著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.222-226, 2017-07-25 (Released:2017-09-05)
参考文献数
5
被引用文献数
1

首から名札のようにぶら下げるタイプあるいはポケットに挿すペンのような形状で身体に装着させ,顔面に近いところでの二酸化塩素のガスの放散によるウイルスや細菌の除去を標榜する市販の四社の四製品について,その効果の有無を検証した.ウイルス実験では,冬の生活空間を想定した室温20℃,相対湿度25%の閉鎖空間内でA型インフルエンザウイルスをネブライザーを用いて浮遊させ,それぞれの製品の直上20 cmのところで空気を吸引し,ゼラチンフィルターでウイルスを濾しとり回収した活性ウイルスの量を測定した.細菌実験では同じく製品の20 cm直上にStaphylococcus aureusあるいはPseudomonas aerginosaを塗布した寒天培地を20分間置いたのち回収し,培養してコロニー数を数えた.それぞれの検証対象直上で回収した空気中の活性ウイルス量や寒天培地上の菌数を,製品による曝露を受けない対照と比較した.その結果,すべての製品で,少なくとも用いたウイルスや細菌に対して標榜されているような抑制効果はまったく認められなかった.さらに,それらの製品から放散されるガス濃度の測定も行った.その結果,どの製品でも,10 cm離れた場所で二酸化塩素はほとんど或いはまったく検出されなかった.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.310-313, 2016 (Released:2016-12-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1 2

据え置き芳香剤の剤形で二酸化塩素ガスを逐次空中に放散させ,抗ウイルス効果を標榜する製品の有用性を検証した.冬季の生活空間を想定し室温23℃,相対湿度30%に設定した1.8 m3の密封チャンバー内で製品を開封し,試験中ガス濃度を0.03 ppmを目標として蓋の開閉で調整し,結果的に実験時間中はほぼ0.035–0.04 ppmの濃度に維持できた.その中に鶏卵由来のA/愛知/2/68株インフルエンザウイルスを含むしょう尿液をネブライザーでミスト化して噴霧し,一定時間後にチャンバー内空気80 Lをゼラチン膜でろ過し,膜に捉えたミスト粒子中の活性ウイルス量を測定し,同製品による空中浮遊インフルエンザウイルスの不活化効果をみた.その結果,今回の実験条件化では,ガスへの曝露を受けた空間での活性ウイルスの量は対照のそれと変わらず,不活化効果は確認されなかった.  二酸化塩素ガスによる殺菌,ウイルス不活化の感染制御の実用化のためには,今後さまざまな条件の下でその殺菌/ウイルス不活化効果の有無を検証していく必要があろう.
著者
西村 秀一 林 宏行 浦 繁 阪田 総一郎
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.243-249, 2017-09-25 (Released:2018-03-25)
参考文献数
18

低濃度二酸化塩素(ClO2)のウイルス不活化能を種々の湿度条件で検証した.ClO2は高湿度で不安定で,市販のゲルタイプ製剤では閉鎖空間で一定低濃度維持できない.そこで高湿度で低濃度ClO2環境を一定時間維持できる乾式法製剤を用いて実験した.一定室温下で低,中,高の三つの湿度条件下,生活空間でヒトが耐えうる濃度限界とされる20-30 ppbのClO2の,空中浮遊インフルエンザウイルス不活化能を調べた.各湿度,ガス濃度の閉鎖空間でウイルスを空中に放出し,一定時間ガス曝露後,一定量の空気を回収し含まれる活性ウイルス量を調べた.その結果,相対湿度30%環境では,曝露20分後の回収ウイルス量は,対照のガス非存在下と統計学的な有意差はなかった.湿度50,70%では,対照でも回収ウイルス量が放出量の約10%と2%程度まで低下した一方,ガス存在下ではそれぞれ0.3%と0.03%まで低下し,低下は統計学的に有意であった.以上,湿度50-70%環境下であれば,20-30 ppb程度の低濃度ClO2にも抗ウイルス効果はあった.だがそれは,感染管理の視点からは,患者から空間に放出され一定時間経過後残存する活性ウイルスの絶対数から見れば,湿度自体による大幅な感染リスクの減弱にやや上乗せされる程度の効果でしかない.一方湿度30%では,この程度の濃度では感染リスクの低下はほとんど望めないことが,明らかになった.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.342-345, 2012 (Released:2012-12-05)
参考文献数
5
被引用文献数
3 1

