著者
田中 尚 藤森 裕二 貝戸 清之 小林 潔司 安野 貴人
出版者
Japan Society of Civil Engineers
雑誌
土木学会論文集D (ISSN:18806058)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.329-341, 2010

浄水場施設のアセットマネジメントにおいて,コンクリート版に対する維持管理が重要な課題となっている.短・中期間を対象とした中性化速度式では,中性化深さが経過年数の平方根に比例するという仮定(以下,「ルート<i>t</i>則」と略す)が採用されている.しかし,アセットマネジメントの対象となる長期間に及ぶ中性化過程に関しては十分な知見が蓄積されていない.本研究では,浄水場施設のコンクリート構造物を対象に,長期にわたって蓄積された中性化深さの測定データに基づいて,長期的な中性化過程を解析するための加速劣化ハザードモデルを提案する.さらに,ルート<i>t</i>則に関する統計的仮説検定の結果,少なくとも対象とした長期間のデータに関してルート<i>t</i>則は棄却され,現実の中性化過程はルート<i>t</i>則より,加速して進行することが判明した.
著者
小濱 健吾 山岸 拓歩 橋詰 遼太 田山 聡 貝戸 清之
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.9, pp.22-00101, 2023 (Released:2023-09-20)
参考文献数
21

降雨に伴う斜面災害に対する道路利用者の安全を確保するために,適切な通行規制の実施が重要となる.本研究では,通行規制の基準となる雨量指標値の設定のために提案されている通行規制基準値の設定方法の枠組みの高度化を図る.具体的に,斜面災害の発生予測モデルとしてハザードモデルを提案し,災害の発生時点を正確に把握できない不可観測性に対処する.また,通行規制に用いるべき雨量指標を土中水分量と降雨強度の観点から検討する.さらに,同モデルに適合したリスク管理指標として「見逃し件数」と「規制時間」を採用し,規制基準値設定モデルを定式化する.最後に,実在する高速道路区間における斜面災害履歴,巡回点検履歴,降雨履歴を用いた適用事例を通して,本研究で提案する方法論の有用性を検証する.
著者
小濱 健吾 吉田 伊織 田山 聡 貝戸 清之
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.7, pp.22-00133, 2023 (Released:2023-07-20)
参考文献数
18

近年では,斜面防災に利用できる多様なモニタリングデータが獲得されている.衛星を用いた測位システムであるRTK-GNSSを活用し,ChangeFinderによる変化点検知手法が提案されているが,実用化のためには適用範囲の拡大が課題として残されている.本研究では,GNSSデータに含まれる測定誤差を処理する手法を新たに提案し,検知精度の向上を試みた.具体的には,マルチパス誤差を除去する恒星日周期補正法と偶然誤差を含むGNSSデータから真の位置を区別する偶然誤差処理モデルを提案し,粒子フィルタによる逐次推定を援用した変化点検知を行う.さらに,実際の高速道路において観測されたGNSSデータを用いて検証し,斜面の変位量が標本標準偏差の1.5倍を超える場合に変化点を検知できることを示した.
著者
貝戸 清之 竹末 直樹 水谷 大二郎 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.22-00255, 2023 (Released:2023-04-20)
参考文献数
43

近年,包括的民間委託による下水処理施設の管理事例が増加している.下水処理施設のアセットマネジメントの継続的改善を目指す場合,包括的民間委託による維持管理費用の低減や管理の効率化の効果を定量的に評価するとともに,ベストプラクティスを抽出し,管理・運営方法を改善することが重要となる.そこで本研究では,費用効率性に基づき下水処理施設の包括的民間委託導入効果を定量的に評価する.具体的には,確率的費用フロンティアモデルを用いて推定した費用効率性パラメータの分布をノンパラメトリック検定により比較することにより,包括的民間委託導入効果を定量化する方法論を提案する.当該方法論を全国の下水処理施設の維持管理費用や処理水量で構成されるデータベースに適用し,実際の包括的民間委託の導入効果を定量化する.
著者
貝戸 清之 松本 圭史 鎌田 敏郎 北野 陽一郎 山中 明彦
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.22-00111, 2023 (Released:2023-01-23)
参考文献数
36

