著者
狩野 かおり 無藤 隆
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.1, pp.19-31, 2004
被引用文献数
2

本研究の目的は、地域の子育てサークルとインターネット上における育児期の親同士のネットワークがサポートを提供する場としてそれぞれどのように機能しているのかを比較検討することであった。そのために、地域の子育てサークルに所属する親メンバー307名とインターネット上の育児関連サイト内のネット掲示板を定期的に利用している親217名を対象として、親子の属性やネットワークの利用動機、現在の身近なサポート環境および親や個としての心理的健康、そして利用しているネットワーク形態がもっていると思われるサポート機能について尋ねる質問紙およびオンライン調査を行った。その結果、地域の子育てサークルとインターネット上の育児掲示板という二つのネットワーク形態を比較した時に、育児サークルの方は、子育てをある程度経験した親が既存のネットワークを広げる目的で参加し、コミュニティ的な支え合いや、親子同士の交流を通じた親や個人として視野の広がりを経験する機会を提供する場として特徴付けられるのに対して、インターネット上の育児掲示板は、育児経験の浅い親が育児情報を手に入れたりよその親の子育ての様子を知りたいというニーズを満たすために利用し、親としての自分を客観的に見つめ直し育児にゆとりを持つ機会が得られる場として捉えられていることが示唆され、当初の仮説がほぼ支持される結果となった。
著者
小保方 晶子 無藤 隆
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.1, pp.89-95, 2004

中学生の非行傾向行為の実態と変化を明らかにするために、1学期に2397名、2学期に2347名に質問紙調査を行い、非行傾向行為について性別、学年、学期による検討を行った。その結果、次のことが明らかになった。非行傾向行為の特徴として、「病気などの理由がないのに学校をさぼる」行為は女子に多いこと、非行傾向行為は、1年生より2年生の方が、多く増加していること、1学期より2学期の方が増加しており、学年だけでなく夏休みを挟んだ学期によって変化していることが明らかになった。夏休みが変化の機会になっており、中学生の非行傾向行為は夏休みの過ごし方などが大きく影響していることが示唆された。全体的な傾向としては、2年生の2学期が最も増加し、その後3年生になると減少するという変化が明らかになった。3年生では受験があることによって減少していることが示唆された。
著者
丹羽 さがの 酒井 朗 藤江 康彦
出版者
お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター
雑誌
お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要
巻号頁・発行日
no.2, pp.39-50, 2004

近年我が国では、子どもたちに「生きる力」をはぐくむ教育が重視されている。この流れのなかで求められているのは、教育の「長期的な視野からの一貫性」(秋田、2002)であり、特に、幼稚園・保育所と小学校の連携は、いわゆる「学級崩壊現象」との関連から語られるなど注目されている。本研究では、幼稚園、保育所、小学校の連携に向けて基本的に必要なものは、立場が違う者同士が理解し合い、協力し合う姿勢であると考え、連携に向けた基礎的資料の収集を目的として、幼稚園、保育所、小学校の教諭、保護者を対象とした、質問紙法による意識調査を行なった。現在の子どもたちの姿については「自主性・積極性」、日常生活、園・学校生活に必要な「基本的態度」のいずれとも、保護者の方が教諭に比べ、全般的に高く評価していた。育てたい子どもの姿については、「自主性・積極性」と「基本的態度」とも、小学校保護者、幼稚園・保育所保護者、小学校教諭、幼稚園教諭・保育所保育士の4調査対象者間で、重視する程度に違いがあった。学校不適応の背景要因の認識では、「家庭にある問題」「子どもの生活の変化」「小学生をめぐる問題」で、4調査対象者間に認識の違いが見られた。幼保小連携は、まだ始まったばかりの新しい取り組みである。本研究からは、これからのよりよい幼保小連携に向けた取り組みにおいて、連携関係者の互いの理解に資するような、基礎的資料が収集できたものと考える。
著者
角谷 詩織 無藤 隆
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.3, pp.75-87, 2006

不安な気持ちの現れや社会的ルール違反傾向を指標とし、テレビを中心とするメディア接触が青少年の意識や行動に及ぼす影響を検討した。首都圏40km圏内から無作為抽出された小学5年生(第1回調査)とその保護者1500組に対して、2001年2月より、毎年1回4年間の追跡調査を行った。第1回調査時での中学2年生、第4回調査時での小学5年生と保護者それぞれ350組ずつも調査対象とした。思春期の発達的変化がみられるとともに、子どもの社会的ルール違反傾向や不安な気持ちを高める要因は多様であること、その中で、テレビを中心とするメディアの要因も含まれることが示された。
著者
角谷 詩織 無藤 隆
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.1, pp.97-105, 2004
被引用文献数
1