本邦では,「プラズマクラスターイオン」「ナノイー粒子」「除菌電解ミスト」と称する特殊物質の放出により空中浮遊状態のウイルスや細菌,環境付着細菌の抑制を謳う電気製品が市販されている.だが,それらの有効性についての第三者による客観的検証報告はない.そこで,環境表面に乾燥状態で付着した細菌を想定し,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,セレウス菌,腸球菌の一定数生菌液をスライドグラス上にスメア状に塗布し容積0.2 m3のグローブボックス中に置き,対象機種を一定時間運転後,一定量の液体培地で洗い流し,生存細菌数を定量してみた.その結果全機種,全菌種で対照と生存菌量はほぼ変わらず,殺菌効果はほとんど認められなかった.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.131-134, 2017-05-25 (Released:2017-07-05)
参考文献数
9

ウイルスの不活化や殺菌効果を標榜する,据え置き芳香剤型の剤型で二酸化塩素ガスを放散させる製品の,環境表面上の病原体に対する同効果の有無を検証した.本邦の冬の生活空間を想定した室温20℃,相対湿度25%の密閉空間を,製品から放出されたガス濃度が0.03 ppmになるよう調整した.その中に,スライドグラスの上に一定量のA型インフルエンザウイルス溶液あるいはStaphylococcus aureus菌液を滴下し短時間で自然乾燥したものを置き,2時間後に回収し一定量のメディウムで洗い流し,活性ウイルス量や生菌数を測定した.その結果,当該条件下でガスの曝露を受けた検体での活性ウイルス/生菌量は,曝露のない対照のそれと変わらなかった.
著者
大宮 卓 佐藤 光 西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
雑誌
医学検査 (ISSN:09158669)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.463-467, 2020-07-25 (Released:2020-09-05)
参考文献数
9

鼻腔拭い液等の臨床検体からのイムノクロマトグラフィーを原理としたインフルエンザウイルス抗原の迅速検出キット(以下,迅速キット)は,多くの医療施設で使用されている。こうした迅速キットを用いた試験では結果として偽陰性が起こることは,よく知られている。一方で偽陽性反応も,まれではあるが起こる。今回我々は,迅速キットでA,B両型の陽性を示したものの,ウイルス分離及び遺伝子検査でインフルエンザウイルスが陰性で,その後,用いた臨床検体からRSウイルスが分離された事例を経験した。我々はこれを迅速キットの偽陽性反応と考えた。この偽陽性の原因について我々は,検体中に含まれる患者由来の抗体以外の何らかの成分が迅速キットで用いられているマウス由来の抗体に対し反応し,あたかもウイルス抗原が反応したかのような陽性ラインが出現したという仮説をたてた。そして,その証明を目的として,競合試験として当該患者検体に精製マウスIgGを反応させたのち迅速キットにかけたところ,陽性反応ラインは出現しなくなった。これにより,本例が患者由来の何らかの成分とマウス抗体との反応による偽陽性であったことが,強く示唆された。
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.86, no.6, pp.723-733, 2012-11-20 (Released:2014-10-06)
参考文献数
17
被引用文献数
5 3

本邦では,空中へ特殊な物質の放出により環境中においてウイルス不活化や殺菌の効果をもたらすとする複数の電気製品が市販されており,寒天培地上に塗布した細菌に対する殺菌効果も謳っている.そこで本研究では,プラズマクラスター,ナノイー,ビオンの3 機種について,腸球菌,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,セレウス菌での追試を試みた.一定数の生菌含有菌液を普通寒天平板上に塗布し,14.4m3 閉鎖空間に対象機器とともに置き,機器を2 時間運転させた後培養し,出現するコロニー数を,非運転環境下においた対照のそれと比較した.その結果,調べた3 機種,4 種の菌のすべての組み合わせで,形成されるコロニーの数は対照のそれと変わらなかった.一方,細菌を塗布した寒天培地を容積0.2m3 の密閉グローブボックス内に置き,同様の実験を行ったところ,3 機種すべてが,腸球菌と黄色ブドウ球菌のコロニー形成を,程度の差はあれ対照と比べて有意に減少させ,一方緑膿菌については減少させなかった.前二者に対するコロニー形成抑制/殺菌の機序について,これらの機器が放出するオゾンが原因である可能性を検討した.その結果,殺菌効果は,それらが発生させるイオンや特殊微粒子を除去しても変わらず,一方で発生するオゾンを除去すると激減した. 以上の成績により,調べた電気製品には,1)通常の生活空間のような広い空間における使用では,ほとんど殺菌効果が期待できないこと,しかし,2)きわめて狭い空間における寒天培地上のある種の細菌という限定的な対象に対しては,ある程度の殺菌作用は認められること,だが,3)そうした効果は,一義的には,それらの機器が放出している特殊物質というより,それらが同時に放出しているオゾンによる殺菌効果で十分説明可能であること,が明らかになった.今回対象となった機器のみならず,こうした類の殺菌効果を謳う電気製品については,オゾンの関与を疑う必要があろう.
著者
久保 亨 森内 浩幸 西村 秀一 森田 公一
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

