著者
青木 紀美子 小笠原 晶子 熊谷 百合子 渡辺 誓司
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.10, pp.32-72, 2023-10-01 (Released:2023-10-20)

社会的に多様性、公平性、包摂性の促進が重視される中、メディアも社会の多様性を反映しているかを問われている。放送文化研究所では2022年度、テレビ番組の表象の多様性について2回目の調査を行った。 6月の1週間、番組全般の出演者のジェンダーバランスをメタデータにもとづいて分析し、6月と11月、ウィークデー(月~金)夜の全国向けのニュース報道番組で発言した登場人物について、ジェンダーに加え「障害の有無」、「人種的多様性」、「取材地の分布」などについても、コーディングによる分析を行った。 ジェンダーバランスの分析結果は、前年度とほぼ変わらず、女性と男性の割合が、番組全般では4対6、夜のニュース報道番組では3対7だった。総人口では女性が過半数を占め、特に高齢層で女性が男性より多いという社会の現実に対し、テレビの世界は「若い女性と中高年の男性」に偏った表象であることが前年度に続き、確認された。このうちニュースでは、男性が政治や経済などの分野で権威や肩書がある立場で登場することが多いのに対し、女性は暮らしや福祉などの分野で地位も肩書も名もない立場で登場する割合が高かった。新たに加えた調査項目のうち「人種的多様性」では、「日本人」の次に「ヨーロッパ系」が多く、取材地が日本国内の場合も、在留外国人の大半を占める「アジア系」と「ヨーロッパ系」が、登場人物に占める割合で並ぶという偏りがあった。「障害の有無」の分析では、障害「あり」が全体の0.3%で、「あるかもしれない」0.9%とあわせても約1.2%で、国内の障害者の割合のおよそ9.2%の8分の1程度にとどまった。登場人物が取材を受けた「取材地の分布」は、都道府県別の人口分布に比べて、東京への一極集中がはるかに大きかった。限られた日数のサンプル調査であり、テレビ放送から得られる情報では把握できない多様性もあるが、視聴者から見えるテレビの表象の偏りを示唆する結果となった。
著者
中川 和明
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.7, pp.44-63, 2023-07-01 (Released:2023-07-20)

NHK放送文化研究所は、2020年から新型コロナウイルスに関する世論調査を毎年行っており、3回目となる2022年の調査については、感染拡大の不安やストレスなどに関する結果を『放送研究と調査』(2023年5月号)に掲載した。本稿は、それに続くもので、コロナ対策やデジタル化、コロナ禍がもたらしたものなどについて報告する。主な内容は以下のとおりである。なお、ここで紹介する調査結果は、2022年の調査時点のものである。 政府のコロナ対策について『評価する』が55%で『評価しない』の44%より多いものの、『評価しない』と答えた人が前回よりも増えている。感染対策のために個人の自由が制限されることについて『許されない』と答えた人が20%で前回より増加した。いま力を入れるべきこととして、『経済活動の回復』と答えた人が60%で、『感染対策』と答えた人の39%を大きく上回った。 コロナ禍を経て様々な手続きや活動がオンラインでできるようになったが、オンラインで仕事をしたことがあると答えた人は22%にとどまり、7割の人はしたことがないと答えた。さらに、オンラインで仕事をしたことがあるのは、事務職や管理職などのいわゆるホワイトカラーで多く、年収の高い、大都市に住む人たちでよく利用されていた。一方、オンライン化の進展に関して、個人情報を把握される懸念を感じている人が7割から8割ほど、また個人情報の流出も該当者の8割ほどを占めた。 3年にわたったコロナ禍について、マイナスの影響が大きいと答えた人が74%で多くを占めたが、若い人たちを中心に、「家族と過ごせる時間が増えた」「在宅勤務など柔軟な働き方ができる」「今までと違う楽しみを見つけた」など、前向きに捉える人たちも一定数にのぼった。
著者
宇治橋 祐之 渡辺 誓司
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.30-63, 2023-06-01 (Released:2023-06-20)

