著者
坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.92-105, 2002

行動分析学における行動経済学は、4つの研究の流れ、すなわち摂食行動についての生態学的アプローチ、伝統的経済心理学研究とトークンエコノミーでの経済分析、強化相対性についての量的定義の追求、そしてマッチングの法則の展開、から形成された。それは、強化の有効性についての新しい指標、実験.条件の手続き的理論的区別、選択行動の最適化理論という3つの主要な成果をもたらした。この最後のもっとも影響のある成果は徹底的および理論的行動主義に対する別の選択肢としての目的論的行動主義を促した。が、同時にそれは経済学から限定合理性と不確実性という2つの問題も引き継いだ。実験経済学と進化経済学はこれらの問題を克服しようとする2つの候補であり、両者ともその実験的理論的枠組みとしてゲーム分析的なアプローチを利用している。特に後者は行動分析にとって魅力ある研究領域である。なぜなら、それは限定合理性を含んだ進化ゲームと、生物学的枠組みとは異なる進化過程の多様な概念的アイデアを提供するからである。
著者
河村 優詞
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.102-109, 2019

<p><b>研究の目的</b> 知的障害特別支援学級在籍児童において、漢字学習への選好に及ぼす要因を検討することを目的とした。研究Ⅰでは低選好課題の後に高選好課題を行う場合の選好傾向を、研究Ⅱでは低選好課題の後に課題の選択機会がある場合の選好傾向を検討した。<b>研究計画</b> 学習課題間の選好査定を実施した。研究Ⅰでは低選好課題のみを行うプリントと低選好課題の後に高選好課題を行うプリントを児童に選ばせた。研究Ⅱでは低選好課題の後に課題の選択機会のあるプリントと選択機会の無いプリントを児童に選ばせた。<b>場面</b> 小学校の教室で実施した。<b>参加児</b> 特別支援学級に在籍する4名の児童であった。<b>独立変数の操作</b> 高選好課題の有無(研究Ⅰ)および選択機会の有無(研究Ⅱ)であった。<b>行動の指標</b> 各プリントに対する参加児の選択を指標とした。<b>結果</b> 研究Ⅰでは低選好課題の学習量が多くても、高選好課題を含むプリントが選好された。研究Ⅱにおいて一部の参加児では、低選好課題の学習量が多くても選択機会のあるプリントが選好された。<b>結論</b> 課題選択の傾向から高選好課題や選択機会が強化子として機能した可能性のあるケースが存在した。しかし、厳密に強化子として機能したか否かは検証できておらず、今後の課題として残された。</p>
著者
畔上 恭彦
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.154-164, 1996

臨床において、コミュニケーション場面での子どもの行動の変化を捉えると同時に、その行動の意図、例えば、人に視線を向けたという行動だけなく、子どもの視線の奥の「まなざし」の意図を理解するということが重要な意味を持つ。このような観点からINREALでは、コミュニケーション分析を行い、これを通して、話し手・聞き手はどのように『会話の原則』に従ったかを検討する。今回、自閉的傾向のある発達遅滞児とのプレイ場面において、INREALの『会話の原則』に従ったコミュニケーション指導を行ったところ固執と思われていた行動が、人との関わりの接点となり、大人と子どもとのやり取りへと変化していった。大人が意味のあるコミュニケーションを行うために『会話の原則』を守ることの重要性が示唆された。この『会話の原則』を守っているかどうかは、臨床場面の録画ビデオを検討することで確認できる。
著者
菅佐原 洋
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.24-34, 2018

<p>発達障害児の発話指導では、対象児の発声が有意味語や見本音声に近づくことが求められる。従来は指導者や第三者による印象評定が用いられることが多かったが、効果的な支援や訓練者の技術向上のためには、より客観的で定量的な指標を用いる必要がある。そこで、本稿ではフリーウェアであるPraatを用いた音声解析を利用した定量的評価の手法について紹介する。</p>
著者
小野 浩一
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.174-183, 2008-03-31 (Released:2017-06-28)

