著者
中西 好子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.224-231, 2018-03-15

はじめに 1994(平成6)年の地域保健法の施行後,市・特別区の保健所は設置数,組織体制,業務内容などの面で大きく変貌してきた.都道府県,政令指定都市,特別区の保健所は同法の施行から統合が進み,大幅に減少している,一方,中核市保健所は,中核市制度の発足と,その設置基準の緩和による中核市の増加に伴い,増加している. 市・特別区の保健所は,自治体ごとに組織は多様であるが,①保健所固有の感染症業務,②食品,医事薬事などの生活衛生関連業務,③市町村業務である保健サービスの母子保健や予防接種,特定保健指導,高齢者保健対策,健康づくり対策などを同一の自治体内で実施できることと,福祉や教育などの市の部局と連携して上記への対策ができることが大きな強みとなっている.広域的ないし重大な感染症や食中毒などの健康危機の発生時には,国や県との綿密な連携が必要である. 保健所の全体数は,ピーク時の1991(平成3)年度の852カ所から2017(平成29)年度の418カ所となり,ほぼ半減した(表1)1).特に県型保健所の多くが二次医療圏ごとに1カ所に集約され,政令指定都市および特別区の保健所も統合によって大きく減少している. 1989(平成元)年当時,10の政令指定都市では行政区に1つずつ保健所があったが,その後,福岡市と名古屋市を除いて1市・1保健所となった.1997(平成9)年度に札幌市で9→1,広島市で8→1,北九州市で7→1となり,1998(平成10)年度には神戸市で9→1に,2000(平成12)年度には大阪市で24→1カ所に順次統合された. 人口が360万人を超える横浜市も,2007(平成19)年度に,それまで18あった保健所が1カ所となった.2010(平成22)年度には京都市で11→1に,2015(平成27)年度には仙台市で5→1に,2016(平成28)年度には川崎市で7→1カ所に統合された.1992(平成4)年度に政令指定都市に移行した千葉市を皮切りにして政令指定都市に移行した市は1市・1保健所体制である. 現在,政令指定都市で複数の保健所を設置しているのは,福岡市の7カ所,名古屋市の16カ所である.東京都の特別区は,地域保健法の施行前から荒川区と渋谷区が1カ所であったのを除き,各特別区に戦前の行政区ごとに2〜4カ所の保健所があったが,1997(平成9)〜2002(同14)年度に順次,1区・1保健所に集約され,元の保健所は保健センター(福祉部門や子育て部門との統合が行われるなど,機能がさまざまで,名称も保健相談所,健康福祉センター,保健福祉センター,健康サポートセンターなどがある)となった. 一方,中核市制度が1995(平成7)年に発足し,また,その法定人口が30万以上から20万人以上とされるなど,その設置基準が緩和されたため,保健所の設置市は増加してきた.その他の政令市の設置保健所は中核市への移行で減少している.
著者
井上 義郷
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.22, no.12, pp.667-672, 1958-12-15

I.ゴキブリの害虫化について ゴキブリは俗にアブラムシとも呼ばれ,直翅目,ゴキブリ亜目に属し,わが国に分布を記録されているその種類は,琉球,小笠原諸島のものまで含めますと5科22種となります。そのうちの大部分の種類は野外に棲息しているもので,われわれの生活と直接的な関係をもちません。事実上衛生害虫として問題となる種類は,ビルの事務室や飲食店などで広く見かけられる黄褐色で小型のチヤバネゴキブリと一般家庭の台所に多い黒褐色の大型の種類です。これには2種類あつて関東以南に主な分布を示すクロゴキブリと,関西から北で秋田県附近まで知られているヤマトゴキブリです。なお,地域によつてはワモンゴキブリも注意さるべき種類となります。 これらのゴキブリは,いままで,衛生害虫として一般にはあまり問題とされていなかつたものですが,最近,非常に注目されるようになつてきました。特に,近代的な設備を具えた都市のビルや鉄筋アパートでは,ハエや蚊よりも,むしろ,このゴキブリが重要な害虫として登場してきております。その問題点を,まずはじめに,考察することが駆除対策を立てる上に重要だと考えられます。
著者
斎藤 誠
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.481, 1973-07-15

発端 昭和48年4月天然痘事件の発端は,3月31日午後3時管内の東京逓信病院から,3月26日から同院に入院中の郵政省職員のK氏(33歳,男)が,天然痘の疑いがあるという届出をうけた.届出によると同氏はバングラディシュに約1ヵ月滞在し,3月18日に帰国,23日に発病し26日に受診入院したという.主症状は発熱と発疹で,現在の疹の状況,前駆疹の存在などからして,天然痘の疑いは極めて濃いと判断された.
著者
調 恒明
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.37-42, 2016-01-15

地方衛生研究所は保健所と異なり,地域保健法そのものには規定されておらず,厚生労働省が発出した設置要綱でその役割が示されている.厚生労働省が策定する「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」および各種の特定感染症予防指針などに地方衛生研究所の果たす役割が明確に規定されていることから,厚生労働省は地方自治体に地方衛生研究所が機能していることを前提として施策を決定していることは明らかである. 一方,地方自治体には地方衛生研究所の法的設置義務はなく,業務内容に関する法規定がないため基本的に地方衛生研究所のあり方は自治体の裁量に委ねられている.法的縛りがなく,財政を担当する行政職員にとって重要性が分かりにくい地方衛生研究所は,近年の地方分権と地方自治体の予算の困窮により,人員,予算削減のターゲットとなっており,本来備えるべき検査機能さえ維持することが危ぶまれる自治体も存在すると思われる.
著者
蝦名 玲子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.416-420, 2021-06-15