肺炎は現在本邦での死因の第3位であり増加傾向にある。肺炎の治療において起因病原体の迅速な確定診断と薬剤耐性の有無の検索は非常に重要である。我々は、簡便で迅速な遺伝子増幅検査法であるリアルタイムPCR法を用いた結核およびその他の肺炎の簡易迅速確定診断・薬剤耐性判定システムの構築を行い、実臨床における有用性を示し、その地域医療への応用を行っている。この系を用いれば、より迅速に低コストで肺炎の鑑別診断と薬剤耐性の有無の推定が可能となり、地域の高齢化・医療過疎化の中でのより効率的な結核・呼吸器疾患コントロール対策モデル作りに繋がると考えられる。
著者
西村 秀一 大野 誠司
出版者
日本エアロゾル学会
雑誌
エアロゾル研究 (ISSN:09122834)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.276-282, 2022-12-20 (Released:2022-12-20)
参考文献数
24

For coping with aerosol infection in indoor settings, continuous ventilation and high efficiency air filtration are recommended. For air filtration systems, the reduction efficiency of airborne viruses in an enclosed space is important. Air purifiers with the high efficiency particulate air (HEPA) filter has been generally accepted as the best system because of their highest performance in removing airborne particles. However, whether the HEPA filter is essential for airborne infection control or not is inconclusive because of the great loss of filtration volume per hour by its air resistance. The performance of air purifiers containing an HEPA filter or an efficient particulate air (EPA) filter, a slightly less efficient filter to the HEPA as per the European Standard EN1822, was compared in the 25 m3 and 130 m3 closed space with respect to removal of artificial airborne particles and the aerosol containing influenza A viruses. The latter showed a 15% and 10% higher reduction rates in particle counts and airborne virus titers, respectively, than the former, supporting our theoretical calculation that removal is not solely dependent on a high particulate removal efficiency of the filter, and thus, suggesting an advantage of EPA to HEPA in practical settings.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.131-134, 2017

<p>ウイルスの不活化や殺菌効果を標榜する,据え置き芳香剤型の剤型で二酸化塩素ガスを放散させる製品の,環境表面上の病原体に対する同効果の有無を検証した.本邦の冬の生活空間を想定した室温20℃,相対湿度25%の密閉空間を,製品から放出されたガス濃度が0.03 ppmになるよう調整した.その中に,スライドグラスの上に一定量のA型インフルエンザウイルス溶液あるいは<i>Staphylococcus aureus</i>菌液を滴下し短時間で自然乾燥したものを置き,2時間後に回収し一定量のメディウムで洗い流し,活性ウイルス量や生菌数を測定した.その結果,当該条件下でガスの曝露を受けた検体での活性ウイルス/生菌量は,曝露のない対照のそれと変わらなかった.</p>
著者
西村 秀一 太田 玲子 大宮 卓 北井 優貴 勝見 正道
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.97, no.4, pp.117-124, 2023-07-20 (Released:2023-07-20)
参考文献数
14

