著者
李 永喜 小河 孝則 田口 豊郁
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.75-89, 2008

市民による福祉ボランティア活動は,新しい地域社会を形成しうるとして高い関心を集めている.行政は福祉ボランティアに対して政策的に組み入れようとしてきた.95年の阪神・淡路大震災を契機にボランティアやNPOの機能や役割に関心が広まり,公的介護保険制度の導入,特定非営利活動促進法の施行以降それらの市民活動と行政のパートナーシップが強調されるようになった.しかし,行政と民間との「協働」「パートナーシップ」はNPOや法人に関心が傾いているようにみうけられる.多くのボランティア団体は法人格を持たない任意団体として活動しているために,社会的に信用が乏しく財政の不足が課題となっている.そこで本研究は福祉ボランティア団体・組織の立ち上げに基金支援している「A市の地域福祉基金」の運営に注目した.福祉ボランティアの大きな特徴である「自発性・主体性」に関心を持ち,行政による支援の意義についてA市基金運営委員会における参与観察を行いつつ,過去に基金助成を受けていた全団体(41団体)と現在基金助成を受けている14団体を対象にアンケ-ト調査を行い考察した.その結果,基金助成終了後92.6%の団体が会員の会費やバザ-の収益金,町内会や社会福祉協議会の助成金などで資金を調達し確実に活動を続けていることがわかった.福祉ボランティア団体は資金不足と人材不足の悩みを抱えているが,基金助成を受けることによって90%の団体が自分たちの活動が社会的に認められたと認識し,活動への意欲が高まったといっている.ここに行政による支援の意義があるといえるのである.ボランティア活動を持続していくためには,団体・組織内におけるミッション・ディスカッションを行うことが必要であるといえる.福祉ボランティアに対する行政の役割としては,資金的支援やPRの工夫と実践,福祉ボランティア団体と地域の福祉問題解決に向けて共通目標を確認し合える「情報共有の機会・場」を設けること,があげられる.
著者
小河 孝夫 加藤 智久 小野 麻友 清水 猛史
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.118, no.8, pp.1016-1026, 2015-08-20 (Released:2015-09-04)
参考文献数
34
被引用文献数
2

当科を受診した先天性嗅覚障害16例について臨床的検討を行った. 診断は主に問診から行い, 診断補助としてMRI検査が有用であった. 20歳代までの受診が多く, 性差はなかった. 受診契機は, 自覚症状がなく家族など周囲から嗅覚障害を指摘され受診する症例が多く, 嗅覚については,「生来においを感じたことがない」という症例を多く認めた. 嗅覚障害に関連する合併症がない非症候性の先天性嗅覚障害の割合が81% (13例) と高く, 症候性の先天性嗅覚障害である Kallmann 症候群は19% (3例) であった. 基準嗅力検査は88% (14例) の症例でスケールアウトであったが, 検査上残存嗅覚があった症例も12% (2例) 認めた. アリナミンテストは実施した11例全例で無反応であった. MRI 検査による嗅球・嗅溝の定量化が診断に有用であった. 嗅球体積は, 0mm3~63.52mm3, 平均値10.20mm3, 嗅溝の深さは0~12.22mm, 平均値4.85mmで, 嗅球・嗅溝の形態異常を高率に認めた. 嗅球には, 両側または片側無形成例が69% (11例), 両側低形成例が25% (4例), 嗅溝は片側無形成例が6.7% (1例), 片側または両側低形成例は73% (11例) であった. 先天性嗅覚障害患者に対する治療方法はないが, 適切な診断を行い嗅覚障害に伴う弊害を説明することと, 性腺機能不全の精査を考慮することが重要である.
著者
小河 孝夫
出版者
社団法人 におい・かおり環境協会
雑誌
におい・かおり環境学会誌 (ISSN:13482904)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.287-297, 2014-07-25 (Released:2018-02-13)
参考文献数
56
被引用文献数
1 2

老年性嗅覚障害は60歳代以降でみられ,加齢とともに徐々に悪化し,嗅覚障害により日常生活の質は大きく低下してしまう.身体能力が低下し,栄養摂取が不良となりやすい高齢者にとって,こうした問題は特に重要になってくる.先天性嗅覚障害は生来嗅覚がないというまれな疾患である.嗅覚障害のみを臨床症候として呈する非症候性とKallmann症候群などの症候性がある.MRI検査により嗅球などの嗅覚系構造が検出できるようになり診断精度が向上している.嗅覚障害に伴うハンディキャップについての理解と性腺機能不全など嗅覚障害以外の他の全身合併症についても精査する必要がある.
著者
甲田 茂樹 安田 誠史 杉原 由紀 大原 啓志 宇土 博 大谷 透 久繁 哲徳 小河 孝則 青山 英康
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.6-16, 2000-01-20 (Released:2017-08-04)
参考文献数
34
被引用文献数
6 23