はじめに 先月号では,緊急時ならではの情報提供の特徴として,1)厳しい時間的な制約があり,2)情報も不十分ななかで,リスクやその管理方法についての説明をしなくてはならず,3)加えて,時間の経過とともに変化する状況に合わせて,リスク説明の内容も変わることを挙げた. こうした特徴がありながらも,COVID-19パンデミックの初動期に素晴らしいクライシス・緊急事態リスクコミュニケーション(Crisis and Emergency Risk Communication:CERC)を取ったことで,9割近くの国民の信頼を獲得し1),スポークスパーソンがアーティスト達から数々のラブソングを贈られたニュージーランド政府を例に,「CERCの6原則」を紹介した. わが国でもこのようにCERCを成功させたいものである.ニュージーランドのケースから,記者会見(ブリーフィングを含む)を有効に活用していたことが分かるが,今月号では,緊急時に日々の記者会見が欠かせない理由とスポークスパーソンの選定基準について,掘り下げていこう.
著者
後藤 美穂
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.680-685, 2021-10-15

【ポイント】◆ひきこもりの居場所支援で目指すところは,「就労」ではなく「家族以外で自分が辛くない対人関係を持つこと」.◆二者関係が築けた後に,三者関係の構築を目指す.居場所は第三者と関係を構築していくトレーニングの場所.◆支援目標の主語は「私(ひきこもり当事者)」.本人(当事者)の困り事に焦点を当てた目標設定で,当事者,家族,支援者をつなぐ.
著者
本橋 豊
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.358-362, 2005-05-01

自殺予防運動の進め方 自殺予防の問題が公衆衛生学の課題として社会的に論じられるようになったのは,決して古いことではない.わが国で本格的に自殺予防が国のプログラムとして認められたのは,2000年に開始された健康日本21においてである.その後,秋田県,青森県,岩手県,鹿児島県などで,メンタルヘルスの観点から地域の自殺予防活動が活発に展開されるようになった.このことは,わが国において,公衆衛生活動としての自殺予防対策が動き始めたと言うことができる. 一方,2004年9月にWHOは次のようなメッセージを世界に向けて発信した1).「自殺は大きな,しかしその大半が予防可能な公衆衛生上の問題である.自殺は暴力による死の約半分を占め,毎年約100万人以上の死亡原因となっており,何十億ドルもの経済的損失をもたらしている」.心の問題は個人の問題であり,行政が介入すべきでないというような意見が唱えられやすいのであるが,WHOは明快に自殺を「公衆衛生学の問題である」と断言したのである.21世紀における公衆衛生学的課題としての自殺予防対策が,国際的にも十分に認知されたと言うことができる2).
著者
池田 良穂
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.379-385, 2021-06-15

【ポイント】◆横浜でのダイヤモンド・プリンセスのCOVID-19集団感染の隔離対応は,国内への感染拡大を防いだ成功事例である.◆クルーズ船の換気レベルは,陸上の病院施設と比べても遜色ない.◆自然災害および新しい感染症に対応できる,機動性と自己完結を有する病院船の整備が望まれる.
著者
高田 秀重
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.332-337, 2021-05-15

【ポイント】◆全てのプラスチックは遅かれ早かれ劣化しマイクロプラスチックとなり,生態系の隅々まで汚染する.◆マイクロプラスチックは食物連鎖における化学物質,特に添加剤の運び屋になり,ヒトの免疫系への影響が危惧される.◆人類の健康,温暖化抑止のためにも,流域単位で物資が流通・循環するような分散型持続可能な社会の中に,プラスチックフリーを位置付ける必要がある.
著者
佐藤 翔輔
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.662-668, 2020-10-15

【ポイント】◆「災害とSNS」に関連する議論・活動・研究開発はこの10年目まぐるしく,その変化のスピードは早い.◆10年間で災害時に実際起きたことを踏まえて.災害時のSNSの付き合い方(付き合わない方)を提案した.◆災害時,SNSはあくまで情報収集・発信の手段の一つとして捉えることが重要.
著者
江部 康二
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.80, no.10, pp.743-748, 2016-10-15

従来の糖尿病食(エネルギー制限・高糖質食)は糖尿病を増加させる—久山町研究 久山町は,福岡市の東に隣接する,人口8,000人足らずの町である.1961年から九州大学医学部が,ずっと継続して40歳以上の全住民を対象に研究を続けている.5年に一度の健康診断の受診率は約80%で,他の市町村に比し高率である.また,死後の剖検率も82%の住民において実施されていて,精度の高い研究の支えとなっている. 1961年当時,日本の脳卒中死亡率は非常に高く問題となっていたが,久山町の研究により,高血圧が脳出血の最大の原因であることが判明した.それを受けて,食事の減塩指導や降圧剤の服用で血圧のコントロールを行ったところ,久山町の脳卒中は1970年代には3分の1に激減した.
著者
神馬 征峰
出版者
医学書院
雑誌
公衆衛生 (ISSN:03685187)
巻号頁・発行日
vol.80, no.11, pp.853-858, 2016-11-15

密輸業者ナスレディンの秘密 ナスレディンの稼業は密輸業.毎日夕方になるとロバに乗って税関所を通る.税関検査官はナスレディンがまた悪さをしていると思い,吊り籠の中をくまなく調べる.しかしみつかるのはいつも藁だけ.何年も何年も繰り返し調べても,何もでてこない.ナスレディンといえば,どんどん金持ちになっていく.何か密輸しているのに違いないのだ. やがてナスレディンも年をとり,密輸から足を洗う.そんなある日のこと,たまたま退職した例の税関検査官とばったり出会ってしまった.