著者
伊藤 正人 小林 奈津子 佐伯 大輔
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.122-140, 2002-03-30 (Released:2017-06-28)

本研究は、並立連鎖スケジュールにもとづく同時選択手続きを用いた3つの実験を通して、ラットにおける強化量の選択行動に及ぼす絶対強化量、体重レベル、経済環境の効果を、選択率と需要分析における価格弾力性を測度として検討した。強化量条件としては、相対強化量を1:3として、絶対強化量(1個45mgの餌ペレット数)を1個:3個から4個:12個の範囲の4条件設け、給餌が実験セッション内に限られる封鎖経済環境と実験セッション外給餌のある開放経済環境の下で各被験体に選択させた。また、セッション時間やセッション外給餌量により体重レベルを実験間で操作した。実験lと3では、体重を自由摂食時安定体重の約80%に維持し、実験2では、体重を自由摂食時安定体重の約95%に維持した。その結果、絶対強化量条件間を比べると、開放経済環境における1個:3個条件よりも4個:12個条件の方が高いことが認められた。選択期と結果受容期の反応に需要分析を適用すると、いずれの体重レベルにおいても、開放経済環境において弾力性の高いことが示された。これらの結果は、経済環境の相違が体重レベルやセッション時間ではなく、セッション外給餌の有無に依存することを示唆している。
著者
鎌倉 やよい 坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.2-13, 1996-05-25 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

本研究は開胸術後の順調な回復のために必要とされる効果的な最大吸気練習プログラムの開発のために計画された。プログラムは被験者間多層ベースライン法でなされ、3つのフェーズからなっていた。ベースラインのフェーズでは、被験者は吸気練習器具であるトリフローの使用法について病棟で与えられる通常の教示を受け、吸気練習を自己記録するように言われた。第1の介入フェーズでは日々の吸気回数と吸気量の結果がグラフでフィードバックされ、もし前日の記録よりも上回っていれば言語的賞賛が与えられた。第2の介入フェーズでは、第1のものに加えて、この練習の手術への役割についての新しい情報が与えられた。吸気回数の目標値はベースラインでは20、第1介入フェーズでは50、第2介入フェーズでは80というようにあげられた。19人中、14人が介入によってベースラインのフェーズから第2介入フェーズヘとその吸気量を増加させた。増加しなかった5人は、ベースライン時においてその吸気量を急激に増加させたため、吸気行動を維持できなかった。
著者
栗林 千聡 中津 昂太朗 佐藤 寛
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.51-60, 2017-08-25 (Released:2018-08-20)
参考文献数
12
被引用文献数
1

研究の目的 高校ラグビー選手におけるプレースキックスキルの行動的コーチングの効果を検討した。研究計画 単一事例実験デザインに基づく参加者間多層ベースラインデザインを用いて、ベースライン期、介入期、ポスト期、フォローアップ期の4つのフェイズを設定した。参加者 高校のラグビー部に所属する男子3名であった。介入 標的行動は、9項目の下位スキルが得られた。行動的コーチングは、チェックリストに基づいた適切なプレースキックの下位スキルの教示、モデリング、行動リハーサル、フィードバックを実施した。行動の指標 参加者は、各セッションにおいてプレースキックの下位スキル正反応率およびキック成功率をそれぞれ測定した。結果 すべての参加者においてプレースキックの下位スキル正反応率およびキック成功率が向上した。結論 行動的コーチングはプレースキックスキルの改善に効果があることが示された。
著者
安生 祐治 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.3-22, 1991-09-30 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
4

本実験の目的は、4名の公立高校硬式野球部選手のスローイング技能の指導に、通常のコーチングと行動的コーチングを適用し、これらが反応遂行としてのスローイング技能と適切なゾーンに当てるという反応所産に及ぼす効果を分析することだった。ターゲット行動であるスローイング技能は、10の下位技能に分類された。対象選手は27.4m離れた3つのゾーンに向けて送球し、その際のスローイングの反応遂行と、どのゾーンに命中したかという反応所産が測定の対象となった。同部におけるこれまでの指導法によって構成された通常のコーチングと、シェイピング、チェックリストの説明、賞賛、示範、教示、ロールプレイの諸変数を含む行動的コーチングの効果を、選手間多層ベースライン法によって分析した。実験1において、通常のコーチングは反応遂行と反応所産のいずれにも改善をもたらさなかった。一方、行動的コーチングはスローイング技能の改善をもたらしたが、反応所産には一様の正の結果をもたらさなかった。そこで、実験IIにおいて、行動的コーチングの変数であるチェックリストを一部修正し、目標を見るという行動を形成するための変数を新たに導入することによって、スローイング技能だけでなく、反応所産にも正の結果が示された。その結果を行動的コーチングと反応遂行、及び反応所産の測度の関連で考察した。
著者
丹野 貴行
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.111-127, 2021-03-25 (Released:2022-03-25)
参考文献数
76

