著者
杉山 昭彦
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.51-60, 2012-07-01 (Released:2012-07-01)
参考文献数
28
被引用文献数
1

最近25 年にわたるオーディオ符号化技術の発展,特にMPEG オーディオ標準化の過程を概観し,筆者が開発や標準化に関与した技術を紹介する.最初に,MPEG オーディオ標準化の歴史をたどり,オーディオ符号化の発展を概観する.次に,MPEG-2 AAC の標準化以降,情報圧縮の基本フレームワークとして確立されたMPEG-2/-4 AAC の符号化処理を説明する.続いて,筆者が技術開発や標準化に深く関与した技術について,その内容を紹介する.最後に,冗長性削減の観点から,オーディオ符号化技術発展の流れを概観し,今後の展望を述べる.
著者
芳賀 高洋
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.205-216, 2021-01-01 (Released:2021-01-01)
参考文献数
20

本稿は,2020年度,COVID-19パンデミックの対応として,教育関係者だけではなく,世間一般からもかつてない大きな注目を集めた「教育の情報化」,特に「オンライン教育」における著作権取扱いに関して詳しく解説し,今後の課題を述べる.なお,著作権取扱いに関しては2020年1月に「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」が発表した「改正著作権法第35条 運用指針策定に関する論点整理」に基づき解説する.
著者
阪井 和男
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.266-287, 2018-04-01 (Released:2018-04-01)
参考文献数
81

多重知能理論の登場と現在までの普及の現状を振り返り,教育への応用の事例を紹介する.特に,大学教育への適用を念頭に,最近話題になっているポートフォリオ評価やアクティブラーニングへの適用について論じる.そして,大学の正課外教育の活動として実践され始めたエクスターンシップにおけるアンケート分析から,事前・事後の回答の変化に焦点を当てた多重知能理論に基づく分析が有効であることを示し,この変化を説明する場のモデルを提案し場のパラメータを推定する.なお,場のパラメータの妥当性についても論じる.最後に,エクスターンシップの参加学生は集団全体としてはチクセントミハイ(M. Csikszentmihályi)のフロー状態へ向かっていることを定量的に示す.
著者
香田 徹
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.4_16-4_36, 2009-04-01 (Released:2011-05-01)
参考文献数
101

CDMA は信号の時間・周波数の2軸に加えて+1,−1 の2値の拡散符号という第3の独立軸を設けることでTDMA, FDMA に代わり多重化を達成する第3の多元接続方式である.“ディジタル通信”でアナログ量が関与するのは,雑音の混入が不可避な,ヒトとかかわる入出力部分と通信路の前後に限定され,これらの部分で信号処理は重要な役割を果たす.本論文ではHeisenberg の不確定原理,シャノンの標本化定理,2WT 定理等の通信の基本原理に立ち戻り, 拡散符号の代数的対確率的生成法,i.i.d. 対マルコフ符号, ナイキスト条件の要否, 直交波形対擬似直交波形,Gabor 空間の方形排反分割対重畳分割等の対比の観点からガウス振幅の搬送波及びカオスで生成された拡散符号によるCDMA の有用性を論じる.
著者
林 優一
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.28-37, 2019-07-01 (Released:2019-07-01)
参考文献数
13

情報セキュリティ確保に関する重要性が日々増大する中,上位レイヤにおけるセキュリティ確保と同様,物理層におけるセキュリティ確保の重要性も高まっている.近年の計測器の高精度化・低価格化,計算機の高速化と記憶装置の大容量化に伴い,従来では技術的に困難だった高度な攻撃の脅威が増大しており,こうした脅威は軍事・外交分野のみならず民生品へと拡大している.本稿では,物理層におけるセキュリティの中でも,攻撃の痕跡が残り難いため,その脅威の検出が困難とされる電磁波を通じたセキュリティ(電磁情報セキュリティ)の問題に焦点を当て,民生用機器にも拡大している電磁波を通じた情報漏えいの脅威について解説するとともに,情報漏えいのメカニズム,そして,メカニズムに基づく上位レイヤのプロトコルやアプリケーションに依存しない情報機器全般に適用可能な漏えい情報の計測を困難化する対策手法を紹介する.
著者
岡崎 秀晃 磯貝 海斗
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.44-59, 2020-07-01 (Released:2020-07-01)
参考文献数
47

