著者
酒見 英太
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.953, 2007-11-15

私が国立京都病院にいた時,総合内科外来カンファレンスに提示された症例である.32歳の農業を営む著患を認めない男性で,年に何回もかぜをひくからと,自らイソジン(R)うがい薬やのどぬーる(R)スプレーを頻用していた.2003年3月に咽頭痛と鼻水を主訴に内科外来を受診.倦怠感,眠気,寒がり,便秘,体重増加や徐脈傾向はいずれもなかったが,甲状腺が軽度腫大していたため甲状腺機能の採血をしたところ,FT3 2.6pg/ml,FT4 0.8ng/dl,TSH 17.6μU/mlと甲状腺機能低下症の所見であった.続いて測定された抗サイログロブリン抗体,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体,TSHレセプター抗体はすべて陰性であったため,うがい薬の使い過ぎによるヨード過剰摂取が原因と推定された.患者にヨード含有うがい薬の使用を禁じたところ,3カ月後には甲状腺機能はほぼ正常化(TSHはピークの39.5から5.8μU/mlに低下,FT4はボトムの0.7から1.0ng/dlに上昇)した. 体表面積の小さな未熟児でヨード含有消毒剤の使用がTSHの上昇を招きうるという報告はある1)が,ポビドンヨード液で年余にわたって毎日うがいをしたため顕性の甲状腺機能低下症をきたした珍しい症例の報告2)(日本人!)もあった.そもそもヨードでうがいをするのが上気道炎を予防するという臨床的な証拠は乏しく,むしろ水でうがいをしたほうが効果的であるというRCT3)さえある.そのうえ,使い過ぎが甲状腺機能低下まで起こしうるとすれば,わが国におけるヨード含有うがい薬への「信仰」はもう改めるべきであろう.
著者
宮崎 康
出版者
医学書院
雑誌
JIM (ISSN:0917138X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.191, 2010-03-15

ある日の外来に,「右の横腹が痛む」といって28歳の女性が来た.1週前に同じ訴えで近医を受診し,尿と血液検査,腹部エコーを行ったが異常ない.「胃炎」の診断で胃薬をもらったが一向によくならず,ちょっと咳をするだけで痛みが強くなるという.看護師の介助を得ながら,眼・頸部から胸背部の診察を行う.帯状疱疹を示唆する皮疹はない.仰臥位になって膝を立ててもらい,腹部全体を掌全体で触診すると,臍の下に鈍い痛みを訴える.右上腹部を打診すると,痛みで顔をしかめる.さらに第2から5指の腹で柔らかく押さえながら,「指を持ち上げるように」深く息を吸ってもらうと,やはり顔をしかめる.体温は36.5℃.「いきなり聞きますが,おりものはないですか?」「ええ,1カ月前頃に多くて,下腹も痛むので婦人科に行こうと思っていましたが,よくなったので….」
著者
菊地 克子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.126-128, 2013-02-15

頭皮の痒みはよく遭遇する症状である.なんら皮膚疾患をもたない健常人でも,シャンプーができないなど,頭皮の清潔を保てない状況になれば,たちまち頭皮の痒みとフケに悩まされる.この場合は脂漏性皮膚炎と考えられる.フケは,頭皮から生じる落屑であり,頭皮に何らかの鱗屑を生じる皮膚症状を呈しているために生じるが(J1),炎症性変化が肉眼的には明らかでないこともある.脂漏性皮膚炎のほか,いわゆるかぶれである接触皮膚炎,頭皮に生じる尋常性乾癬,頭部白癬などでも落屑や痒みを生じる可能性があるため,頭皮に生じている皮膚所見をよく観察する必要がある.
著者
古川 智之
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.380-381, 2013-05-15

