著者
井垣 竹晴
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.29, no.Suppl, pp.174-187, 2015-03-31 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

シングルケースデザイン(Single-Case Designs: SCD)は、少数個体のデータをもとに独立変数と従属変数間の因果関係の検討を行う実験法のひとつである。SCDを利用した研究において、個々の行動は、独立変数のある場合とない場合の両方において繰り返し測定される。SCDは、群間比較法(つまりランダム化比較試験)に比べ、迅速にまた柔軟に独立変数の操作を行うことができるという重要な利点を持つ。しかしながら現在の実験心理学研究においては、群間比較法が、因果関係を検討するゴールデン・スタンダードとみなされ、SCDは実験法として正当な評価を受けているとは必ずしも言えない。しかし近年、国外ではSCDに関する関心がさまざまな領域で高まりつつある。本論文では、SCDの歴史や国内外の現状について述べ、SCDの普及や発展のために必要とされる諸点についての展望をレビューする。併せてエビデンスに基づく実践の運動や、SCDの基準作成についての研究にも触れる。
著者
山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-39, 1994-12-25 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
2

Stimulus equivalence has been used as a framework for analyzing linguistic and cognitive functions of human behavior. In this paper, I review recent research on stimulus equivalence. First, I describe how linguistic and cognitive functions may be explained as stimulus-stimulus relationships from the perspective of behavior analysis, and how conditional discrimination can produce derived stimulus relationships, such as stimulus equivalence. Various aspects of linguistic function, such as semantics, syntactics, pragmatics, and a variety of verbal response repertoires, have been analyzed using the stimulus equivalence paradigm. Stimulus equivalence analysis has also been applied to the sutudy of cognitive function, such as concept formation, the hierarchical structure of meaning, and inference. Recent issues in research on nonhumans, the effects of the naming response, and methodological problems are also discussed. Finally, higher-ordered conditional discrimination and relational frames are examined in terms of expansion of the theory and applicability of the paradigm.
著者
松山 康成 三田地 真実
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.258-273, 2020-03-20 (Released:2021-03-20)
参考文献数
25

研究の目的 本研究の目的は、高等学校における学校規模ポジティブ行動支援(School-Wide Positive Behavior Support)の特に第1層支援の効果について検討することである。研究計画 ABCBCDEデザインが用いられた。場面 公立の高等学校において実施された。参加者 高等学校の在校生734名、教員54名であった。介入 学校における目標行動を生徒と教員にリマインドするためのポジティブ行動マトリクスを作成し校内に掲示した。それに加えて目標行動を実行した生徒へのフィードバックを与えるために、GBT (Good Behavior Ticket)およびPPR (Positive Peer Reporting)の両手続きを導入した。前者は、教員によって提示され、後者は生徒によって提示された。行動の指標 問題行動を示した生徒への懲戒件数および目標行動が生起した数を得るためにGBTカードとPPRカードの数を用いた。結果 SWPBS第1層支援(ポジティブ行動マトリクスの掲示、GBTおよびPPR手続きの導入)により、懲戒件数は減少することが示された。結論 SWPBSにおける第1層支援の介入として、ポジティブ行動マトリクスの掲示とGBTおよびPPRの手続きの適用が有効であることが示された。しかし、今回の第1層支援の方略だけでは、問題行動を示す生徒が残されていたため、第2層支援、第3層支援に位置づけられるようなより高密度で個別的な介入が必要であると考えられた。
著者
佐藤 晋治 武藤 崇 松岡 勝彦 馬場 傑 若井 広太郎
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.36-47, 2002-03-30 (Released:2017-06-28)

(1)研究の目的 点字ブロック付近に置かれた迷惑車両に対する警告だけでなく、適切な場所へ駐輪するというルールに従う行動に対する強化も焦点化したポスターを掲示することの効果を検討した。(2)研究計画 場面間多層ベースライン・デザインを用い、ベースライン、介入、プローブを実施した。(3)場面 A大学図書館、講義棟付近の点字ブロック周辺。(4)対象者 主に上記の場所を利用する学生、職員。(5)介入 不適切駐輪の定義とその防止を呼びかける内容のポスターと、1週間ごとの不適切駐輪台数のグラフとその増減に対するフィードバックを付したポスターを上記の地点に掲示した。(6)行動の指標 点字ブロック付近に置かれた迷惑駐輪車両の台数。(7)結果 介入を実施した5地点のうち4地点では、不適切駐輪台数は減少した。しかし、残りの1地点ではむしろ増加傾向にあった。また、駐輪スペースの利用者に対する事後調査の結果から、介入方法や結果の社会的妥当性が示された。(8)結論 不適切駐輪台数の増減に対するフィードバックを表示したポスター掲示は不適切駐輪台数を軽減させたが、その効果は明確なものではなかった。今後はより効果的な介入方略の検討とともに、物理的環境の整備も必要である。
著者
根木 俊一 島宗 理
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.59-65, 2010-01-30 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
2