NHK放送文化研究所では,全国の学校現場におけるメディア環境の現状を把握するとともに,放送,インターネット,イベントなどNHKの教育サービス利用の全体像を調べるために,1950年から定期的に学校を単位として,あるいは教師個人を対象として全国調査を行ってきた。全国の小・中学校で「児童生徒向けの1人1台端末」と「高速大容量の通信ネットワーク」を一体的に整備するGIGAスクール構想の本格的な運用が始まり2年目となる2022年度は、1人1台端末の授業での利用だけでなく、家庭への端末持ち帰りとその利用状況を把握するために、中学校の教師個人を対象とした。対象教科は初めて5教科(理科、社会、国語、外国語、数学)としている。 GIGAスクール構想前の2019年度の結果と比べると、タブレット端末を利用できる環境にある教師が大幅に増加(63%→91%)、インターネットを利用できる環境にある教師(77%→93%)も増えていた。 また、生徒に1人1台ずつ配付されたパソコンやタブレット端末(「GIGAスクール端末」)を授業で生徒に利用させている教師は、5教科全体で87%であった。さらに授業で「GIGAスクール端末」を生徒に利用させている教師でみると、6割を超える教師が「家庭への持ち帰り学習」を行っていた。 授業でのメディア教材の利用についてみると、「指導者用のデジタル教科書」(33%→49%)の利用と、NHKの学校放送番組あるいはNHKデジタル教材のいずれかを利用していた「NHK for School教師利用率」(38%→49%)が増加していた。また、教科別にみると理科と社会で「NHK for School教師利用率」、外国語で「指導者用のデジタル教科書」と「学習者用のデジタル教科書」の利用が多く、教科による違いがみられた。 教師が生徒の家庭学習に行っている支援については、「紙の市販ドリルやプリント教材」「教科書」を利用した紙教材での支援が7割で多かった。ただし「アプリなどデジタルのドリル教材」など、生徒が家庭でパソコンやタブレット端末を利用して行う「デジタル教材」での支援も6割で、家庭学習の支援が多様化している様子もみられた。 またビデオ会議や資料共有、コミュニケーション機能などがある、授業と家庭学習で利用できる「学習支援ツール」は、84%の教師が利用していた。 GIGAスクール構想の実現で、教室のメディア環境は大きく変わった。家庭のメディア環境の差などの課題はあるが、授業と家庭学習を繋げられる「NHK for School」や「学習者用のデジタル教科書」などのメディア教材と「学習支援ツール」などを利用することで、生徒の学びをどう広げていけるのか、学校と家庭の両方を見渡した学習支援のトータルデザインを考える必要があると考えられる。
著者
中山 準之助
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.26-61, 2023-05-01 (Released:2023-05-19)

令和の中学生と高校生の生活実態、意識や価値観を捉えるため、2022年夏、NHK放送文化研究所は、全国の中高生などとその親を対象にした世論調査、第6回「中学生・高校生の生活と意識調査」を実施した。前回10年前の調査のあと、SNSの浸透、新型コロナウイルス感染症など、中高生を取り巻く環境は大きく変化してきた。2回にわたり掲載する調査報告の初回となる本稿では、「コロナ禍のストレスと、ネット社会を生きる中高生の人間関係など」について報告する。 「コロナ禍の悩みやストレス」 ▶コロナ禍のストレスは「自由に遊べない」「外出できない」など。女子が男子を上回る。 ▶今の悩みは「成績、受験」が中高ともに6割。女子で「外見」が3割と、男子より多い。 「中高生のネットの利用」 ▶中高ともに「SNS利用」9割超。 ▶投稿することがある人のうち、投稿の反応が少なくても『不安にはならない』が7割超。「不特定多数の人」に向けて投稿するは4人に1人。SNSへの抵抗感は薄く、ネットリテラシーは向上も。 「SNSでの人間関係の変化」 ▶「SNSだけのつきあいで、会ったことがない友だち」がいる人は高校生で4割。 ▶「深刻な悩みごとを相談できる友だち」が「いない」は中高とも2割ほど。 「不安や将来への期待」 ▶「自分の将来」に「自分の将来」に『期待あり』は中高ともに6割超。一方で、『不安あり』は中学生で7割台、高校生で8割台。 ▶「18歳から大人」として扱われることに高校生では「早い」が5割超で多い。
著者
小林 利行
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.5, pp.2-25, 2023-05-01 (Released:2023-05-19)