周囲への感染リスクを有するCOVID-19感染者を検出するために迅速抗原検査を用いたスクリーニングを行うことの妥当性の有無を知る目的で,COVID-19患者/疑い患者ならびに無症状の患者濃厚接触者から採取した鼻咽頭拭い検体の中で定量的リアルタイムRT-PCR検査でSARS-CoV-2遺伝子が検出された162検体について,ウイルス分離を試み分離陽性検体を101検体得た.また,これらの162検体について本邦で市販されていた5社5種類の簡易迅速抗原検出キット製品を用いた抗原検査を試みた.PCRで得られた検体中のウイルス遺伝子コピー数のデータとウイルス分離成績の結果をあわせ,用いた製品ごとに解析した.その結果,被験者の症状の有無にかかわらず,すべてが感染性ウイルスが分離された検体の95%以上に陽性を示し,このような検査対象集団においては迅速抗原検査に感染伝播リスクの見逃しが少ないことがわかった.
著者
太田 玲子 範 瑀軒 網谷 英樹 飯塚 拓巳 山田 夏鈴 加藤 陽佳 石栗 広志 深瀬 真由美 村木 靖 西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.96, no.2, pp.34-38, 2022-03-20 (Released:2022-03-29)
参考文献数
14

手指消毒薬の開封後の使用期間は施設により異なるが,開封から半年と定める所が多い.しかし,アルコール製剤の開封後の殺菌効果については明確な指標はなく,情報も少ない.我々はその根拠となるデータを得るために当院の医療現場で実際に6カ月間使用され残ったゲル状アルコール製剤(ゲル状製剤)を回収し,そのまま室温で保存した後(開封直後から開封後34カ月,残量60から350 mL),その主成分であるエタノール濃度をガスクロマトグラフィー法で測定した.その結果,経過時間,残量に関わらずエタノール濃度はすべて開封直後と同等であった.この結果を検証するためにStaphylococcus aureusとPseudomonas aeruginosaを用いて各製剤の殺菌能を測定し,開封直後の製剤と比較検討した.殺菌能測定ではゲル状製剤の対照剤として液状製剤についても測定した.方法は製剤と菌液を30秒と5分間反応させた後に生菌数を求め,精製水を用いた対照実験に対する減少率とlog10 reduction(対数減少値)で評価した.その結果,殺菌能も経過時間,残量に関わらずすべて開封直後と同等で,エタノール濃度と同様な結果であった.今回の検討でゲル状製剤は開封後半年,あるいはそれ以上経過しても開封直後と同等のエタノール濃度とS. aureusとP. aeruginosaに対する殺菌能を保持している可能性が示唆された.
著者
西村 秀一
出版者
Japanese Society for Infection Prevention and Control
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.342-345, 2012
被引用文献数
1 1

本邦では,「プラズマクラスターイオン」「ナノイー粒子」「除菌電解ミスト」と称する特殊物質の放出により空中浮遊状態のウイルスや細菌,環境付着細菌の抑制を謳う電気製品が市販されている.だが,それらの有効性についての第三者による客観的検証報告はない.そこで,環境表面に乾燥状態で付着した細菌を想定し,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,セレウス菌,腸球菌の一定数生菌液をスライドグラス上にスメア状に塗布し容積0.2 m<sup>3</sup>のグローブボックス中に置き,対象機種を一定時間運転後,一定量の液体培地で洗い流し,生存細菌数を定量してみた.その結果全機種,全菌種で対照と生存菌量はほぼ変わらず,殺菌効果はほとんど認められなかった.<br>
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.310-313, 2016
被引用文献数
2

&emsp;据え置き芳香剤の剤形で二酸化塩素ガスを逐次空中に放散させ,抗ウイルス効果を標榜する製品の有用性を検証した.冬季の生活空間を想定し室温23℃,相対湿度30%に設定した1.8 m<sup>3</sup>の密封チャンバー内で製品を開封し,試験中ガス濃度を0.03 ppmを目標として蓋の開閉で調整し,結果的に実験時間中はほぼ0.035&ndash;0.04 ppmの濃度に維持できた.その中に鶏卵由来のA/愛知/2/68株インフルエンザウイルスを含むしょう尿液をネブライザーでミスト化して噴霧し,一定時間後にチャンバー内空気80 Lをゼラチン膜でろ過し,膜に捉えたミスト粒子中の活性ウイルス量を測定し,同製品による空中浮遊インフルエンザウイルスの不活化効果をみた.その結果,今回の実験条件化では,ガスへの曝露を受けた空間での活性ウイルスの量は対照のそれと変わらず,不活化効果は確認されなかった.<br> &emsp;二酸化塩素ガスによる殺菌,ウイルス不活化の感染制御の実用化のためには,今後さまざまな条件の下でその殺菌/ウイルス不活化効果の有無を検証していく必要があろう.<br>
著者
西村 秀一 樋口 昇
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.734-739, 2021-11-15

