著者
島宗 理 磯部 康 上住 嘉樹 庄司 和雄
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.46-62, 2000-02-29 (Released:2017-06-28)

都内のある小規模ソフトウェア開発会社において、営業担当者の企画提案を支援する"企画提案思考ツール"を開発し、その効果を検討した。企画提案思考ツールは新聞や雑誌などに掲載された情報処理サービスの記事について以下の質問に答えていくジョブエイドとして開発した。(1)対象となる顧客は誰か、(2)顧客のニーズは何か、(3)ニーズを満足させる技術は何か、(4)これまでの技術と異なるところはどこか、(5)どのように販売しているか。そして、(6)顧客、(7)技術、(8)販売方法のうち、どれか一つを変化させて自分なりの提案を作るように要求された。最初に、5人の営業担当者に対して企画提案思考ツールを導入し、週間営業ミーティングでの口頭発表が向上されることを確認した。その後4か月間、企画提案思考ツールへの適切な記入行動をファックスと電子メールとを使って遠隔より支援した。さらに別の5名の社員に対し、最長は1年間以上にわたり、今度はファックスと電子メールのみを使って遠隔より企画提案思考ツールの正確な使用を訓練し、継続的な利用を促進した。企画提案という複雑な言語行動の自発が比較的簡単なジョブエイドで導くことができること、そしてジョブエイドの継続的な利用を遠隔から支援できることが示された。
著者
山岸 直基
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1-2, pp.2-17, 1998-07-10 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

直前の反応と異なる反応を分化強化するとき手続きが行動の変動性に及ぼす効果を大学生を対象に調べた。実験1と実験2において1反応の単位としてそれぞれ2反応系列と3反応系列を使用した。行動の変動性は、(a)分化強化するために参照される直前の反応の数が系統的に変化する分化強化条件と、(b)分化強化条件と強化率の等しい、被験者内および被験者間の2つのヨークト条件において比較された。その結果、どちらの実験においても、分化強化条件では、行動の高い変動性と直前の反応と異なる反応の出現数が高い頻度で確認され、ヨークト条件では、行動の変動性は低く、直前の反応と異なる反応の出現数も少なかった。また、参照される直前の反応の数が1のときよりもそれ以上のときに、より大きな変動性が観察された。本実験の結果より、直前の反応と異なる反応を分化強化する手続きによって直前の反応と異なる反応の出現数が増加し、その結果として、行動の変動性が増加することが示された。
著者
嶋崎 まゆみ
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1-2, pp.29-40, 1997-06-30 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

セルフコントロールのパラダイムを用いた選択行動の研究は、近年動物や健常者の基礎研究が盛んに行われているが、発達障害児を対象とした研究はきわめて少ない。注意欠陥多動性障害および自閉性障害の子どもたちは、多動性と衝動性を主要な症状として持っている。したがって、そのような子どもたちの衝動性とセルフコントロールに関する実験的な研究は重要であろう。本稿では、それらの研究を次の2つの観点に基づいて概観した。すなわち、(1)衝動性の測定と評価に関する研究、(2)セルフコントロールの研究から得られた訓練手続きに関する研究である。さらに、発達障害児にセルフコントロールのパラダイムを適用する際の問題点について論議した。主な論点は、言語教示に関する問題、強化子の査定、満足の遅延パラダイムとの関係の3点であった。
著者
大河内 浩人
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.118-129, 1997-03-20 (Released:2017-06-28)

17名の大学生を、最少教示-標準FI群、最少教示-修正FI群、正教示-標準FI群、正教示-修正FI群の4群のいずれかにランダムにふりわけ、多元定比率低反応率分化強化(mult FRDRL)スケジュールの後に多元定間隔定間隔強化(mult FIFI)スケジュールを行った。最少教示条件の被験者には反応率に関する教示をしなかった。正教示条件の被験者には、FR成分のときにすばやく反応する、DRL成分のときに間隔をあけて反応するように教示した。標準F1条件の被験者には、mult FIFIで、一定量の強化子を与えたのに対し、修正F1条件の被験者には、インタバル中に自発された反応数に応じて強化量を変えた。Mult FR DRLでは、全被験者がFR成分で高率、DRL成分で低率の反応を示した。最少教示-標準FI群の4名中3名のmult FIFIでは、かつてFRスケジュールと相関のあった刺激下での反応率がDRLと相関のあった刺激下でのそれよりも高かった。このような履歴効果の刺激性制御は、最少教示条件より正教示条件で顕著だった。教示の効果は、反応量と強化量の相関の影響を受けなかった。教示性制御に影響すると考えられる変数について論じた。
著者
中野 良顯
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.172-177, 1996-08-15 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

