著者
森 顕登
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.63-79, 2015-03-23 (Released:2017-03-24)

戸籍制度は親族関係を公証する国民登録制度であるが、この制度のもとに作成される戸籍は災害のたびに存在の危機にさらされてきた重要文書の一つである。昨今の例では2011年の東日本大震災で4つの自治体の戸籍正本が滅失しているが、先の大戦でも空襲によって戸籍を滅失させた自治体が相次いだ。例えば旧東京市部では7区の戸籍が被害を受け、そのうち3区はそのすべてを滅失している。来たるべき空襲に備えて戸籍はどのように管理されていたのか。そして、滅失した戸籍はいかにして再製が図られたのか。この二つの問いの答えを得るべく、法務省民事局編『民事月報』26巻2号(1971年刊)に掲載された戸籍実務家による座談会を分析する。
著者
浜田 忠久 小川 千代子 小野田 美都江
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.3-23, 2016 (Released:2017-01-30)

我が国では2001年に情報公開法が、2011年に公文書管理法が施行され、「知る権利」を保証するために必要な法体系の整備が徐々に進みつつあった。しかし2014年に特定秘密保護法が施行され、「知る権利」の確保は大きく後退する状況となった。 本研究では、その歴史的、文化的な背景を探るために記録と公開、秘密保護の歴史を江戸時代から振り返り、諸外国、主にアジア諸国と社会的状況を比較することによって日本の現状を浮き彫りにすることを試みた。国際組織による民主化度、表現の自由に関する国際比較では、日本は2011年以降、報道の自由、中でも法的環境が悪化しており、またアジア諸国の市民意識の比較調査では、日本人は同調圧力が著しく強いことが示され、人権を制約する法改正が進んでもそれに対して強い抵抗を示さない可能性が示唆された。
著者
林 瓏
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.35-45, 2015-03-23 (Released:2017-03-24)

本稿では中国の「個人档案」を中心に、個人档案に関わる法制度、運用の現状、問題点について概説する。「個人档案」は、中国の計画経済体制下において、個人の進学や就職、昇進などに利用され、中国国民の私生活にも関わる重要なものである。よって、本稿では個人档案の重要性、新卒者の個人档案・社員档案・流動人口の档案の「移交」・保存について、事例を挙げながらその詳細を示すこととする。まず、中国の行政区画に基づいた国家档案館の階層管理方式、各階層の档案組織の役割・職責について紹介する。次に、根拠法である「中国档案法」に基づいて、個人档案の概要を示す。その後、日本と中国の戸籍制度の違いを踏まえたうえで、中国国民の就業直後から作成される「人事档案」の管理について説明する。最後に、管理制度のわかりにくさやその不透明性、また、記入標準の不足などによって生じている問題点を指摘する。
著者
下田 尊久 石橋 映里
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.76, pp.47-63, 2019 (Released:2019-03-25)

地方における民間放送会社制作のラジオ・テレビ番組作成過程で作られた原資料、とくにドラマ放映後の台本・脚本等について、社内保存の可能性を検討した。すなわち、これら資料の一次情報資源としての自社内アーカイブズの有用性と、その検証プロセスが記録管理を学ぶ学生にとって社会貢献を可能にする実務研修課題であると仮定した。そこで大学の図書館情報学課程が実施している放送脚本等を教材としたアーカイブズ構築の可能性を求める産学連携プログラムに注目した。 本研究が対象とした大学と地方企業の連携による協働プログラムでは、図書館情報学課程の学生による番組制作過程の一次資料の整理とアクセス環境整備のためのデータベース準備作業、さらに活用のためのアイデアの提供がなされていた。本プロジェクト研究は、このプログラムによる活動が、記録管理の理解と普及にとって有効であることを明らかにする試みである。
著者
大蔵 綾子
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.72, pp.30-51, 2017 (Released:2017-03-30)

公文書等の管理に関する法律が2011年に施行された。同法の残された課題の1つに国会の文書管理が挙げられる。同法第14条に基づき、国会は公文書の適切な保存のため必要な措置を講じなければならないとされる。衆参両議院は公文書管理法の施行に対応し、従来の文書管理に関する規程を改正した。当該規程において規定される「文書」には、国の行政機関と同様に電磁的記録も含まれる。国会が作成する電磁的記録のうち最も重要かつ固有なものの1つに審議の動画があり、議員の発言が記録される。審議の動画は衆参両院においてインターネットを通じて中継され、中継の終了後は各院のウェブサイトで一定期間保存される。しかし、審議の動画は数年後にウェブサイトから削除され、その後の保存状況については明らかになっていない。そのため、一般の者が審議の動画を遡及的に入手することは困難である。そこで本研究では、先進諸国のうちアメリカ、イギリス及びドイツにおける審議の録画の作成、利用及び移管について調査し比較した。その結果、これらの国では審議の録画は公文書館に移管され一般の利用に供されていることが分かった。
著者
石井 幸雄 浜田 行弘 菅 真城 松岡 美佳
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.79-100, 2012

