著者
日隈 正守
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.1-10, 2017

本稿では,鎌倉初期に編纂された大隅国建久図田帳の記載事項について考察した。その結果,帖佐郡・蒲生院は大隅国内における交通上の重要地であるため大隅国衙が強い支配下に置きたいと考えていたこと、大隅国建久図田帳加治木郷・禰寝南俣項の大隅国正八幡宮領の記載が簡略であったのは、両地域が一種の混乱状態であった結果であること、大隅国菱刈郡内等に筥崎八幡宮浮免田が設定されている理由は、平安後期大宰府や筥崎八幡宮を事実上支配下に置いた島津荘領主藤原忠実が筥崎八幡宮浮免田設定に協力した結果であること等を明らかにした
著者
亀井 森 生田 美津希
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 = Bulletin of the Faculty of Education, Kagoshima University. Cultural and social science (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
no.68, pp.15-1, 2017-03-11

本稿は鹿児島大学附属図書館玉里文庫蔵『阿蘇墨斎玄与近衛信輔公供奉上京日記』を研究資料として活字化するものである。本資料は、文禄五(一五九六)年七月、薩摩配流を許された近衛信尹(信輔)の帰洛に際して、島津氏から随行した阿蘇玄与が記した紀行、および在京日記である。島津氏および近衛信尹研究はもとより、度々登場する細川幽斎、黒田如水・毛利輝元などの武将の動向、戦国時代の文事を窺うことのできる資料である。また本資料とほぼ同じ内容をもつものとして、『群書類従』所収の『玄与日記』がすでに備わるが、本資料とは本文の異同が見られることから、玉里文庫蔵『阿蘇墨斎玄与近衛信輔公供奉上京日記』を活字化・公刊することによって、今後の研究、および学界に寄与することができると考えている。
著者
今 由佳里
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.73-77, 2017

The Hayato were a tribal people who lived in southern Kyushu in ancient times, mainly on the Osumi and Satsuma Peninsulas in what is now Kagoshima Prefecture. There was a traditional sacred music and dance performance called Hayato-mai in this area,which was performed at the imperial court during the Nara period. Some theories suggest that it was related to the ritual of obedience to the Yamato Court. Gagaku, the ancient imperial court music of Japan, has four genres, Bugaku, Kangen, Utamono, and Kuniburinoutamai, to the last of which belongs Hayato-mai.
著者
新名 隆志
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.1-21, 2013

Bernard Reginster が2006 年に著したThe Affirmation of Life は、独自の非常に説得的な解釈視点からニーチェ思想全体を包括的かつ体系的に捉える野心的な試みである。本論文の目的は、この著作のニーチェ研究史上の重要な意義を認めながらも、筆者自身のニーチェ解釈を踏まえつつその批判的検討を行うことにある。検討するのはReginster の解釈の幹となる部分であり、ニヒリズム、永遠回帰、力への意志という三つの主要思想とそれに関連する重要思想の解釈についてである。一では、ニヒリズムという問題の位置づけとその意味に関する彼の解釈について、いくつか問題点を指摘する。二では、永遠回帰肯定についての彼の解釈の問題点を指摘し、筆者がこれまでに公表してきた永遠回帰解釈がこの問題に解決を与えることを示す。三では、自己克服あるいは悲劇という問題についてのReginster の大きな誤解を指摘し、この誤りの本質が彼の力への意志の解釈の不完全性にあることを示す。
著者
下原 美保
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.25-37, 2006

本論では、江戸時代初期における王朝文化復興と住吉派興隆との関係について、後水尾院(一五九六~一六八〇)と住吉如慶(一五九九~一六七〇)を中心に考察を加えたものである。王朝文化復興の気運が盛り上がったこの時代に、如慶は後水尾院の勅命を受けて 「年中行事絵巻」 の模写を手掛けている。これは院が目指した公儀の復興の一環と考えられる。また、如慶は院の勅命によって 「聖徳太子絵伝」や 「多武峰縁起絵巻」 を制作し、東福門院の個人的な画事も手掛けている。これらの功が認められ、如慶は住吉派を設立することとなる。中世における絵の名士住吉慶恩の後継者として院が発案したものである。さらに、如慶・具慶父子は、天台座主の尭然法親王及び尭恕法親王に剃髪され、法橋の位を受けているが、二人の座主も院の弟であり皇子であった。以上のことを考慮すると、住吉派興隆には当時の王朝文化復興の気運と後水尾院周辺の皇族たちが大きく関わっていたということができる。
著者
大塚 清恵
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 = Bulletin of the Faculty of Education, Kagoshima University. Cultural and social science (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.97-123, (Released:2016-10-28)

本稿は、鹿児島大学教育学部研究紀要(人文・社会科学編)第58 号に掲載された「日本・イスラエル比較文化研究 ―日猶同祖論考―」の続編である。一般的に「秦氏」と呼ばれる3 世紀末から5 世紀にかけて朝鮮半島から渡って来たシルクロード渡来人は、時代を超越した高度な知識と技術を持っていた。彼らは、古代日本に技術革命をもたらし、政治・宗教・生産活動・文化を大きく発展させた殖産豪族集団である。この論文は、古墳文化、飛鳥文化を築いた渡来人がイスラエル系であったことを詳述した後、なぜ突然彼らが大挙して極東の島国にやって来たのか?なぜ4 世紀から5 世紀にかけて一見無意味な巨大古墳を現在の大阪の地に築いたのか?なぜ北九州と畿内が秦氏の拠点なのか?なぜ全国各地に奇妙な三本鳥居の神社を建てたのか?という日本史の謎に対して大胆な一つの仮説を立てた。
著者
和田 七洋
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.89-87, 2011

