著者
田中 嘉浩
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.41-47, 2013-01-17

選挙, 市場, オークション, 政策等, 異なる選好を持つ人々の間で第三者が集団としての選好を決めなければならないことが多い。本稿では特に2集団マッチング, 中でも1対1マッチングに関して Gale and Shapley (1962) に提案されたDeferred Acceptanceアルゴリズムが導出する安定マッチングの性質や問題点について明らかにする。安定マッチングに関しては, Deferred Acceptanceアルゴリズムは存在の構成的証明になっているが, 束に対するTarskiの不動点定理を用いる存在証明を紹介し, 安定マッチングの線形計画表現を述べる。また, 2集団マッチングに関するDeferred Acceptanceアルゴリズムの(多対1にし, 他の要素を加えた改良版の)適用例や, その周辺の話題, 様々な方向への一般化を概観し, その他の解法の考え方についても触れる。
著者
谷口 勇仁
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.179-187, 2009-12-10

2000年6月に発生した雪印乳業株式会社の集団食中毒事件は社会的に大きな注目を浴び,製品の安全性に関するエポックメイキングな事件として位置づけられている。また,学術的にも,雪印乳業集団食中毒事件は様々な観点から検討がなされている。特に,食中毒事件の発生原因について,直接の原因や組織的原因等,様々な要因が検討されている。 本稿では,雪印乳業集団食中毒事件の発生原因について考察された研究を検討し,その発生原因として指摘されている様々な要因について整理・検討を行うことを目的とする。まず,雪印乳業集団食中毒事件について概観し,雪印乳業集団食中毒事件に関する公式見解とメディアの見解を検討する。その後,雪印乳業集団食中毒事件の発生原因について考察している先行研究を整理し,(1)競争環境の激化,(2)事故経験の忘却,(3)利益優先主義の企業風土,(4)安全意識の欠落という要因を抽出した。
著者
多田 和美
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.79-106, 2008-09-11

本稿は,日本コカ・コーラ社の事例を通して,海外子会社の製品開発活動の進展プロセスを解明することを目的としている。具体的には,海外子会社の役割進化モデル(Birkinshaw and Hood,1998)を出発点として,海外子会社の製品開発活動が他国向け製品も開発する段階に進展するまでのプロセスの実証研究を行っている。 日本コカ・コーラ社は,コカ・コーラグループの海外子会社のなかでも世界各国で活用される製品を最も数多く自主開発している,すなわち最も製品開発活動が進展している海外子会社である。事例分析の結果,同社の製品開発活動は1)本国親会社の役割指定,2)海外子会社の選択,3)現地環境などの要因が影響していることが明らかになった。さらに,海外子会社の自律性と本国親会社と海外子会社間の関係強化という多国籍企業内部の要因も重要となることが明らかになった。 これらの発見事実は,近年活発化している海外での製品開発活動に重要な示唆を含んでいると考えられる。
著者
平井 廣一 足立 清人
出版者
北海道大学大学院経済学研究院
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.103-113, 2018-06-14

近代日本経済史の分野では,明治初期の地租改正を契機に成立する地主的土地所有の歴史的性格をめぐって,地租を「近代的租税」と規定するか,あるいは絶対主義下の「半封建的貢租」とするかで見解が分かれている。また地主的土地所有についても,「近代的土地所有」であるか,あるいは「半封建的土地所有」と規定するかで見解の対立が見られる。本稿は,「半封建的土地所有論」が立論の根拠とする「近代的土地所有権の未成熟」論を,民法における土地法ないしは借地借家法の視点から再検討を加える。すなわち,「近代的土地所有権」がイギリスをモデルとして成立したことをもってその典型といえるのか,また「土地用益権の物権構成」は果たして近代的土地所有権が確立するための必須の条件なのかを法理論的に再検討する。
著者
森 杲
出版者
北海道大学經濟學部
雑誌
北海道大學 經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.49-82, 1969-10
著者
横本 真千子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.27-43, 2014-12-09

1980年代からインドネシアは海外への労働者派遣を本格化させた。大多数は,アジア各国へ出稼ぎに行く女性家事労働者である。小論では,現在の募集・派遣ネットワークの歴史的形成過程と内在する問題点を指摘し,出稼ぎ国の香港での調査から,募集・派遣ネットワークがいかに彼女たちの就労に影響を与えているかを考察する。現在の海外出稼ぎの募集・派遣ネットワークは,募集人の村での活動や渡航費用の前借りなどの点で,政府が制度化に乗り出す前に農村において慣行化したインフォーマルな海外渡航ネットワークと似通っている。海外出稼ぎ女性家事労働者は,農村在住の募集人から海外出稼ぎの情報を入手し,仲介企業へと帯同される。彼女たちは,渡航前に渡航関連費用を工面する必要がないかわりに,渡航後およそ半年にわたって賃金のほぼ全額を渡航費用の返済に充てる。この募集慣行が,香港で働くインドネシア人女性家事労働者に他国の出稼ぎ労働者に比べて低賃金かつ悪条件での就労を強いる要因となっている。女性家事労働者は,香港での就業によって情報へのアクセスが可能になる。そして,海外出稼ぎ終了後,彼女たち自身が募集人となって渡航ネットワークの一端を担う。
著者
紀國 洋
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.385-395, 2007-01