「教育情報の公表」が義務化され、大学の見える化は確実に進んでいる。しかし、その内容は、最低限必要な情報という基準で見てもまだまだ不十分である。社会が求めているかではなく、大学が有する教育情報を積極的に提供していくかが問われているのである。本稿では、大学のホームページによる「情報公表」及び文書管理の実情について、調査・分析することにより、「教育情報の公表」を進化させるためには、どのような改善が求められるのか、その組織的・機能的な方法について検討を行い、主に文書管理の観点から大学の自主的・自律的な質保証及び教育の質的向上に資する提言を行う。
著者
大蔵 綾子
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.74, pp.23-47, 2018 (Released:2018-03-29)

公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号)が2011年に施行された。行政機関と同様に立法機関にも適切な文書管理が求められている。しかし、立法機関は公文書管理法の趣旨を踏まえどのように文書管理を行っているのか、その実態については明らかになっていない。そこで本稿では、衆参両議院事務局における文書管理の状況を明らかにすることを研究の目的とした。そのため、衆参両議院事務局が制定する文書管理に関する定めのうち、文書の定義、作成、整理、保存に関する規定について検討した。その結果、衆参両議院事務局では同法の趣旨を踏まえた規程の改正が行われているが、文書作成の義務に例外があり、集中管理は行われていないことが分かった。
著者
青木 祐一 大木 悠佑
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.77, pp.66-91, 2019

<p> 公文書管理法では、行政機関における行政文書、独立行政法人等における法人文書の管理の状況、および国立公文書館等における特定歴史公文書等の保存・利用の状況について、内閣総理大臣への報告義務が定められている(9条、12条、26条)。この規定に基づき、内閣府大臣官房公文書管理課において、毎年『公文書等の管理等の状況について』という報告書がとりまとめられ、公表されている。</p><p> この報告書は国における公文書の管理状況を集約した成果物であるが、これまであまり注目されることも、分析の対象とされることも多くはなかった。</p><p> そこでまず、この報告書から読み取れる情報、また問題とすべき論点について検討する。次に、行政文書管理の基本台帳である各省庁の「行政文書ファイル管理簿」を実際にWeb上で検索してみることによって、記載内容の実態と問題点を明らかにする。</p><p> 『公文書等の管理等の状況について』と「行政文書ファイル管理簿」という2種類の公表情報を素材として分析することで、国の公文書管理の現状を把握し、課題を明らかにした。その上で、附則13条に記された施行5年後見直しの修正がないまま、施行後8年を経過した公文書管理法と公文書管理の現状について、いくつかの論点を提示したい。</p>
著者
安澤 秀一
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.3-37, 2020

<p> 本稿の目的は、文書布達および保存にかかわる官僚制といえる「文書行政」体系が江戸期大名(藩)統治に確立していたことの提示にある。そして、いかに藩の権威が文書の真正性と信憑性を保障していたか、そのあり様を検証する。</p><p> その事例を大垣藩(現・岐阜県大垣地方)にもとめ、寛永12年(1635)から慶応3年(1869)の江戸期末まで同藩を統治した戸田家の記録を調べることで、行政行為の証拠のために記録を作成し保存する規則たる根本法のすがたを明らかにする。その法の理解により、いかなる真正性と信憑性が達成されたか見定めることができよう。</p><p> 本稿においては、大垣藩にみるような「文書行政」体系が今日の現代的記録・アーカイヴズ管理へ示唆するところがあることをも意図している。江戸期の記録書類作成の原点、証拠志向体系から学べる意義は大きい。</p>
著者
小谷 允志
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.3-19, 2015-12-15 (Released:2017-03-24)

欧米に比べ日本の記録管理・アーカイブズは、立ち後れが目立つ。なぜ日本ではこれらが根付かないのか。その要因を探り、それに対する処方箋(対策)を考えるのが本稿の目的である。ここではその要因を、日本の組織、日本社会に内在する特性に起因する、より本質的なものとして捉え、それらを、(1)"今"中心主義、(2)無責任体質、(3)合理性を欠く意思決定プロセス、の三つとした。またそれに対する処方箋(対策)を記録管理・アーカイブズに携わる者の果すべき役割として捉え、(1)記録管理・アーカイブズの重要性を説く、(2)現用と非現用をつなぐ、(3)専門職体制の確立、の三つとしている。
著者
中島 康比古
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.3-24, 2006
被引用文献数
3