運輸労働者の健康問題に影響を与える職業要因を評価するために, 1997年に541名の運輸労働者を対象に労働・勤務条件, 運転労働に係わる職業性要因, 身体の自覚症状や疾病罹患の状況について質問紙法で調査を実施した.有効回答率は85.7%, 134名の集配業務に従事する運転労働者(集配群)と199名の長距離輸送に従事する運転労働者(長距離群), 71名の事務職員を分析対象とした.まず, 三つの群での職業性要因と健康問題を検討するために, 労働・勤務条件や身体の自覚症状や疾病罹患の状況を比較検討した.ついで, 集配群と長距離群における職業要因が健康問題に与える労働関連性を検討するために, ロジステック回帰分析を実施し, オッズ比と95%CIを計算した.健康問題に影響を与える職業要因, すなわち, 不規則交代制勤務, 労働環境, 作業姿勢, 重量物取り扱い, 多い仕事量や長時間労働への不満, 休憩時間の取得困難の要因で, トラック運転労働者の訴え率が事務職に比べて有意に高かった.耳鳴り, 頚の痛み, 腰痛の自覚症状と高血圧, 胃十二指腸潰瘍, 腰背部打撲, むち打ち症, 痔疾の疾患でトラック運転労働者の訴え率が事務職に比べて有意に高かった.ロジスティック回帰分析の結果では, 年齢やBMI, 喫煙習慣を以外の多くの労働関連要因で, 身体の自覚症状や疾病罹患に関する有意に高いオッズ比を認めた.集配群の循環器疾患及び関連した自覚症状に関するオッズ比は, 経験年数, 腰の捻転動作, 振動, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.消化器系疾患及び関連した自覚症状に関するオッズ比は, 狭い作業空間, 車中泊, 長い走向距離, しゃがみ姿勢, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.集配群の自覚症状の耳鳴りに関するオッズ比は, 経験年数, 長時間労働, 狭い作業空間, 車中泊, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.腰痛や頚部痛等の筋骨格系疾患及び関連したに自覚症状に関するオッズ比は, 残業, 振動, 狭い作業空間, 座り姿勢, 少ない休憩時間で有意に上昇していた.疲労症状に関するオッズ比は, 少ない休憩時間, 振動, 運転労働に伴うストレスで有意に上昇していた.運輸労働者の健康問題を解決するためには, 上記の労働・勤務条件や運転労働に関連した課題を改善する必要がある.
著者
上野 満雄 中桐 伸五 谷口 隆 有沢 豊武 三野 善央 小寺 良成 金澤 右 雄山 浩一 小河 孝則 太田 武夫 青山 英康
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.483-491, 1984-11
被引用文献数
1

日本国有鉄道の新幹線は,早朝から深夜まで過密ダイヤのもとで,高速度を出して走行している.したがって,新幹線車両の清掃労働者は主に,深夜労働に従事することを余儀なくされ,頻回な夜間勤務を行っている.本研究は,新幹線車両清掃労働者の健康に及ぼす夜間勤務の影響を検討したものであり,特に,連続夜勤の回数と健康障害の関係について評価を行った.本研究は二つの調査研究から成っている.最初の研究では,勤務実態と健康実態を明らかにするため,1か月間の夜勤の頻度,連続夜勤の回数,自覚症状を調査した,調査は,大阪駅で働く246人の男性清掃労働者に対して,日本産業衛生学会交代勤務委員会作成の質問用紙を配布する方法を用いて,1981年に実施した.調査結果は,勤務形態別に3グループに分けて比較検討を行った,グループAは,夜勤専従者であり,勤務編成は,週に5回の連続夜勤を基本とする102人のグループである.グループBは,一昼夜交代で週3回勤務をする124人のグループである.グループCは,週6回勤務の日勤者20人である.これら勤務の形態別比較の結果,グループAにおける胃腸障害,全身疲労感の訴え率が最も高く現われていた.最初の研究結果にもとづいて,2番目の研究では,連続夜勤の回数と健康障害の関係について検討を行うため,ケース・コントロールスタディを行った.研究対象は,最初の研究で対象とした夜勤労働者の中から60人を5歳階層ごとに無作為抽出し,3グループに分け各グループ20人ずつとし,方法は,産業衛生学会疲労研究会作成の疲労自覚症状を勤務の前後で1労働週にわたって自記させた.3グループは,グループA20人,グループB20人,グループD20人である.グループAとBは,最初の研究の同じ勤務形態であるが,グループDは,グループAのコントロールとして,夜勤3日目を非番日に変えた勤務に従事させた.調査の結果,グループAとBでは最後の勤務後に疲労自覚症状の訴え数が第1日目の勤務前と比べて有意に増加していたが,コントロールのグループDでは訴え数の有意な増加は認められなかった.これら二つの研究結果から,夜間勤務の形態と労働者の健康状態の間に密接な関連があり,5連続夜勤の3日目を非番日にすることは,労働負担を軽減するうえで効果的であることが明らかとなった.したがって,5回以上の連続夜勤に就労する新幹線清掃労働者の職業的健康障害を防止するためには,連続夜勤回数の頻度や労働時間に関する勤務条件の改善がなされるべきであると考えられた.
著者
若井 和子 小河 孝則
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.377-382, 2011

