著者
蜂屋 弘之
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.244-252, 2012-01-01 (Released:2012-01-01)
参考文献数
47

超音波断層装置を用いた医用診断は大きな成果を上げ,超音波診断装置は非常に普及しているが,断層画像を用いた診断には医師の経験や熟練を必要とする.生体の音響特性を利用し定量的な診断情報を得ようとする試みも行われてはいるが,生体組織の大きな特徴である不均一な構造は十分に考慮されておらず有用な定量診断情報には今一歩届いていないのが現状である.本解説では,生体の音響特性の特徴と超音波定量診断技術の現状について紹介し,何が問題なのかを考察し,将来の研究についての展望を述べる.
著者
上田 哲史 天羽 晟矢
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.139-146, 2023-01-01 (Released:2023-01-01)
参考文献数
20

機械学習やデータサイエンスを実践する基盤プログラミング言語としてPythonが注目されている.本解説では非線形問題,特に系にみられる周期解の分岐問題について,Pythonを用いたアプローチの詳細を述べる.分岐計算アルゴリズムを可読性高く実装でき,計算機やOSに依存せず,対話処理による試行錯誤が可能となる.幾つかの特徴的なコードを示しながら,分岐問題に対するPythonの優位点を述べる.また,Neimark-Sacker分岐におけるbialternate積を用いた解法のコンパクトな実装,及びSympyを用いたヘシアン生成自動化過程についても述べる.
著者
向殿 政男
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.129-135, 2010-10-01 (Released:2010-12-01)
参考文献数
7
被引用文献数
2

コンピュータと安全との関係は,大きく分けて二つの側面がある.一つは,コンピュータを内部や外部の危険源から守り,コンピュータを正常に稼動させ続けることを目的とする“コンピュータのための安全”であり,二つ目は,他のシステムの安全を維持する機能をコンピュータで実現させようとする“コンピュータによる安全”である.筆者は前者をコンピュータ安全と呼んでいるが,後者の典型例として機能安全と呼ばれる新しい安全の分野がある.本稿では,コンピュータ安全と機能安全の一般論とともに最近の動向について解説する.
著者
井佐原 均
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.297-307, 2021-04-01 (Released:2021-04-01)
参考文献数
8

本稿では,筆者のこれまでの自然言語処理や言語資源の研究開発の経験をもとに,技術開発と社会実装の連携について述べる.まず現在実施中の自然言語処理技術の社会実装プロジェクトについて,実用に向けた取り組みを交えて述べる.次に社会実装に向けて自然言語処理技術の課題や目指す方向を論じる.人工知能システムにおけるデータの重要性を述べた後,これまでの言語データ開発の経験を紹介する.データを社会で共有する試みと国際標準化にも触れる.最後により広い観点から人間の言語理解や人工知能について述べる.
著者
清藤 武暢
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.196-204, 2023-01-01 (Released:2023-01-01)
参考文献数
30

近年, 異なる組織間でのデータ共有・活用を実現できるプラットホーム (クラウドやブロックチェーンなど) の構築や運用が進んでいる. こうした動きに伴い, 様々な分野において当該プラットホームを利用したデータ共有・活用による社内業務の効率化や新たな価値創出に関する検討が進められている. 特に, 当該業務/サービスにおいて機械学習を利用している組織などでは, こうしたデータ共有・活用により機械学習の性能向上が期待される連合学習 (Federated Learning) と呼ばれる技術が注目されている. 連合学習は, 学習対象のデータセットが複数の組織などで分散管理されている状況において, データセットそのものを当該組織間で共有することなく, 全てのデータセットの特性を反映させた機械学習のモデルを生成できる技術である. 最近では, マーケティングや社内業務の効率などを向上させることを目的とした当該技術の利用に関する検討も活発化している. そこで, 本稿では, 連合学習について概説するとともに, 当該技術に対する攻撃手法とその対策, および実装プラットホームに関する最近の動向について紹介する.
著者
神里 達博
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.318-332, 2022-04-01 (Released:2022-04-01)
参考文献数
61
被引用文献数
1 2