実験的行動分析と徹底的行動主義の関係性について概念分析を行った。構成は、1)Journal of the Experimental Analysis of Behavior誌の歴史的経緯に基づく実験的行動分析の4つの特徴の整理、2)徹底的行動主義の基本となる3つの軸の整理、3)両者の関係性についての論考、4)こうした概念分析の現代的意義の一例としての、行動分析学と心理学における再現性の危機との関わり、であった。徹底的行動主義とは、単に行動の科学的研究を指すのではなく、心理学の主題とその研究方法論をめぐる主張である。本稿では、実験的行動分析の「基盤」として徹底的行動主義が示され、またその不可分に結びついた関係性が、心理学における再現性の危機への健全性を支えていることが論じられた。
著者
髙津 梓 田中 翔大 仲野 みこ
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.37-45, 2021-10-25 (Released:2022-10-25)
参考文献数
11

研究の目的 本研究では、排尿・排便が未確立なASDと知的障害を有する児童に対し、参加児と保護者の状況のアセスメントから保護者が実行可能な支援計画を作成し、支援の実行と効果を検討した。参加者 知的障害特別支援学校小学部3年に在籍する、ASDと知的障害を有する男児1名とその保護者。家庭や登下校時に失禁があり、トイレでの排便は未経験であった。トイレで座ることに対し強い抵抗を示し、声を上げ嘔吐をすることがあった。場面 排尿については登下校時、排便については家庭で保護者が介入をした。介入 排尿については、尿失禁が起こっていないその他の場面と同じ布パンツに変更した。排便については、拒否行動を起こさずトイレでの排便経験をし、排便することで好子が得られる方法を2つ提案し、保護者の選定により、浣腸の実施による短時間の着座と確実な排便の誘導、排便後の好子の提示を実施した。行動の指標 週あたりの登下校時の尿失禁と、家庭での排便の成功と自発の生起率、排便時の浣腸の使用頻度を指標とした。結果 保護者による支援が実行され、トイレでの排尿・排便が定着し意思表示も増加した。結論 保護者の実行可能性に基づいた支援計画が支援の実行を促し、排尿・排便の確立に繋がった。
著者
藤 健一
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.22-30, 1987-03-31 (Released:2017-06-28)

日常行動の行動分析の試みとして, 写真の撮影行動をとりあげた。今回, 分析の対象としたのは, 著者が研究場面で遭遇する日々の出来事, 例えば実験装置の製作, 各種のトラブルなど, 研究日誌の記事に該当しそうな出来事を撮影するという, 著者自身の撮影行動であった。この撮影行動がいかなる要因の統制を受けていたかを推定するために, 1984年4月2日から1985年3月30日までの363日間に撮影された写真記録の事後分析を行った。その結果, (1)使用したフィルムは, 36枚撮フィルムが11本, 24枚撮フィルムが6本, 12枚撮フィルムが20本であった。(2)1日あたりの平均撮影枚数は, 装填していたフィルムの長さ(何枚撮かということ)によって異なっており, 36枚撮で4.5枚, 24枚撮で5.3枚, 12枚撮で2.0枚であった。(3)累積撮影枚数曲線の目視分析から, 撮影行動は写真のプリントのできあがりを強化事象とする固定比率強化スケジュールの支配を受けていたと推定された。
著者
友永 雅己 藤田 和生
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.51-60, 1989-03-31 (Released:2017-06-28)

累積記録をNECのPC-9801シリーズパーソナルコンピュータのCRT画面にリアルタイムで描くBASICプログラムを作成した。このプログラムは一組のサブルーチンから構成されており, 行動実験制御用の主プログラムにこれらのサブルーチンをマージして使用するものである。適切な時間に適切なサブルチーンを呼びことによって, N88-BASICがサポートしていないインターバル割り込み処理を用いることなく累積記録のリアルタイム表示を可能にしている。
著者
望月 昭 野崎 和子 渡辺 浩志 八色 知津子
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-20, 1989-03-31 (Released:2017-06-28)

