著者
菊地 伸二
出版者
名古屋柳城短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13427997)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.63-69, 2014-12-20

アウグスティヌスは、「自由意思と恩恵」の問題について、ペラギウス(及びペラギウス主義者)との間で、20年近くにわたり論争を繰り広げた。それは、アウグスティヌスの逝去によって中途で幕切れとなるものであったが、この論争によって、彼は「自由意思と恩恵」の問題について思索を深めるとともに、この問題についての後世への影響は測り知れないものとなった。もっとも、アウグスティヌスが、この問題を思索しはじめたのは、司祭に叙任されてから間もなく、「パウロ書簡」を精読するようになってからであり、とくに『ローマの信徒への手紙選釈』では、「ローマの信徒への手紙」の大意を「律法と恩恵」に関する書物と位置づけ、その中で、人間がもつ自由意思と神からの恩恵の双方を重視しようとする見解を披歴している。その見解は、たしかに、『シンプリキアヌスへの返書』に見られるような「自由意思と恩恵」についての決定的な見解にまでは至っていないものの、人間の「信仰」に働く自由意思を重視しながら、自由意思と恩恵の双方を生かそうとする態度が見受けられるものであり、彼の「自由」理解の一断面を示すものとして重要な意味を有するものである。
著者
村田 康常
出版者
名古屋柳城短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13427997)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.79-94, 2011-12-20

In several writings including The Aims of Education, Alfred North Whitehead develops his original philosophy of education, which we can call "a theory of the rhythm of education." This paper tries to show an important influence of Bergson's idea of "élan vital" on Whitehead's theory of the rhythm. According to Whitehead, the essence of the life consists in the creative impulse to realize a definite shape of novel value in the world. The realization of some actual value is a creation of a new harmony, and the process of the creation has its own rhythm. Whitehead gives a philosophical explanation to the rhythm of the life by referring to ideas borrowed from Bergson, "élan vital" and "its relapse to the matter." The process of education should be coincident with the rhythm of the life, which swings from the romance of "élan vital" to the generalized "wisdom" through the precision of knowledge and information. His theory of the rhythm, appearing as a rhythmic theory of the life in his early works of scientific philosophy, develops toward the ideas of the becoming process of organisms and of the creative advance of the world into novelty in his later works of "philosophy of organism." His theory of the rhythm of education takes a significant position in the developing process of his philosophy from its earlier scientific philosophy to its later metaphysical cosmology. It is the reason why his philosophy of education shows a widespread vision of the life, nature and human being.
著者
中根 淳子
出版者
名古屋柳城短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13427997)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.3-19, 2008-12-20

フランセス・B・ホーキンス先生は、1941年、第二次世界大戦の戦局悪化により、カナダに一時帰国するが、その後、日本語に堪能であり幼児教育に精通していることから、カナダ聖公会からBritish Columbia州の日系人のために働くよう要請された。1942年2月にはBC州の日系人はすべて海岸線から100マイル以内の防衛地域からの退去を命じられ、多くの者が収容所に移送された。ホーキンス先生は、ポートアルバーニ、バンクーバーを経て、1942年から内陸部の日系人収容所タシメに派遣された。幼稚園の立ち上げなど、そこでの具体的な活動について、カナダ聖公会アーカイブの協力により入手した資料から調査した。これらは第1部に述べられている。 また、第2部には、ホーキンス先生が1959年の卒業生に贈った黒いスーツについて書かれている。卒業式に慣例で着用していた黒いスーツを準備できなかった学生のことを心に留めてホーキンス先生が贈ったスーツは、今も卒業生のもとで大切に保管されていた。スーツをめぐっておよそ50年前の卒業生とめぐり合い、その生き方にホーキンス先生を見るようであった。
著者
飯田 和也 横川 聖 藤田 哲也
出版者
名古屋柳城短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13427997)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.27-42, 2006-12-20