科学技術研究に伴う,倫理的,法的,社会的影響について,主として人文社会科学的観点から検討を行う研究プログラムを「ELSI」と呼ぶ.本稿では,この思想と実践が,前世紀末の米国において生まれた経緯とその後の展開について,歴史的に概観する.この検討は,情報技術の分野においてELSI的課題と向きあう上でも,価値ある示唆を与えてくれるものと考えられる.
著者
安里 彰
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.300-309, 2022-04-01 (Released:2022-04-01)
参考文献数
34

富士通は理化学研究所とともにフラッグシップ2020プロジェクトに参画し,スーパーコンピュータ「京」に続く我が国の旗艦コンピュータシステムとなるスーパーコンピュータ「富岳」を開発した.フラッグシップ2020プロジェクトでは,多様なアプリケーションを高性能かつ低電力で実行可能とすることを目標に掲げ,その達成のためにコデザインと呼ぶフレームワークを導入して「富岳」の開発に取り組んだ.コデザインはシステム開発者とアプリケーション開発者が協調してアプリケーション性能に優れたシステムを目指すアプローチで,アプリケーションの特性分析結果を用いて,システムハードウェア設計上の多くのパラメータが決定された.そして完成した「富岳」はコデザインの狙いどおり,実用的なアプリケーションを高性能かつ低電力で実行可能なシステムとなった.コデザインの対象は,ハードウェアからアプリケーションまで多岐にわたるが,本論文ではその中で主に「富岳」のプロセッサA64FXの開発に焦点を当てて開発を振り返る.
著者
槇原 靖 村松 大吾 八木 康史
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.14, no.4, pp.318-328, 2021-04-01 (Released:2021-04-01)
参考文献数
48
被引用文献数
4

人の歩き方(歩容)には,年齢・性別・感情・健康状態といった様々な情報が含まれている.中でも,人の歩き方の個性に基づいて個人を認証する歩容認証が注目を集めている.歩容認証は,ほかのバイオメトリクスとは異なり,カメラから遠く離れた人物の無意識の歩行に対しても適用可能であるため,科学捜査などへの応用が期待される.本稿では,歩容認証の基本的な特徴表現などを紹介するとともに,近年の深層学習を取り入れた手法も紹介する.更に,歩容認証手法の科学捜査への応用事例についても紹介し,最後に,今後の歩行認証技術の展望を述べる.
著者
宮本 俊幸
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.20-27, 2019-07-01 (Released:2019-07-01)
参考文献数
43

離散事象システム・並行システムのモデル化言語の一つであるペトリネットは,1962年にカール・アダム・ペトリによって導入されて以来,様々な理論及び応用研究がなされてきた.ペトリネットにおける最も基本的な解析問題の一つに,与えられた状態に到達可能かどうかを判定する可達問題がある.可達問題は決定可能であるが,計算量が指数オーダとなるためペトリネットにおける諸性質の解析は容易ではない.近年の計算機能力の進歩や様々な手法の開発により,ある程度の規模のペトリネットまでは可達問題を解くことができるようになっている.本稿ではペトリネットの可達問題に対する最近の手法である,記号状態表現を用いる手法,アンフォールディングを用いる手法,モジュラー可達空間を用いる手法,モデル検査ツールを用いる手法を概説する.
著者
佐古 和恵 森 健吾
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1_48-1_57, 2008-07-01 (Released:2011-05-01)
参考文献数
5
被引用文献数
1

2008 年1 月に開催された暗号と情報セキュリティシンポジウム(通称SCIS) において、恒例のSCIS 論文賞投票が従来の紙投票に加えて電子投票も可能になりました.本稿ではそのネットワーク型電子投票のしくみならびに実施結果について紹介します.
著者
木下 慶介 吉岡 拓也 中谷 智広
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.301-310, 2011-04-01 (Released:2011-04-01)
参考文献数
37
被引用文献数
2 2