4名の精神遅滞を伴う成人聾者を対象として, 4種の「表情画」(「かなしい」「おこる」「うれしい」「ふつう」), 対応する「サイン」, および「文字」の3者間の等価関係の獲得訓練を条件性弁別課題を用いて試みた。対象者のうち, 2名は「サイン」-「表情画」, 「文字」-「表情画」の2種の条件性弁別課題における選択行動を強化した結果, 「サイン」-「文字」課題と表出課題については, 直接訓練することなしに獲得することができた。他の2名については, 「サイン」-「表情画」課題に引き続き行われた「文字」-「表情画」課題の獲得が困難であり, 「サイン」-「文字」課題について直接訓練したところ, 他の課題についても完成することができた。表出への転移は, 4名の対象者ともに書字あるいはサインのいずれかで, 弁別訓練中に使用した表情について行うことができたが, 新たな人物の表情写真あるいは生きた人物の表情に対する表出の般化は, 直後のテストでは4名中2名で認められた。また, 訓練の脈絡を離れた場面で4名中2名について獲得した語彙を表出したことが報告されたが, 場面に適した使用が認められたのは1名のみであった。
著者
杉本 任士
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.58-66, 2021-10-25 (Released:2022-10-25)
参考文献数
11

研究の目的 小学校2年生の給食準備・片付け場面において相互依存型集団随伴性による学級規模での介入を行うことによって、学級全体の給食準備・片付けに要する時間が短縮するか検証することを目的とした。研究計画 場面間マルチプルベースラインデザインと基準変更デザインの組み合わせを用いた。場面 公立小学校の通常学級2年生1クラスの給食準備ならびに給食片付け場面であった。参加者 公立小学校2年生の通常学級に在籍する児童25名(男子16名、女子9名)であった。独立変数の操作 強化基準を段階的にあげながら相互依存型集団随伴性による介入とバックアップ強化子の提示を行った。行動の指標 給食準備ならびに給食片付けに要する時間であった。結果 介入期ではベースライン期と比較して、給食準備ならびに給食片付けに要する時間の合計が、約18分から約13分へ約28%短縮された。結論 学級規模での相互依存型集団随伴性による介入とバックアップ強化子を提示することによって、学級全体の給食準備ならびに給食片付けに要する時間の短縮に効果があることが示唆された。手続きなどの社会的妥当性が示された。
著者
髙野 愛子
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.2-11, 2021-10-25 (Released:2022-10-25)
参考文献数
14

研究の目的 本研究ではじゃんけんの手に対する勝敗判断課題を用いて、勝敗の判断基準に関する言語教示を与えることなく、伸ばされた指の本数がより多い手を勝ちとする勝敗判断を形成することを通じて、通常のじゃんけんに応じた勝敗判断を維持する強力な刺激性制御を減衰させる変数を探索した。研究計画 提示された2つ、または3つの手から勝ちまたは負けとなる手を選択する課題を用いた。訓練中の反応、および訓練前後に実施したテストにおける反応から訓練の効果を検討した。場面 個別実験として実施し、ノートパソコンを用いた。参加者 大学生8名が参加した。独立変数の操作 3つのじゃんけんの手のうち異なる2つが提示される二択条件と、これら3つ全てが提示される三択条件を導入した。行動の指標 1試行で提示された手のうち、伸ばされた指の本数がより(最も)多い手を勝ち、少ない手を負けとする反応を正反応と定義し、正反応率を測定した。結果 二択条件において、三択条件の導入前は正誤のフィードバックを提示しても正反応率の上昇が見られないか、一度上昇してもテストでは維持されず下降した。一方、三択条件の導入後は正反応率が上昇し、テストにおいても高水準で維持された。結論 じゃんけんに応じた勝敗判断を維持する刺激性制御は強固であるが、3つのじゃんけんの手から勝ちまたは負けの手を1つだけ選択する課題を提示することで、その制御が減衰することが示唆された。
著者
平澤 紀子
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.274-280, 2020-03-20 (Released:2021-03-20)
参考文献数
24
被引用文献数
1

対象者の行動問題の低減から生活の質の向上への転換を示したポジティブ行動支援は、学校教育に適用される中で、対象者に支援を行う支援者への支援の枠組みとして進化している。本特集号は、このような学校規模ポジティブ行動支援の機能を確立する方向で、わが国のコンテンツと研究に必要な要素を明らかにし、検証している。こうした検討は学校教育にどのように貢献するだろうか。PBSの焦点に照らすと、既存の学校システムを機能化し、学校教育を向上させるといえる。それも、学校規模の指標の検討により、成果拡大への循環をもたらす。一方、コンテンツの方向性や実効性にかかわる課題も指摘した。
著者
平澤 紀子 藤原 義博 山本 淳一 佐囲東 彰 織田 智志
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.108-119, 2004-06-30 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

