著者
高井 哲彦
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.349-372, 2003-12-16

フランス労使関係は、労働組合の初期形成期からすでに単純な二元構造ではなく、多元的構造を持った。その中でも20世紀初頭のスト破り組合は、経営者団体にも労働組合にも属さない「中間的団体」の先駆であった。スト破り組合=黄色組合の盛衰は、敵対する労働総同盟=赤色組合と表裏一体であり、第1期の初期組合(1897年)以来、10年ごとに3つに時期区分できる。とくに第2期(1909-1920年)の自由(国民)労働会館は黄金期をなした。異なる視点を組織史的に統合することにより、その3つの顔が明らかになった。労使協調を志向する穏健派組合が第1 の顔であるが、半犯罪者の組織する人夫供給機関という第2 の顔の方が実態に近いと思われる。第1次世界大戦では、ナショナリスト労組という第3 の顔を得て急成長する。ところが、同大戦後の第3 期には、対抗すべき労働総同盟がイデオロギー的に分裂すると同時に、キリスト教組合や技術者・ホワイトカラー組合など、より洗練された中間的団体が興隆した。そのため、ときに粗暴なスト破り組合は歴史的役割を終えたが、労使協調的な中間的団体はその後も姿を変えて存続し、多元的労使関係の第三極を形成する。
著者
小杉 雅俊
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.59-73, 2012-03-08

本稿の目的は, イギリス企業における品質原価計算を検討することにより, その実態を明らかにすることである。第II章では, 品質原価計算が成立したアメリカの動向を整理し, 品質コスト概念を中心に品質原価計算の適応領域が拡大したことを確認している。第III章ではイギリスにおける個別企業の事例を対象とした分析である。事例として調味料製造企業, ヘルスケア関連企業を扱っている。コスト低減という目標において, 現場に対しては時間の削減という具体的な指示を行う企業, 機会原価概念を導入する企業があり, 品質コストの全体像を把握しようとする傾向があった。最後にイギリス企業における品質原価計算の特徴を検討し, 近年の実態を明らかにしている。 アメリカの品質原価計算は未来志向となっており, 全社レベルでの実施を重視する。その一例である機会原価概念の導入はイギリス企業でも実践されていた。機会原価を誘発する失敗活動の認識は, 改めて経営の全体的観点からの判断を要請する。品質原価計算を管理会計システムとして運用するか, 既存のシステムの中で運用するかは別として, 品質の重要性が低くなることは考えられず重要な技法であることには違いない。
著者
山下 和久
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.33-39, 2009-03-12

公益事業と収益事業を行なう民法第34条法人は,公益事業で生じる赤字を収益事業の利潤の一部で補填するという制約の下で「公益財の量」および「収益事業の税引き後利潤から公益事業への繰入額を差し引いた金額」に依存する目的関数を最大化すると考えられる。 公益認定法人は公益目的事業比率を50%以上とし,公益目的事業については剰余金が出ないようにする必要がある。また,収益事業からの利潤の50%以上を公益事業へ繰入れなければならない。そういった制約の下で,公益財の量および収益事業の利潤をできるだけ大きくするように行動すると考えられる。制約を満たすには収益事業の利潤を最大にすることができないこともある。 一般社団法人・一般財団法人は,「非営利型法人」と「非営利型以外の法人」に区分される。非営利型法人には「非営利性が徹底された法人」と「共益法人」がある。共益財供給費用が会費収入と収益事業の税引き後利潤で賄われるという制約の下で,共益法人は共益財の量および会員数に依存する目的関数を最大にするように共益財の量と会費を決定するであろう。
著者
村上 明子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.329-348, 2013-02

1979年の革命以降, イランではイスラームを主体とした独自の社会統合論理が掲げられた。1990年代後半から2000年代初めにかけては自由化が模索されるも, 2005年に発足したアフマディネジャード政権下では, 現在に至るまで革命理念への回帰が謳われている。本稿では2005年以降の同国労働市場の状況について, まずは, 法制度を元に性別役割規範の基本構図を紐解きつつ, 人口圧力の高まりや経済制裁等, 労働市場を取り巻く課題とその対応策のあり方を確認した。加えて, 革命理念が労働現場に与える影響についても注目した。以上について, 現地における雇用者側へのインタビュー調査より, 1)革命後に示された労働者保護方針と労働需給の逼迫とが相まって労使双方が猜疑心を抱く状況を生み出していること, 2)革命後, 内外の変動が激しい同国では社会的紐帯が企業活動においても重視されていること, 3)イスラーム的価値観や同国におけるジェンダー認識が女性への労働需要に寄与する側面を有すること, 4)経済制裁への対応の結果, 取引チャンネルに変化が看取されること, --こうした事実が明らかとなった。今後は, 対外関係の改善と, 企業の公正な競争を担保する制度の拡充が望まれる。
著者
岡田 美弥子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.375-404, 2014-01