目的合気道の技の一つである"座技呼吸法"の指導における行動的コーチングの有効性について検討した。研究計画参加者間の多層ベースライン法を用いた。場面大学内の道場にて訓練セッションを行った。参加者合気道部の女子学生3名が初心者として参加した。介入課題分析により"座技呼吸法"を5つの下位技能として定義し、モデリング、順行連鎖化、言語賞賛による分化強化の組み合わせにより指導した。行動の指標各試行において5つの下位技能それぞれの生起/非生起を記録し、0-5点で得点化した。社会的妥当性を検討するために参加者に聞取り調査を実施した。また外的妥当性を検討するため、第三者に訓練前後の参加者の技を観察し、評定してもらった。結果訓練により、全参加者において得点が上昇した。社会的妥当性、外的妥当性についても確認できた。結論これまで球技や水泳などで確認されていた行動的コーチングの有効性が合気道という武道においても示された。
著者
清水 裕文
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.77-82, 2004-06-30 (Released:2017-06-28)

本稿では、行動分析学研究に掲載された心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関するスペイツ氏の英語論文(Spates & Koch, 2003)を日本語で要約した。原文では、「エキスポージャー療法」と「眼球運動による外傷的記憶の脱感作と再体制化を行う技法(EMD/R療法)」に共通する治療メカニズムについて言及している。原文を読む前、あるいは後に本稿を読んでいただいたとき、少しでも本稿がお役にたてば幸いである。
著者
島宗 理
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.4-14, 1999-10-30 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

組織行動マネジメント(Organization Behavior Management)は応用行動分析学の一領域であり、組織の問題を効果的かつ効率的に解決する行動的テクノロジーの開発を目的としている。本論文では、その歴史と現状を簡単に紹介し、最近の研究の動向などから、これからの課題について論じる。
著者
坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1-2, pp.88-108, 1997-06-30 (Released:2017-06-28)

実験的行動分析における行動経済学の成立過程とその代表的実験を挙げながらこのアプローチの考え方を述べ、選択行動の研究をめぐるこの学の貢献と今後の問題を検討する。行動経済学は心理学と経済学の共同領域として生まれた。しかし、この学がミクロ経済学が蓄積してきた経済理論とその予測を、実験的行動分析における選択行動の実験結果に適用して理論の実証を行ってきたこと、経済学が培っていた諸概念を新しい行動指標として活用していったことから、それまであった伝統的な経済心理学とは異なる道を歩んだ。ミクロ経済学には、最適化と均衡化という2つの考え方がある。それぞれの主要な分析道具である無差別曲線分析と需要・供給分析から導出される予測や概念、例えば効用最大化・代替効果・労働供給曲線・弾力性は、個体の選択行動の様々なケース、例えば対応法則、反応遮断化理論、実験環境の経済的性質などへの行動経済学からの視点を提供してきた。今後、行動生態学、行動薬理学、実験経済学といった諸領域との連携をとりながら、実験的行動分析における独自の枠組みの中での均衡化と最適化の原理が検討されていく必要がある。
著者
出口 光
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.48-60, 1988
被引用文献数
1

行動修正という分野が存在するためには, 社会的に重要な行動修正の実践を行動修正家に力づけるためのコンテクストが必要である。このコンテクストとして, 人間は「行動存在の場」であるという人間観と, その行動は徹底的に環境の随伴性によって制御されるという立場をとることが有効である。さらに, このコンテクストを基礎に, 社会的に機能するレベルの行動修正を確立するために, 行動修正家を取り巻く環境随伴性とその随伴性を変容するための自己環境変容スキルについて分析する。さらに行動修正の価値を, 社会的妥当性に関する言語行動の分析によって考察する。本論文は, 行動修正を存在させ, 行動修正家を力づけるコンテクストに関して, ひとりの行動修正家の視点から一貫した考え方を述べる。
著者
武藤 崇
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.144-157, 2021-03-25 (Released:2022-03-25)
参考文献数
72
被引用文献数
3