「実践研究の方法と課題」で論ずべき主題を考察した。実践研究の概念を分析すると、臨床心理学の訓練の理想的範型、サイエンティスト・プラクティショナー・モデルに到達する。このモデルが目指すのは、消費者・評価者・研究者の3役割を統合する生産的研究者、分析的実践家の育成である。個体分析法によって臨床実践の実験科学化を可能にした応用行動分析は、このモデルの使命を実現する最も正当な継承者である。それは実践の科学化を可能にするための7指令に、社会的妥当性と効果的処遇を受ける権利という新しい次元を加え、研究者と実践家の行動指針とした。これらの指令は、研究者はどうすれば実践の問題に関連深い研究を展開できるか、実践家はどうすれば科学的方法論を駆使して伝達可能な情報を生み出せるか、科学に基づく実践を受益者に好かれる実践にするにはどうすればいいか、そして緊急に解決すべき問題を持つ人々が問題の改善に有効な介入を受ける権利をどうずれば保障できるか等の基本的課題への試案的回答として提出された。それらは日々の実践研究において反復検討され、十分吸収活用され、一層発展させられなければならない。
著者
畔上 恭彦
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.154-164, 1996-08-15 (Released:2017-06-28)

臨床において、コミュニケーション場面での子どもの行動の変化を捉えると同時に、その行動の意図、例えば、人に視線を向けたという行動だけなく、子どもの視線の奥の「まなざし」の意図を理解するということが重要な意味を持つ。このような観点からINREALでは、コミュニケーション分析を行い、これを通して、話し手・聞き手はどのように『会話の原則』に従ったかを検討する。今回、自閉的傾向のある発達遅滞児とのプレイ場面において、INREALの『会話の原則』に従ったコミュニケーション指導を行ったところ固執と思われていた行動が、人との関わりの接点となり、大人と子どもとのやり取りへと変化していった。大人が意味のあるコミュニケーションを行うために『会話の原則』を守ることの重要性が示唆された。この『会話の原則』を守っているかどうかは、臨床場面の録画ビデオを検討することで確認できる。
著者
坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.131-137, 2004-06-30 (Released:2017-06-28)

久保田新ら(2003)による魅力的でずっしりとした教科書は、感覚と知覚から人間の発達にわたる心理学的現象を考察するための、様々な視点を私たちに与えてくれる。この本は、この理由から臨床及び医療分野の学部学生、心理学専攻の大学院生に強く推薦できるが、特に行動分析家へは、自らの徹底的行動主義の哲学的基盤を著者のそれとつきあわせるために推薦できる。随伴性の概念と有名な誤信課題であるサリーとアンの課題の問題が著者の用法に基づいて詳細に議論された。
著者
中島 定彦
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.160-176, 1995-06-15 (Released:2017-06-28)
被引用文献数
1

多くの動物(ヒトを含む)研究が見本合わせ手続きまたはその変法を、記憶(想起行動)、注意、概念、刺激等価性の研究法として用いてきた。この論文の前半ではそれらの手続きを、実験者が動物に要求する行動という観点から、選択型見本合わせ、Go/No-Go型見本合わせ、Yes/No型見本合わせの3つに分類した。見本合わせ手続きはまた、第1標準見本刺激と第2テスト比較刺激との対応関係から、同一見本合わせ、象徴見本合わせ、非見本合わせに分類できる。さらに、見本刺激と比較刺激との時間的関係から、同時見本合わせと遅延見本合わせに分類される。論文の後半では、見本合わせ手続きの多くの変法を、この手続き内で生じる出来事の系列に沿って分類した。
著者
瀬口 篤史
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.52-60, 2020-08-20 (Released:2021-08-20)
参考文献数
10