下水道管渠は埋設構造物であるために,管理対象全域において悉皆調査を行うことが困難である.一方で,調査が実施できなくとも,管渠の劣化に影響を及ぼす属性情報であれば全域で利用可能であることが多い.本研究では,部分的に獲得された調査データを用いて調査実施管渠に対する劣化予測を行ったうえで,回帰クリギングを用いて管渠の劣化異質性と属性情報の空間的関係性を表す空間マッピングモデルにより,調査未実施管渠も含めた全管渠の劣化を予測する方法論を提案する.さらに,劣化予測結果をもとに作成した健全度分布に対して,デュアルカーネル密度推定を用いて老朽管渠の空間的集積傾向を視覚化し,改築更新区域を抽出する.最後に,提案手法を大阪市の下水道コンクリート管渠に対する調査データに適用して,その有用性を検証する.
著者
貝戸 清之 小林 潔司 神谷 恵三 新 雄成
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.22-00130, 2023 (Released:2023-01-23)
参考文献数
33

我が国の高速道路舗装では,経年に伴う構造耐荷力の低下による損傷部位の深層化が確認されている.実務においては,表層材料が密粒度から高機能へと推移したことを受けて,損傷状態に応じた層別修繕が実施されているが,構造耐荷力がどの程度回復したかは定量的な評価がなされておらず,層別修繕の効果と構造耐荷力との関係性が明らかになっていない.本研究では,舗装構造の耐荷力の推移を,1) 経年によって低下する劣化過程と,2) 修繕時に向上する回復過程との複合過程としてモデル化する.これにより,構造耐荷力の劣化予測に加え,修繕時の回復を推移確率として定量的に評価することが可能となる.さらに,高速道路舗装を対象とした適用事例を通して,提案したモデルの有用性について考察する.
著者
石井 博典 藤野 陽三 水野 裕介 貝戸 清之
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F (ISSN:18806074)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.44-61, 2008 (Released:2008-02-20)
参考文献数
21
被引用文献数
2 5

本研究では,主に合理的な維持管理を必要とする中小鉄道を対象として,高頻度な計測が可能な軌道モニタリングシステム(Train Intelligent Monitoring System:TIMS)の開発を行った.営業車両内に加速度計,GPSで構成される簡易な計測システムを設置し,走行中の車両振動から軌道の状態を常時監視するシステムを構築し,地方鉄道において継続的な実験を実施した.GPSセンサから得られる速度情報と,車両加速度を2回積分して得られる距離情報を補完しあうことにより,車両走行位置を検出する位置同定手法を開発した上で,車両の上下,左右方向の加速度の最大値,RMS値を管理することにより,軌道状態を高頻度で監視することが可能な軌道モニタリングシステム(TIMS)を構築した.
著者
津田 尚胤 貝戸 清之 山本 浩司 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F (ISSN:18806074)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.473-491, 2006 (Released:2006-07-20)
参考文献数
41
被引用文献数
4 5

土木施設のアセットマネジメントにおいて,土木施設の劣化予測が重要な課題となる.現実には,劣化状態に関する点検データが十分でなく,劣化予測モデルの推計精度が十分でない場合が少なくない.その際,技術者の経験的知識等を劣化予測に活用するとともに,新しく利用可能になった点検データに基づいて,劣化予測モデルの推計精度を逐次改良するような方法論が必要となる.本研究では,土木施設の故障の有無を予測するためのワイブル劣化ハザードモデルを,新しく利用可能になった点検データに基づいてベイズ推計する方法論を提案する.その際,マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いて,未知パラメータの事後分布を効率的に推計する方法を提案する.さらに,トンネル照明ランプを対象とした適用事例を通して,提案した方法論の有効性について考察する.
著者
宮﨑 文平 風戸 崇之 濵梶 方希 小濱 健吾 貝戸 清之
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集E1(舗装工学) (ISSN:21856559)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.I_175-I_183, 2013 (Released:2014-03-06)
参考文献数
10
被引用文献数
4

近年,高速道路では標準的な舗装路面として高機能舗装が採用されている.これに伴い,密粒舗装が主流であった時期に策定された従来の路面管理基準では,舗装路面の状態を十分に評価することが困難となってきている.本研究では,評価長と評価指標という観点から現在の路面管理基準の妥当性と,最適な路面管理基準について検討する.具体的には,現在の我が国の道路舗装の維持管理における,路面性状調査の結果による健全度評価と現場の補修要否判断の乖離の問題を説明する.その際,密粒舗装と高機能舗装それぞれの劣化過程の相違に触れ,評価長と評価指標という観点から現在の路面管理基準の問題点を指摘する.その上で,供用中の高速道路で獲得された路面性状データを用いた実証分析を実施し,最適な路面管理基準について検証する.
著者
浜田 成一 杉原 栄作 貝戸 清之 水谷 大二郎
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.84-101, 2016 (Released:2016-10-20)
参考文献数
32
被引用文献数
2

