著者
工藤 泰雄 楠 淳
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.63, no.8, pp.563-566, 1999-08
被引用文献数
2
著者
角南 隆史 杠 岳文
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.195-199, 2012-03-15

はじめに 「健康日本21」の中では,多量飲酒者を減らし「節度ある適度な飲酒」を普及させることなどを呼びかけているが,これまでアルコール依存症の患者に対する断酒治療以外に,具体的な対策はほとんど取られてきていない.ちなみに「健康日本21」を含めて,通常わが国における多量飲酒者は,純アルコールで1日60グラム以上(具体的には1日に日本酒約3合,あるいはビール中瓶3本以上)の飲酒者を指す. このため筆者らは,将来アルコールが健康被害を起こす可能性の高い多量飲酒者,あるいは既に健康被害が及んでいる多量飲酒者に対する早期介入のためのプログラムとツールから成るパッケージ「HAPPYプログラム」を作成した.これは,AUDIT(The Alcohol Use Disorders Identification Test)を用いて飲酒問題の重症度を評価し,教育ビデオや補助教材等を用いる早期介入プログラムである.アルコール問題の早期介入に用いられるブリーフ・インターベンションについては,その有効性を示す数多くの報告が海外でなされているが,わが国ではまだ研究が始まったばかりである. 本稿では主に,多量飲酒者への早期介入と,その技法としてのブリーフ・インターベンションについて述べる.
著者
鈴木 猛
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.212-214, 1951-11-15

長い間進歩が停滯していた殺虫剤の領域も第二次大戰を契機に,DDT,BHCのように微量で卓效ある有機合成剤があらわれ,一時は,昆虫と人間の闘爭も終末に近づいたかの觀があつた。しかし出現當時オールマイティのように思われたDDTも,その後の廣範綿密な實験によれば,ある種の害虫には效果が必ずしも十分でなく,又昆虫のDDTに對する抵抗性獲得という問題も最近漸くとりあげられてきている。一方,更に新しくChlordane,Aldrin,Dieldain TEPP,Parathionなど,鹽素,燐,硫黄を含む新有機殺虫剤が次々と發見され,まだまだ今後に意想外の強力な藥剤が見出されないとはいえない。しかし現在では,DDT,BHCは依然として衞生殺虫剤の中心をなすものであり,その長所短所を知つて,これを適切に應用することは,衞生害虫防除の上から甚だ重要なことであろう。 DDT,BHCは何れも白色結晶状の有機鹽素化合物であり,昆虫には喰毒と接觸毒の兩方の作用を持つている。その外BHCは蒸氣壓がかなり大きいため,呼吸毒としても作用するようである。
著者
小宮 義孝
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.421-425, 1962-08-15

学校を卒業してから,すぐに東大医学部の衛生学教室にはいって,そこで5〜6年,ごろちゃらしていた。 と,ある日,当時の医学部長林春雄先生がお呼びになる。ふとしたことから先生には,日ごろ何やかやとご厄介になるようになっていた。で,おうかがいすると,「君は上海に行く気はないかね」とのたまう。
著者
蝦名 玲子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.850-854, 2021-12-15

はじめに 先月号では,注意を喚起させたり,気付かせたり,控えめに警告したりし,人々の行動をより良いものにするように誘導する「ナッジ」について紹介した. 現在,新型コロナウイルス感染症(以下,新型コロナ)のワクチン接種が進められ,2021年9月13日時点で,すでに国民の5割以上が2回接種を完了したが1),このワクチン・コミュニケーションでも,ナッジは活用されていた.メディアは日々,多くの人々がワクチンを接種する様を報道し,首相官邸もホームページ2)で総接種回数や接種率を実績として公表しているが,これらは,社会規範に従うという人の特性を利用したナッジといえる. しかし,こうしたナッジに,逆に反発を覚える人もいる.そうした人に,今後,どうアプローチしていけばいいのか?
著者
西村 秀一 樋口 昇
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.734-739, 2021-11-15

【ポイント】◆現在に至る歴史的観点を知ることは重要.空気感染を認めさせるための長い闘いがあって今がある.◆いかにして空気感染が証明されてきたかを知れば,現在のCOVID-19での証明レベルの妥当性が見える.◆やっと勝ちとった空気感染の概念も,今度は固定的イメージが定着し,アップデートができないでいる.
著者
蝦名 玲子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.554-558, 2021-08-15

