著者
大戸 朋子 伊藤 泰信
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2019, pp.207-232, 2019-08-31

本稿は、腐女子と呼ばれる男性同性愛フィクションを嗜好する少女・女性の二次創作活動とメディア利用を対象とし、彼女たちがどのようにコミュニティを形成し維持しているのかについて、作品やキャラクタへの「愛」という不可視で不可量なものを議論の導きの糸として明らかにすることを目的としている。二次創作コミュニティは、二次創作者らの原作に対する「愛」によって形成されている。しかし、原作に対する解釈は個人によって異なっており、「愛」をめぐってコンフリクトが発生する。本稿では、このコミュニティ内で発生したコンフリクトが、2種類の対応によって調停されることが明らかとなった。1つ目は、二次創作者が言行一致の姿勢を取っている/いない、原作のキャラクタや設定から逸脱し過ぎている/いないなどの基準によって、原作に対する「愛」の具体化である二次創作作品を評価し、「愛」がないと判断した場合、コミュニティのソトに押しやり、原作への「愛」を持つ者同士のコミュニティを維持しようとする。2つ目は、過度な性描写や暴力表現などが盛り込まれた二次創作作品であっても、肯定的なコメントを送ったり、無視をして評価を行わないことで、メンバ間の衝突を回避し、コミュニティを維持しようとする、という調停である。
著者
田川 夢乃
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2019, pp.95-121, 2019-08-31

本論は、フィリピン、マニラ首都圏M市の日系カラオケパブ(JKTV)の事例から、金銭を介した交換関係における親密性を検討することを目的とする。ここでは、売買春、セックスワークといった対人接客的性サービス業における「商品」をめぐる議論に基づき、JKTVにおける「サービス提供者」としてのフィリピン人女性と「顧客」としての日本人男性の関係性において金銭と引き換えに提供される「モノ」とは何かを考察する。売買春は、お金を用いた交換と社会関係に関して、最も議論されてきたもののひとつであろう。売買春をめぐっては、そこで取引されている商品が、売春者の身体や人格の一部であるのか(「性の商品化」)、性的なサービスであるのか(「セックスワーク」)が問題とされてきた。本論は、顧客男性の射精を促すサービスを含まない、売買春のグレーゾーンに位置づけられるJKTVを対象とし、ここでの「商品」を売春者と買春者の間に形成されるモノとして検討する。JKTV は、生活の文脈を共有しないフィリピン人女性と日本人男性が「サービス提供者」と「顧客」として出会うコンタクトゾーンとして想定される。そこでは、性的関心を含む好意を持った相手との「疑似恋愛」の相互的な働きかけのプロセスが、両者の間に<選択的コミットメント>に基づく文脈限定的な親密性を形成していた。JKTVにおいて顧客によって支払われる金銭は、共通性も共有性も持たない両者の関係性の文脈を代替し、「サービス提供者」との間に親密な関係性を形成しうる「顧客」としての「役割」をもたらしていると考えられる。
著者
風戸 真理
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2017, pp.347-366, 2017-12-31

本論では、装い(ドレス)の中でもとくに装飾機能の強い身体装飾に焦点を当て、日本の女性の子どもがおこなう身体装飾の時間変化、その過程で直面する葛藤、そしてやがて大人になった女性の身体装飾と社会の関係を記述した。その上で、身体装飾に関する子ども・大人・社会の交渉と、審美性をめぐる規範・流行・便宜について考察した。なお身体装飾は、アクセサリーの着用、身体彩色(化粧)、身体変工(ピアス、タトゥーなど)の3つに分類した。結果としては、第一に、現代日本の子どもの身体装飾は学校という制度の中で、化粧を端緒として開始されていた。そこでは審美性や娯楽性とともに、校則への抵抗、教師との交渉、仲間との同調や差異化などの社会関係が重視されていた。第二に、身体装飾は学校・アルバイト・就職活動・親との関係において抑制されていた。とくに身体変工をめぐっては、外的な抑制、内的な抑制、身体的な困難が葛藤要因となっていた。第三に、大人の身体装飾と社会との関係については、流行歌の歌詞を分析した結果、最も日本社会に親和的なのは身体彩色であったが、ピアスやタトゥーに関しても豊かな表現が見られた。アクセサリーを外す行為は私的な親密さを帯びた身体の出現を示し、装身具には公私をスイッチングする道具としての機能が認められた。審美性の観点から、身体装飾をめぐる規範・流行・便宜の関係について検討すると次のことがいえるだろう。人びとは環境とのすり合わせにより社会適応的な装身の輪郭を探り、その範囲内で他者との差異化を図ったり、流行に同調したりすることをおしゃれとして楽しんでいた。また、身体変工には逸脱を含む多様な意味づけがなされていたが、身体の審美的価値を効率的に高めるために、身体変工の実利性、便宜性が評価される側面もみいだされた。
著者
深海 菊絵
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2017, pp.173-190, 2017-12-31

