著者
松井 由香
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.55-74, 2014 (Released:2015-03-31)
参考文献数
25
被引用文献数
2

本稿は、従来の家族介護研究において不可視化される、あるいは問題化される傾向にあった男性介護者に注目し、彼らが語る「男性ゆえの困難」について考察することを目的とする。具体的には、彼らが日々直面している介護をめぐる困難について、自らを「男性」あるいは「夫/息子」であることに関連づけて言及したトピックスを抽出し、彼らにとっての「男性ゆえの困難」の内実と意味づけを分析することをとおして、家族介護をめぐるジェンダー規範のありようについて考察した。調査対象者は、「仕事と介護の両立困難」「家事役割遂行の困難」「身体接触をともなう介護の困難」「介護の『仕事化』とそれにともなう困難」を「男性ゆえの困難」として語った。それらの困難は、彼らが介護や家事を女性が担うべきジェンダー化された役割として捉えていることを逆説的に示した。
著者
夏 天
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.75-89, 2023-07-15 (Released:2023-10-13)
参考文献数
39

家族の多様化とその子どもへの影響に関する先行研究からは非婚・離婚などの家族行動は低い学歴層に生じやすいこと、ひとり親世帯の子どもは教育達成が低いことが明らかにされている。中国における親の不在は親の離婚よりも「外出労働」に起因することが多く、その「外出労働」は低い学歴層に生じやすいことから、子どもの「分岐する運命」は「留守児童」経験によって生じていることが予想できる。高校進学以降のトラッキングはその後の社会経済的地位達成を大きく規定するため、本研究は「留守児童」経験とトラッキングの入り口にある普通科高校進学との関連について検討する。China Family Panel Studies(CFPS) データを使用し傾向スコアマッチング法による分析を行った結果、「留守児童」経験のある者は普通科高校に進学しにくいことが明らかになった。「留守児童」経験がライフコース上の長期的な不利を生み出す可能性がある。
著者
藤間 公太
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.91-107, 2013-07-10 (Released:2017-02-14)
参考文献数
51
被引用文献数
4

本稿では、社会的養護施設をめぐる2つの論争―ホスピタリズム論争、津崎哲夫vs 施設養護支持派論争―を分析し、「家庭」を支配的なロジックたらしめる言説構造について考察する。分析からは、かつてはあった「家庭」への批判的視角が徐々に失われ、反施設論者だけでなく、施設養護支持派も「家庭」をケアの場の支配的モデルと前提するようになったことが明らかになった。こうしたなか、個別性や一貫性の保障という小規模ケアのメリットを「家庭的」な形態に結び付ける言説構造が維持、強化されてきたと考えられる。以上を踏まえ、考察部では、「家庭」を理想的なケア環境として措定する言説構造が持つ問題と、今後の脱家族化論の課題について議論を行う。
著者
田並 尚恵
出版者
家族問題研究学会
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.15-28, 2013-07-10 (Released:2017-02-14)
参考文献数
15

日本では1995年に発生した阪神・淡路大震災以降、多くの自然災害が発生している。 だが、これらの自然災害のうち、被災者が全国的に避難したケースはそれほど多くはなく、阪神・淡路大震災と三宅島噴火災害(2000年)、そして東日本大震災(2011年)の3例だけである。災害研究では、個人の生活再建には「医(心身の健康)、職(仕事)、習(子どもの教育)、住(住まい)」の支援が重要であるとされる。東日本大震災の広域避難者の多くは原子力災害による避難者であると指摘されており、地域によっては将来的に戻る時期が見通せない地域もあるため、避難先での支援と継続的な支援がより必要となると考える。
著者
柴田 悠
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.47, pp.13-28, 2022-07-16 (Released:2022-12-25)
参考文献数
30

少なくとも社会学では、社会関係の潜在的機能や意図せざる結果を考慮に入れるので、家族関係のもたらす「幸福」だけでなく「不幸」にも着目する。その上で、「その不幸を公的支援によっていかに軽減できるか」という問題意識で研究することも多い。筆者も同様の問題意識で、「社会的に不利な家庭に生まれた子どもが、その不利によって成人後に被る不利(幸福感の相対的低さなど)、つまり『不利の親子間連鎖』を、公的支援によっていかに軽減できるか」を研究している。 日本での先行研究によれば、「不利の親子間連鎖」の端緒は 0~2歳時点ですでに見られる。そこで本稿では0~2歳での保育・幼児教育」という公的支援に着目する。0~2歳時の保育・幼児教育が成人後に与える長期効果は、通園傾向スコアと共変量を揃えた上での「通園群」と「非通園群」のアウトカムの比較によって分析できる。本稿では、国内初となるその分析の試みについて紹介する。
著者
堅田 香緒里
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.21-33, 2018-03-30 (Released:2019-03-13)
参考文献数
43

