著者
日野 一成
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.81-101, 2014-11-25 (Released:2019-07-21)
参考文献数
21

近時のジェンダー法学では,年少者の逸失利益に関する男女間格差について,憲法14条1項後段事由による性差別として,考慮されるべき問題であると考えられている。 とりわけ,平成13年の自賠法改正(平成14年4月施行)により法定されたと考えられる自賠責支払基準において,男女別「全年齢平均給与額」が算定のベースとされていることから,この支払基準の男女の差別的取扱いについて違憲性の疑いが生じていることになるように思われる。本稿では,女子年少者の逸失利益の算定に関する男女間格差の問題について検討し,その上で,自賠責支払基準における問題について考察を行う。
著者
石井 優 久保 治郎 髙野 浩司
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.145-217, 2019-02-25 (Released:2020-05-23)
参考文献数
25

海上保険実務と密接に関わる運送・海商の規律を120年ぶりに見直した改正商法が間もなく施行される。海上保険関連では,委付規定を削除した他,規律と実務の不整合を多くの箇所で解消している。保険法の告知に係る質問応答義務の規定を退け自発的申告義務を定めた意義は大きい。貨物保険の代位求償関連では,内航運送人の責任が軽減され,外航貨物の海上運送状下での荷受人の権利が規定された他,貨物損害賠償請求権に関しても,消滅時効を出訴期限とし,船舶先取特権は維持する等,実務面で意義ある改正がなされた。海難関連で,船舶衝突では1910年衝突条約の規定を選択的に採用した。海難救助では契約救助も明確に対象とし,船舶関係者が積荷等も含む救助契約を締結できると定めた他,不成功無報酬の原則を修正し環境損害防止費用の特別補償の規定を導入している。共同海損では成立要件や分担につき1994年YARとの整合が図られたが,対象となる損害・費用の範囲では,新たな規定の追加はなく現行条文の修正に止まった。
著者
二木 雄策
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-25, 2014-05-25 (Released:2019-07-21)
参考文献数
9

交通事故における死亡慰謝料は金額で表示されるが,被害者の被った精神的・肉体的苦痛というのはもともと金銭で評価できるものではない。そこで実際には裁判所がその額を決定しているのだが,それがどのような根拠で算定されたかは不分明のままである。しかし損害賠償金は公平かつ適正なものでなければならないのだから,慰謝料額の背後には何らかの論理があってしかるべきだろう。 本稿では被害者が死亡した交通事故についての過去の判例(44年間に亘る1962例)を資料として,それらに統計学的な方法,とりわけ回帰分析を適用することで,慰謝料の「計量分析」を試みる。それによって,交通事故の損害賠償ではその重点が逸失利益から慰謝料に徐々に移って来たこと,慰謝料の額が平準化してきたこと,その決定要因が規則性を持ち始め,とりわけ近時では加害者の言動や責任の度合いが重要な決定要因となっていること,等が示される。
著者
根本 篤司
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.65-88, 2018-08-25 (Released:2020-05-18)
参考文献数
27

今般の募集規制改革では,保険販売チャネルの多様化とともに保険取引の情報の非対称性の問題が意識されている。本稿は,保険募集で扱われる情報の内容および情報収集コストの観点に立って,保険販売チャネルの現状と課題の分析を行う。具体的には,情報コストの負担抑制を目的とした直営方式の代理店チャネルの増加は,かえって保険募集の効率性を阻害する可能性を考察する。結論として,保険販売チャネルの垂直的統合を促すインセンティブを付与し,損害保険会社間の競争を活発化させること,販売手数料をめぐる代理店側の価格交渉力を強化すること,販売チャネルの製販分離の実現を目指すことが,複数チャネルの情報問題の解消に有効であることを指摘する。
著者
鎌田 浩
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.19-43, 2015-11-25 (Released:2019-05-17)
参考文献数
2

コンビニエンスストアは,食品・日用品等の販売,ATM,宅配便の集荷,公共料金の支払,通販商品の受け取り等の各種サービスの他,防犯・防災や高齢者見守りの場といった社会インフラやセーフステーションとしての役割も有している。また,24時間365日営業をしている店舗には老若男女を問わず不特定多数の者が出入りし,「社会的空間」と呼ぶにふさわしい場を提供する一方で,来店客の利用行動に応じた「賠償リスク」がそこには見出される。そこでコンビニエンスストアの店舗構造・管理の特性から,特に同一平面における転倒事故に注目した。転倒を生じる「転倒の3要因」から転倒のメカニズムを解析し,過去の判例からコンビニエンスストアの賠償責任の認否を検討した。店舗内の構造・管理に起因する原因を分析し,店舗としての転倒予防の対策を進めることが課題である。
著者
二木 雄策
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-25, 2014