本研究は,乳児院で就業する看護師および保育士の協働意欲に影響する要因について明らかにし,入所児に専門性を発揮したケアを提供できることを目的とする.研究方法は,関西地方,中国地方,および九州地方の乳児院で就業している看護師5人および保育士5人,合計10人を対象とし,個別に半構造化面接調査を実施した.言語データを収集し,質的帰納的方法で分析した.その結果,【役割遂行ができた達成感の獲得】の有無が抽出された.カテゴリーには,専門職としての葛藤や孤独感などマイナス因子が含まれていた.複数の専門職で構成されている乳児院において協働意欲を向上させるためには,他職種との意思疎通を円滑にし,専門職としての役割が遂行できるように職場環境を整える体制づくりが重要である.
著者
小河 孝夫 清水 志乃 戸嶋 一郎 神前 英明 清水 猛史
出版者
日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会
雑誌
耳鼻咽喉科免疫アレルギー (ISSN:09130691)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.221-227, 2011 (Released:2011-09-30)
参考文献数
41
被引用文献数
1

近年,好酸球性副鼻腔炎などの難治性上気道炎症の病態形成に凝固線溶系が深く関与していることが明らかになり,凝固線溶因子を標的とした治療法の開発が注目されている。一方,ヘパリンは抗凝固作用を有し,臨床上も血栓症治療などに古くから使用されてきたが,同時に抗炎症作用も有することが知られている。ヘパリンは陰性荷電とその特異な分子構造により炎症過程における多くの生理活性物質と結合することが作用機序として考えられている。実際の臨床においても,気管支喘息,炎症性腸疾患,熱傷などで有効性が報告され,様々な疾患モデル動物においてもヘパリンの抗炎症作用が報告されているが,鼻副鼻腔疾患に対する検討はほとんどない。筆者らはヘパリンの持つ抗凝固作用と抗炎症作用の両者に期待して,難治性上気道炎症に対する治療薬としての可能性を検討している。 ラット鼻粘膜炎症モデルを使用した未分画ヘパリンや低分子ヘパリンの点鼻投与の検討では,LPS刺激やアレルギー性炎症により生じたラット鼻粘膜の杯細胞化生や粘液分泌,炎症細胞浸潤はヘパリン投与により有意に抑制された。培養気道上皮細胞を用いた検討でも,TNF-α刺激や好酸球性細胞株との共培養によるムチンやIL-8分泌を有意に抑制した。これらの結果より,ヘパリンはステロイド以外に有効な薬物療法のない好酸球性副鼻腔炎などの難治性上気道炎に対する新たな局所治療薬としての可能性が期待できる。
著者
瀬野 悟史 柴山 将之 有方 雅彦 戸嶋 一郎 小河 孝夫 星 参 藤田 文香 花満 雅一 清水 猛史
出版者
耳鼻咽喉科臨床学会
雑誌
耳鼻咽喉科臨床 (ISSN:00326313)
巻号頁・発行日
vol.99, no.11, pp.967-977, 2006-11-01 (Released:2011-10-07)
参考文献数
11

