著者
青木 祐一 大木 悠佑
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.77, pp.66-91, 2019

<p> 公文書管理法では、行政機関における行政文書、独立行政法人等における法人文書の管理の状況、および国立公文書館等における特定歴史公文書等の保存・利用の状況について、内閣総理大臣への報告義務が定められている(9条、12条、26条)。この規定に基づき、内閣府大臣官房公文書管理課において、毎年『公文書等の管理等の状況について』という報告書がとりまとめられ、公表されている。</p><p> この報告書は国における公文書の管理状況を集約した成果物であるが、これまであまり注目されることも、分析の対象とされることも多くはなかった。</p><p> そこでまず、この報告書から読み取れる情報、また問題とすべき論点について検討する。次に、行政文書管理の基本台帳である各省庁の「行政文書ファイル管理簿」を実際にWeb上で検索してみることによって、記載内容の実態と問題点を明らかにする。</p><p> 『公文書等の管理等の状況について』と「行政文書ファイル管理簿」という2種類の公表情報を素材として分析することで、国の公文書管理の現状を把握し、課題を明らかにした。その上で、附則13条に記された施行5年後見直しの修正がないまま、施行後8年を経過した公文書管理法と公文書管理の現状について、いくつかの論点を提示したい。</p>
著者
安澤 秀一
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.3-37, 2020

<p> 本稿の目的は、文書布達および保存にかかわる官僚制といえる「文書行政」体系が江戸期大名(藩)統治に確立していたことの提示にある。そして、いかに藩の権威が文書の真正性と信憑性を保障していたか、そのあり様を検証する。</p><p> その事例を大垣藩(現・岐阜県大垣地方)にもとめ、寛永12年(1635)から慶応3年(1869)の江戸期末まで同藩を統治した戸田家の記録を調べることで、行政行為の証拠のために記録を作成し保存する規則たる根本法のすがたを明らかにする。その法の理解により、いかなる真正性と信憑性が達成されたか見定めることができよう。</p><p> 本稿においては、大垣藩にみるような「文書行政」体系が今日の現代的記録・アーカイヴズ管理へ示唆するところがあることをも意図している。江戸期の記録書類作成の原点、証拠志向体系から学べる意義は大きい。</p>
著者
大蔵 綾子
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.57, pp.25-44, 2009-05-30

本稿は、2008年に衆議院において情報公開制度が設けられたのを契機として、立法府における情報公開の新たな展開につき現状と課題を提示するものである。
著者
山﨑 久道 小川 千代子 飯尾 淳 李 東真
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 = Records management : journal of the Records Management Society of Japan (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.70, pp.57-74, 2016-03

わが国の研究開発においては、STAP問題に見られるように、研究倫理のあり方と研究におけるデータや記録の適正な管理、利用が大きな問題になっている。これまで、研究ノートの「不備」や「正しい書き方」などを指摘する文献は数多くあるものの、研究における記録管理のあり方やプロセスを示し考察した文献は少ない。今回は、最新の情報技術の動向もにらみ、実際に研究を進める研究機関の立場からもこの問題をとらえ、記録管理についての知見がこの問題にどのように貢献できるのかを検討した。その結果として、以下の諸点を提言した。(1)科学の手法の変遷や研究分野の特徴に見合った情報の管理の必要性を追究する。(2)情報通信技術の進化を見据えて、データ取扱いの技術的側面と倫理的側面の検討と研究における情報取扱いのガイドラインの作成を行う。(3)研究現場での「アーカイブ」概念の意義と必要性を啓蒙する。(4)実務面での実験ノート作成・管理などの実践的手法の提唱と普及に着手する。(5)研究開発を効果的に支援できる「理系分野に強い」データ管理、記録管理の専門家の育成を目指す。(6)記録管理を実行することが研究の不正防止のみならず、効率や品質の向上に資することを証明して、そのことを社会に広く周知する。
著者
浅野 一弘
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.42, pp.53-61, 2001-03-31