本稿の目的は,コミックとアニメ,キャラクター商品の事業間関係に焦点を当てて,日本のマンガビジネスがどのように発展していったのかを明らかにすることである。本稿で提示したアニメ製作会社およびキャラクター商品企業の事例に加えて,本稿に先駆けて行ったコミック事業の分析をもとに考察した結果,日本のマンガビジネスは,3つの事業がそれぞれの強みと制約を補完し合うことでもたらされたシナジーによって発展してきたことが解明された。このシナジーを生み出したのは,コミック事業を担う出版社とアニメ製作会社,キャラクター商品企業が,マンガという資源を用いた事業で試行錯誤を繰り返しながら築き上げていった相互依存関係,すなわちマンガのビジネスシステムである。
著者
瀬川 高央
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.167-182, 2008-12-11

本稿の目的は,1983年のウィリアムズバーグ・サミットで,中曽根康弘政権が,米ソの中距離核戦力(INF)削減交渉に対し,極東配備のSS-20も交渉対象にすべきだとする立場を貫徹することで,ソ連による日米欧離間を封じていく過程を,日米外交資料の分析から解明することである。本稿は全5節で構成される。1節では,SS-20配備に対する西欧と極東の戦略状況の相違を明確にする。2節では鈴木善幸政権から中曽根政権にかけてSS-20問題での対外交渉姿勢の変化を検討する。3節と4節では,レーガンのゼロ・オプションが危機に直面したことを受け,日本が西側結束に向けて展開した秘密交渉について分析する。5節では大韓機撃墜事件により,東西緊張が再燃する中で,日米欧関係が強化されていく過程を考察する。最後に結語では,中曽根による西側決裂回避という成果を,首相のパフォーマンス外交ではなく,SS-20極東移転やINF暫定案の浮上という外生要因に対して,外相・事務方が行った対外交渉の結果として位置づけ直す。その上で,INF問題に対する中曽根政権の取り組みを契機として,日本の外交的地平が西側全体に拡大したことを論証する。
著者
横本 真千子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 = Economic Studies (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.27-43, 2014-12

1980年代からインドネシアは海外への労働者派遣を本格化させた。大多数は,アジア各国へ出稼ぎに行く女性家事労働者である。小論では,現在の募集・派遣ネットワークの歴史的形成過程と内在する問題点を指摘し,出稼ぎ国の香港での調査から,募集・派遣ネットワークがいかに彼女たちの就労に影響を与えているかを考察する。現在の海外出稼ぎの募集・派遣ネットワークは,募集人の村での活動や渡航費用の前借りなどの点で,政府が制度化に乗り出す前に農村において慣行化したインフォーマルな海外渡航ネットワークと似通っている。海外出稼ぎ女性家事労働者は,農村在住の募集人から海外出稼ぎの情報を入手し,仲介企業へと帯同される。彼女たちは,渡航前に渡航関連費用を工面する必要がないかわりに,渡航後およそ半年にわたって賃金のほぼ全額を渡航費用の返済に充てる。この募集慣行が,香港で働くインドネシア人女性家事労働者に他国の出稼ぎ労働者に比べて低賃金かつ悪条件での就労を強いる要因となっている。女性家事労働者は,香港での就業によって情報へのアクセスが可能になる。そして,海外出稼ぎ終了後,彼女たち自身が募集人となって渡航ネットワークの一端を担う。
著者
小島 広光 平本 健太
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.29-107, 2017-06-13

わが国において,NPO法成立後の10年間に,「公益法人制度改革」と「寄付税制およびNPO法の改正」の2つの改革(「非営利法人制度改革」と総称)が実現した。本稿では,「非営利法人制度改革過程」のうちの「寄付税制およびNPO法の改正過程」の事例を改訂・政策の窓モデルにもとづいて分析するための準備作業を行う。具体的には,シーズのNPOWEBの直接引用を中心にして,さらに① 参加者への聴取調査結果(1次資料),② 政府税制調査会議事録,「新しい公共」円卓会議議事録,政府税制調査市民公益税制PT議事録・報告書,書籍等の2次資料が編集された。この編集結果にもとづいて,非営利法人制度改革過程の第4期と第5期にあたる「寄付税制およびNPO法の改正過程」の濃密な事例が作成される。このうち第4期は,鳩山内閣発足から「新しい公共」宣言の公表まで(2009年8月~2010年6月)であり,第5期は菅内閣発足から「寄付税制およびNPO法の改正」まで(2010年6月~2011年6月)である。なお次稿では,「非営利法人制度改革過程」に関して作成された2つの濃密な事例が,改訂・政策の窓モデルにもとづいて分析される。
著者
井上 久志
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.1-28, 2004-03-09

本稿では先ず論者夫々に多様な「グローバリゼーション」の定義とその含意を既存研究に基づいて整理した。また、その歴史的な起源について、長期に及ぶ貿易額の対GDP 比などを見ても、趨勢的に上昇傾向にあるものの近年顕著に上方屈折しているわけでもなく、量的な拡大だけで今日の「グローバリゼーション」は過去に前例がないとは断じ得ない。ところで、「GlobalizationIndex」というものが発表されている。本稿では、同指標に基づいて、その進展度合いを、各国の政治、経済などの諸側面から分析を試みた。また競争力指標として知られている、IMDやWEFの各国ランキングとの相関も分析された。先述したように今日の「グローバリゼーション」の基本的な特質は国際経済活動の単なる拡大にあるわけではないので、専ら質的な面での今日的特殊性が探索される。本稿は、その起源を1971年のドル危機に求め、変動相場制移行後も米国の経常収支が恒常的に赤字を記録し、結果として世界中の資本を吸引し続けなければならなくなった点に求めている。その国際金融システムはガバナンス能力という点で、不断に膨張し続ける金融フロー及びストックの量との相対比で衰微しつつあると指摘する。
著者
米山 喜久治
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.33-62, 2015-12-10