NHK放送文化研究所が行った新型コロナに関する3回目の世論調査の結果について報告する。本稿では、感染が長期化する中で人々の意識や生活にどのような変化があったかを考察し、特に去年からの行動制限の緩和などの「ウィズコロナ」に向けた政策が、これまでコロナ禍のしわ寄せを受けていた女性や自営業者などにどのような影響を及ぼしたかに注目する。主な結果は以下の通りである。 感染拡大が『不安だ』という人は84%と多いが、時系列では年々減少している。外出回数は過去に比べて増え、特に「散歩や運動」「買い物」の回復が目立つ。一方で、ストレスを感じる人は少しずつ増加している。過去と同じように女性のほうがストレスを感じる人が多く、「ウィズコロナ」に向けた制限緩和による減少はほとんどみられない。ストレスの原因として「収入が減っていること」を挙げた人は、全体では19%だが自営業者では50%となっている。これは過去と同様の数字で、現時点では回復の兆しはうかがえない。 感染収束後でも、マスクを「前よりは多く着ける」と「できるだけ着ける」が合わせて約75%に上った。その理由の90%は「衛生上の理由」だが、「素顔をさらしたくないから」という人も7%いて、18~39歳では男女とも16%いた。コロナの法律上の扱いを引き下げることに『賛成』は約6割で、『反対』を上回った。賛成の理由は「重症化しづらくなっている」などで、反対の理由は「感染しやすくなるから」などだった。
著者
平田 明裕
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.12-23, 2023-03-01 (Released:2023-03-30)

本稿では、2021年に実施した「メディア利用の生活時間調査」のテレビ画面で動画を視聴する人(全体の6%)に焦点をあて、テレビ画面の利用実態や動画の視聴状況を分析し、今後、コネクテッドテレビが普及しテレビ画面の動画を視聴する人が広がると、テレビ画面の利用が変わるのかどうかについて考察する。テレビ画面での動画視聴者がテレビ画面で「動画」を視聴する時間量は1時間47分で、「リアルタイム」(1時間39分)と同じくらいであった。1日の推移をみてみると、朝の時間帯は「リアルタイム」が圧倒的に多い一方で、夜間の遅い時間にかけて「動画」が増えていくなど、テレビ画面での動画視聴者は時間帯によってテレビ画面で何を見るかを変えている様子がみられた。また、テレビ画面での動画視聴は、「ながら」視聴も「専念」視聴も同じくらいであった。動画を見ながらしている行動は「食事」「SNS(スマホ)」「身のまわりの用事」などで、リアルタイムと同じような「ながら」視聴が行われていて、これまでのリアルタイムテレビに近い見方で動画を視聴するようになっている様子もうかがえた。こうしたテレビ画面での動画視聴者の特徴であるテレビ画面の使い方は、今後、コネクテッドテレビが普及しテレビ画面での動画視聴者が増えていくと、広がっていくのではないかと考えられる。
著者
熊谷 百合子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.34-61, 2023-02-01 (Released:2023-03-20)

ソーシャルメディアの台頭により情報発信・獲得の手段が多様化し、若い世代を中心にテレビ離れ、ニュース離れは深刻さを増しているが、背景には、必要な情報を必要とする人に届ける役割を果たせていないマスメディア自身の課題もあるのではないか。こうした問題意識から、コロナ禍に運用が開始された、仕事と育児を両立する親を対象とする支援制度の問題を伝えた報道が、どこまで当事者に伝わり、制度の利用につながったのかを検証するとともに、主に未就学児を育てる働く親のメディア接触の実態を可視化するインターネット調査を実施した。調査の結果からは、デイリーニュースを確認する手段としてテレビのニーズが確認された一方で、家事育児の多忙や、子にチャンネル権が優先されることなどを理由に、親自身がテレビニュースを見る機会が減少するケースが多いことが認められた。また、支援制度を知った経路として、テレビは一定程度貢献をしているものの、制度を利用する行動変容を促すまでの役割は果たせていない。必要な情報を必要とする人に届けるためには、報道手法そのものを見直す必要があると考えられる。
著者
大髙 崇
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.2-23, 2021 (Released:2021-04-16)
被引用文献数
1

再放送に対する視聴者への意識調査(WEBアンケート,グループインタビュー)の結果を詳述する2回シリーズの前編。第1章で‚政府の緊急事態宣言が発出された2020年4月以降のテレビ番組の「再放送化」を概観。5月下旬には夜間プライムタイムでも多くの番組が再放送‚ないし‚過去映像素材の再利用による放送であった。意識調査の結果からは‚主に以下の傾向が抽出できた。 ●再放送に対しては概ね好意的であり‚時間帯も平日のゴールデンタイムなどでも構わないという傾向が強い。●見たい番組であれば再放送であるか否かはあまり気にしない。番組表の表示も特段のこだわりは感じられず‚放送のタイミングでも「季節感」などは重要視していない。●再放送へのニーズの中には,最近の放送番組に対する物足りなさも含まれている。●特に‚積極的な視聴者層は‚再放送番組に対して様々な付加価値を求めている。●再放送の情報は‚若年層がインターネットで‚高齢層が新聞で得る傾向がある。●不祥事を起こした芸能人の出演する番組の再放送には概ね寛容。調査の分析・考察は後編に続く。
著者
大森 淳郎
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.70, no.8, pp.2-17, 2020 (Released:2021-04-16)