今回は施設実習を行なう実習生への意識調査を通して実習前と後の意識の違い、子どもへの援助のあり方、職員へのイメージ、反省会での関わり方を調査した。実習前の暗いイメージが実習後には明るくなっている。又、職員に対しても優しいとか温かいイメージに変化している。実習そのものでは、辛いという意識、けんかなどへの対応の不安を持っていた。しかし、自由記述では、施設への就職希望が見られた。また、実習を通して自分自身の生き方を見直している。実習から学習意欲を持った学生もみられた。大学での講義やオリエンテーションにて子どもへの具体的な対応や施設説明がより学生に理解できる内容の連携が求められる。施設の課題として実習生に対してさらに効果的な実習プログラムの見直しの必要がある。
著者
三好 禎之
出版者
名古屋柳城短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13427997)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.131-143, 2005-12-20

今日の指定介護老人福祉施設(以下:施設)を利用する入居者の要介護度や認知度は総体的に高い傾向を示している。2002年、老人福祉施設協議会(老施協)が行った「特別養護老人ホーム運営概況調査」によると、施設入居者の平均要介護度は3.53度を示していた。この要介護度より入所者状況をみると、「寝たきり」の入居者は68.3%に及び、入居者の日常生活における自立度は低い傾向にある。本調査対象施設においても、2002年4月より2005年10月までの要介護度の平均を年度別にみると、2002年3.46度、2003年3.66度、2004年3.79度、2005年10月現在3.72度と推移し、要介護度は年々高い傾向となっている。以上のように、施設入居者の身体や精神の状態は、重度化している傾向にあると考えられる。こうした現状に対して、施設介護業務の提供時間や提供頻度は、主要介護業務を中心として部分的に増加していくことが予測できる。また入所者の要介護状態に併せて、介護業務の提供時間を見定めることや、介護業務の編成など状況に即した介護業務の確立は急務であるといえよう。取り分けて、夜間という時間帯は、限られた人員配置で行われており、1人の介護職員が提供する介護業務の時間や頻度は、これまで以上に増加傾向を示すと考えられる。これらのことから、本研究は、施設に勤務する介護職員の夜間介護業務実態を1分間のタイムスタディで持って観察し、夜間介護業務課題と夜勤者の主要介護業務を明らかにした。
著者
鬢櫛 久美子 種市 淳子
出版者
名古屋柳城短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13427997)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.95-105, 2006-12-20

保育界では、現在のスタイルの紙芝居が成立した昭和初期から、紙芝居が保育に取り入れられていた。戦後は、紙芝居が学校教育から締め出されたことと対照的に、保育教材・教具として制度上に位置づけられ、現在に至っている。本論では、大道芸にはじまった紙芝居が、保育界に定着した背景に倉橋惣三の影響力があったと推測し、倉橋と「紙芝居」の関わりを検討した。その結果、倉橋が日本教育紙芝居協会の理事であった歴史的事実のほか、倉橋の紙芝居観3点が示された。1)倉橋は紙芝居に「少國民文化」が持つ普遍性をみていた。2)「軍事保護教育紙芝居懸賞募集」という形で戦争協力を行っていたが、そこで、子どもの内面表出手段としての紙芝居の有効性を評価していた。3)教具としての紙芝居の有効性を認め、学校教育に紙芝居を導入する上で、制度的位置づけの必要性を戦中から主張していた。また戦後、その実現に寄与していたことが確認された。
著者
柴田 益江
出版者
名古屋柳城短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13427997)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.63-71, 2008-12-20