<p> 交通事故における死亡慰謝料は金額で表示されるが,被害者の被った精神的・肉体的苦痛というのはもともと金銭で評価できるものではない。そこで実際には裁判所がその額を決定しているのだが,それがどのような根拠で算定されたかは不分明のままである。しかし損害賠償金は公平かつ適正なものでなければならないのだから,慰謝料額の背後には何らかの論理があってしかるべきだろう。</p><p> 本稿では被害者が死亡した交通事故についての過去の判例(44年間に亘る1962例)を資料として,それらに統計学的な方法,とりわけ回帰分析を適用することで,慰謝料の「計量分析」を試みる。それによって,交通事故の損害賠償ではその重点が逸失利益から慰謝料に徐々に移って来たこと,慰謝料の額が平準化してきたこと,その決定要因が規則性を持ち始め,とりわけ近時では加害者の言動や責任の度合いが重要な決定要因となっていること,等が示される。</p>
著者
吉澤 卓哉
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.1-63, 2017-08-25 (Released:2019-04-10)
参考文献数
101
被引用文献数
3

本稿は,直接請求権のない示談代行商品の意義を確認したうえで,直接請求権のない示談代行商品が弁護士法72条に抵触しないかどうかを検討するものである。検討の結果,たとえ直接請求権が存在しなくても,保険者が実施する示談代行は同条に抵触しないことが明らかになった。なぜなら,賠償責任保険における責任関係と保険関係との強い牽連性があり,たとえ責任関係の拘束力が認められないとしても,保険法で賠償保険金に対する先取特権が被害者に付与されたことからすると,同条における他人性を排除する程度に強い本人性が保険者に認められると考えられる。また,仮に本人性が認められないとしても,正当業務行為として違法性が阻却されると考えられるからである。 わが国において,保険者による示談代行は,自動車保険から個人向け賠償責任保険全般へと拡がり始めたが,未だ企業向け賠償責任保険では導入されていない。示談代行制度が保険契約者にとっても被害者にとっても有用だとすると,直接請求権の存否にかかわらず,必要に応じて事業者向け賠償責任保険にも導入していくべきであるが,直接請求権を設けないで示談代行制度を導入することは,法的にも実務的にも可能だと考えられる。
著者
大井 暁
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.135-158, 2017-05-25 (Released:2019-04-10)
参考文献数
44

逸失利益を一時金賠償方式で算定する場合,将来取得する逸失利益を現在価額に換算する中間利息控除が行われる。民法(債権法)改正案では,中間利息控除に関する規定が新設され,中間利息控除は法定利率により行い,法定利率が当初3%から変動する案とされている。裁判実務上,若年者の逸失利益の算定方式として全年齢平均賃金にライプニッツ方式を用いる東京方式が定着しているが,この方式に従い改正案による3%の法定利率(変動制)で中間利息を控除すると,改正前後の逸失利益の格差や男女間格差が拡大する懸念がある。法改正を機に逸失利益の算定方法を再考する必要があると考える。具体的には従来あまり用いられて来なかった「表計算方式」ないし「個別割引方式」が再評価されて然るべきと考える。また,中間利息の控除割合の変更で損害額が大幅に増加することから,適用利率の基準日,現価計算の基準日は明確に決定される必要がある。
著者
梅津 昭彦
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.1-28, 2017-02-25 (Released:2019-04-10)
参考文献数
24

アメリカ法における保険証券の規制という名の解釈問題は,契約の解釈として伝統的な契約法における解釈の諸ルールを適用することが基本であるが,近時再び注目されるのは,保険証券を「商品」または「物」として捉え,製造物責任(products liability)を基礎とする保険証券規制の提言である。本稿は,D. Schwarcz教授の製造物責任を基礎とする保険証券規制モデルを紹介し,アメリカ法における保険証券規制に対する新たな視点を確認する。それによれば,商品としての保険証券について警告上の欠陥または設計上の欠陥が認められる場合には,被保険者に保険担保に対する権利を与えようとするものである。また,K. S. Abraham教授は,製造物責任法について認められる要件の適用に際しての問題,例えば,商品の欠陥を認めるためのテストの多義性と保険契約者の選好多様性の理解から直ちに製造物責任を保険証券規制に応用することについては消極的に評価している。本稿は,以上のような両教授の検討について整理を行うことにより,アメリカ保険法における保険証券の規制・解釈の新たな視座を明らかにした。
著者
伊藤 晴祥
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.79, no.2, pp.101-127, 2017-08-25 (Released:2019-04-10)
参考文献数
11