研究の目的 本研究は、加害恐怖を主訴として来院した高齢のクライエントに対して、買い物に関連する行動の生起頻度等を指標として、曝露反応妨害法による介入を行い、その効果を検討することを目的とした。研究計画 行動間マルチベースラインデザインを用いた。場面 精神科クリニックにおけるカウンセリングルームと近隣の店で実施した。参加者 介入開始時72歳の女性で、強迫性障害と診断されていた。介入 セッション中に、コンビニや薬局に入店し、素手で商品を手に取るよう求めた。その後、セッション中に、駐車されてある車のすぐ傍を一人で通るよう求めた。行動の指標 スーパーやコンビニ、薬局等に入店した累積頻度、店内で購入した商品数、新聞を読んだページ数、一人で自宅から店まで徒歩で行った累積頻度、確認の電話をかけた頻度を指標とした。結果 スーパー等に入店した累積頻度、購入した商品の数、新聞を読んだページ数、一人で自宅から店まで徒歩で行った累積頻度はいずれも増加した。また、確認の電話をかけた頻度は減少した。結論 本事例で行った介入が、加害恐怖を訴えるクライエントの行動レパートリーを増やすために有効であることが示された。
著者
青木 康彦 野呂 文行
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.2-10, 2020-08-20 (Released:2021-08-20)
参考文献数
16

研究の目的 本研究では、発達障害児2名を対象に80回の随伴ペアリングを実施し、称賛が条件性強化子として成立し、維持するかを検討した。場面 大学のプレイルームで行った。対象児 発達障害のある幼児2名であった。行動の指標 “両手合わせ”、“ハイファイブ”の生起頻度であった。研究計画 “両手合わせ”にABCBデザイン、その後、コメントの条件性強化子成立、維持を検討するため、“ハイファイブ”にABデザインを用いた。介入 標的行動に随伴させて日常生活で聞くことが少ないコメント(中性刺激)を称賛として与え、同時にお菓子(強化子)を対提示した。結果 2名中2名で随伴ペアリング前の称賛期よりも随伴ペアリング後の称賛期において“両手合わせ”の生起頻度が多かった。また、2名中1名において随伴ペアリング期後の称賛期において“両手合わせ”の生起頻度は高頻度で6ブロック維持し、随伴ペアリングを行っていない“ハイファイブ”においても、消去期よりも称賛期において生起頻度が多かった。結論 80回の随伴ペアリングにより2名中2名で称賛コメントが条件性強化子として成立し、2名中1名で称賛コメントの条件性強化子の強化価が維持するものであった。
著者
坂上 貴之
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.92-105, 2002-03-30 (Released:2017-06-28)

行動分析学における行動経済学は、4つの研究の流れ、すなわち摂食行動についての生態学的アプローチ、伝統的経済心理学研究とトークンエコノミーでの経済分析、強化相対性についての量的定義の追求、そしてマッチングの法則の展開、から形成された。それは、強化の有効性についての新しい指標、実験.条件の手続き的理論的区別、選択行動の最適化理論という3つの主要な成果をもたらした。この最後のもっとも影響のある成果は徹底的および理論的行動主義に対する別の選択肢としての目的論的行動主義を促した。が、同時にそれは経済学から限定合理性と不確実性という2つの問題も引き継いだ。実験経済学と進化経済学はこれらの問題を克服しようとする2つの候補であり、両者ともその実験的理論的枠組みとしてゲーム分析的なアプローチを利用している。特に後者は行動分析にとって魅力ある研究領域である。なぜなら、それは限定合理性を含んだ進化ゲームと、生物学的枠組みとは異なる進化過程の多様な概念的アイデアを提供するからである。
著者
河村 優詞
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.71-77, 2019

