著者
関口 信康 大津 宏康 伊豆 隆太郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.I_121-I_130, 2011 (Released:2012-03-30)
参考文献数
14

近年の我が国では台風,集中豪雨等による斜面災害が多発しており,限られた予算の中で,明日にでも起こりうる斜面災害に対し,被害を最小限に止めることの重要性が再認識されている.しかしながら,現在の厳しい経済社会情勢において道路斜面の管理に対する予算が削減される中,道路防災総点検において対策が必要と判断された膨大な数の要対策斜面への対応が滞っているのが現状である.こうした状況の中,道路斜面の適切な管理によって自動車走行の安全・安心を向上させるためには,サービス水準の低下による社会的損失を明確にした事業優先度を定量的・客観的に評価し,効率的・重点的に道路斜面の管理を実施していく必要がある.このような観点から,本研究では道路斜面防災を対象に,道路斜面管理の各段階において取得可能な情報を最大限に活用した事業優先度の評価手法はいかにあるべきかについて提案するとともに,その効果について試算する.
著者
須藤 敦史 児玉 文 阿部 和正
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.I_202-I_210, 2018 (Released:2019-01-10)
参考文献数
15

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震において仙台市内の丘陵地に造成された住宅地で地盤被災が数多く発生した.さらに 2016年4月14日の熊本地震でも盛土の造成宅地に多くの被害が生じている.これら造成宅地の地震被害は,急傾斜地だけではなく緩やかな基盤や地盤構造の造成宅地でも数多く発生している.しかし,住宅地の購入者がこれらを検討・確認することはほとんどなく,地震被害を受けて初めて基盤・地盤情報の重要性を意識することが一般的である.そこで本研究は,東北地方太平洋沖地震において仙台市内で基盤・地盤構造の違いにより造成宅地の建物損壊度が異なることを地理情報システム(Geographic Information System : GIS)により示し,建物の建築年代や宅地造成前の基盤・地盤特性情報の重要性を示している.次に,地震リスクマネージメントや地震被害想定では被害の発生予測精度が重要であるため,兵庫県南部地震における水道管の損傷調査結果より地盤性状による地震時の損傷度曲線(Seismic Fragility Curve : SFC)を求めている.さらに,仙台地域における造成宅地の地震被災リスクを定量的に算出し,造成宅地おける地震リスクを考慮した評価法の基礎考察も行っている.
著者
山口 健太郎 谷本 圭志 長曽我部 まどか
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.I_173-I_181, 2018 (Released:2019-01-10)
参考文献数
30

今日の社会が抱えている社会的課題の多くは,複数の分野にわたる「子課題」を内包している.防災はその典型であり,高齢者など弱者の支援,被災後のまちづくり,防災投資の経済効果などの子課題を内包している.このような課題の解決に向けては,子課題に精通している専門家が総合的な解決策を模索するための協働的な体制づくりが必要である.しかし,それぞれの専門家の関心を直ちに把握することができないため,適切な構成員の人選には試行錯誤を伴うのが一般である.そこで本研究では,テキスト情報の背後にある関心を解析する手法を用い,専門家が発信するテキスト情報から個々人の関心を定量的に評価し,その結果を活用して体制づくりを支援するための手法を検討する.
著者
鈴木 貴大 堀田 昌英
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.11-24, 2014 (Released:2014-02-20)
参考文献数
22
被引用文献数
1

近年,建設投資の減少による建設業界の過当競争を問題視して産業保護の目的から全国で最低制限価格を引き上げた結果,くじ引き入札が多発し,入札の意義が問われている.本研究は,オークション理論を通して最低制限価格の運用に対する政策的含意を与えることを目的とした.予定価格,最低制限価格を周知した対称入札について均衡解を示し,最低制限価格の引き上げが技術力の優劣に正逆する恩恵を施すという副作用を示した上で,比較対象として入札者の技術水準の反映が極度に非効率的なメカニズムを提示し,現行の施策がこれに劣ることを示した.また,(1) 非対称入札への拡張によって技術力の劣る企業ほど薄利で入札すること,(2) 最低制限価格の事前公表がない場合をモデル化し,ある条件の下では上記の歪んだ恩恵配分が依然として存在することを示した.
著者
松本 美紀 木下 誠也 笛田 俊治
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.I_185-I_199, 2019 (Released:2020-02-28)
参考文献数
11

