- 著者
-
武上 幸之助
- 出版者
- 拓殖大学経営経理研究所
- 雑誌
- 拓殖大学経営経理研究 = Takushoku University, the researches in management and accounting (ISSN:13490281)
- 巻号頁・発行日
- no.115, pp.125-130, 2019-03
今後の通貨貿易の問題提起①貿易通貨選択と国際通貨体制戦後,世界貿易取引制度の原型は,合衆国の連邦成立期の州際取引にある。各州経済制度を連邦制度として取引保証するために,各州が連邦制度を認証する過程が必要であった。建国当時は一地域通貨であった合衆国ドルは,連邦通貨として各州議会の認証を受け制度保証されたが,通貨発行原資や金融,流通制度にも厳格な取り決めが行われたのは,経済取引保証制度(金本位制度)という通貨機能の統制についての認識が重要視されたためである。戦後の復興経済を支え,永らく継続したブレトンウッズ協定をくつ返し,金兌換停止(ニクソンショック)と,それに伴うOPECとの対立は石油危機としてドル貿易制度のリスクを極大化した側面であり,ドル信用一極集中であった国際通貨制度がドル信用の低下により大きく毀損したリスクエポックであった。②為替政策と貿易決済制度合衆国の一国通貨であるドルが強制通用力を持つ国際通貨として貿易各国の国富資産(外貨準備高)に計上され,ドル制度保証としてのIMF 制度により各国GDP成長率として信用経済指標として位置づけされる。ドル本位に位置付けられた各国通貨はドル為替相場を通じて貿易取引決済を行うことが実勢としてルーティン化されてくる。これは国際重要商品の殆どがドル決済でしか取引できず,合衆国が認証したコルレス銀行決済でしか取引できない事からも証左される。日本円は,貨幣法による国内にて強制通用力を持つ専用通貨であり,合衆国ドルは日本外為法による海外送金決済為替,貿易通貨として強制通用力を持つ。外為法改正により原則規制から自由化に至ったが,貿易取引の今尚,60%強が合衆国ドル決済であり,円建て決済は企業内貿易取引,円借款,ODAなどに限定されている。③為替調整と円高デフレ平成時期のステルス不況は,プラザ合意以降の円高容認と,それに続く産業空洞とデフレ,著しい需要不足が主因とされる。凡そ50%高にも及ぶ為替水準訂正によって受けた日本の貿易赤字(円高輸出減を円安輸入増と相殺しても),失われた国富(外貨準備高)は多大であり,世界各国の為替通貨が低水準である中,現時点でも日本円の独歩高となり,経済実態とは乖離した為替水準となり水準訂正改善の見込みもない。④国際地域通貨と三極化問題合衆国ドルのもう一つの特性は各州独自の地域通貨であった所以から生じる。通貨統一連合が早期から,国際地域通貨「AMERO」を構想し,NAFTA経済ブロックでの共通通貨として新ドル創設が図られており,ブロック外への従来ドル流通が想定されている。国際地域通貨統合の動きは,EUにおける€ 統一,中国AIIBにおける東アジア共同体構想での共通通貨(RMB)等でも象徴される将来の通貨統合を目指すグローバル動向であり,来たるべき今後の貿易通貨交渉の焦点でもある。合衆国一極のドル信用経済体制はすでに低下しており,やがて地域通貨主軸へ分散,国際通貨グローバル競争の中で,貿易体制は,決済面で複数の強国を基軸とした国際地域通貨の時代を迎えるだろう。