本稿では、私的領域=家庭内で女が一般に担ってきた家事やケアといった不払い労働/再生産労働との関わりから、ベーシックインカムという政策構想について検討する。 第一に、従来の福祉政策が前提/維持してきた標準家族という政策単位に代わって、近年注目されているケアユニットについて概観し、第二に、そうした新たな政策単位に基づいて提案されている政策構想―ケア提供者手当―を取り上げ、それが家事やケア等の不払い労働に対して持ち得る含意と課題を検討する。第三に、そもそも家事やケアのような不払い労働の範囲は同定可能なのかどうかをめぐり、不払い労働の測定ないし経済的評価をめぐる議論を再検討する。第四に、ケア提供者手当の諸課題を克服し得る政策構想の一つとしてベーシックインカムを検討し、最後に、それが依存とケアを中心に据えた社会正義にかなうものであることを論じる。
著者
佐々木 てる
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.21-34, 2016-07-10 (Released:2017-02-14)
参考文献数
10

これまで在日コリアンの2 世、3 世にとって恋愛そして結婚における「民族的な違い」とは大きな壁であったことは報告されてきた。すなわち「朝鮮人との結婚はゆるされない」「日本人ではなく同胞と結婚すべきだ」という言説はよく聞かれるものであった。     これに対して近年では、通名であった人々も民族名で生活するケースも増えてきた。 そうなると名前だけではオールドカマーか、ニューカマーなのか、さらには出身国が中国か韓国か台湾かなどの区別もつかないことがあり、最初から「違い」を前提としたつきあい、そして結婚に至るケースがある。グローバリゼーションが進展するなか、民族的な差異は他の多くの差異(年収、出身地域、学歴、文化資本など)の一つに解消されている感もある。     では未婚社会と言われる現代において、(旧来的な)「民族的差異」は本当に婚姻を疎外する要因になっていないのか。そもそも在日コリアンの若者世代は、恋愛において民族の違いに意味付けをするのか。ここでは聞き取り調査の結果をもとに、昨今の在日若者世代の結婚、恋愛観について述べていくことにする。
著者
大森 美佐
出版者
家族問題研究学会
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.109-127, 2014

    日本では、晩婚・未婚化現象、それと連動して起こる少子化の傾向を問題視してか、人々に恋愛や結婚を意識させるような話題がメディアを媒介に世間を賑わせている。しかし、依然として結婚前の「恋愛」を中心的に扱った調査研究は少ない。本稿では、1983年から1993年生まれ、現在20歳代の未婚男女で異性愛者24名を対象にフォーカス・グループディスカッションと半構造化インタビュー調査を行い、若者たちが「恋愛」をどのように語るのかというレトリックに注目し、その論理構造をジェンダー視点から考察した。考察の結果、「付き合う」という契約関係は性関係を持つことの承認を意味するが、「付き合う」ことが必ずしも「恋愛」と同義ではないということがわかった。特に女性からは、結婚に結びつく恋愛を「恋愛」であるとする語りがみられ、ロマンティック・ラブを忠実に体現しようとすればするほど、「恋愛」から遠ざかるということが示唆された。
著者
阪井 裕一郎
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.75-90, 2013-07-10 (Released:2017-02-14)
参考文献数
28

明治期から現在まで日本社会を描く際に、たびたび「家族主義」という言葉が使用されてきた。本稿の目的は、この言葉が登場した明冶から大正期における知識人の言説の分析を通じて、その意味を探究することである。最初に、明治期における家族主義を称揚する言説を分析し、この時期の家族主義が封建批判や救済事業とともに語られていた事実を確認し、その意味と目的を明らかにする(第2 節)。続いて、社会主義者や民主主義者といったいわゆる「革新」の側から提唱された、「家族主義」や「家庭」の言説を検討する。そこから家族主義批判が内包していたある種の逆説を明らかにする(第3節)。続いて、近年の政治哲学の議論を参照しつつ、社会統合の基盤としての「情念」に着目することで、家族主義と民主主義の関係を理論的に問い返す(第4節)。家族主義と民主主義を対立的に捉える従来の見方では看過されてしまう問題を明らかにし、そのうえで家族主義を克服する新たなつながりの可能性を展望する(第5節)。
著者
府中 明子
出版者
Japanese Council on Family Relations
雑誌
家族研究年報 (ISSN:02897415)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.41-57, 2016-07-10 (Released:2017-02-14)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本論文は、結婚意欲のある未婚女性たちが実際に特定の相手と結婚するかどうか悩み、結婚に踏み切らない状態でいることについてインタビューし、その内容を分析・考察したものである。結婚に関する領域では、これまで意欲の側面、出会いの側面、恋人の有無やコミュニケーションに関する側面、そして結婚後の夫婦間の平等や家事分担、男性の育児参加について研究、検討されてきた。結婚において経済的な側面と恋愛感情の2 点が重要視される点について変化はないが、それに追加して「男性の子どもに対する態度や意識」が未婚女性たちに問われているという点が浮かび上がってきた。その意識が、恋愛感情に関係する魅力として認識されていることも示唆された。そこでは子育てに従事するかどうかは問われていない。「役割意識の個人化」として「男性の子どもに対する態度や意識」が結婚前に問われ、未婚女性の結婚の決め手の一つの条件となっている可能性が示唆された。