公共事業の生産性を向上しつつ品質を確保するためには発注者・設計者・施工者の技術力の結集が不可欠であり,特に発注者のマネジメント力が重要である.本研究では,発注者に必要なマネジメント力を明らかにして不足する場合の技術力補完方策を検討する観点から,全国の地方公共団体を対象にアンケート調査を実施し,得られた719件の回答について整理・分析を行った.その結果,職員の研修等による組織の内側からと民間委託等による組織の外側からの2つの取組みが組織の技術力向上策となる可能性を示唆した.そして,それらの取組みを適切に実施するためには,マネジメント力の評価や資格制度の構築,外部委託時の事業責任の所在を明確化することが重要と考えられていることが明らかになった.
著者
草柳 俊二
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.I_127-I_136, 2014 (Released:2015-02-28)
参考文献数
22
被引用文献数
1

2006年4月に日本土木工業協会(土工協)が「透明性ある入札・契約制度に向けて-改革姿勢と提言-」を公表した.提言内容は実施的な談合離脱の宣言であり,建設産業は「競争の原理」へと動き出した.その結果,発注者側の設定した「予定価格」を大幅に下回る金額で契約が成立するケースが全国で発生し,追加費用精算への落札率の適用問題が浮かび上がってきた.国土交通省を始めとして,ほとんどの公的発注機関が追加費用精算への落札率適用をルール化しているが,その論理基盤は確かなものか.これまで,入札・契約方式といった調達方式の改革が進められて来たが,契約条項に基づく適正な追加費用精算システムの確立は「競争の原理」に基づく産業基盤を作る上で極めて重要なものとなってくる.
著者
中村 洋丈 横田 聖哉 吉村 雅宏
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.156-175, 2013 (Released:2013-08-20)
参考文献数
35
被引用文献数
6

震災害時には高速道路は緊急交通路の機能を有し,“線”として早期に道路機能が確保される必要がある.したがって盛土構造も耐震性が求められるが,既設盛土は効率的かつ合理的な照査手法がない.本論文の評価手法の骨子は,盛土基本情報の評価点法による一次評価,変形量の簡易予測図による二次評価,復旧土量から算定する許容変形量の設定から成る.この手法を用いて過去の被災区間や実際のモデル路線で適用し,実際の路線においても評価対象箇所の合理的な抽出が可能であること,復旧体制の規模によって目標時間内での復旧可否が判断可能である等の手法の有効性を確認した.これらより対象盛土の選定から残留変形量の算出,許容変形量の設定等を体系化した合理的で実務的な手法を構築した.
著者
浜田 成一 杉原 栄作 貝戸 清之 水谷 大二郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.84-101, 2016 (Released:2016-10-20)
参考文献数
32
被引用文献数
2

建設業法上,建設企業は総合工事企業と専門工事企業に分類される.本研究では,老朽化が進む社会基盤施設に対する維持・修繕工事の需要の増加と,資本金階層別の建設企業の維持・修繕工事の受注件数や請負契約金額に関して,統計調査データの分析やヒアリング調査を実施し,一般的な維持・修繕工事の大半は,資本金1,000万円以上5,000万円未満の専門工事企業が受注していることを明らかにした.さらに,1)官公需法の下では維持・修繕工事において専門工事企業が中心的な役割を担うこと,2)それにより維持・修繕工事の不完備性を軽減し得ること,3)発注方式として,設計・施工一括発注方式が望ましいことを述べた.一方で,専門工事企業には技術の専門性のみならず,維持・修繕工事全体を管理する総合技術力が要求されることに言及した.
著者
關 豊
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.63-73, 2011 (Released:2011-03-18)
参考文献数
25
被引用文献数
2

わが国の鉄道は,政府の近代化政策のトップ・ランナーとして明治5 年(1872)10 月に新橋・横浜間で開業したのが始まりである.わが国の鉄道建設は,殖産興業を急ぐため同時並行的に鉄道網を整備する必要があったことから請負契約を多く採用してきた.わが国の請負契約と積算は,紛れもなく鉄道工事が先駆けとなって発展してきた.この史実に基づき,本論文は鉄道工事における請負契約と積算の歴史的変遷を明らかにすることを試みた. その結果,a) 個別の工事の都度請負契約書と仕様書が定められた“創成期”,b) 請負契約書と仕様書の書式が統一化され発展した“成長期”,c) 組織的に予定価格の体系,積算の方法,歩掛等が標準化された“成熟期”の3 区分に大別できることを明らかにした.
著者
藤島 博英 簗瀬 範彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.I_239-I_250, 2011 (Released:2012-03-30)
参考文献数
12