The objective of this report is to investigate the pluralism and the compatibility among polyamorists, focusing on the gathering of a polyamory group in California and polyamory terms that are used by polyamorists. Polyamory means "responsible non-monogamy". It is best explained with the words: "honesty" , "consensus" and "responsibility". In fact, most studies about polyamory have pointed out that people who are recognized as polyamorist have various backgrounds, and the ways of practicing polyamory are extremely diverse and inconsistent. In this article, I look at polyamory in terms of a "contact zone" where people who have various thoughts and cultural backgrounds are interacting. I examine how polyamorists connect with each other in their contact zone. In order to achieve this purpose, "Cyborg Feminism" which is advocated by Donna Haraway is a key concept. Donna Haraway seeks a way of connecting that is not emphasized by homogeneity in "Cyborg Feminism". Cyborg is a body which holds multiple internal differences. Primarily, looking at the meeting of a polyamory group through the image of a cyborg suggests that polyamory has plural and comprehensive characteristics. Secondly, I examine the polyamory terms. The terms in polyamory are not only a tool of communication, but also a tool of self-accountability, one's relationship and the love they belong to. It implies that the ethical question of "How should I treat myself?" is shared among polyamorists. Polyamory is composed of multiple perspectives, and it is not a group which has only a single value system. There are blank spaces following the question "who are we?". However, the otherness and the blank space which polyamory holds are the possibility of critical self-forming with others.
著者
深海 菊絵
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2017, pp.173-190, 2017-12-31

The objective of this report is to investigate the pluralism and the compatibility among polyamorists, focusing on the gathering of a polyamory group in California and polyamory terms that are used by polyamorists. Polyamory means "responsible non-monogamy". It is best explained with the words: "honesty" , "consensus" and "responsibility". In fact, most studies about polyamory have pointed out that people who are recognized as polyamorist have various backgrounds, and the ways of practicing polyamory are extremely diverse and inconsistent. In this article, I look at polyamory in terms of a "contact zone" where people who have various thoughts and cultural backgrounds are interacting. I examine how polyamorists connect with each other in their contact zone. In order to achieve this purpose, "Cyborg Feminism" which is advocated by Donna Haraway is a key concept. Donna Haraway seeks a way of connecting that is not emphasized by homogeneity in "Cyborg Feminism". Cyborg is a body which holds multiple internal differences. Primarily, looking at the meeting of a polyamory group through the image of a cyborg suggests that polyamory has plural and comprehensive characteristics. Secondly, I examine the polyamory terms. The terms in polyamory are not only a tool of communication, but also a tool of self-accountability, one's relationship and the love they belong to. It implies that the ethical question of "How should I treat myself?" is shared among polyamorists. Polyamory is composed of multiple perspectives, and it is not a group which has only a single value system. There are blank spaces following the question "who are we?". However, the otherness and the blank space which polyamory holds are the possibility of critical self-forming with others.
著者
越智 郁乃
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.33-55, 2015-03-31

在日米軍施設が集中する沖縄県では、1961 年から2007 年までの間に軍用地利用から返還された土地が12 万ヘクタールにも上る。過密化する今日の沖縄本島中南部では、狭小な土地の有効活用のため返還跡地の開発が進められてきた。大規模商業地として開発が行われた地域では雇用が増大したが、商業偏重の開発とその後の経済や社会の持続可能性については疑義が呈されている。このように評価が分かれる跡地開発に対して、本稿ではかつての軍用地とその周辺地域を「接触領域」と捉え、今日までの特異な社会空間での地域の住民の経験、すなわち琉球王府、日本、米軍統治から日本復帰へというように次々と変わる支配者層および支配文化といかに相対し、いかに交渉してきたのかという長い道のりに注目する。具体的には、軍用跡地開発を経て誕生した那覇市新都心を事例に、そこでの住民の経験として沖縄戦前後、米軍による土地接収後の米軍住宅化やそれに伴う周辺地域での開発が、返還後の大規模再開発にいかなる影響を及ぼしているかということを明らかにし、単なる開発の評価だけではなく、その地に住まう人々にとっての軍用跡地開発の意義について考察する。