Case MAO阻害薬とデキストロメトルファンの併用で副作用が生じた例 ●患者:年齢不明の女性. フェネルジン15mgを1日4回服用中であったが,デキストロメトルファンを含む咳止め薬,約55mlを服用した30分後に,吐き気とめまいを訴える.4時間にわたり42℃の高熱で,最高血圧が70mmHgとなり,意識不明の状態が続いた後,心臓停止で死亡した. ●患者:15歳の少女. チオリダジン,プロシクリジンおよびメトロニダゾールとともに1日3回フェネルジン15mgを飲用していたが,1カプセル中に臭化水素酸デキストロメトルファン15mg,酒石酸フェニンダミン6.25mg,塩酸フェニレフリン5mgおよびアセトアミノフェン120mgを含むカプセルを13個服用した.彼女は昏睡状態で,異常高熱(40℃),血圧100/60mmHg,脈拍160bpmの後,心臓停止で死亡した. ●患者:28歳の女性. フェネルジンとグアイフェネシン(去痰薬)100mgを含む臭化水素酸デキストロメトルファン15mgを服用後,ミオクローヌスと硬直を発症し,無反応に至った. 比較的MAO阻害作用の強いフェネルジン(わが国では未発売)と,デキストロメトルファンの併用によって副作用が惹起した症例が,海外で数例報告されている1, 2).
著者
塚田 泰彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.515-517, 2003-06-01

症例呈示 患 者:69歳,女性.腰椎椎間板ヘルニア術後に残存した下肢神経症状を苦にして,自殺目的で24%パラコート製剤(パラゼットDC(R))を約100 ml服毒した.自宅裏庭で徘徊しているところを夫に発見され,救急車にて当センターへ搬送された.現場周囲には吐物があり,救急車搬送中に緑色の嘔吐が3回あった.来院後も,強い嘔気を訴えていた. 来院時,血圧107/52 mmHg,心拍数90/分,経皮的酸素飽和度97%と安定しており,意識レベルも清明だった.直ちに微温湯20 lで胃洗浄を施行したが,希死念慮が非常に強く,診察・治療に非協力的であった.尿中パラコート定性は陽性で,血中パラコート定量は服毒3時間後で1.2 μg/mlであった.
著者
吉本 尚
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.943-945, 2013-11-15

はじめに アルコール問題に対する対応をプライマリ・ケア医が行うことで,問題の早期発見が可能となる.これは,アルコール依存症(以下,依存症)の予防や早期回復のみならず,アルコールに関連する身体的・心理的・社会的問題を減らす意味でも,医療者・医療機関の疲弊の軽減,医療費の増大を軽減させるという視点からも,非常に重要な取り組みである. 近年,特に依存症になる以前の,「危険な飲酒」の段階から介入を行うことが効果的と言われており,各国で対策が進められている.本稿ではアルコール問題のスクリーニング,介入,適切な紹介・連携を効果的に行う枠組みであるSBIRT(Screening, Brief Intervention, Referral to Treatment,略称:エスバート)に関して述べる.
著者
成田 善弘
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.788-789, 1992-09-15

・心気的な患者は心身の些細な不調に著しくとらわれ,これに必要以上にこだわり,重大な疾患の徴候ではないかと恐れ,しかもその心配を他者へ執拗に訴える. ・こういう特徴を示し他に基礎疾患がない場合に,神経症の一型として心気症と診断する. ・心気的訴えの背後には身体疾患が存在することもある.またうつ病,分裂病などの症状としてみられる場合もある. ・心気症患者に対しては,患者の訴えをすぐさま精神的問題に結びつけて「心因性」と決めつけたり,まして詐病扱いすることなく,患者と医師が共有しうる妥協的診断名(たとえば自律神経失調症,脳動脈硬化症など)を用いて医師・患者関係の維持に努め,患者の訴えを十分聞き,苦痛,不安,心細さを受けとめるよう努める.
著者
藤沼 康樹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.888-891, 2014-10-15

症状や不安などを訴えて患者が外来受診した場合,通常は問診,身体診察,診断に必要な検査を経て,医学的診断をして治療を行うというのが,通常医学教育において教えられる診療のプロセスである.しかしながら,このプロセスをニュートラルに行うというより,問診や身体診察の時点で作業仮説としての診断を絞り込みつつ,同時に,見逃すと大変なことになる危険な疾患を除外するというプロセスを臨床家は重視している.たとえば,胸痛の訴えのある患者において,症状と経過からは「病気っぽくない」が「念のため」冠動脈疾患,胸膜炎などの重大な疾患を除外したいと思うだろう.これらを除外した場合に,臨床家はまずホッとするものである
著者
寺田 誠史 染矢 俊幸
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.126-129, 2000-02-15

Question & Answer Q:仮面うつ病とは何ですか? A:身体症状が精神症状を隠しているうつ病,または診察医がその精神症状に気づかないうつ病.
著者
藤沼 康樹
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.453-456, 2002-05-15

