著者
小柏 香穂理
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.18-37, 2023 (Released:2023-04-21)

拙稿「模範的な大学の中期計画文書の特徴分析とメタデータの付与」(『レコード・マネジメント』、2021)において、中期計画文書の策定には、具体的な記述(戦略)とそれらの根拠となる関連データの所在や管理方法が組織化されていることが、成功事例の大学に共通する特徴であることが明らかになった。しかし、どのような意思決定過程を経て中期計画文書が策定されているのかは、これらの資料だけでは不十分である。国立大学の法人化による組織改変や、私立大学においては大学と学校法人という複雑な組織体系から、意思決定過程の複雑さが指摘されており、日本のすべての大学において、意思決定過程の最適化は重要な課題である。そこで、本稿では重要文書の公開が義務付けされている国立大学を対象に大学の事例研究を行い、入手した資料の中で、意思決定過程の記述をどのくらい読み取ることができるかを分析した。今回、認証評価受審のための自己点検評価書の記述内容に基づいて分析した結果、大学の意思決定過程の流れの概観を把握することができた。さらに大学文書館に保管されている資料の調査分析に基づき、意思決定過程の記録の具体事例を示す。
著者
古賀 崇
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.57-73, 2005-03-31 (Released:2017-03-24)

本論文は、政府活動の副産物あるいはその反映としての「政府情報」を「Continuum」ないし統一的なものとして把握し、政府活動の一局面を占める「記録管理」の意義を再確認することを目的とする。研究方法としては、政治学、法学、行政学、記録管理学、図書館情報学、アーカイブズ学といった各々の学問領域において、「政府情報」をめぐる活動がどのように把握され、どのような視点から研究や実践が行われてきたのかを検証する。また、電子的環境における政府情報の「溶解」、すなわち特定のメディア・媒体にとらわれなくなった状態を踏まえ、行政府の情報を中心とした「政府情報論」のモデルを提示する。その上で、記録管理という研究および実践領域が、「Continuumとしての政府情報」を理解する上でどのような貢献ができるか、また他の学問領域とどのような連携が可能なのか、について提言を行う。
著者
李 星洋
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.34-39, 2020 (Released:2020-12-14)

中国の档案をめぐる状況は、1987年の档案法が公布されて以降、大きく変わった。档案の保存・管理・公開などが詳細に規定された。海外の一部の研究者は、中国で档案と呼ばれるものには非常にセンシティブな情報が含まれ、それ故に档案館は単なる文書管理だけではなく、権力側で個人情報を把握する国家機関だと考えている。また、档案館は日々国民の日常生活を監視するという冷ややかな評価もある。では実際に中国の档案館はどのような機関なのか、档案管理制度はどのように制定されたのか、かかる問題点を本研究ノートで明らかにしたい。また、档案の管理と利用に関する中国の課題や中国の档案館の特徴を指摘したい。
著者
甲斐 尚人
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.19-33, 2020

<p> 多くの企業はマニュアル化などによって技術継承を試みているが、言語化が難しい暗黙知が未だに故障の原因となっていることが多い。本研究では、鉄道車両における故障事例に焦点を当て、暗黙知習得のために必要なマニュアル内の要素を明らかにした。2013年に発生した特急「北斗20号」の車両故障の分析で明らかになった「気づき」の重要性について、キャストの評価が高い東京ディズニーランドの教育用マニュアルと鉄道車両の検修マニュアルを比較した。表層上の違いとして、見出しのフォントや表現の工夫が見られた。また、表現上の違いとして文章構成や例示表現、文末表現に工夫があることがわかった。同じく2013年に発生した特急スーパーおおぞら3号のヒューマンエラーの分析では、技術者の意識の不足、経験の不足が誤った取扱いに繋がっており、マニュアル内の文と図の取り扱い方が読み手に対して誤認識を誘発する可能性があることがわかった。</p>