本稿では、戦時ラジオ放送におけるアナウンス理論に焦点を当てる。先行研究に共通する大きな見取り図は、主観を排して淡々とニュースを読む、善きものとしての「淡々調」が、太平洋戦争勃発とともに生まれた、主観を前面に押し出して読む、悪しきものとしての「雄叫び調」に取って代わられたというものである。しかし今回、これまでの定説とは異なる次の知見を得た。 ➀「淡々調」も、日中戦争勃発後には国民を戦争に誘導するために最適なアナウンス理論として位置づけられていたのであり、その点においては「雄叫び調」と同じであること。 ②これまで「雄叫び調」は、太平洋戦争開戦を告げる臨時ニュースから自然発生的に始まったとされてきたが、それはつくられた伝説であり、開戦前から理論構築されていたこと。 本稿では、当時のアナウンサーたちの内面に分け入りながら上記知見を明らかにしてゆく。内容ではなく話し方によって国民を戦争に動員する。それはどんな挑戦だったのだろうか。
著者
荒牧 央
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.22-29, 2020 (Released:2020-04-20)

2019年10月に行なわれた即位礼正殿の儀を前に、皇室に対する関心や皇位継承のあり方などについての意識を探るための電話調査を実施した。今の皇室について関心がある人、親しみを感じている人、皇室と国民の距離が近くなったと感じている人はいずれも7割程度で、国民の多くは皇室に対して関心や親しみを持っている。女性天皇、女系天皇を認めることについても、それぞれ7割の人が賛成している。一方で、女系天皇の意味を知っている人は4割で、皇室制度を改める必要があるという人も半数程度にとどまっている。
著者
田中 孝宜
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.28-37, 2018 (Released:2018-03-21)

イギリスの公共放送BBC存続の基本法規に当たる特許状が2017年1月更新された。特許状の更新に当たってBBCのあり方が議論される。議論のたたき台として政府が2015年7月に公表した「グリーンペーパー」では、「BBCの使命、目的、価値」、「BBCの事業範囲およびその対象」、BBCの財源」、「BBCの管理体制」の4つの主題を軸に一般から意見募集が行われた。意見公募では、デジタル時代に合わせてBBCが事業や予算規模を拡大することについて69%が賛成し、60%の人が受信許可料制度の変更は必要ないとした。こうした中で、今回の特許状更新での最大の変更はBBCのガバナンス、統治システムであった。前回の特許状ではBBCの内部に監督機関のBBCトラストを設置したが、今回はBBCトラストを廃止し、初めて外部の独立規制機関Ofcom(Office of Communications)がBBCの規制・監督を担うことになった。Ofcomではまず、BBCを規制する『運営枠組み』を示し、その後、具体的な量的基準を示した『運営免許』を10月に公表した。OfcomはBBCの業績評価を行い、BBCが新たなサービスを計画する場合Ofcomが決定権を持つなど、制度上は強い権限を持つことになった。本稿は、特許状更新議論の過程を振り返るとともに新ガバナンス体制のあり方を整理するものである。
著者
塩﨑 隆敏
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.22-33, 2023-02-01 (Released:2023-03-20)

2022年2月24日にロシアが「特別軍事作戦」だとするウクライナへの軍事侵攻を開始した。ロシアの国営メディアは政権の意向に沿うような報道を展開し、政府側も言論を統制するなど、政府によるプロパガンダが進んだ。しかし、プロパガンダはロシアに限らず、過去の戦争や紛争で各国により繰り広げられてきた。今回の論考では、プロパガンダが始まったと言われる第一次世界大戦から、SNS時代に起きているウクライナへの軍事侵攻にかけて、最先端のメディアが移り変わるのに伴うプロパガンダの変遷について概略をたどった。また、今回のロシアによるプロパガンダに対して西側の国々やEU・ヨーロッパ連合などが打ち出した対抗策についてもまとめた。さらにプロパガンダの先行研究のうち、ノーム・チョムスキーらの「プロパガンダ・モデル」とともに提唱した「価値ある被害者」「価値なき被害者」の観点から、なぜ西側のメディアがウクライナ情勢の報道に注力する一方、ミャンマーで起きている戦禍について取り上げることが少ないのかという点にも考察した。
著者
村上 圭子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.3-23, 2023-01-01 (Released:2023-02-20)