本稿は,銀行間のATMネットワーク提携のインセンティブを複占の水平的製品差別化モデルを用いることにより分析している。各銀行はATMネットワーク規模を拡大させることにより,自己の供給する口座サービスの価値を高めることができる。しかし,水平的差別化競争下においては,ネットワーク効果を享受するためには,ライバルのネットワーク規模よりも上回らなければならない。モデル分析から本稿が得た主要な結論は次のとおりである。(1)銀行間提携によってネットワーク規模が拡大したとしても,相対的な観点からはネットワーク効果は互いに打ち消しあってしまう。従って,銀行間のネットワークの提携は,それによるネットワーク規模の増加分が,相手に比べて大きい銀行に有利に働き,小さい銀行に不利に働く。それ故,提携前のネットワーク規模が大きい銀行には提携のインセンティブがない。(2)ネットワークの提携により産業全体の利潤が増加するケースが存在する。その場合,適切な金銭的移転スキームの採用により,両銀行の利潤を増加させるような提携が可能である。(3)たとえ,ネットワーク提携が可能であったとしても,社会的厚生の観点からは提携の私的インセンティブは常に過少である。
著者
村田 潔
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.13-22, 2008-03-10
被引用文献数
1

ネット上に公開されている無数の情報の中から,自らが利用したい情報を見つけ出すためのツールとして,検索エンジンは広く利用されている。あらゆるタイプのメディアがデジタルメディアに集約化され,サイバースペースがリアルスペースの「ミラーワールド」であると見なされるようになりつつある今日,検索エンジンは,人々が何を見て,何を知ることができるのかを決定する要因となってきている。このことは,個人や組織が知ることのできる情報が検索エンジンによって制約されるばかりではなく,個人や組織が発信した情報が他者によって知覚されるか否かについても検索エンジンの機能が大きく影響していることを意味する。この点において,検索エンジンがどのような検索結果を表示するのかは,民主主義の根幹である言論の自由に対する直接的な影響力を持ち,したがって,ネット検索企業は,その社会責任の重さを認識し,それを全うするよう行動しなければならないのである。
著者
植田 和弘 李 秀澈
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.1-11, 2014-01-24

日本の原発政策は,再処理・増殖炉路線を採用し,高レベル放射性廃棄物の地層部分を前提にしている。しかし現実には,どちらの前提も満たされておらず,バックエンドの未確立は原発稼働の基盤を揺るがしつつある。放射性廃棄物の処分は,発生者責任の原則がうたわれているが,直接的な排出者ではなく日本原燃(株)や原子力環境整備機構という中間的な組織に責任が転嫁させている。
著者
湯山 英子
出版者
北海道大学大学院経済学研究科
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.107-121, 2013-02-21

本稿の目的は, 1910年代から1940年代はじめにかけて仏領インドシナにおける日本商の活動を明らかにすることにある。特に財閥系商社である三井物産と三菱商事の人員配置および取扱品に注目し, 該当時のアジア支店がどのように営業活動を展開したのかを検討する。結果, 次の2つのことを明らかにした。(1)三井物産はホンゲイ無煙炭の取り扱いに優位性を示した。これは1910年代から三井物産香港支店とトンキン炭礦会社香港支店との取引関係が構築されており, 一手販売権を獲得したことが大きい。これが香港支店から仏領インドシナへの人員配置にも反映していた。(2)三菱商事においては現地在住の三菱退職者を人材活用し, 日本や香港からの出張者で補完していた。公式の人事録には表われていないため, 従来の研究では見過ごされていた部分である。主な商品に, 旭硝子とともに取扱った硅砂があり, 日本向け輸出に力を入れていた。 従来の研究では, 商社のアジア支店の中で仏領インドシナは規模が小さく継続的営業が確認できなかったが, 本稿では取扱品と人員配置からその活動を示すことができた。
著者
小島 廣光
出版者
北海道大学
雑誌
經濟學研究 (ISSN:04516265)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.1-95, 2002-03-12

本研究は,我が国のNPO法の立法過程を詳細に分析することにより,(1)本法律の特徴である市民に広く開かれた立法過程のあり方の提示,および(2)本法律の見直すべき問題点と有効な活用方法の解明を目指したものである。本稿では,このNPO法の全立法過程を次の6期に区分し,(1)政府(内閣・省庁),(2)議員・国会,(3)市民団体の3つの参加者の各期における行動をそれぞれ詳述する。6期は,(第1期)議論の開始から阪神・淡路大震災の発生前まで,(第2期)阪神・淡路大震災後から与党案の第1次合意まで,(第3期)与党案第1次合意の破棄から第2次合意まで,(第4期)与党案第2次合意から民主党との調整を経て衆議院通過まで,(第5期)参議院での修正と特定非営利活動促進法の成立まで,(第6期)特定非営利活動促進法の公布から優遇税制の成立まで,である。これら参加者の行動は,次稿において政策の窓モデルを改訂した独自のモデルにもとづき詳細に分析される。