はじめに 先月号で,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発生初動期の,和歌山県の素晴らしいクライシス・緊急事態リスクコミュニケーションについて紹介した. おさらいしておくと,2020年1月末,国の指針としてCOVID-19の検査対象となるのは中国への渡航歴がある人か,感染が確認された人の濃厚接触者に限られていた頃,和歌山県内の病院勤務医が発熱等の症状を示した.その後3日間は解熱剤等を服用しながら勤務を続けていたが,胸のX線写真を撮ると肺に影がみられた.そこで,県が調査をしたところ,この医師と同院に勤める別の医師と患者3人にも同様の症状があることが分かり,COVID-19の院内感染の可能性が出てきた.国の指針で示されていたCOVID-19の検査対象のいずれの条件にも当てはまらなかったが,県はこの医師がCOVID-19を発症しているのか否かを確認するためにPCR検査を実施した.すると,結果が陽性であったため1例目の陽性者として確認され,その当日,知事は福祉保健部技監とともに記者会見を開いた.そして,事態が解決するまで経緯が毎日オープンに透明性をもって伝えられ,情報提供者としての信用と信頼を獲得したという事例である. 実は,この事例は,リスクマネジメントとリスクコミュニケーションは切り離せず,国の指針に当てはまらなくても,現場で,異常事態の探知・リスクアセスメント・対策の実施・評価をする重要性を示したという点からも学び深いものである.もし最初に,発熱等の症状を発した医師が「ただの風邪」と思い,肺のX線写真をとらなかったら…,そしてもしその報告を受けた県や保健所の職員が「国の指針に当てはまらないから」とPCR検査を拒んでいたら…,COVID-19の火種は見逃され,大規模な院内感染へと発展していただろう. そう.公衆衛生上の緊急事態に発展しうる状況下で迅速かつ適切なコミュニケーションをとるためには,病院や保健所・自治体等,現場の職員の異常を探知し,連絡調整する力が欠かせない.危機下のリスクマネジメントとリスクコミュニケーションは切っても切り離せない関係にあるのである. とはいえ,実際には状況が不確実な中,この和歌山県の例のように国の指針やマニュアルといった後ろ盾がない場合には,躊躇してしまうのは仕方ないことと思う. そこで,本稿では,現場の公衆衛生関係者にとって大きな指針となる国際保健規則(International Health Regulations:IHR)や世界保健機関(WHO)のリスクマネジメントの考え方を紹介しよう.また,「リスクマネジメント」と「リスクアセスメント」,そして「リスクコミュニケーション」の定義と関係についても解説する.「行政上の手続きやマニュアルの遂行能力と同じように,危機下では現場のリスクアセスメントも重要」と,きっと共感いただけることだろう.
著者
千葉 靖男 黒岩 宙司 帖佐 徹 遠田 耕平
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.540-543, 1994-08-15

◆はじめに EPI(拡大予防接種計画)の発展により,世界的に小児麻痺(以下ポリオと略す)の発生は著しく減少したが,開発途上国を中心として未だ年1万人前後の報告がある. ポリオはワクチンにより完全に防御できる疾患であり,WHOおよび世界の各国は西暦2000年までにポリオを地球上から根絶する活動を進めている.また,すでにPAHO(汎アメリカ保健機構)は,1991年のペルーの症例を最後として,土着の野性株ポリオウイルス伝播の遮断に成功した1,2). アジアのうち,わが国に最も関係の深い西太平洋地域(WPR)の主なポリオ流行国は中国,ベトナム,ラオス,カンボジア,フィリピンの5カ国であり,日本はこれらの国のポリオ根絶活動に対して直接的に,あるいはWHOなど国際機関を介して,いろいろな面で支援を行ってきた.また,筆者らはこれらの一環として行われている中国ポリオ対策プ口ジェクト(JICA)や,ベトナムメコンデルタおよびラオスでのポリオサーベイランスに従事してきた.以下にこれらで得られた知見に基づきWPR地域におけるポリオ流行の状況を概説し,加えてポリオ根絶活動の進捗と課題,特にサーベイランスに関係した事柄について述べる.
著者
尾身 茂
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.588-589, 2004-08-01

前号では,専門家会議で30億円のワクチン購入費用のための資金提供の要請に対して1円たりとも約束が得られなかったと書いて終わったが,今回はその資金調達の奮闘記である. 専門家会議の直後から,私は,ワクチン購入の金策のため,開発援助機関(世界銀行,アジア開発銀行等),援助国,ユニセフなどの公的機関を巡り歩いた.いわば“営業マン”としての生活が始まった.しかし恐らく,30億円という「金額」と,アジアでのポリオ「根絶」が,相手には荒唐無稽に映ったようで,こちらがポリオ根絶の可能性をいかに力説してみても,「大変良い話ですが,いずれまたお話をしましょう」と門前払いも同然だった.
著者
網野 皓之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.246-250, 1997-04-15

