- 著者
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西村 周泰
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬学会
- 雑誌
- ファルマシア (ISSN:00148601)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.11, pp.1051, 2021 (Released:2021-11-01)
- 参考文献数
- 3
「細胞の運命を自在にコントロールする」.一昔前までは不可能とされた現象であるが,最近は線維芽細胞などの体細胞に遺伝子導入を行い,神経細胞や心筋細胞などに直接変換するダイレクトリプログラミングの研究が盛んになってきており,新しい再生医療の潮流が形成されつつある.さらには,化合物を用いたダイレクトリプログラミングである「ケミカルリプログラミング法」の開発も進められており,特定の化合物の組み合わせを一定期間,細胞に処置することで,目的の細胞を産み出すことが可能になっている.薬を用いて細胞の運命を変えることは,かつては不可能とされていた技術であるが,今はそれができる世の中になりつつある. 時代は確実に変化し,薬学においても新しい研究領域が創成されつつあると感じている.ここで紹介する論文は,成体マウスの脳に,フォルスコリン(300µM),CHIR99021(60µM),ISX9(120µM),I-BET151(6µM),およびY27632(30µM)を混合して,浸透圧ポンプを用いて14日間,持続注入することで,脳内のアストロサイトを機能的な神経細胞(chemically induced neurons: CiNs)へ変換することに成功したという研究報告である.なお,この化合物の組み合わせは,同じ研究グループの先行研究で報告されており,線維芽細胞から神経細胞へのダイレクトリプログラミングを誘導する化合物のスクリーニングにより得られている.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Rivetti di Val Cervo P. et al., Nat. Biotechnol., 35, 444-452(2017).2) Li X. et al., Cell Stem Cell, 17, 195-203(2015).3) Ma Y. et al., Cell Discov., 7, 12(2021).