本稿の目的は、機能的文脈主義が創出されるまでの経緯を記述することによって、その概念の成立に寄与したいくつかの文脈を明確化することであった。本論文の構成は、1)Pepper(1942)のルート・メタファーの概観、2)機能的文脈主義が創出されるまでの経緯(1980年頃から1993年頃まで)の記述、3)1993年以降の機能的文脈主義に関する論文動向の記述、4)機能的文脈主義とその関連諸概念との関係性に関する俯瞰図の提示であった。1)~4)の検討によって、機能的文脈主義の創出に寄与した文脈として、a) 1980年代の行動分析学がもっていた「普遍主義」と「要素主義」という問題、b)行際心理学との比較、c)実験的行動分析と応用行動分析との連携不足、d)コミュニティに関する応用を可能にする枠組みの弱さが示唆された。
著者
丹野 貴行 坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.109-126, 2011-02-02 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

Herrnstein(1961)のマッチング法則の発見からこれまでの半世紀の間、微視と巨視をめぐる論争は行動分析における重要な課題の1つであると認識されてきた。本稿ではこの微視-巨視論争を3つの論点に分類・整理し、そこからこの論争の今後の展望を探ることを目的とした。1つめの論点は"強化の原理"であった。行動を制御しているのは、行動と強化の間の微視的な接近性だろうか、あるいは反応率と強化率の間の巨視的な相関性だろうか。2つめの論点は"分析レベル"であった。反応-強化間の関数関係を適切に記述するには、単一の反応と単一の強化という微視的な関係を用いるべきだろうか、あるいは反応率と強化率という巨視的な関係を用いるべきだろうか。そして3つめ論点は"行動主義"であった。ここ20年の間にpost-Skinner的な行動主義がいくつか提案されてきたが、本稿ではそれらを機械論とプラグマティズム、あるいは動力因的説明と目的因的説明といった対立軸から、微視的行動主義と巨視的行動主義とに分類・整理した。ここでの問題は、どちらの行動主義がより生産性のある行動の科学を導けるかということである。我々はこれら3つの論点をまとめ、そこから微視-巨視論争の今後の方向性を論じた。
著者
望月 要 佐藤 方哉
出版者
日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.42-54, 2003-04-20

本稿は行動分析学の立場から"パーソナリティ"の概念的分析と実証的研究の展望を試みたものである。従来、人間の個体差を示すパーソナリティ"という概念は、個体の内部にあって、その人間の行動を決定する仮説構成体と考えられてきた。この定義は現在でも広く用いられているが、言うまでもなく、行動の内的原因を排除する行動分析学からは容認できない。しかし、"パーソナリティ"について行動分析学の立場から新たな定義を与えることは不可能ではない。本橋ではパーソナリティ"に対して「特定個人の行動レパートリーの総体」という定義を、まだパーソナリティ特性"に対して「個人において安定している共通の制御変数によって制御されるレスポンデントおよびオペラントのクラス」という行動分析学的な定義を提案し、これに基づいてパーソナリティ特性"の概念的分析を行なうとともに、行動分析学的立場から行なわれた幾つかの実証的研究について展望を試みた。行動分析学は行動を制御する主要な制御変数の探求を完了しつつあり、今後は、制御変数間の相互作用の分析に力を注ぐべき段階にさしかかっている。制御変数の相互作用を解明するとき、同一環境下で発生する行動の個体差は研究の重要な糸口となり、その意味においても行動分析学における個体差研究の意義は大きい。
著者
松田 壮一郎 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.92-101, 2019-02-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
44

研究の目的 広汎性発達障害(PDD)児のポジティブな社会的行動へユーモアを含んだ介入パッケージが及ぼす効果を検証した。研究計画 ベースライン期と介入期のABAB反転デザイン法を用いた。場面 大学内プレイルームでの自由遊びを対象に実験が行われた。参加児 特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)男児(5歳5ヶ月) 1名が参加した。介入 (a)触覚ユーモア、(b)聴覚ユーモア、(c)視覚ユーモア、(d)からかいユーモア、(e)強化の遅延、(f)拡張随伴模倣、によって構成される介入パッケージを導入した。行動の指標 参加児のアイコンタクト、笑顔、及びアイコンタクト+笑顔の生起率を部分インターバル法により記録した。結果 介入パッケージを導入している間、アイコンタクト、笑顔、及びアイコンタクト+笑顔、全ての生起頻度がベースラインに比べて増加した。結論 ユーモアを含んだ介入パッケージは遊び場面におけるASD児のポジティブな社会的行動の頻度増加に効果があった。