<p><b>研究の目的</b> 特別支援学級の児童における漢字の筆記学習において、自己評価・他者評価が正確な書字行動に及ぼす影響を検証した。<b>研究計画</b> ABACフォローアップおよびABフォローアップデザインを用いた。<b>場面</b> 小学校内の特別支援学級の教室で授業として実施した。<b>参加者</b> 特別支援学級に在籍する児童(N=5)であった。<b>独立変数の操作</b> 自己評価の有無(介入Ⅰ)、および自己評価・教師評価とその一致に対する評価の有無(介入Ⅱ)であった。<b>行動の指標</b> 薄い灰色の線をなぞって書くトレース課題において、線からはみ出して筆記した画数の割合を算出した。<b>結果</b> 介入Ⅰにおいて教示期でははみ出しの減少が見られなかったが、自己評価期には大きく減少した。しかし自己評価をやめると再度はみ出しが増加し、自己評価が不正確であるケースもあった。介入Ⅱでは自己評価・教師による他者評価を実施したが、1名を除き介入開始後にはみ出しは減少し、介入終了後も増加しなかった。<b>結論</b> 自己・他者評価を含む介入は現場で実践しやすく、正確な書字行動を促しうる方法であると考えられる。ただし、介入効果の小さい児童も存在していたため、教授法のさらなる改善が必要である。</p>
著者
松岡 勝彦 佐藤 晋治 武藤 崇 馬場 傑
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.25-34, 2000-09-25 (Released:2017-06-28)

研究の目的 行動コミュニティ心理学による身体障害者用駐車スペースの違法駐車の軽減を実証的に取り扱った研究知見を応用し、点字ブロックに近接して置かれた迷惑車両(自転車とバイク)に対して、注意を促すポスターを掲示することの効果を検討することを目的とした。研究計画 場面間マルチ・ベースライン・デザインを用い、ベースライン、介入、プローブを実施した。場面 A大学図書館、講義棟、研究棟駐輪場付近の点字ブロック周辺であった。対象者 主に上記の場所を利用する学生、職員(教官含む)であった。介入 不適切駐輪の定義とその防止を呼びかける内容のポスターを、図書館と講義棟に掲示した。図書館では北側入口ドアおよび南側入口ドアの2か所に、講義棟では南側入口ドアおよび西側入口ドアの2か所に掲示した。ただし、研究棟(統制用)には掲示しなかった。行動の指標 点字ブロックに近接して置かれた迷惑車両(台数)を従属変数とした。結果 講義棟では、ベースラインにおける不適切駐輪台数は、平均11.6台であった。ポスターを掲示した介入条件での平均台数は7.3台となり、プローブでのそれは平均3.8台であった。介入を行わなかった研究棟(統制条件)では、全期間での平均不適切駐輪台数は4.3台であった。ポスターを掲示した2か所(図書館と講義棟)のうち、講義棟については効果が見られたが、図書館については、さほど効果は見られなかった。結論 不適切駐輪の防止を呼びかけるポスターを掲示することにより、不適切な駐輪台数が減少した。ただし、このことはポスターを貼付した場所(建造物の機能)によって効果が異なっており、今後はより効果的な介入方略について検討する必要がある。
著者
沖中 武 嶋崎 恒雄
出版者
一般社団法人 日本行動分析学会
雑誌
行動分析学研究 (ISSN:09138013)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.22-29, 2010-09-23 (Released:2017-06-28)

研究の目的 本研究では、垂直サイン(データ付きポスター)と地面サイン(カラーテープ)が不法駐輪の防止に及ぼす効果を検討した。研究計画 ベースライン1、介入1(垂直サイン)、介入2a(垂直サインに地面サインを付加)、ベースライン2、ベースライン3、介入3(地面サイン)、介入2b(地面サインに垂直サインを付加)、ベースライン4からなるABCAABCAデザインを用いた。場面 大学キャンパス付近の歩道において実施した。参加者 当該の場所に駐輪をした者を対象とした。介入 垂直サイン(当該の場所に駐輪された台数の日々の推移を示す折れ線グラフを記載したポスター)と地面サイン(路上に貼付されたカラーテープ)を用いた。行動の指標 駐輪禁止範囲に駐輪された台数であった。結果 垂直サインと地面サインを併用することで不法駐輪台数が減少した。結論 不法駐輪台数のフィードバックと、カラーテープによる駐輪禁止範囲の明示を併用することの効果が確認された。今後は、より効果的な介入方法を検討するとともに、大学キャンパス全体を対象とするような大規模な介入の効果を検討することも必要である。