本研究の目的は、児童・生徒の理科に対する意識を、他の教科および諸活動に対する意識との比較によって捉えることである。首都圏および地方の小学5年生から中学3年生4,127名を対象とし、国語、社会、算数(数学)、音楽、体育、家庭科、技術、図工(美術)、英語、総合的学習、給食、休み時間、部活動の13の教科・活動に対する意識を調査した。分析の結果、理科は、中学2、3年生で好事きな教科としてあげる生徒が少ないことが示された。しかし、技術を除く他の12の活動についても同様に、学年とともに、特に中学2、3年生で、好きな教科・活動としてあげる生徒は他の学年よりも少ないことも示された。特に、中学3年生の女子では、他の教科と比較したときにも理科を好きな教科としてあげる生徒が少なかった。一方、男子の全学年、女子の小学5年生から中学2年生まで、他の教科よりも理科が好きな児童・生徒が多いとが示された。「理科嫌い」という問題が女子において顕著であること、同時に、思春期を迎える子どもを囲む学校全般で、教科・諸活動に対するポジティブな意識を高める実践の必要性が考察された。
著者
小保方 晶子 無藤 隆
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.2, pp.75-84, 2004

中学生2397名を対象に質問紙調査を行い、非行傾向行為の経験がある子どもの特徴について、逸脱した友人の存在があるかどうか分類し、家族関係、友人関係、セルフコントロール、抑うつ傾向について検討を行った。まず、非行傾向行為の経験のある子どもは、セルフコントロールが低く、親子関係が親密でなく、抑うつ傾向が高いことが示された。非行傾向行為について、逸脱した友人の存在の有無によって検討した結果、行動上は同じ非行傾向行為という様相を見せていても、特に友人との関係や友人関係の持ち方や、抑うつ傾向に関して特徴が異なることが示された。親しい友人も自分も非行傾向行為の経験のある子どもの特徴として、親子関係は親密でないが、友人との関係は成立しており、その付き合い方は同調行動が示された。親しい友人に非行傾向行為をしている子どもはいないが単独で非行傾向行為の経験のある子どもの特徴として、特に男子では、親との関係が親密でないだけでなく、友人との関係も親密ではないことが示された。そして、抑うつ傾向が最も高いことが示された。中学生の非行傾向行為に関して、逸脱した友人の存在を考慮して検討することの重要性が示された。
著者
小保方 晶子 無藤 隆
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.3, pp.65-73, 2006

本研究は、中学生2743名に質問紙調査を行い、中学生の非行傾向行為と抑うつとの関連について、ストレッサーとコーピングから検討を行なった。日常生活のストレッサーは、非行と抑うつの両方と関連していたが、非行があり抑うつが高い子どもは、非行があり抑うつが低い子どもより、「先生ストレッサー」「親ストレッサー」が高かった。「学業ストレッサー」は差がみられなかった。コーピングは、「積極的対処」「サポート希求」が低く、「逃避・回避的対処」が高いことが明らかになった。次に、ストレッサーが非行と抑うつの各々に対して、どの程度影響を与えているのか、共分散構造分析を用いて、直接比較を行った。その結果、日常生活のストレッサーは、「非行傾向行為」より「抑うつ」に対しての方が影響力が強いことが明らかになった。また、「ストレッサー」から「抑うつ」に対する影響力は、男子と比較し女子の方が強かった。さらに「ストレッサー」から「非行傾向行為」の影響力は、1年生男子と3年生女子が、他の集団と比較し弱いことが明らかになった。
著者
金 美伶
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要
巻号頁・発行日
vol.4, pp.95-104, 2007

抑うつは,「心のカゼである」と言われるほど現代人に蔓延している.その身体的症状は,交感神経の緊張状態であるいわゆる「不安」とは異なる.不安と抑うつの差異は,不安の中核症状は,恐怖感,予期懸念,自律症状にあることに対して抑うつの中核は悲しみ,絶望感,喜びや興味の減退にある.抑うつ症状は,一般的に,激しい無価値感,不全感など,低い自己評価を含んだ感情を伴う.不安と抑うつともにネガティブな自己関連情報のアクセシビリティの亢進を示すのに対して,ポジティブな自己関連情報のアクセシビリティの低下は抑うつ者に限られる.本論文では,現代人の抑うつ発生と抑うつの評価に関する諸理論を考察する.抑うつ発生の諸理論を考察することにより抑うつの予防及び,日常生活からくるストレスへの対処に役に立つことを望んでいる.