戦後の日本外交にとって、米国の存在が大きかったことはいうまでもない。それは、日本が米国主導のもとで占領され、独立を果たしたからである。また、その後もわが国は、国際政治・経済上の重要な局面においてかならずといっていいほど、米国の助力をあおいできた。こうした状況は、「米国追随外交」と揶揄されてきた。それゆえ、歴代の首相にとって、日米首脳会談は外交上の最大のイベントであった。そして、そこで発表される「共同声明」もマスコミの高い関心を集めるところとなった。共同声明は、幾多にわたる日米間の事務レベル協議をへて、作成される。どれほど慎重を期してつくられた文書であっても、それが公表されると、さまざまな反響がおこる。本稿では、これまで日米両国間において話題をまきおこした、日米「同盟関係」、「20%条項」、「客観基準」といった文言をめぐる政治的軋轢について検証する。そして、外交文書の公開に対する日米両政府のとりくみの違いについてもふれている。
著者
坂口 貴弘
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.47, pp.15-33, 2004-03-31
被引用文献数
1

記録史料として長期的に保存すべき記録を特定するプロセスである「評価選別」をめぐる従来の議論は、記録の生涯を現用、半現用、非現用の3段階に区分する「ライフサイクル」論にその基礎を置いていた。だが近年、電子記録の普及を契機として、記録と記録史料とを区別せずに統一的な実体としてとらえる「記録連続体」論が、ライフサイクルに代わる理論モデルとしてオーストラリアを中心に台頭しつつある。筆者はまず、この理論が登場し発展してきた過程を分析する。特に、同理論の主唱者として重要なアサートンとアップワードの議論を詳しく紹介する。さらに評価選別における記録連続体理論の適用例として、主に機能分析のプロセスに着目しつつ、オーストラリア国立公文書館における事例を検討する。
著者
小谷 允志
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.3-19, 2015-12-15 (Released:2017-03-24)

欧米に比べ日本の記録管理・アーカイブズは、立ち後れが目立つ。なぜ日本ではこれらが根付かないのか。その要因を探り、それに対する処方箋(対策)を考えるのが本稿の目的である。ここではその要因を、日本の組織、日本社会に内在する特性に起因する、より本質的なものとして捉え、それらを、(1)"今"中心主義、(2)無責任体質、(3)合理性を欠く意思決定プロセス、の三つとした。またそれに対する処方箋(対策)を記録管理・アーカイブズに携わる者の果すべき役割として捉え、(1)記録管理・アーカイブズの重要性を説く、(2)現用と非現用をつなぐ、(3)専門職体制の確立、の三つとしている。
著者
中島 康比古
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.3-24, 2006
被引用文献数
3

レコード・コンティニュアムというレコード・アーカイブズ・マネジメントの新たな理論的枠組みが提唱されて10年。レコード・マネジャーやアーキビストのコミュニティ、特に日本のコミュニティによって共有される新たなパラダイムとはまだなり得ていない。本稿は、同理論の本質的要素を出来るだけ簡潔に提示するとともに、その枠組みにおけるrecord、archive、archivesの日本語の訳語を提示する。次に、レコード・コンティニュアム論を基盤にしてオーストラリアで作り出されたレコードキーピングの実践的方法論であるDIRKSおよびDIRKSを用いて策定される記録最終処分規準について紹介し、レコード・コンティニュアム論がレコード・アーカイブズ・マネジメントの実務に実際にどのように影響を与えているかを考察する。
著者
大蔵 綾子
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.55, pp.13-35, 2008-05-30