各産業に大きな利益と社会に大きな利便をもたらすと期待されている飛行型ドローン(マルチロータ)には,墜落という潜在的リスクが存在するため,モータ故障時の飛行制御の確立は重要課題となっている.本論文では,主としてモータの完全な故障問題に注目して,マルチロータのモータ故障問題の研究成果を紹介する.また,オイラー角の状態変数アプローチに基づいた,動作点(平衡点)とモータ完全故障時の墜落回避飛行状態の関連性の研究についても述べる.
著者
西浦 敬信
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.57-64, 2016-07-01 (Released:2016-07-02)
参考文献数
28
被引用文献数
1 7

パラメトリックスピーカを用いた高臨場音場再現手法について簡潔に解説する.特にパラメトリックスピーカの原理や従来の変調方式を説明した上で,高音質と高音圧を同時に実現可能なハイブリッド型振幅変調方式や音圧が最大となる距離を推定可能な復調評価指標を紹介する.加えて空間の1点でのみ音場を再現可能な極小領域オーディオスポット方式やスピーカの近傍でのみ音場を再現可能な近距離音響再生方式,及び音場再現エリアを制御可能な新しい音響再生デバイスの紹介など最新の研究動向を分かりやすく解説する.
著者
仲地 孝之
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.288-301, 2018-04-01 (Released:2018-04-01)
参考文献数
43
被引用文献数
1

MPEG Media Transport(MMT)は,ISO/IECのMoving Picture Experts Group(MPEG)が制定する次世代メディア伝送の国際標準規格である.高効率映像符号化のHEVC,マルチチャネルオーディオ符号化の3D Audioを含むISO/ICE23008のシステムパートとして位置付けられる.放送や通信など多様なネットワークでのメディア配信に適した方式であり,高信頼伝送のための機能もサポートしている.ISO/IEC 23008-1はメディアのカプセル化,配信プロトコル,制御情報を規定し,ISO/IEC 23008-10では高信頼伝送のための誤り訂正符号を規定する.現在は,実応用へ向けた取組みが加速している.本稿では,MMTの規格概要について解説するとともに,通信・放送分野への具体的な応用例として,① 4K・8K次世代ディジタル放送,② 超臨場感通信,③ 低遅延・マルチキャスト映像配信について紹介する.
著者
工藤 博章 山田 光穗 大西 昇
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.169-175, 2017-01-01 (Released:2017-01-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

近年,高精細画像を利用する機会がますます増加し,今後もより高精細化した映像の普及が見込まれている.高精細な映像を用いると,単位視角当りの画素数を保つことで,提示領域の拡大が実現でき臨場感が高まるといわれている.一方,単位視角当りの画素数の増加を実現することもでき,これは現実感の向上につながるといわれている.また,眼球運動の測定装置は,研究機器だけとしてでなく,PC やタブレット端末のインタフェース機器として使われるようにもなってきており,身近になっている.ここでは,今後,精細化画像の一層の普及とともに,立体映像についても精細化の進展,また映像の制御技術の発展を想定し,立体映像の知覚に関して行った心理実験での眼球運動の測定例について報告する.立体映像の提示方法において,知覚上重要となる,奥行きの違いで生じる遮蔽(オクルージョン)領域について着目した.
著者
羽田 陽一
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.243-255, 2018-04-01 (Released:2018-04-01)
参考文献数
27

マイクロホン素子やスピーカ素子を複数個並べたアレー信号処理は,音の空間情報を扱えるため,様々な応用において重要な役割を果たしている.本稿では,直線上,円周上,球面上に配置された素子位置に対する空間フーリエ変換の基礎について,波動方程式の解から出発して概説する.また,波面合成や指向性制御といった応用を波数領域で行う方法についても合わせて説明する.
著者
谷本 洋
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.171-181, 2019-01-01 (Released:2019-01-01)
参考文献数
27

差動対を例にして対称な回路図を持つ回路がどのような性質を有するかを説明し,その性質から差動対を再発明してみる.その過程を通じて,必要な入出力特性を実現するために回路の対称性を利用する実例を幾つか説明する.回路における対称性の有用性と美しさに気づいて頂ければうれしい.
著者
寺西 勇
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.26-36, 2012-07-01 (Released:2012-07-01)
参考文献数
35