建設業法上,建設企業は総合工事企業と専門工事企業に分類される.本研究では,老朽化が進む社会基盤施設に対する維持・修繕工事の需要の増加と,資本金階層別の建設企業の維持・修繕工事の受注件数や請負契約金額に関して,統計調査データの分析やヒアリング調査を実施し,一般的な維持・修繕工事の大半は,資本金1,000万円以上5,000万円未満の専門工事企業が受注していることを明らかにした.さらに,1)官公需法の下では維持・修繕工事において専門工事企業が中心的な役割を担うこと,2)それにより維持・修繕工事の不完備性を軽減し得ること,3)発注方式として,設計・施工一括発注方式が望ましいことを述べた.一方で,専門工事企業には技術の専門性のみならず,維持・修繕工事全体を管理する総合技術力が要求されることに言及した.
著者
貝戸 清之 小林 潔司 青木 一也 松岡 弘大
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集D3(土木計画学) (ISSN:21856540)
巻号頁・発行日
vol.68, no.4, pp.255-271, 2012 (Released:2012-10-19)
参考文献数
36
被引用文献数
12

社会基盤施設の劣化過程においては,施設の構造特性や使用・環境条件の違いにより劣化速度に多大な異質性が存在する.個々の施設に特有な異質性がもたらす劣化速度の過分散の問題を克服するために,施設グループ間の劣化速度の異質性を明示的に考慮した混合マルコフ劣化ハザードモデルが提案されている.本研究では,劣化速度の過分散が,施設グループ間における劣化速度の異質性と,グループを構成する個々の施設間における異質性というレベルの異なるつの異質性が複合された結果により発生すると考える.その上で,階層的異質性を導入した混合マルコフ劣化ハザードモデルを定式化し,その階層ベイズ推計法を提案する.最後に,橋梁床版に対する目視点検データを用いた実証分析を通して,本研究で提案する手法の妥当性を検討する.
著者
津田 尚胤 貝戸 清之 青木 一也 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:02897806)
巻号頁・発行日
vol.2005, no.801, pp.801_69-801_82, 2005 (Released:2006-05-19)
参考文献数
17
被引用文献数
17 16

本研究では橋梁部材の劣化予測のためのマルコフ推移確率モデルを推定する方法論を提案する. その際, 橋梁部材の劣化状態を複数の健全度で定量化するとともに, 時間の経過により劣化が進展する過程をハザードモデルで表現する. その上で, 一定期間を隔てた時点間における健全度の推移関係を表すマルコフ推移確率を指数ハザード関数を用いて表現できることを示す. さらに, 定期的な目視検査による健全度の判定結果に基づいて, マルコフ推移確率を推定する方法を提案する. ニューヨーク市の橋梁を対象とした実証分析により提案した方法論の有効性を検証するとともに, サンプル数と指数ハザードモデルの推定精度の関係について考察する.
著者
堀 倫裕 鶴田 岳志 貝戸 清之 小林 潔司
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集F4(建設マネジメント) (ISSN:21856605)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.33-52, 2011 (Released:2011-02-18)
参考文献数
29
被引用文献数
1 2

下水処理施設は,保全管理方式が異なる複数の資産群から構成されており,補修や再構築に要する財源も様々である.したがって,維持管理計画を最適化し,事業の安定性・継続性を確保していくためには,異なる資産管理方式および資金調達方式を同時に考慮したライフサイクル費用分析が必要となる.さらに,下水道事業体は公営企業として財務会計を有する場合も多く,財務会計と有機的に連携した管理会計を構築することが重要である.本研究では,下水処理施設のアセットマネジメントに資する管理会計システムを提案するとともに,管理会計シミュレーションを通じて,ライフサイクル費用の低減に貢献するようなアセットマネジメント戦略を検討するための方法論を提案する.さらに,適用事例を通じて方法論の有効性を検討する.