レコード・コンティニュアムというレコード・アーカイブズ・マネジメントの新たな理論的枠組みが提唱されて10年。レコード・マネジャーやアーキビストのコミュニティ、特に日本のコミュニティによって共有される新たなパラダイムとはまだなり得ていない。本稿は、同理論の本質的要素を出来るだけ簡潔に提示するとともに、その枠組みにおけるrecord、archive、archivesの日本語の訳語を提示する。次に、レコード・コンティニュアム論を基盤にしてオーストラリアで作り出されたレコードキーピングの実践的方法論であるDIRKSおよびDIRKSを用いて策定される記録最終処分規準について紹介し、レコード・コンティニュアム論がレコード・アーカイブズ・マネジメントの実務に実際にどのように影響を与えているかを考察する。
著者
村岡 正司
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.39-56, 2012-05-18 (Released:2017-03-24)

公文書等は、まさに"行政ノウハウの情報ストック(=無形資産)"であり、技術力のみならずその無形資産の活用による国際競争力強化のための社会的共通資本ともいえる。本稿では、公文書等の管理は、"無形資産"をいかに活用できるようにするかの視点で、今後の自治体の文書管理改善の課題とその方策について、自治体の実情に合わせた対応方法を検討した。
著者
小柏 香穂理
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.18-37, 2023 (Released:2023-04-21)

拙稿「模範的な大学の中期計画文書の特徴分析とメタデータの付与」(『レコード・マネジメント』、2021)において、中期計画文書の策定には、具体的な記述(戦略)とそれらの根拠となる関連データの所在や管理方法が組織化されていることが、成功事例の大学に共通する特徴であることが明らかになった。しかし、どのような意思決定過程を経て中期計画文書が策定されているのかは、これらの資料だけでは不十分である。国立大学の法人化による組織改変や、私立大学においては大学と学校法人という複雑な組織体系から、意思決定過程の複雑さが指摘されており、日本のすべての大学において、意思決定過程の最適化は重要な課題である。そこで、本稿では重要文書の公開が義務付けされている国立大学を対象に大学の事例研究を行い、入手した資料の中で、意思決定過程の記述をどのくらい読み取ることができるかを分析した。今回、認証評価受審のための自己点検評価書の記述内容に基づいて分析した結果、大学の意思決定過程の流れの概観を把握することができた。さらに大学文書館に保管されている資料の調査分析に基づき、意思決定過程の記録の具体事例を示す。
著者
古賀 崇
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.49, pp.57-73, 2005-03-31 (Released:2017-03-24)

本論文は、政府活動の副産物あるいはその反映としての「政府情報」を「Continuum」ないし統一的なものとして把握し、政府活動の一局面を占める「記録管理」の意義を再確認することを目的とする。研究方法としては、政治学、法学、行政学、記録管理学、図書館情報学、アーカイブズ学といった各々の学問領域において、「政府情報」をめぐる活動がどのように把握され、どのような視点から研究や実践が行われてきたのかを検証する。また、電子的環境における政府情報の「溶解」、すなわち特定のメディア・媒体にとらわれなくなった状態を踏まえ、行政府の情報を中心とした「政府情報論」のモデルを提示する。その上で、記録管理という研究および実践領域が、「Continuumとしての政府情報」を理解する上でどのような貢献ができるか、また他の学問領域とどのような連携が可能なのか、について提言を行う。
著者
李 星洋
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.34-39, 2020 (Released:2020-12-14)

中国の档案をめぐる状況は、1987年の档案法が公布されて以降、大きく変わった。档案の保存・管理・公開などが詳細に規定された。海外の一部の研究者は、中国で档案と呼ばれるものには非常にセンシティブな情報が含まれ、それ故に档案館は単なる文書管理だけではなく、権力側で個人情報を把握する国家機関だと考えている。また、档案館は日々国民の日常生活を監視するという冷ややかな評価もある。では実際に中国の档案館はどのような機関なのか、档案管理制度はどのように制定されたのか、かかる問題点を本研究ノートで明らかにしたい。また、档案の管理と利用に関する中国の課題や中国の档案館の特徴を指摘したい。
著者
甲斐 尚人
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.79, pp.19-33, 2020

<p> 多くの企業はマニュアル化などによって技術継承を試みているが、言語化が難しい暗黙知が未だに故障の原因となっていることが多い。本研究では、鉄道車両における故障事例に焦点を当て、暗黙知習得のために必要なマニュアル内の要素を明らかにした。2013年に発生した特急「北斗20号」の車両故障の分析で明らかになった「気づき」の重要性について、キャストの評価が高い東京ディズニーランドの教育用マニュアルと鉄道車両の検修マニュアルを比較した。表層上の違いとして、見出しのフォントや表現の工夫が見られた。また、表現上の違いとして文章構成や例示表現、文末表現に工夫があることがわかった。同じく2013年に発生した特急スーパーおおぞら3号のヒューマンエラーの分析では、技術者の意識の不足、経験の不足が誤った取扱いに繋がっており、マニュアル内の文と図の取り扱い方が読み手に対して誤認識を誘発する可能性があることがわかった。</p>