- 著者
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石井 美保
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 民族學研究 (ISSN:24240508)
- 巻号頁・発行日
- vol.63, no.3, pp.259-282, 1998-12-30 (Released:2018-03-27)
奴隷貿易によって「新世界」へと離散した黒人たちは奴隷制時代から現代に至るまで, 多くの社会宗教運動を生みだしてきた。なかでも1930年カリブ海地域のジャマイカで誕生したラスタファリ運動は, パン・アフリカニズムの思潮を受け継ぐとともに都市貧困層の連帯を支える文化運動として世界的な発展を遂げている。本稿は, 東アフリカのタンザニアにおけるラスタファリ運動の展開について論ずる。地方出身の出稼ぎ民の流入とともに人口増加と民族混交の進むタンザニア都市において, ラスタファリ運動は若年貧困層を中心に新たな路上文化として発展している。また運動は民族を越えた共同体を形成し, NGO団体として農場建設運動を推進している。さらにこの運動はカリブ海地域や欧米からアフリカに移住してきた離散黒人とタンザニア人の双方によって担われ, 運動の継承と解釈をめぐって相互の交流と差異化が生まれている。本稿はタンザニアにおけるラスタファリ運動の展開を検討することにより, 都市貧困層の社会的実践のもつ多様な可能性を示し, また現代アフリカにおける市井のパン・アフリカニズムの実状と問題を検討する。