KDM 安全性は暗号方式の安全性概念であり,秘密鍵に依存した文書を暗号化してもその文書の秘密が担保されることを指す. 暗号方式の通常の応用では文書が秘密鍵に依存することがないため, これまでの暗号研究ではKDM 安全性は非標準的な安全性概念であるとみなされてきたが, 近年の研究により, この安全性概念が理論上も応用上も重要な概念であることが明らかにされた. 本稿では, KDM 安全性の概念とその重要性を振り返り, 近年のKDM 安全性に関する研究成果を紹介する.
著者
村上 仁一
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.48-56, 2010-07-01 (Released:2010-12-01)
参考文献数
9

現在,音声認識や統計翻訳などの多くの分野では,モデルのパラメータ推定にEM アルゴリズムがよく使われている.EMアルゴリズムは,確率モデルのパラメータを最ゆう法に基づいて推定する反復法の一種である.初期値を与えて,期待値ステップと最大化ステップを交互に繰り返す.音声認識においてはEM アルゴリズムの一つとして,Baum-Welch アルゴリズムがよく利用される.本論文では,このBaum-Welch アルゴリズムのステップバイステップの動作例を示して,このアルゴリズムの動作を説明する.最後にBaum-Welch アルゴリズムの他の分野への応用を紹介する.
著者
前原 文明
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.60-71, 2013-07-01 (Released:2013-07-01)
参考文献数
29
被引用文献数
1 6

無線システムの伝送特性は,有線システムと異なり,変復調方式や信号対雑音比だけでなく,対象とする無線システムが想定する無線伝搬環境によって大きく変化する.したがって,実際に無線システムの設計を行う場合には,想定する無線伝搬条件を考慮した伝送特性の把握が必須となる.伝送特性の把握には,通常,理論解析や計算機シミュレーションが用いられるが,中でも,理論解析は,変復調方式や無線伝搬条件といった普遍的なシステムパラメータにより伝送特性を定式化できることから,簡易にその全体像を俯瞰できるといった大きな魅力を持っている.本稿では,基本的な無線伝搬環境を採り上げ,無線システムの伝送特性がいかにして定式化されるかについて解説するとともに,その応用として,最近の無線システムに広く適用されるMIMO 方式やOFDM 方式を採り上げ,その伝送特性について理論解析を行った幾つかの事例を紹介する.
著者
林 正人
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.4-13, 2016-07-01 (Released:2016-07-02)
参考文献数
84
被引用文献数
2 1

近年の情報理論の発展の背景には,量子情報理論の成果がある.本稿ではそのような情報理論に対する量子情報理論の影響に注目し,これまで情報理論の発展に対して量子情報理論が果たしてきた役割について解説する.これにより,近年の量子情報理論の成果がその分野内に閉じたものでないことを説明する.
著者
片岡 駿
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.256-265, 2018-04-01 (Released:2018-04-01)
参考文献数
20

本稿では,マルコフ確率場を用いた生成モデルの方法について解説を行う.マルコフ確率場とは確率変数間の関係性をグラフ構造で表すことができる確率分布の総称であり,生成モデルの方法は確率分布を用いてデータセットの発生源を模倣する統計的機械学習法の一つである.まず,確率変数間の関係性をグラフ構造で表現するマルコフ確率場とその性質について概説し,確率分布に対する統計的機械学習法の一つである生成モデルの方法について述べる.その後,マルコフ確率場に対する基本的な学習法について説明し,実際の学習で役立つ幾つかのアルゴリズムを紹介する.また,マルコフ確率場を用いた生成モデルの方法の例として,制限ボルツマン機械について紹介する.
著者
林 初男
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.102-114, 2014-10-01 (Released:2014-10-01)
参考文献数
50

工学でも大きな興味が持たれている脳のニューロンや神経回路網は非線形なシステムである.ニューロンは規則的に発火するだけでなく,膜電位あるいは刺激の強さや周波数に依存して不規則に発火することがある.この不規則な発火はカオスと呼ばれる決定論的な力学則に従う非周期振動である.神経回路網の場合は,ニューロンの集団活動を反映した電場電位が周期刺激に対して引き込みやカオス応答を起こす.すなわち,ニューロン集団の同期の程度や同期したニューロン数が刺激に応じて変化する.本稿では,非線形ダイナミクスの観点から脳を概観し,脳の情報処理機構に関する研究の一例として,海馬における確率共鳴と記憶パターンの想起について述べる.