人間だれもが長寿を願っている.また,医学医療が寿命の延長を目指して努力を重ねてきたのも当然のことと理解できるだろう. しかし,成果は今一つはっきりと日に見えてこない.検診に関しても有効性を科学的に明らかにした研究は少ない.日本においては皆無である.にもかかわらず,全国いたるところで検診車が走り回っている.なぜだろうか.
著者
島田 裕之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.698-702, 2014-10-15

認知症の危険因子と保護因子 認知症の予防へ向けた取り組みを計画するには,その危険因子と保護因子を理解し,介入対象となる住民を特定する必要がある.年代別に認知症の危険因子をみると青年期における高等教育や,それ以降の知的活動は認知的予備力の向上と関連し,この認知的予備力は加齢による認知機能の低下に大きな影響は及ぼさないが,認知症発症抑制に寄与するかもしれないと考えられている1).中年期においては生活習慣病の管理が重要であり,高血圧,脂質異常症,糖尿病は脳血管疾患の危険因子であるとともにアルツハイマー病の危険因子でもあり,服薬管理,規則正しい食生活,運動習慣の確立が保護因子となる.高齢期には老年症候群などの因子が重要な認知症の危険因子となる. 例えば,高齢期のうつ症状は,活動性を低下させ社会的孤立を招くとともに,脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor;BDNF)の発現を減少させる.BDNFの低下と海馬の萎縮は関連し2),これが脳の予備力低下につながる.また,転倒などによる頭部外傷は将来のアルツハイマー病発症の危険因子である3,4).これらの高齢期における老年症候群などの因子を回避するためには,身体,認知,社会的活動を向上し,活動的なライフスタイルをいかにして確立していくかが高齢期の認知症予防対策として重要であると考えられる(図1).
著者
井上 義郷
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.395-400, 1964-07-15

ゴキブリの駆除法の一つとして,蒸したジャガイモに,硼酸を混ぜたものを毒餌として適用する方法が一般に広く知られている事実から,ゴキブリの駆除は,個々にはかなり古くから行なわれている事が想像されるが,しばらくの間はその技術的な進展は,全国的に大きくとりあげられたハエ蚊駆除運動のかげにかくれていて,殆んどみられなかった。しかし,その間にあっても,新たな合成殺虫剤の登場に伴ない,近代的な駆除技術の検討は,実験的にすでに実地に進められていたわけであり,たまたまそれが大きく一般にとりあげられるようになったのは,最近のポリオの流行時からと云ってもよいであろう。ゴキブリの疫学的な意義はひとまずおくとしても,当時,ハエと全く同じ意味で不潔な害虫として,その駆除が行政的にも考慮された事がきっかけとなり,一方では,ちょうどそれに答える駆除技術が或る程度完成をみていた事も幸して,ゴキブリの駆除は急速に進展したと云う事が出来よう。 このように,ゴキブリの駆除が俄かに注目されるようになった為か,現在一般に行なわれている駆除法には,まず目につく彼等を追廻し,それらを叩きつぶしたり取り抑えたり,或いは走り廻る彼等をめがけて殺虫剤をふりかけたりする,至って素朴な段階から,蒸したジャガイモに硼酸を混ぜたものや殺虫剤の毒餌を適用する方法とか,くん煙,煙霧や局所重点残留処理法など,技術的にはより高度なものまで,いろいろな段階がみられるわけである。
著者
児玉 聡
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.172-176, 2019-03-15

はじめに 近年,公衆衛生の分野では,公衆衛生の倫理に関する実践と研究の重要性がうたわれるようになっている.本稿では公衆衛生の倫理学の動向を概観する.最初に,公衆衛生の射程の問題を説明する.次に,なぜ今,公衆衛生の倫理学が問題となっているのか,そして,主要な倫理的課題にはどのようなものがあるのか,主要な倫理的アプローチはどのようなものかについて論じる.
著者
寺本 辰之 早田 亮 大森 眞由美 秦 恭裕 坂尾 良美 加藤 泉 松下 久美子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.48-52, 2003-01-01

2001年2月9日(現地時間),太平洋ハワイ沖にて,愛媛県立宇和島水産高校実習船「えひめ丸」が,アメリカ合衆国海軍の原子力潜水艦「グリーンビル」に衝突され,沈没する事故が発生した.直ちに知事を本部長とする愛媛県対策本部が設置され,県精神保健福祉センターを中心としたケアが検討された.しかし,地元の被害者が多数いることから,保健所としても早急な対処が必要と判断し,支援活動を開始した. 「えひめ丸」には,生徒(事故当時2年生)13人,指導教官2人,乗組員20人の総勢35人が乗船していた.事故直後,26人が救助艇に避難したが,生徒4人,指導教官2人,乗組員3人が行方不明となった.10月の船体引き揚げ時に,行方不明者9人のうち8人の遺体は収容され,身元確認がされたが,残る生徒1人の遺体は発見されなかった.