(1)研究の目的 ヒトにおけるFRスケジュールとVRスケジュール間の選好が特定のスケジュール履歴によって変化するかを検討した。(2)研究計画 実験操作の前後に従属変数としての選好を観察する事前事後実験デザインを用いた。選好は並立連鎖スケジュールによって測定した。(3)場面 大学施設内の小実験室において個別に実施した。(4)実験参加者 募集に応じた大学生27名(男性13名、女性14名)。(5)独立変数の操作 前後のテストフェイズの間に履歴フェイズとして、14名の参加者には左右のターミナルリンクにFRスケジュールを配置したFR履歴を、13名の参加者には左右のターミナルリンクにVRスケジュールを配置したVR履歴を加えた。(6)行動の指標 両テストフェイズにおけるFRスケジュールとVRスケジュール間の選択において、FR側イニシャルリンクの相対反応率とFRターミナルリンクの選択数を選好の指標とした。(7)結果 FR履歴とVR履歴は異なる結果をもたらした。FR履歴の参加者は総じてVRスケジュールへの選好を増加させ、異種選好を示した。一方、VR履歴の参加者の選好の変化は多方向的でその変化値も大きかった。(8)結論 先行履歴はヒトの選択行動に対して、(1)異種選好のような一般的変化、そして、(2)履歴内容によって異なる特異的変化、をもたらす可能性がある。
著者
瀬島 順一郎
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.91-114, 1992-03-31 (Released:2017-06-28)

Philosophy of science which underlies in Behavior Analysis is pragmatism. Pierce, C.S. who was a founder of pragmatism said that "Consider what effects, that might conceivably have practical bearings, we conceive the object of our conception to have. Then, our conception of these effects is the whole of our conception of the object." They say this is the maxim or the rule of pragmatism. So this maxim of pragmatism implies the same meaning of contingencies of reinforcement in Behavior Analysis. In Behavior Analysis consequences of reinforcememt shape behavior and then change consciousness and belief. Magician's selection system has been adopted in order to understand the pragmatic feature of Behavior Analysis. Magician's selection system contains a serial verbal reinforcement sequences. One who experienced magician's selection thinks that he selected by his free will, but in fact he was completely controlled by magician. In this paper it is concidered that sequence of reinforcement effects the selection behavior and belief of free will.
著者
佐伯 大輔
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.154-169, 2002-03-30 (Released:2017-06-28)

これまで、経済学と心理学は、遅延時間の経過に伴う報酬の価値の減衰を、時間選好または遅延による報酬の価値割引と呼び、この現象の説明を異なる学問的立場から異なる方法論を用いて行ってきた。経済学における初期の研究は、公理的アプローチにより、財消費の現在と未来への合理的配分を表すことのできる指数関数モデルを提案した。しかし、最近の経済学研究は、経済学や心理学における実証的研究の結果から、指数関数モデルでは記述できない逸脱現象を見出し、これらを記述できる新たな割引モデルを提案している。一方、心理学では、ヒトや動物の遅延による価値割引が、指数関数モデルよりも双曲線関数モデルによってうまく記述できることや、収入水準やインフレーションなどの経済学的変数が割引率に関係する事実が明らかになった。今後、仮想報酬間での選択場面を用いてきた経済学の時間選好研究には、実際の選択場面を用いた割引率の測定が求められる。一方、心理学の価値割引研究には、経済学が報告した逸脱現象が、実際の選択場面においても生起するか否かを検討することが求められる。2つの価値割引研究の融合により、この現象のさらなる理解を可能にする学際的研究領域の確立が期待される。
著者
杉原 聡子 米山 直樹
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.13-23, 2015

研究の目的 自閉スペクトラム症児への運筆訓練における親の指導行動の改善に対して未編集のビデオ映像を用いたビデオ・フィードバックの効果について検討した。研究計画 研究デザインはABC+フォローアップデザインであった。場面 大学内の観察室であった。参加者 自閉スペクトラム症のある双子の男児をもつ母親1名であった。介入 母親の指導スキルは、把持修正、環境調整、トークンエコノミー、プロンプト、強化の5項目で構成した。ベースライン(A)ではビデオ撮影の方法のみ教示した。介入I期(B)では支援者と母親でビデオを視聴し、適宜ビデオ映像を停止して5項目についてその実施と未実施を母親に示しコメントした。介入II期(C)では介入Iに加え、支援者が子どもの標的行動を強化するためのトークンボードを用意し、母親に手渡した。行動の指標 指導台本の実施率を指導行動の正確率と定義し、従属変数とした。また、併せて子どもの行動変容について、図形における運筆逸脱率を測定した。介入後に、母親より社会的妥当性アンケートへの回答を得た。結果 介入後に母親の指導行動の正確率が改善し、子どもの運筆逸脱率が減少した。結論 未編集のビデオ映像を用いたビデオ・フィードバックによる支援は母親の運筆指導行動の正確性を改善するのに有効であることが示された。