◆ポイント◆ 1)継続性とは,単に長期にわたって繰り返し診察すること(longitudinal continuity)ではなく,患者が担当医を自分の健康にとって重要なリソースだと認識していること(personal continuity)を含む. 2)真に継続性のあるケアを展開するためには,単なる慢性疾患管理にとどまらない,人生に寄り添い支援するという,家庭医らしい診療姿勢が必要である.
著者
馬杉 綾子 生坂 政臣 池原 泰彦
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
2001-07-15

症例:91歳,男性.床屋で髭を剃ってもらっていたところ,突然意識を失ったため救急車で来院.同伴者の話から意識消失時間は数分と推定され,また四肢のけいれんはみられていない.既往歴,家族歴に特記事項なし.来院時,意識は清明,血圧131/80mmHg,脈拍61回/分・整,体温35.1℃.身体診察では,頸動脈にbruitは聴取せず,胸腹部,四肢,神経学的所見に異常所見を認めない.来院時の心電図を示す(図1).
著者
和足 孝之 稲田 遥 松本 謙太郎 志水 太郎 北川 泉 徳田 安春
出版者
医学書院
雑誌
JIM (ISSN:0917138X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.166-167, 2014-02-15

「誤診」に着目した国際学会 われわれは2011,12年と引き続き,2013年9月23~25日に米国シカゴのNorthwestern Universityで催されたDiagnostic Error in Medicine(DEM)の第6回International Conferenceに参加した.本総会は,臨床現場におけるdiagnostic error(誤診)をいかにして減らすかに着目し,自分が経験した診断エラーやリスクマネジメントの紹介や,今後の解決策の模索などについて,各発表やシンポジウムでも例年活発な議論が行われている. 今回,筆者らは本学会でメインとなるM and Mカンファレンスで,“Is it a Cold or Not ? That is the problem.”というタイトルで40分間の口演発表をする機会を得た.症例は36歳女性.発熱,咽頭痛,鼻水,倦怠感を主訴に救急受診し,感冒の診断で帰宅となるも2日後にDICによる脳出血で救急搬送されたケースである.最終診断は急性前骨髄性白血病であった.この症例の論点として,感冒と診断する際のピットフォールやさまざまなバイアス,また診断時の直感的診断と分析的診断の使い分けについて考察をまとめて発表した.Cook County HospitalのKaren Cosby医師(Rush大学准教授)がModerator,San Francisco VA Medical CenterのGurpreet Dhaliwal 医師(UCSF准教授)が“Professor” Discussantとして診断推論のコメントを加え,会場も交えての活発な意見交換が行われた.
著者
宮崎 康
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.96-99, 2011-02-15

Case 1 「不眠,頭重,不安,イライラ」で来院した35歳の女性 35歳の女性が,「一日中頭が重くて疲れやすい,よく眠れず,イライラする」といって受診した.2カ月前頃,近医を受診し,育児ノイローゼと診断され,精神科受診を勧められたそうだ.当座処方された睡眠薬で一時落ち着いたが,最近は,何をするにも落ち着かず,不安感が強くなり,疲れやすく家事をする気にならないという.イライラして子どもを怒ってばかりいて,同居の母親にたしなめられることが多い.血圧は正常だが,脈拍が114回/分と速い.手指の震えがあり,手掌がしっとりしている.甲状腺はびまん性に腫大していて,眼球突出はないが,眼瞼攣縮がある.検査で,バセドウ病による甲状腺機能亢進症と診断した(表1).
著者
中川 紘明 宮田 靖志
出版者
医学書院
雑誌
JIM (ISSN:0917138X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.902-903, 2014-10-15

Case 患者:12歳の男児. 現病歴:突然,左の胸が痛くなり,不安そうな母親に連れられて受診した.痛みは突き刺すような痛みで,左前胸部に指1本で指せる範囲に限局しており,深呼吸を2回したら1分もせずに突然消失したという.心音・呼吸音・筋骨格・皮膚は異常なし.胸部単純X線写真,心電図は異常なし. 診断:若年者に突然発症した限局性の胸痛で,1分以内に突然軽快し,身体所見,検査で異常がないことからprecordial catch syndromeと診断した.
著者
熊井 司
出版者
医学書院
雑誌
JIM (ISSN:0917138X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.11, pp.944-949, 2004-11-01

この稿では,足のX線写真として外来診療で最も一般的に用いられる撮影方法とその対象疾患について紹介し,中・後足部病変にとくに有用となるCT断層撮影についても簡単に述べることにする.