平成22年度現在,全地方自治体の約70%が総合評価方式による入札制度を試行的に導入したが,多くの地方自治体では本格的な導入に至ってはいない.その理由は,最も簡便な特別簡易型による型式でさえも,事務量の増大や入札期間の長期化などが負担とされているからである.その背景として,入札を担当する人員の問題や総合評価方式に相応しい工事規模や工種と実際の発注案件との乖離といった実務的な問題,さらに公共調達に関する自治体職員の意識の問題があるものと推定できる. 本研究では,北関東3県の入札担当職員の配置状況と事務量,そして,職員の総合評価に対する意識等,地方中小自治体が総合評価導入に対して抱える実務上の課題を抽出した. その結果,上記の課題に対して小規模であっても,比較的総合評価方式に対応している自治体のグループの存在を確認できた.一方,体制と工事発注量の不均衡から,今以上の総合評価方式の導入に限界を感じている規模の自治体グループの存在も窺えた.
著者
藤島 博英 簗瀬 範彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.I_181-I_192, 2012 (Released:2013-03-12)
参考文献数
15

平成17年,「公共工事の品質確保の促進に関する法律」が制定された.以後,地方自治体において,総合評価方式の導入が進んでいるが,広域自治体の4割強は試行段階にあり,基礎自治体の本格的実施は,7%未満である. 本研究は,すべての広域自治体を対象に公共調達実施状況,第三者委員会の運営状況および基礎自治体に対する支援状況に関するアンケート調査を実施した.アンケートの分析結果,地方自治体において総合評価の実施の大きな隘路となっている制度的要件は,第三者委員会であることを明らかにできた.しかし,職員配置状況から,小規模な広域自治体ほど,運営の負担が大きいため,第三者委員会の開催にかかる事務的負担を軽減するような制度的運用を行うことが,技術評価を伴う総合評価の導入促進に効果的であると考える.
著者
堀 倫裕 鶴田 岳志 貝戸 清之 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.33-52, 2011 (Released:2011-02-18)
参考文献数
29
被引用文献数
1 2

下水処理施設は,保全管理方式が異なる複数の資産群から構成されており,補修や再構築に要する財源も様々である.したがって,維持管理計画を最適化し,事業の安定性・継続性を確保していくためには,異なる資産管理方式および資金調達方式を同時に考慮したライフサイクル費用分析が必要となる.さらに,下水道事業体は公営企業として財務会計を有する場合も多く,財務会計と有機的に連携した管理会計を構築することが重要である.本研究では,下水処理施設のアセットマネジメントに資する管理会計システムを提案するとともに,管理会計シミュレーションを通じて,ライフサイクル費用の低減に貢献するようなアセットマネジメント戦略を検討するための方法論を提案する.さらに,適用事例を通じて方法論の有効性を検討する.
著者
古谷 宏一 横田 弘 橋本 勝文 花田 祥一
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.I_159-I_168, 2011 (Released:2012-03-30)
参考文献数
6

社会基盤施設の維持管理において,事後保全型から予防保全型へとその枠組みを転換することにより,施設の有効活用やライフサイクルコストの低減を図る試みが進められている.この場合,劣化進行予測の信頼性を向上させることが重要になる.本論文では,係留施設の劣化に対する対策の実施推奨年をマルコフ連鎖モデルにより予測する場合の,予測結果の信頼性を議論する.つまり,係留施設の劣化度調査データを用いて次の検討を行う.1) 構造物ごとの劣化速度を算出し,K.S.検定により劣化速度の分布系を決定する.また,2) 分布に従う劣化速度乱数を発生させ,モンテカルロシミュレーションにより構造物の対策推奨年の分布を求める.さらに,3) 施設全体の代表劣化度の相違が対策推奨年の予測結果に与える影響を把握する.その結果,1) 係留施設の構造形式ごとに推定される対策推奨年の分布系が確認できた.2) 構造物に期待される対策推奨年の最頻値と最小値との差を定量的に示すことができた.また,3) 代表劣化度の相違に起因する対策推奨年の予測結果の差異を定量化する算定式を提案した.