著者
寺町 信雄
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.1-21, 2009-03-12

1996年-2005年における日中間の貿易構造の特徴を議論する。使用する主なデータは,UNCTAD/WTOの国際貿易センター(ITC)による「SITA 1996-2005」のSITCの5桁の貿易データである。 先ず日中間貿易の総額について概観した後,SITC大分類より日中間貿易の純輸出比率曲線を導出し,それを用いた議論を行う。次にSITCの5桁の貿易データを用いて,一方向貿易・双方向貿易・垂直的産業内貿易・水平的産業内貿易・単価が異なる双方向貿易に仕分けし,一方向貿易に比べて双方向貿易および垂直的産業内貿易の割合が徐々に上昇していること,対中輸入より対中輸出の方がこの傾向が強いことを明らかにする。また,SITC貿易データを国連の用途別のBEC分類の貿易データにコンバートして,産業用資材と部品の中間財と,資本財と消費財の最終財に区分した日中間の貿易構造についても明らかにする。続いて,一方向・双方向・垂直的・水平的などに仕分けしたSITC分類の品目であると同時に,用途別のBEC分類の品目である仕分けを行うことによって,日中間の貿易構造の詳細な特徴を新たに追加する。最後に,まとめと今後の課題について述べる。
著者
清水 一史
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.1-9, 2013-02-21

現代世界経済の構造変化のもとで, 東アジアの経済統合が更に求められてきている。世界経済の構造変化の中でASEANは1976年から域内経済協力を進め, ASEAN自由貿易地域(AFTA)を確立し, 現在は2015年のASEAN経済共同体(AEC)の完成を目指している。アジア経済危機後には, ASEANを中心に広域の東アジアの地域協力とFTAも進められてきている。そして世界金融危機後の構造変化が, 東アジア経済統合の実現を強く迫っている。世界金融危機後にこれまでの東アジアと世界経済の成長の構造は転換を迫られ, ASEANや東アジアの経済統合がより求められるようになった。また世界金融危機後のアメリカの状況の変化は, 対アジア輸出の促進とともにTPPへの参加を促し, TPPの構築の動きはASEANと東アジアの経済統合に大きな影響を与えている。本稿では, 世界金融危機後の世界経済と東アジア経済の構造変化のもとにおける, 東アジアの経済統合を考察する。

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著者
田中 愼一
出版者
北海道大学經濟學部 = HOKKAIDO UNIVERSITY SAPPORO,JAPAN
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.12-24, 1998-03
著者
阿部 智和
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.75-86, 2013-01-17

本論文の目的は, 組織メンバー間の物理的な距離によるコミュニケーション・パターンへの影響に注目することにある。すなわち, Allen(1977)や阿部(2008)などの先行研究の追試を行なうことを目的としている。本論文を通じて得られる結論は, (1)Allen(1977)やConrath(1973)などの既存研究が明らかにしている通り, 組織メンバー間の物理的な距離が隔たるほど, 対面コミュニケーションの発生回数が急激に減少すること, (2)電話は距離を隔てた者とのコミュニケーション手段となりうるのに対し, 電子メールは距離とは無関係に利用されていること, の2点である。
著者
佐野 浩一郎
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.71-77, 2008-09-11

この論文では, 不平等が経済成長にあたえる影響を分析する。90年代以降, 内生的成長理論が発展する過程で経済成長と不平等の関係を扱う研究が多数発表された。それらの研究は, 伝統的な開発経済学における見解とは逆に, 不平等であるほど経済成長率は低くなる, というインプリケーションを持っていた。しかし, この逆相関関係は決定的な支持を得られているとは言い難い。理論的にも実証的にも逆の結論を持つ研究が存在するからである。さらに, 不平等と経済成長の間には非線型的な関係があることを示唆する研究も存在する。そこで, この論文では不平等と経済成長の間の逆U字型の関係を理論的に導出することを試みる。基礎となる研究はAlesina and Rodrik (1994) である。彼らのモデルでは, 生産要素として財政支出を考慮しており, その財政支出の水準は多数決投票によって決定される。不平等度が高まるほど, 中位投票者の選好する税率が高まり, 成長率が低くなる。このモデルを拡張し, 財政支出に外部効果があることを想定すると, 投票者が財政支出の生産性向上効果を過小評価することになり, 結果として不平等と成長率の間に逆U字型の関係が生じる事になる。
著者
片岡 孝夫
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.87-100, 2009-03-12

サーチ論的な貨幣的交換のモデルを用いて貨幣供給量と定常均衡の関係,ならびに定常均衡の動学的分析を行う。 貨幣供給量が最適な定常均衡に対応する水準にあるとき,連続的な定常均衡が存在し,それらの中のどれが実現するかは初期条件に依存する。貨幣供給量が上の水準を上回るときには,比較的好ましい鞍点安定的定な常均衡が存在するが,その水準に僅かでも及ばない場合には,貨幣は機能不全を起こし,経済は常に自給自足経済と同程度の劣悪な状態に収束してしまう。このような状況下で,政府が増発した貨幣で実物財を購入するならば,その財が廃棄されたとしても,パレートの意味で改善がなされる場合があることが示される。
著者
荻野 昭一
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.7-28, 2012-07-12

インサイダー取引が規制されている趣旨は, 証券市場に対する投資者の信頼性の確保と市場機能の維持にある。近年, インサイダー取引規制に係る決定事実の解釈について2件の重要な最高裁判例がみられた。一連の審級の中で最大の論点となったのは, 決定事実について法令所定の「決定」があったと判断されるためには, 事実の実現可能性の高低の程度がどのように関係するかといった解釈問題である。議論の本質には, 規制体系の趣旨を重視して形成的解釈をとる論旨と, 規制の趣旨を重視して実質的解釈をとる論旨の主張が交錯し, 今日においてもなお論理的な対立を招いている。そもそも, 論点となってきた「実現可能性」などという条文に存在しない考慮要素が問題となっていることの本質はどこにあるのか。最高裁決定の考え方の背景にある形式的な規制体系を重視し, それが投資判断に対する個々具体的な影響の有無程度を問わない趣旨であると解することが, はたしてインサイダー取引規制の趣旨に適っているのかという問題について整理をし, 現実問題として決定事実に該当するか否かの判断基準としてどのような考慮要素が必要かについての考察を試みたものである。