2021年11月に総務省で開始した「デジタル時代における放送政策の在り方に関する検討会」は、分科会やワーキンググループが設けられ、多様な論点で議論が続けられている。2022年8月には取りまとめが公表され、放送の将来に向けた政策として、守りの戦略と攻めの戦略が示された。守りの戦略とは、放送ネットワークインフラの将来像についての検討である。具体的には、1)クラウドマスターの導入等も含めたマスター設備の将来像、2)複数の局による共同利用型の模索を始めとした、中継局の保守・運用・維持管理のあり方、3)維持・更新費用が割高な小規模中継局等のエリアについて、放送波やケーブルテレビの再放送に加えて、ブロードバンドによる代替の検討という3点である。攻めの戦略とは、放送局のネット配信のあり方についての検討である。具体的には、1)「誰もが安心して視聴できるという信頼を寄せることができる配信サービス」に、人々がアクセスしやすくするための方策、2)ネット時代における公共放送の役割や、現在は放送の補完業務であるNHKのネット活用業務の位置付け等の2点である。提示された1つ1つの論点は重く、それらは複雑に絡み合っているため、論点を俯瞰して論じていかない限り、放送の将来像は見えてこないというのが筆者の基本認識である。加えて、議論のプロセスに並走しながら、重要な論点が避けられてはいないか、先送りされてはいないかを適切なタイミングに問題提起していくことも、どういう結論に至ったのかを検証する以上に重要ではないかと考えている。本稿では、8月に公表された取りまとめを受けて速報的に放送文化研究所のサイトで問題提起した、3回分の「文研ブログ」を再掲する。なお、ブログで扱った論点については、その後の議論の進捗に応じて内容が変化しているものもあるが、議論のプロセスの記録と理解いただきたい。
著者
斉藤 孝信 山下 洋子 行木 麻衣
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.28-36, 2022-10-01 (Released:2022-11-20)

NHK放送文化研究所が、テレビとラジオのリアルタイム(放送と同時)視聴の実態を把握する目的で、2022年6月6日(月)~12日(日)に実施した「全国個人視聴率調査」の結果を報告する。テレビ全体の1日あたりの視聴時間量は3時間41分である。時間量は年代によって差があり、60代では4時間以上、70歳以上では6時間前後と、高年層では長時間にわたって視聴されている一方で、男性の30代以下と女性の20代以下では2時間未満と短い。また、1週間に5分以上、テレビを視聴した人の割合も、男性の60代以上と女性の50代以上では90%を超えて高いが、男性の13~19歳(70%)、20代(55%)、30代(74%)と、女性の20代(76%)は全体よりも低い。ラジオ全体の1日の聴取時間は30分である。調査を行った1週間に5分以上ラジオを聴いた人は、全体では36.0%で、男性の50代(43%)と60代(54%)、70歳以上(56%)、女性の60代(46%)と70歳以上(47%)で全体より高い。今回の調査では、テレビやラジオのリアルタイム視聴が、60代以上の高年層でとくに盛んに行われていることが確認された。
著者
村田 ひろ子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.20-40, 2022-09-01 (Released:2022-10-20)

NHK放送文化研究所が加盟する国際比較調査グループISSPが、2021年に実施した調査「健康・医療」の日本の結果から、医療や健康に対する人々の意識や態度について報告する。▼心身の健康状態が『よくない』と回答した人は約3割で、「自分に自信がなくなった」(自信喪失)など精神的な自覚症状がある人は4割前後いた。そうした心身の自覚症状を抱える人は、女性で多く、精神的な症状については、特に若い女性で多かった。▼「人々は、医療を必要以上に利用している」と思う人は約5割で、そうは思わない人の約2割を大きく上回るなど、日本では医療サービスが過剰に提供されていると認識している人が多い。▼一方、医師や医療制度を信頼する人が増えて、新型コロナウイルスの感染拡大への対応が医療制度に対する信頼を『高めた』という人が4割いた。ただし、新しい感染症の治療体制については、6割を超える人が『整っていない』と思っている。▼日本には必要な医療を受けられない人が『いる』と回答した人が8割を超えた。所得や国籍の違いによって、医療の受けやすさが異なると思っている人も7割以上に上る。しかし、所得の高い人が低い人より、質の高い医療を受けられることを「不公平」だと思わない人が増えている。
著者
小林 利行
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.2-21, 2020 (Released:2021-04-16)