明治以来日本の学校教育は,欧米先進諸国への「キャッチアップ」を最大の課題としてきた。学校教育から生活世界の「経験」,知恵」は,"遅れたもの"として除外された。教科書と自己の経験,具体的事例を対比させる思考回路は遮断されてきた。教科書中心とペーパーテストによる「単一正解思考」に1979年以降共通一次試験の「偏差値思考」が加わった。自然,具体的事象,経験は視野になく,権威ある通説重視の思考様式が強化された。キャッチアップ指向の「学校教育」は生徒・学生が事象を「多面」,「多角的」,「重層的」に把握して自分で考えることを阻害してきたのである。こうして日本人は「情報」への素養を身に付けないまま「情報化時代」に突入したのであった。21世紀人類史の大転換期にある現代,「断片的情報」の洪水に幻惑されることなく自らの目で見て考えることの重要性は増大している。大学教育は,単に「最新知識の伝達」ではなく学生の知的,人間的成長を促すことが使命である。学生が先人の経験と思索に学び,事実と経験に基づき自分で考えて「価値尺度を形成」,「生きるための知恵」を身につける。そのための再構築が緊急の課題である。
著者
大塚 昇三
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.167-182, 2015-06-11

フーリエには情念が世界をかたちづくるという根本思想がある。もし人間が情念にしたがって自由に行動すれば情念の引力と斥力が働いて,歩兵隊の陣形のように中心集団と,その両側に中心集団と競い合う二つの極集団を形成する。この中心と両極の構造をフーリエは系列とよぶ。情念が,情念みずからの存在や働きを,人間の集団形成の行動を通して系列構造という目にみえるかたちであらわす,ともいえる。そして神がこの系列構造を原型にして世界のいっさいをかたちづくる。情念が自由ならいっさいが系列構造を分有して統一がうまれ,世界は調和する。情念が抑圧されると系列構造に歪みが生じ,統一が乱れて世界は不和になる。これがフーリエの根本思想である。本稿では,「文明のカースト」を中心に,このカーストの階層構造と系列構造との対応関係を確認する。この確認作業をもって,フーリエが系列といういわば事物の認識パターンにそって外界からの情報を分類・編集し,かれ独自の鍵になる観念を成形しているという筆者のフーリエ解釈の傍証としたい。
著者
谷口 勇仁 小田 寛貴
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.13-22, 2016-06-09

本稿は,大学院の理系研究室の運営を「ラボラトリーマネジメント」と位置付け,効果的なラボラトリーマネジメントを探求するために,ラボラトリーマネジメントの課題を明らかにすることを目的としている。まず,ラボラトリーマネジメントに関連する先行研究を概観した上で,先行研究では民間研究組織との比較検討の視点が欠けていることを指摘した。次に,大学院理系研究室と民間研究組織との比較検討から①小規模な組織,②高い流動性,③PIの大きな自由裁量度,④多面的な成果評価という4つの特徴を導出し,大学院研究室の運営責任者であるPI(Principal Investigator,主任研究員)は,「小規模で流動性が高い組織において,大きな裁量のもとに,多様な成果を達成することを求められている」ことを明らかにした。最後に,上記の特徴を検討し,ラボラトリーマネジメンの課題として,①先輩と後輩の経験格差が非常に小さいことを前提としたOJTの運用と,②実験研修・研究打合せ・研究発表等の制度の構築と維持を指摘した。
著者
大塚 昇三
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.108-123, 1990
著者
瀬川 高央
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.33-53, 2005-12-08

防衛庁・自衛隊は創設から半世紀を経た。わが国は,軽軍備国家・経済大国路線を維持しているが,自衛隊の任務・役割は,冷戦後の日米安保再定義により大きな変更を迫られた。対テロ戦争以降,自衛隊は自国領域の「専守防衛」と極東の範囲を超え,インド洋での連合軍後方支援やイラク人道復興支援活動といった「海外派遣」を拡大している。自衛隊の活動が領域外に拡大してきた背景として,日本の防衛力整備の拡張が考えられるが, それは「割りかけ回収」と呼ばれる装備調達制度の存在なしには有り得ない。本稿では,「割りかけ回収」制度による防衛力整備の過程を検討し,同制度が効率的な防衛力整備を可能とするだけでなく,(1)財政民主主義上問題を内包し,(2)防衛費GNP1%枠を仮象化し,(3)防衛費の透明性の喪失をもたらしていることを明確にする。対象の時期については,日本の防衛力整備が開始された1950年から,同制度の役割に画期が見られる1985年までとする。