同じモティーフを反復的に使用することは視覚伝達デザイン作品においてよく見られる表現の一つである。モティーフをそのように利用することによって個と全体を同時に表し、それが与える印象は、その使われ方によって異なる。この論考では反復表現が使われている視覚伝達デザイン作品を収集、鑑賞し、それらの効果について考察を行い、それをもとに作られた自身の作品について述べる。
著者
日隈 正守
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.19-26, 2012

本論文では,現鹿児島県薩摩川内市東郷町藤川に鎮座している藤川天神に伝わる菅原道真伝説について考察した。その結果,藤川天神の菅原道真伝説は江戸後期に成立したと考えられること,菅原道真伝説が残っている地域は安楽寺(太宰府天満宮)領であったこと,藤川は安楽寺末寺である薩摩国分寺領であったと考えられ,薩摩国最北端地である出水郡と薩摩国における政治の中心地である高城郡とを結ぶ交通上の要衝であったこと等を明らかにした。
著者
鈴木 宜則
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.55-66, 2003-03-18

選挙区間の人口ないし有権者数の不均衡,言い換えれば,1票の価値に格差があるという問題は,頻繁に指摘され続けてきたにも拘らず,定期的に適切に是正されずに放置されている。1994年に衆議院選挙区画定審議会設置法で最多区と最少区の人口格差の限度を基本的に2倍未満と明確に定めた効果は殆どなく,最近のいわゆる5増5減措置にも拘らず,衆院小選挙区におけるそれが2倍以上の選挙区が少なからずあり,しかも増え続けている。参院の場合,格差が3倍を超えるものも少なくない。そこで本論文では,関係昌法規,主要6カ国の法制及び最高裁の判例,ロックやJ. S.ミルという近代の政治思想家の理論を踏まえ,1票の格差の許容範囲とその対象を恐らく日本では初めて理論的に明らかにする。結論として,格差は,各選挙区の有権者数を対象とし,できるだけ1対1に近づけるべき事,少なくとも全選挙区の平均値の上下20%未満であるべき事を示す。
著者
日隈 正守
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.23-38, 2003-03-18

本稿では,大隅・薩摩両国に存在する万得(徳)領について再検討を加えた。その結果万得価は,11世紀末から12世紀初期の間に大隅・薩摩両国の国管に拠り設定されたと考えられる。万得領の設定目的は,大隅・薩摩国内の主要な神社の神事用途を弁済するためであると考えられる。大隅国内においては,大隅国正八幡宮が国内最有力の神社であるので,大隅国内の万得価の年貢は,主に大隅国正八幡宮の神事用途に使用された。この事実が前提となり,大隅国内では,荘園公価制の大枠が形成された12世紀前期に,大隅国内の万得領は大隅国正八幡宮の半不輸価化した。薩摩国内の万得領は,当初新田八幡宮等国内の有力神社の神事用途を負担していた。しかし平安後期薩摩国管と新田八幡宮とが浮免田設定や修造に関して対立する様になると,薩摩国管の在庁官人達は自分達が領有している万得領を大隅国正八幡宮に半不輸領として寄進した。その結果,薩摩国内の万得領も大隅国正八幡宮領化した。
著者
関山 徹
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.139-147, 2014

広汎性発達障害者の人間表象の特徴を分析するために、TAT反応に現れた登場人物の描写を検討した。調査協力者は、広汎性発達障害者の群19名(P群)および同人数の対照群(NP群)であった。その結果、P群はNP群と比較して、(1)物語内に登場させる人数が少ないこと、(2)登場人物同士の関係が確定的でないこと、(3)登場人物同士の関与の程度が弱いこと、(4)登場人物の内面についての言及が少ないこと、(5)登場人物に愛着対象を見ることが少ないことが明らかになった。また、P群は人間関係への関心が低いと考えられるものの、基本的な対人知覚能力が劣るわけではなく視覚的な手掛かりの有無によって関心の程度が影響を受けやすいと推察された。
著者
下原 美保 長友 希巳 シモハラ ミホ ナガトモ キミ SHIMOHARA Miho NAGATOMO Kimi
出版者
鹿児島大学
雑誌
鹿児島大学教育学部研究紀要. 人文・社会科学編 (ISSN:03896684)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.65-76, 2014

科学的手法を用いた絵巻における画像のパターン分析は、一部の研究を除き、従来ほとんど着手されてこなかった。本研究は、ハフ変換を用いることで、絵巻に描かれた建築物の斜角を検出し、その傾向をパターン分析したものである。対象とした作品は、制作年代が巻によって異なる「石山寺縁起絵巻」、鎌倉時代に同一工房で制作された「春日権現験記絵巻」、江戸時代初期に制作された「元三大師縁起絵巻」等である。「石山寺縁起絵巻」では、時代の違いと建築物における斜角の傾向がほぼ一致していること、「春日権現験記絵巻」では、前半の斜角はほぼ同じであるが、後半は差異が見られること、「元三大師縁起絵巻」では全巻を通して斜角にばらつきが見られることを指摘した。これらは時代や工房の違い、分業の在り方、絵巻における古典編集を反映していると推測される。今後は、従来の文献や様式研究等と照合することで、その有用性を検証していきたい。