小論では,積雪がある閾値以下となる日数を指数とする雪デリバティブを利用することによりどの程度企業価値が高まるかを検証した。まず,新潟県南魚沼市及び魚沼市の全16か所のスキー場入込数を利用して,15か所のスキー場で積雪リスクと入込数との相関係数の絶対値が0.4以上であり,殆どのスキー場でも積雪がリスク要因であることを示した。雪デリバティブの評価にあたり,その非完備性を考慮し,意思決定者のリスク回避性を価値評価に織り込むためにWang変換を利用した。シャトー塩沢のデータを利用した分析の結果,λが0.5以上の中程度リスク回避的な意思決定者である場合,雪デリバティブの安全割増が20%以下であれば,雪デリバティブの利用により企業価値が高まることを示した。現在保険会社から提供をされている天候デリバティブの安全割増は60%以上であると推計されており,このことが天候デリバティブの利用が進まない一因であるとも考えられる。
著者
亀井 克之 八木 良太 大塚 寛樹
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.189-219, 2017-02-25 (Released:2019-04-10)
参考文献数
19

リスク多発の現代においては,リスクマネジメント・危機管理がますます社会的に要請されるに至っている。これは,1916年に発表されたファヨールの論考から100年を経て,練り上げられてきたリスクマネジメントの考え方(フレームワーク)をさまざまな経済主体や事象にあてはめて,リスク・コントロールとリスク・ファイナンスを展開することを意味する。近年,筆者らは日本で急成長している音楽ライブ市場にリスクマネジメントのフレームワークをあてはめて研究を展開している。これは,①2020年の東京五輪開催を見据えたイベントのリスクマネジメントや②さまざまなエンタテインメント・ビジネスのリスクマネジメントを考える上で示唆を与えるものと考える。こうした研究の一環として,本稿では,まず,既存研究で試みてきたように,リスクマネジメントのフレームワークを音楽ライブ・ビジネスに適用して提示することを試みる。次に事例によって「音楽ライブ・ビジネスのリスクマネジメント」を考察する,具体的には,⒜日本の音楽ライブ市場で依然として大きな存在感を示す韓国ポップ(K-Pop)アーティストの事例分析と⒝2015年11月13日にフランス・パリの音楽ライブ劇場バタクランで発生した銃の乱射テロに関連してフランステロ犯罪被害者補償制度の事例分析を行なう。
著者
大島 道雄
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.71-117, 2018-02-25 (Released:2019-04-09)
参考文献数
23

2017年は損害保険自由化後20年目にあたる。本稿はこれを機に,自動車保険の自由化後の推移を,自由化以前・以降の長期間のデータを用い考察したものである。 自由化に関しては,10周年を機に,主に自動車保険を対象とした研究等がなされ,競争による保険料の低廉化,事業費率の低下,商品・販売方法の多様化等が自由化の成果として,総じて高い評価が与えられている。しかし,データの検証が不十分と思われる研究や,当時の研究成果では説明困難な実績が認められる。このため,損害保険全体の事業費率,および事業費の主要な費目である代理店手数料の手数料費率の推移,自動車保険の事業費率および保険料単価の推移,純率に影響を与える諸要素の動き,損害率の内訳を調査した結果,自動車保険に与えた自由化の影響は従来の評価とは大きく異なっていることが明らかになった。 本稿は自由化後の自動車保険の推移に関して,従来とは異なった見解を提示するものである。
著者
明治大学 中林真理子ゼミナール
出版者
公益財団法人 損害保険事業総合研究所
雑誌
損害保険研究 (ISSN:02876337)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.233-247, 2016 (Released:2019-04-05)
参考文献数
7

近年,日本ではテレマティクス保険が注目を集めている。テレマティクス保険は保険料算出に運転技術や走行距離を用いることで,現状の自動車保険よりもさらに個々の運転者の事故リスクに見合った保険料の設定が可能となると考えられる。この保険が日本の自動車保険制度に加わった際には,有用性のあるものとなり得るのかについて,警察庁による事故統計や,実際にテレマティクス機器を用いた走行実験を基に検証した。そしてリスク細分型保険の是非と今後の技術的な発展可能性について考察した結果,テレマティクス機器の更なる発展的な活用に期待は持てないものの,統計をさらに多く取り,多くのデータを用いて妥当性のある制度設計を検討していくことは,自動車保険のより精緻化された制度設計の前提条件となるだろうという結論を得た。