We evaluated the efficacy of early treatment by ramatroban and antihistamine in patients with Japanese cedar pollinosis by comparing treatment before the start of the pollen season and treatment after the pollen had been dispersed. A pollinosis diary and Japanese allergic rhinitis standard QOL questionnaire (JRQLQ No. 1 and No. 2) were used to evaluate the effectiveness.Huge amounts of Japanese cedar pollen and Japanese cypress pollen were disseminated in Shiga prefecture in 2005. The nasal symptom score, medication score, and symptom medication score showed better outcomes in the early treatment group not only during the Japanese cedar pollen season but also the Japanese cypress pollen compared to the other group. The early treatment group also showed better results in every category of JRQLQ No. 1 and No. 2 compared with the late treatment group. No harmful side effects were observed through the course of this study.We concluded that early treatment by ramatroban in combination with antihistamine in patients with Japanese cedar pollinosis was useful not only for improving symptoms but also retaining the quality of life during such a heavy pollen-producing year.
著者
上野 満雄 中桐 伸五 谷口 隆 有沢 豊武 三野 善央 小寺 良成 金澤 右 雄山 浩一 小河 孝則 太田 武夫 青山 英康
出版者
Japan Society for Occupational Health
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.26, no.6, pp.483-491, 1984

日本国有鉄道の新幹線は,早朝から深夜まで過密ダイヤのもとで,高速度を出して走行している.したがって,新幹線車両の清掃労働者は主に,深夜労働に従事することを余儀なくされ,頻回な夜間勤務を行っている.本研究は,新幹線車両清掃労働者の健康に及ぼす夜間勤務の影響を検討したものであり,特に,連続夜勤の回数と健康障害の関係について評価を行った.本研究は二つの調査研究から成っている.<br>最初の研究では,勤務実態と健康実態を明らかにするため, 1か月間の夜動の頻度,連続夜勤の回数,自覚症状を調査した.調査は,大阪駅で働く246人の男性清掃労働者に対して,日本産業衛生学会交代勤務委員会作成の質問用紙を配布する方法を用いて, 1981年に実施した.調査結果は,勤務形態別に3グループに分けて比較検討を行った.<br>グループAは,夜勤専従者であり,勤務編成は,週に5回の連続夜勤を基本とする102人のグループである.グループBは,一昼夜交代で週3回勤務をする124人のグループである.グループCは,週6回勤務の日勤者20人である.これら勤務の形態別比較の結果,グループAにおける胃腸障害,全身疲労感の訴え率が最も高く現われていた.<br>最初の研究結果にもとづいて, 2番目の研究では,連続夜勤の回数と健康障害の関係について検討を行うため,ケース・コントロールスタディを行った.研究対象は,最初の研究で対象とした夜勤労働者の中から60人を5歳階層ごとに無作為抽出し, 3グループに分け各グループ20人ずつとし,方法は,産業衛生学会疲労研究会作成の疲労自覚症状を勤務の前後で1労働週にわたって自記させた. 3グループは,グループA20人,グループB20人,グループD20人である.グループAとBは,最初の研究の同じ勤務形態であるが,グループDは,グループAのコントロールとして,夜勤3日目を非番日に変えた勤務に従事させた.調査の結果,グループAとBでは最後の勤務後に疲労自覚症状の訴え数が第1日目の勤務前と比べて有意に増加していたが,コントロールのグループDでは訴え数の有意な増加は認められなかった.<br>これら二つの研究結果から,夜間勤務の形態と労働者の健康状態の間に密接な関連があり, 5連続夜勤の3日目を非番日にすることは,労働負担を軽減するうえで効果的であることが明らかとなった.したがって, 5回以上の連続夜勤に就労する新幹線清掃労働者の職業的健康障害を防止するためには,連続夜勤回数の頻度や労働時間に関する勤務条件の改善がなされるべきであると考えられた.
著者
人見 裕江 中村 陽子 小河 孝則 畝 博 井上 仁 仁科 祐子
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