民生委員は最も地域に根ざした福祉の担い手である。この民生委員に対する高齢者虐待の意識調査をおこなった。アンケート調査の対象は、I市の民生委員定数195人で、回答者は173人であった。(回答率88.7%)。性別は男性83人、女性82人で男女の差はなかった。年齢層は、60歳代が最も多く、51.4%、70歳代は20.2%であり、40歳代5.8%と最も少なかった。民生委員の在任期間は、3年が51人(29.5%)で最も多く、次いで6年が37人(21.4%)であり、全体の50.9%を占めている。9年以上の在任期間を有する者は全体の27.9%であった。民生委員の職業は、特徴的な傾向はないが、主婦が最も多く63人(38.4%)であった。僧侶が6人(3.5%)が目立つ程度である。民生委員の高齢者虐待の体験では、10.4%の人が虐待を発見している。高齢者虐待は増加していると考える人が63.0%であった。民生委員の今後の活動では、虐待の研修や普及活動が必要であると答えた人が、それぞれ、68.2%、66.5%であり、民生委員として高齢者虐待防止の活動に対する積極性がうかがえた。虐待の通報先では、市町村や地域包括センターなど公的機関と答えた人が64.5%であった。虐待のイメージに関しては身体的暴力が83.4%の人が虐待と感じており、暴言は78.6%、無視、世話放棄は、約70%の人が虐待と認知していた。高齢者虐待の要因は介護負担、家族関係によるものが約80%であった。民生委員法の改正に伴う民生委員の「名士」的な役割から抜け出し、住民との対等な立場で地域の福祉に積極的に関わる民生委員の活動について言及している。今後の民生委員の積極的な関わりが期待できるアンケート結果であった。
著者
長根 利紀代
出版者
名古屋柳城短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13427997)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.13-29, 2007-12-20
被引用文献数
1

近年では、子どものみならず、学生たちも合理的でスピーディーさを求める時代背景の中で、現実味の無いバーチャルの世界に浸っている。しかし、こうした時代の保育においては、むしろ「面倒」な人の手のかかる関わりこそが必要である。その中でも、子どもの発達には豊かな物語の世界を広げることは重要であり、保育のねらいに見合った教材の選択が問われる。教材には、最も身近で豊富に整えられた絵本に対して、絵本より演じる技術や準備を必要とする紙芝居は、感情豊かに表現し物語を感覚的にも広げられる。さらに、取り上げられることが減少傾向にある「素話」には、絵本や紙芝居では伝えきれない直接的な人と人との人間味を感じ合いつつ、個々の体験から自分独自の世界を作り上げる楽しみがある。学生は、授業により1つの教材を紙芝居と素話として体験し、そこから両者を比較することでその教育効果を実感した。そこで、自らの体験を通してそれぞれのもつ教材の特徴を把握した上で、保育のねらいに即した効果的な活用法と技術向上の必要性を実感し積極的な学習態度を引き出せた。本研究から把握した学生の現状を考慮し、学生の意欲や求める能力が身に付けられるようにさらなる授業の充実に努めたい。
著者
奥 美佐子
出版者
名古屋柳城短期大学
雑誌
研究紀要 (ISSN:13427997)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.51-65, 2003-12-20

美術における摸倣は肯定的にも否定的にも扱われてきた歴史をもつ。摸倣の意味は変化し、現代美術においては表現ツールとしてのスタンスを得た。本稿では摸倣をポジティブに、且つ摸倣の意味を広く捉えて、幼児の描画表現の過程で出現した模倣の要件を幼児の模写能力から検討したいと考えた。前項「現代美術と幼児の造形における摸倣のスタンス」で分類した摸倣の3タイプにおける視覚的要件、空間的要件、人的要件について検討した結果、視覚的要件と空間的要件が密接な関係にあることがわかった。人的要件は前2者程には影響をもつとは考えにくく、人的要件が何らかの影響をもつ場合は、日常の人間関係を反映していると考えられた。描画過程における摸倣の出現はビジュアルな要素が優先していると考えられる。描画における幼児間での摸倣を扱った研究を進めているが、幼児間で摸倣がどれほどの精度で可能かを確認するため、幼児間で模範と模写の関係を決めて描画の摸倣の実験をした。パーツと構図から模倣度を求めた結果、数値にはばらつきがあるが、5歳児の模写能力はかなりの精度で模範を模写できることがわかった。視覚による情報摂取と、摂取した情報の表現への反映が可能であることで、描画過程における摸倣は、'絵がかけないから摸倣する'という見方を払拭することができたのではないだろうか。