室内で収録された音声信号には,音源からマイクロホンへ直接到達する直接音に加えて,壁や床などに反射して遅れてマイクロホンへ到達する残響が含まれている.この残響は収音した音声信号の明瞭性を低下させるとともに,コンピュータによる自動音声認識をはじめとする多くの音響信号処理アプリケーションの性能低下を招く原因となる.このため,収録音からの残響の除去は,古くから,実環境音響信号処理の実現に向けた重要課題とされてきた.その中でも特に重要度の高い課題である,収録条件が与えられていない任意の条件で収録された音声に含まれる残響の除去(=ブラインド残響除去) の問題は,解決の困難なものとされており,多くの提案がなされてきた.本稿では,音声のブラインド残響除去の近年の幾つかの研究成果を挙げ,それらの特徴をまとめる.
著者
永田 真
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.177-182, 2015-01-01 (Released:2015-01-01)
参考文献数
23
被引用文献数
1 2

ハードウェアの根底にあるICチップの真正性の課題 ―近年,国際的な設計開発と製造流通の分業体制の下,これまで疑いの余地のなかったICチップの身元や確からしさに対する疑念が示唆されている.ICチップのセキュリティについては,これまで欧米を中心に研究活動が進められてきた.他方,セキュリティ機能を持つICチップの開発・製品化は我が国に先進性があり,セキュリティ機能に関するぜい弱性の分析や試験評価の方法について,産業界の連携による研究開発の取組みが進められてきた.本稿では,半導体部品の真正性に関する脅威と対策の取組みに焦点を置いて解説する.
著者
黒澤 馨
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.47-57, 2015-07-01 (Released:2015-07-01)
参考文献数
25

クラウドストレージサービスは既に商用化されており,グーグル,アマゾンなど多くのIT 企業によってサービスが提供されている.各ファイルは暗号化した上で保存した方が安全であるが,その反面,暗号化するとキーワード検索すらできなくなってしまう.この相反する二つの問題を解決する手段として,近年,共通鍵暗号に基づく検索可能暗号(SSE) 方式が活発に研究されている.本稿では,最も基本的な単一キーワード検索SSE 方式の原理について解説するとともに,その安全性の定義及び構成法に関する最近の研究成果について紹介する.
著者
岡本 龍明
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.4_70-4_76, 2008-04-01 (Released:2011-03-01)
参考文献数
12

盗聴されてもいい通信路を使って二つの参加者が安全に鍵を交換(共有)するための方法は「鍵交換」と呼ばれ,その研究から現代暗号が誕生した.本稿では,歴史上最初に発表された「鍵交換」であるDiffie-Hellman-Merkle(DHM) 鍵交換方式がどのように発展し,現代暗号理論の最先端においてどのように研究されているかを概観する.
著者
西谷 隆夫
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1_9-1_21, 2008-07-01 (Released:2011-05-01)
参考文献数
29

今回の「技術の原点」は,DSP(Digital Signal Processor: 信号処理プロセッサ)の発明者の一人として世界的に認知されている西谷隆夫先生によるDSP 黎明期から現在までの発展についての後編です.(前編:http://w2.gakkai-web.net/gakkai/ieice/vol4.html)後編では,DSPの市場が拡大するにつれ,非技術的な競争が支配的になっていく現在までの状況,及び,今後の発展について論じて頂いています.前編に引き続き,数々のイノベーションについての,興味深いエピソードをお楽しみ下さい.(編集委員会)
著者
藤本 大介
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.142-150, 2019-10-01 (Released:2019-10-01)
参考文献数
40

近年,外界の情報を取得し,自身の制御を行う自動運転車などの開発・普及が進んでいる.このような機器においては,外界の情報を取得するセンサを用いる.その際,機器はセンサからの情報を信頼し動作するため,攻撃者によりセンサの情報が改ざんや妨害されるとその動作を不正に制御される可能性がある.このように外界の情報を取得し制御するような機器においてはセンサからのデータのセキュリティを考える必要がある.本稿ではセンサが外界から情報を取得する過程におけるセキュリティについて概観する.