著者
梅林 郁子 ウメバヤシ イクコ UMEBAYASHI Ikuko
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.55-68, 2012

19世紀の作曲者フーゴー・ヴォルフ Hugo Wolf(1860–1903)は、歌手のフリーダ・ツェルニー Frieda Zerny(1864–1917)と、一時期恋人として親しい関係にあり、ヴォルフからツェルニーに宛てた書簡は、全51通が残されている。本研究は、この書簡のうち前半31通について考察した梅林2012に引き続き、二人の恋愛関係が終わった1894年7月から1895年8月にかけての、後半20通の簡内容を対象として、二人の音楽的な相互関係を中心に、ヴォルフを取り巻く音楽的環境を考察するものである。ツェルニーとの恋愛が順調だったときには、その関係が互いの演奏活動に影響することはあっても、直接にヴォルフの創作活動に結びつくことはなかった。むしろヴォルフは、恋愛の後、再び創作に気持ちが向くなかで、ツェルニーが歌手として成功していく過程を見、自分も創作の場で成功を収めたいという強い気持ちを抱き、それがオペラ《お代官様 Der Corregidor》(1896)や、そのすぐ後に続く、晩年のリート作曲期へ繋がったと考えるべきである。こうしてツェルニーは、ヴォルフの1895年以降の創作活動において、創作意欲を喚起するという意味で、非常に強い影響を及ぼした人物と捉えられるのである。
著者
小江 和樹
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.75-80, 2011

本稿では、色彩イメージと具体的な造形表現との結びつきを考え、「季節のイメージカラー」についての調査を行い、それぞれの季節からイメージされる色彩、色相及びトーンの分布状況から、色相やトーンへの依存度とその特徴を明らかにした。その結果、それぞれの季節において、色相やトーンの依存度が異なる点、そして「季節のイメージカラー」は、暖寒感だけではなく、その季節からイメージされる具体的な事物や事象なども、選択される色彩の傾向に影響を与えている点が明らかになった。
著者
田島 康弘
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.1-15, 2005-03-25
被引用文献数
1

日本で初めてワーキングホリデー制度を導入した宮崎県西米良村や,その後この制度を導入した九州中央山地の熊本県多良木町で,この制度の導入経過や問題点,地域振興との関わり等について検討した。その結果,1)ワーキングホリデーは,旅行者にとっては本当の観光に近いものであること,2)農家等の受入者の状況こそが,この制度の中心的なポイントであること,3)地域振興につなげるためには,就業機会=仕事の創出との関連が意識的に追究されるべきであること,などのことがわかった。
著者
桶田 洋明
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.89-102, 2005-03-25

アクリル絵の具を用いて写実的絵画を制作するための描画法を,代表的な作家の描画法から検証し,より客観的,概念的な描画法を導き出したうえで,それらの技法を自身の試作によって実証していく。本研究により,特にアクリル絵の具による,写実的な再現描写による作品の描画法を理解することで,本来アクリル画が苦手と見られていたタイプの絵を制作する時の手助けとなることができる。
著者
小江 和樹 Oe Kazuki
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要 人文社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.161-168, 2007

情緒イメージの代表的なものとしてあげられる「楽しい-さびしい」,「うれしい一悲しい」,「陽気な一陰気な」,「さわやかな-うっとうしい上「心地よい一不愉快な」の5つのイメージ対に関して,選択される色彩の傾向を調査し,それぞれのイメージにおいて選択される色彩,色相及びトーンの分布状況から,色相やトーンへの依存度とその特徴を明らかにした。その結果,色彩認知イメージの場合とは異なる傾向を見出すことができた。これは,造形表現において色彩イメージの効果的な活用方法を探る上で,重要な要素であると考えられる。
著者
丹羽 佐紀 山下 孝子 大和 高行 小林 潤司 杉浦 裕子 Niwa Saki Yamashita Takako Yamato Takayuki Kobayashi Junji Sugiura Yuko
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要 人文社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.145-223, 2008

2006年1月から2007年7月にかけて、鹿児島在住の英国近代初期演劇研究者の仲間たちが集まって、月に1回の割合で、エリザベス1世時代の劇作家、ジョージ・ピールの『ダビデとバテシバ』の輪読会を行なった。一連の翻訳は、その輪読会の成果である。ジョージ・ピールは彼の劇作品に様々な題材を取り入れており、『ダビデとバテシバ』は、聖書のサムエル記下の記事を題材として扱ったものである。劇のあらすじは、基本的には聖書の中に書かれた内容と同じであるが、その描き方にはかなりの相違点が見られ、ピールの独自性が顕著である。翻訳に際しては、毎回、担当者が準備してきた試訳を全員で細部にいたるまで議論、検討し、その都度必要に応じて修正した。それを、丹羽佐紀が取りまとめて文体の統ーを図った。従って、原文の解釈については5名の共訳者が等しく責任を負い、訳文の文体および表現については、主に丹羽に責任がある。解説と訳注の執筆は、丹羽が担当した。
著者
田島 康弘
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.49-61, 2004-02-23

本研究は, 石垣島の郷友会について, 奄美の郷友会を念頭に置きつつ, その実態や特色を検討したものである。石垣島の郷友会という場合, 2つの意味が考えられる。その1つは, 石垣島の人が石垣島の外でつくる郷友会であり, もう1つは, 石垣島に存在する外から来た人びとによってつくられた郷友会である。本研究はこのうち, 主として後者を中心としたものである。郷友会の形成は人口移動が前提になっている。そこで, 石垣島に入って来た人の動き, および石垣島から出ていった人の動きについて把握した。その際, 石垣島からの出郷者がつくる郷友会についても, 若干の検討を行った。石垣在郷友会では周辺八重山離島民により形成された郷友会を中心に扱ったが, その結果, これらの郷友会では, とくに奄美の郷友会と比べると, 母村とのつながりがきわめて強いこと, 多くの会で「親睦大運動会」が会の中心的な活動として位置付けられ, しかも, これが非常に活発であること, などの特色があることがわかった。
著者
日隈 正守
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.17-30, 2004-02-23

本稿では, 江戸時代の編纂物である『神代三陵志』可愛山陵項に収められた『新田神社文書』の具体的内容と全体としての史料的性格について分析した。その結果『神代三陵志』可愛山陵項に収められた『新田神社文書』は, 主に八幡新田宮(現新田神社)の前身及びそれ自体が可愛山陵(環環杵尊の陵墓)である事を記載した文書群であった。『神代三陵志』可愛山陵項に収められた『新田神社文書』を使用すると, 八幡新田宮がいつ頃から可愛山陵との関係を主張し始めたかを解明する事ができる。この課題に関しては, 鎌倉前期に八幡新田宮が阿多北方内の所領を地頭鮫島家高に押領された際, 再び地頭に所領を押領されない様にする事と, 進まない修造を促進する意図, 薩摩国内において八幡新田宮よりも神社としての序列が高い開門神社に対抗する目的等のため, 八幡新田宮は瓊瓊杵尊との関係を主張し宗教的権威付けをしたと考えられる。