本稿では、NHK放送文化研究所が、国際比較調査グループ(ISSP)の一員として2019年11月に実施した、社会のさまざまな格差意識を探る「社会的不平等」に関する調査の日本の結果について、1999年と2009年の調査結果との時系列比較を中心に報告する。 今回の調査結果からは、低所得層の増加を背景に、「日本の所得格差は大きすぎる」と思う人が20年前に比べて増加するとともに、日本の「社会構造」が、中流層より下流層が多い構造になっていると感じる人が多くなり、自分が社会のどの階層にいるかという「階層意識」についても、中流よりも下の階層にいると思う人が増えていることが分かった。 その一方で、日本が「学歴がものをいう社会」や「お金があればたいていのことがかなう社会」だと思う人が減り、「自然や環境を大切にしている社会」「人との結びつきを大事にする社会」「努力すればむくわれる社会」だと思う人が増えていることも確認された。「自然や環境」「人との結びつき」「努力」に関しては、若年層での増加が顕著であり、若者の意識の変化が、日本人全体の社会観の変化に大きな影響を及ぼしていることも分かった。
著者
斉藤 孝信
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.72, no.6, pp.2-33, 2022-06-01 (Released:2022-07-27)

NHK放送文化研究所が2016年から7回にわたって実施した「東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査」の結果を報告する。 大会後の調査では、大会を『楽しめた』と答えた人が7割を超えたが、コロナ禍での開催については5割以上の人が、開催しながら自粛を求められたことに不満を持った。 大会前には多くの人が経済効果を期待し、日本の伝統文化などをアピールしようと意気込んでいたが、コロナ禍によって叶えられなかった。また、東日本大震災からの“復興五輪”であると思えた人は、大会前は半数以下で、大会後、復興に役立ったと実感できた人は3割未満であった。一方で大多数の人がテレビを通じて競技観戦を楽しみ、若い年代を中心に多くの人がスポーツへの関心を高めた点で、純粋なスポーツ大会としての開催意義は大きかった。 大会をきっかけに「多様性に富んだ社会を作るための取り組みを進めるべきだ」という意識や障害者への理解が高まった。一方で、多様性に対する自身の理解の進み具合や日本の現状については不十分だと感じている人が多い。また、身近で障害者に接している人ほど環境面や意識面でのバリアフリー化が進んでいないと感じている。こうした課題を克服するためには大会後も粘り強い啓発が必要で、メディアが今後も障害者スポーツをもっと取り上げることを6割以上の人が望んでいる。
著者
木村 義子
出版者
NHK放送文化研究所
雑誌
放送研究と調査 (ISSN:02880008)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.88-95, 2019 (Released:2019-12-20)

2019年5月16日~19日の4日間、カナダ・トロントで、第74回アメリカ世論調査協会(American Association for Public Opinion Research :AAPOR)年次総会が開催された。本稿はその参加報告である。AAPORは、米国だけでなく世界各国から、調査関係者や学術関係者が千人規模で一堂に会す大規模な学会で、今年の大会テーマは設定されていなかったが、Survey Design(調査設計)に関するセッションも多く、Survey Designの変換期を体現する大会であった。筆者は、Web-Push Survey(ウェブプッシュサーベイ)という、調査相手に郵便で調査を依頼し、インターネットによる回答を促す調査方式について、方式を開発した世界的権威ドン・ディルマン(Don A. Dillman)氏が、その目的や実践例を指導するショートコースにも参加した。ディルマンのWeb-Push Surveyは世界的に広がっているが、大会冒頭に行われた基調講演では、Web-Push Surveyを導入し、インターネットによる回答率を7割弱に伸ばした、カナダの国勢調査(2016年)の事例も紹介された。その他、スマートフォンの様々なセンサーで測定されたデータと調査データを組み合わせた実践例や、統合データの透明性に関するセッション、高齢者の日常生活に関するデータを取得するため、アプリとウエアラブル端末と調査を組み合わせた事例などを本稿ではとりあげた。大会を通じて、何か解が見つかったわけではなく、調査以外のビッグデータやデータ統合も、それぞれが課題を抱えていることを実感した。