グループホームやデイサービスにおける痴呆症高齢者ケアの実態と美容を取り入れたケアの効果について、事例分析、免疫機能、動脈硬化指数、家族に及ぼす美容の効果、およびスタッフをはじめとするケア提供者へ及ぼす影響について検討した。免疫機能、動脈硬化指数では変化が明らかではなかったが、認知症高齢者の表情が豊かになり、言語も増す傾向が示され、スタッフや家族への相互作用があることが示唆された。化粧が及ぼす生理・心理的反応に関する基礎的研究(北川・人見、2006)を行い、手軽にできる口紅について、心理的変化および脳活動・自律神経機能に与える影響について検討した。口紅をつけた結果、これまでの報告にもみられるように、化粧による気分の高揚や積極性の向上などの心理的変化が認められた。しかし、このような心理的変化では、脳活動。自律神経機能には有意な影響を与えないことが示唆された。京都、イスタンブール、ベルリンにおける第20-22回アルツハイマー病協会国際会議に参加し、世界の認知症ケアに関する情報を得た。A老年性痴呆疾患治療病棟における攻撃的行動のある認知症高齢者に対するスタッフの態度とバーンアウト症候群との関係をパイロットスタデイとして調査した。攻撃的行動を否定的に捕らえるスタッフはバーンアウト傾向にあることが示唆され、認知症ケアにおける看護介入の方策、およびスタッフ教育について、検討する必要性が急務であることが示めされた(人見・中平・中村・他、2006)。そこで、大阪および山陰地方の介護施設のスタッフ約1、500人を対象に、調査研究を行った。また、代替療法を用いた介入研究を地域の病院における療養型治療病棟や特養において実施し、本人だけでなくスタッフおよび家族への波及効果がある傾向が示された。今後、全国の痴呆症ケアに関わる病院や施設および事業所等に勤務するスタッフの態度とバーンアウト症候群との関係を明らかにし、介護提供者の教育システムを構築に関する示唆を得ると共に、提言をする予定である。
著者
上野 満雄 小河 孝則 中桐 伸五 有沢 豊武 三野 善央 雄山 浩一 小寺 良成 谷口 隆 金沢 右 太田 武夫 青山 英康
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.266-274, 1986-07-20
被引用文献数
1

日本国有鉄道の振子電車は,1973年以来,急曲線部の多い国鉄在来線の高速化を計る目的で開発されたものである.その原理は,車体と台車の間にコロが設けてあり,曲線部にかかると遠心力が車体自体に働いてこれを傾かせ,曲線通過速度を従来の型式より上昇させることができる.振子電車の導入は時間短縮に一定の効果をあげることができたが,走行中に従来よりは大きい横揺れが発生し,乗客・乗務員に,乗物酔いを起こすことが注目されてきた.本研究は,振子電車の動揺が乗客・乗務員に及ぼしている身体影響を,動揺病の特徴としてこれまで報告されてきた症状の発症との関連で検討する目的で従来の型式の列車を対照として比較検討を行った.また,同時に振子電車の持つ構造上の特性に由来する物理的特性についても検討を加えた.本研究においては,100人の乗務員と119人の乗客(男77人,女42人)双方を研究対象とした.乗客・乗務員の両群を選定したのは,業務としての動揺への曝露か否かによって発症の仕方に差が生じることが疑われたからである.乗客調査の対象者は,全走行時間を考慮し,電車の動揺による乗客への曝露時間を同一にするため,前述した2列車に2時間以上乗車した者とした.乗務員調査の対象者は,前述した2列車に乗務する車掌のうち,両列車の乗務条件を可能な限り近づけ,勤務条件に差のない列車ダイヤに乗務した者とした.これら研究対象者は,性,年齢を5歳階層に無作為抽出し,マッチングを行った.揺れの物理的特性を評価するため,著者らは,床上の振動加速度レベルを,従来の方法である1/3オクターブバンド分析計で分析すると同時に,FFT法による方法でも分析を行った.調査質問項目は,11項目の動揺病症状から成るが,乗務員に対しては,業務との関連を明らかにするため,疲労自覚症状30項目,動揺病症状の業務への影響,発症対策などの項目を加えて調査した.調査の結果,次に述べるような知見を得た.1)振子電車の乗客は,対照群の乗客と比較して,動揺病症状の訴え率が高く,そのために「乗り心地が悪い」と訴える者が多く,その理由として「ゆれが大きい」ことを理由に挙げる者が最も多く認められた.2)乗務員の動揺病症状訴え率は,振子電車乗務員が,対照群に比べて有意に高いことが認められた.3)動揺病症状の発症対策を講じながらも,振子電車乗務員は,対照群と比較して動揺病症状の発症によって業務に支障を来たしていた.4)乗務員と乗客との間に認められた動揺病症状の訴え率の差は,乗務員と乗客とでは乗務に対する対応の違いによるものと考えられた.5)振子電車乗務員は,振子電車に乗務するという労働負担によって,動揺病症状の発症のみならず,疲労自覚症状の発症を多発させていると考えられた.6)振子電車の物理的特性を評価するため,従来の方法による振動加速度周波数分析を行った結果,左右の振動加速度レベルは双方ともISO基準より低く,上下方向についても左右方向と同様ISOの基準より低いレベルにあった.しかし,FFT法によって5Hz以下の周波数分析を行った結果,1Hz以下の低周波数帯域に加速度のピークが振子電車で認められたのに対し,従来の型式では,1Hz以上の周波数帯域にピークが認められた.以上の結果を考察すると,振子電車の持つ物理的特性として,1Hz以下の低周波数帯域における振動の影響については動揺病発症との関連において重要であると考えられた.