近年の応用行動分析学では、発達障害児者の行動問題を解決するために、積極的行動支援(PositiveBehavioral Support)に代表されるように、行動問題を減らすだけでなく、QOLの向上を積極的に目指していこうという動きがある。そのために、日常場面においては、行動分析学を提供する人と対象者に直接支援を行う人々との協働を前提としているが、その成果は関与する個人や環境の対応能力に委ねられているという指摘にとどまっている。そこで、本論文では、教育・福祉現場において積極的行動支援に基づく実践が行動問題の減少だけでなく、適応行動の増加を実現し、それを継続し拡大するためには何が必要かを明らかにすることにした。そのために、積極的行動支援の2つの基準とともに、実践上の課題を提示している2つの事例を検討し、そのことを通して、どのように積極的行動支援を進めることが有効か、また、その際の課題は何かについて考察した。
著者
松本 明生 大河内 浩人
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.20-31, 2003-04-20 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

本稿の目的は、実験的人間行動分析で行われたルール支配行動に関する研究を展望することである。主な結果は以下の通りである。(a)教示は反応の効率的な生起には有効であるが、随伴性の変化に対する感受性を低減させる。(b)教示に抵触する随伴性は、教示に従う反応を消失させる。(c)教示とスケジュールが一致する履歴は教示に従う反応を促進する。(d)自己ルールに対する随伴性が人工的にプログラムされていないなら、自己ルールと非言語反応には相関関係がある。(e)自己ルールが形成されるとともに、非言語反応はそのルールに連動するが、より弁別性の強い強化スケジュールに抵触するルールの場合、非言語反応は連動しない。(f〉自己ルールと非言語反応との連鎖を強化することによって、自己ルールと非言語反応との相関関係が生まれる。考察では今後のルール支配行動研究の方向性について、社会的随伴性という観点から論じた。
著者
澤 幸祐
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.158-164, 2021-03-25 (Released:2022-03-25)
参考文献数
20

徹底的行動主義に基づく行動分析学と、方法論的行動主義に基づく学習心理学は、多くの共通点を持つ関連領域でありながらも、なお無視できない相違がある。そこで本稿では、徹底的行動主義と方法論的行動主義を接続するために、行動分析学が重要視する「行動の予測と制御」と「環境と行動の関数関係の特定」という問題に注目する。制御理論や機械学習といった他領域での議論を援用して、行動の予測と制御という目的のためにどのような関数関係を検討するべきかを検討し、方法論的行動主義の研究が、そうした関数関係の研究にどのような示唆を与えうるかを議論する。
著者
赤根 昭英
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.49-60, 1995-06-15 (Released:2017-06-28)

知的障害を持つ2名の生徒に、1000円未満の買い物ができるように教授した。それまで、生徒らは、10円を超える金額の支払や、2桁の金額の読み書きができなかった。教師(筆者)の自作による「計数板」という教具を使用し、硬貨の計数を訓練した。さらに「計数板」を補助具として用いて、実際に買い物をさせた。その結果、スーパーマーケットのレジスターの金額表示を見て支払ったり、菓子屋の店主が言った金額を聞いて支払ったりすることができるようになった。また、彼らが買い物をしていることを、店の人や周りの買い物客に知らせるようにすることで、児童が買い物をしやすい環境ができただけでなく、障害児に対する周囲の人々の理解を促すこともできた。さらに、彼らが学校で買い物ができるようになると、親たちも家庭で彼らの買い物を試みるようになった。算数指導という教授の文脈からも、地域生活の為の準備としても、教室から出て現実の社会場面で実際に硬貨を使う事は有効であると考えられる。
著者
仁藤 二郎 奥田 健次
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.80-91, 2013-02-20 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
5

研究の目的 本研究では、嘔吐不安を訴えて来院したひきこもり男性に対して、食事量を指標として、精神科デイケアを利用したエクスポージャーを実施し、その効果を検討することを目的とした。研究計画 基準変更デザインを用いた。場面 精神科クリニックのデイケアにおいて介入を実施した。被験者 介入開始時19歳のひきこもり男性で、特定の恐怖症と診断されていた。介入 標的行動は、「昼食を一定量食べ、その後13時から15時までのデイケアプログラムに参加、あるいは見学する」こととした。基準1では食事量300gを、基準2では400gを目標として、それらの目標を達成するまで、あるいは昼食時間が終了する13時までは食事の部屋にとどまるという取り決めを行った。昼食時間が始まって30分経過しても目標に達しない場合には、もう少し食べるよう口頭で促した。行動の指標 食事量を測定した。結果 基準1では300gを、基準2では400gを食べられるようになった。また、その効果はそれまで対象者が一度も経験したことがなかったデイルーム場面や外食場面にも般化した。結論 嘔吐不安を訴える男性に対して、不安そのものへの介入ではなく食事量を指標としたエクスポージャーの適用が有効であった。