. キノクニシオギク群落は當地域植群にローカル的な特色をそえている。本研究の概要は日本植物學會中部支部第5回大會(1957年5月)にて發表した。
著者
高橋 弘
出版者
日本植物分類学会
雑誌
植物分類・地理 (ISSN:00016799)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.p141-150, 1993-12

下垂する花を持つキイジョウロウホトトギスとスルガジョウロウホトトギスの花部生態学的研究を, 直立する花を持つ他のホトトギス属植物のそれと比較しつつ行った。これらの花は同調的に開花せず, キイジョウロウホトトギスは約5日間, スルガジョウロウホトトギスは約4日間咲いている。両種とも雄性先熟で, 葯は花被が開く前に裂開している。開花の後半に, 柱頭が成熟して雌性期となる。ポリネーターはトラマルハナバチだけで, 下方の花被片の内面に止まって, そのまま這い上がり, 外花被片の基部にある短距に分泌される花蜜な吸う。その際, 雄性期の花では葯のみに, 雌性期の花では柱頭と葯に背面が触れる。トラマルハナバチは, 通常, そのままの姿勢で頭部のみを動かして3つの蜜腺から吸蜜してから後ずさりをして出て来るので, 上方にある葯や柱頭には触れない。従って, 雌性期になっても上方の葯に大量の花粉が残っていることが多い。しかし, これらの種では, 直立する花のように花柱枝の二叉部が雌性期に葯に接近することはないので, 自動的同花受粉は起きない。これらの花では上方にある葯の大量の花粉が無駄になるが, これは花粉/胚珠の比率が高いことと, 花粉がほとんど盗まれないことにより, その影響が少ないように思える。また, 花は長命のため, 長い受粉可能期間がある。少なくともキイジョウロウホトトギスは4日間, スルガジョウロウホトトキスは3日間一様に花蜜を出すように見える。これは他花受粉型のキバナノホトトギス等が2日間しか咲いていないのと, 対照的である。Primack(1985)のモデルは, ポリネーターの訪花率が低く新しい花を作る相対コストが高いときに, 長命の花が生ずることを予測している。ジョウロウホトトギス節の植物はトラマルハナバチの訪花頻度が比較的低く, また大きな花を着けるので, この予測に合致する。花柱枝が二裂するというホトトギス属植物の特質は, 直立型の花では, 雌性期に外輪雄蕊の葯を跨いで柱頭が下方に来るという形態により, 大型ハナバチ受粉に適応しているように見える。下垂型の花ではそれと同様な意義を見い出せないが, 上方にある柱頭がほとんど受粉しないので, 柱頭面積を広く確保するという意味があるのかも知れない。直立型の花は丁字着の葯が外向裂開して, 大型のハナバチが乱暴に動いても葯はほとんど痛めつけられずに, ハチの背面に裂開面をうまく当てることができる。下垂型の花ではハチはほとんど下方の葯にしか触れないので, もし外向裂開であればその直下を通過したときにだけ効率よく花粉を受け取られるであろうが, 側裂開で葯の向きを自由に変えられる丁字着のため, 側方の葯からも花粉を拭き取られるようである。直立型の花では, 蜜腺が内花被片基部の左右の張り出しにより覆い隠されているが, ジョウロウホトトギス節の花では隠されていない。これは盗蜜者がいないこと, 下垂するため雨水が入る恐れがないことなどと関係があると思われる。以上のような花部生態学的特性から見ると, ホトトギス属では, 下垂する花は直立する型から由来したと考えるのが自然のように思える。