【ポイント】◆現在に至る歴史的観点を知ることは重要.空気感染を認めさせるための長い闘いがあって今がある.◆いかにして空気感染が証明されてきたかを知れば,現在のCOVID-19での証明レベルの妥当性が見える.◆やっと勝ちとった空気感染の概念も,今度は固定的イメージが定着し,アップデートができないでいる.
著者
西村 秀一
出版者
一般社団法人 日本感染症学会
雑誌
感染症学雑誌 : 日本伝染病学会機関誌 : the journal of the Japanese Association for Infectious Diseases (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.86, no.6, pp.723-733, 2012-11-20
参考文献数
17
被引用文献数
3

本邦では,空中へ特殊な物質の放出により環境中においてウイルス不活化や殺菌の効果をもたらすとする複数の電気製品が市販されており,寒天培地上に塗布した細菌に対する殺菌効果も謳っている.そこで本研究では,プラズマクラスター,ナノイー,ビオンの3 機種について,腸球菌,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,セレウス菌での追試を試みた.一定数の生菌含有菌液を普通寒天平板上に塗布し,14.4m<sup>3 </sup>閉鎖空間に対象機器とともに置き,機器を2 時間運転させた後培養し,出現するコロニー数を,非運転環境下においた対照のそれと比較した.その結果,調べた3 機種,4 種の菌のすべての組み合わせで,形成されるコロニーの数は対照のそれと変わらなかった.一方,細菌を塗布した寒天培地を容積0.2m<sup>3 </sup>の密閉グローブボックス内に置き,同様の実験を行ったところ,3 機種すべてが,腸球菌と黄色ブドウ球菌のコロニー形成を,程度の差はあれ対照と比べて有意に減少させ,一方緑膿菌については減少させなかった.前二者に対するコロニー形成抑制/殺菌の機序について,これらの機器が放出するオゾンが原因である可能性を検討した.その結果,殺菌効果は,それらが発生させるイオンや特殊微粒子を除去しても変わらず,一方で発生するオゾンを除去すると激減した. 以上の成績により,調べた電気製品には,1)通常の生活空間のような広い空間における使用では,ほとんど殺菌効果が期待できないこと,しかし,2)きわめて狭い空間における寒天培地上のある種の細菌という限定的な対象に対しては,ある程度の殺菌作用は認められること,だが,3)そうした効果は,一義的には,それらの機器が放出している特殊物質というより,それらが同時に放出しているオゾンによる殺菌効果で十分説明可能であること,が明らかになった.今回対象となった機器のみならず,こうした類の殺菌効果を謳う電気製品については,オゾンの関与を疑う必要があろう.
著者
清水 宣明 片岡 えりか 西村 秀一 脇坂 浩
出版者
一般社団法人 日本環境感染学会
雑誌
日本環境感染学会誌 (ISSN:1882532X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.96-104, 2012 (Released:2012-06-05)
参考文献数
10
被引用文献数
2 1

インフルエンザの流行では,曝露歴が少なく活動性が高い児童が密集して長時間生活する小学校が感染の増幅器となることが懸念され,そこでの対策は地域の感染制御において重要な位置を占める.しかし,その流行の仕組みについての知見は少ない.本研究では,三重県多気郡明和町立下御糸小学校(全校児童163名)における2009年10月から2010年1月までのA(H1N1)pdm09パンデミックインフルエンザの発症状況を解析した.流行期間は79日間で罹患率は49.1%,1日あたりの平均発症は1.01人であった.児童発症日数は43.0%で,そのうち3人以下と比較的少人数の発症日が80.0%を占めた.5人以上と比較的多くの発症があった日は13.3%に過ぎなかった.発症認識の24時間前から他への感染可能なウイルス量が排出されたと仮定して,潜伏期間と発症日時から児童間の感染可能性の連鎖を推定した.発症児童の感染源は,学級内が50.0~66.7%,学級外(家庭を含む)が33.4~50.0%程度であった.下御糸小学校での流行は,急激で連続的な拡大ではなく,児童が学級外で感染して学級内で数人に感染させることもあるが,その感染可能性の連鎖はすぐに切れるということの繰り返しによって徐々に進行し,その途中で,集団感染の可能性のある同時多発発症が数回起こった可能性が示唆された.