わが国の学校において、1990年代に注目を集めた情報公開問題は、多くの地方公共団体で指導要録の全面開示が決定されるなどして一定の進展をみせた。しかし、情報公開を実施するための文書管理の方策、特に文書管理規則等のような制度に関する検討は今後の課題である。国の行政機関における文書管理は、「行政文書の管理方策に関するガイドライン」に沿うこととされたため、文書管理規則等については、以前にみられた省庁間における差異は、問題を残しながらもある程度解消されている。これに対し、地方公共団体では、現在でも文書管理に関する制度は地方公共団体によって区々であり、文書管理規則等の内容に相当の差異が認められる。そのなかでも、学校は教育委員会の下におかれているため、差異の程度が複雑になっている。そこで、本稿では東京都特別区を中心に取り上げ文書管理規則等の内容を比較することにより現状分析を行った。その結果、以下の課題が明らかになった。第1に、文書管理規則等の設置背景がそもそも事務の効率化にあるため、情報公開や歴史的文書の保存を含めた文書のライフ・サイクルを保障するような内容でないということ、第2に、公立学校に特有の人事制度が原因で文書管理担当者が制度として確立されていないこと、第3に、公文書館が未設置であるために、文書管理規則等において移管先を指定することが不可能であることがあげられる。これらの現状を踏まえて、文書管理規則等を整備するための課題を提起する。
著者
古賀 崇
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.64, pp.67-76, 2013-03-31

筆者は2011年6月に共著書として『研究ベース学習』を上梓した。本書は「おもに大学1年生向けに研究を体験してもらうための指南書」として書かれたが、その内容は記録管理の領域で研究に取り組もうとする人々、特に現場での業務に従事しながら論文執筆を行いたいと考える人々にとっても有益なものと考える。そこで本稿では、『研究ベース学習』での筆者担当部分などに基づき、「研究活動に際しての学術文献の探索・読解・評価」と「論文執筆の方法」を概説する。
著者
中島 康比古
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.49, pp.20-38, 2005-03-31
被引用文献数
2

近年、レコード・アーカイブズ・マネジメントの世界では、技術的には電子記録の爆発的普及、社会的には情報公開・個人情報保護法制の整備、理論的にはポストモダニズムの影響を背景にして、レコード・コンティニュアムという新たなパラダイムがオーストラリアから登場し、議論の的となっているが、このパラダイムの紹介・考察は日本では緒についたばかりである。このパラダイムの提唱者であるフランク・アップウォードやスー・マケミッシュの議論に加え、このパラダイムに対する反響の一例として、カナダのテリー・クックの見解を詳しく紹介すると同時に、このパラダイムの登場が意味するものについて考える。
著者
日野 祥智
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント : 記録管理学会誌 (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
no.61, pp.72-79, 2011-12-26

脚本は、映画や放送番組の骨格でありそれ自体が貴重なメディアアセットであるにも拘わらず、映画や放送番組の完成と同時に捨てられる宿命を帯びてきた。本稿では、「脚本」という文化資源アーカイブの構築に着目し、その課題と未来展望を論じる。具体的には、東京大学大学院の馬場章氏の脚本アーカイブ構想、吉見俊哉氏の文化資源アーカイブ理論、小川千代子氏の記録のライフサイクル論の三種の先行理論を用いて、筆者の考える脚本アーカイブの新モデルを導き出す。このモデルに立脚し、脚本それ自体のデジタルアーカイブ化を一歩進め、脚本により作成された映画やテレビ番組の動画映像に脚本が持つテキスト情報を同時に見せることを可能とした著者開発の動画連動型脚本検索エンジンの機能及び特色を紹介し、脚本アーカイブの未来への展望を述べる。
著者
村岡 正司
出版者
記録管理学会
雑誌
レコード・マネジメント (ISSN:09154787)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.39-56, 2012-05-18 (Released:2017-03-24)

公文書等は、まさに"行政ノウハウの情報ストック(=無形資産)"であり、技術力のみならずその無形資産の活用による国際競争力強化のための社会的共通資本ともいえる。本稿では、公文書等の管理は、"無形資産"をいかに活用できるようにするかの視点で、今後の自治体の文書管理改善の課題とその方策について、自治体の実情に合わせた対応方法を検討した。