著者
大戸 朋子 伊藤 泰信
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2019, pp.207-232, 2019-08-31

本稿は、腐女子と呼ばれる男性同性愛フィクションを嗜好する少女・女性の二次創作活動とメディア利用を対象とし、彼女たちがどのようにコミュニティを形成し維持しているのかについて、作品やキャラクタへの「愛」という不可視で不可量なものを議論の導きの糸として明らかにすることを目的としている。二次創作コミュニティは、二次創作者らの原作に対する「愛」によって形成されている。しかし、原作に対する解釈は個人によって異なっており、「愛」をめぐってコンフリクトが発生する。本稿では、このコミュニティ内で発生したコンフリクトが、2種類の対応によって調停されることが明らかとなった。1つ目は、二次創作者が言行一致の姿勢を取っている/いない、原作のキャラクタや設定から逸脱し過ぎている/いないなどの基準によって、原作に対する「愛」の具体化である二次創作作品を評価し、「愛」がないと判断した場合、コミュニティのソトに押しやり、原作への「愛」を持つ者同士のコミュニティを維持しようとする。2つ目は、過度な性描写や暴力表現などが盛り込まれた二次創作作品であっても、肯定的なコメントを送ったり、無視をして評価を行わないことで、メンバ間の衝突を回避し、コミュニティを維持しようとする、という調停である。
著者
木村 周平 小西 公大 伊藤 泰信 内藤 直樹 門田 岳久 早川 公
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究はソーシャルデザイン実践について、生活・地域・教育の領域において、それを推し進める「準専門家」(後述のようにアドバイザーやコンサルタント、研究者等を含む)の実践に着目して研究することで、ソーシャルデザインに対して文化人類学からどのような関わり方が可能なのかについての知見を提示することで、人類学や近接学問領域の蓄積、さらに公共的な実践に対して貢献しようとするものである。
著者
安藤 昌也 伊藤 泰信
出版者
千葉工業大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2019-06-28

本研究は、人や社会を要件として捉え、システム設計を専門とする人間中心設計(以下、HCD)と、集合的な社会・文化に焦点を当てて人間社会を理解することを専門とする文化人類学(以下、人類学)の知見を融合させつつ、人工知能(AI)を適用したシステムの設計において人と社会の調和を考慮したシステム設計思想および設計方法のあり方を検討するものである。本研究では、HCDと人類学の融合する「多元的HCD」という一見矛盾する設計思想を仮説としつつ、2つの学問領域の対話と連携により、実際にAIが導入されている現場(医療支援システムや転職支援サービスなど)のフィールドワークをすることを通し、双方の差異・共通点から課題を整理する。
著者
大戸 朋子 伊藤 泰信
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.91-91, 2012

本発表は、(1) 同人誌作家の活動、作品の発表過程についての微視的な記述を提示しつつ、(2)腐女子コミュニティを、内部の様々な軋轢の存在や、評価軸が外部の様々な要因によって変化する流動的なものとして捉え、さらに(3)二次創作作品がどのようなプロセスの中で評価され、コミュニティに受け入れられていくのかについて明確化するために、事象を科学社会学(科学者コミュニティ)の議論に重ねることを試みる。
著者
松薗 美帆 伊藤 泰信
出版者
一般社団法人 日本デザイン学会
雑誌
日本デザイン学会研究発表大会概要集 日本デザイン学会第70回研究発表大会
巻号頁・発行日
pp.240, 2023 (Released:2023-12-13)

ここ最近、人類学者とデザイナーがともに協働する形が模索され、デザイン人類学という分野が確立されつつある。今後人類学がデザインにさらに歩み寄り、協働を深めるためには、フィールドで得た洞察をこぼれ落とすことなく、多種多様なステークホルダーにいかに伝えるかは大きなチャレンジとなるだろう。 本稿では株式会社メルペイのクレジットカード「メルカード」の新規立ち上げプロジェクトを事例に、デザインコンセプト創出のためのワークショップにおいて人類学的な視点である「異質馴化」(making the strange familiar)と「馴質異化」(making the familiar strange)を取り入れた実践について述べる。本事例ではプロジェクトメンバー自身の語りを引き出し「馴質異化」の視点を取り入れたのが新しい試みであり、これによってプロジェクトメンバー自身と顧客の対照的な立ち位置に改めて気づき、デザインコンセプトを軸として表現することにつながった。
著者
大戸 朋子 伊藤 泰信
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2019, pp.207-232, 2019-08-31

本稿は、腐女子と呼ばれる男性同性愛フィクションを嗜好する少女・女性の二次創作活動とメディア利用を対象とし、彼女たちがどのようにコミュニティを形成し維持しているのかについて、作品やキャラクタへの「愛」という不可視で不可量なものを議論の導きの糸として明らかにすることを目的としている。二次創作コミュニティは、二次創作者らの原作に対する「愛」によって形成されている。しかし、原作に対する解釈は個人によって異なっており、「愛」をめぐってコンフリクトが発生する。本稿では、このコミュニティ内で発生したコンフリクトが、2種類の対応によって調停されることが明らかとなった。1つ目は、二次創作者が言行一致の姿勢を取っている/いない、原作のキャラクタや設定から逸脱し過ぎている/いないなどの基準によって、原作に対する「愛」の具体化である二次創作作品を評価し、「愛」がないと判断した場合、コミュニティのソトに押しやり、原作への「愛」を持つ者同士のコミュニティを維持しようとする。2つ目は、過度な性描写や暴力表現などが盛り込まれた二次創作作品であっても、肯定的なコメントを送ったり、無視をして評価を行わないことで、メンバ間の衝突を回避し、コミュニティを維持しようとする、という調停である。
著者
伊藤 泰信 谷口 晋一 孫 大輔 大谷 かがり
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究は、医学教育者/医師らと“共働”する医学教育実践の中で、サービスデザインの視点を取り込んだ文化人類学を構想するものである。ここでいうサービスデザインの視点とは、患者がなし遂げたいコト(サービス)起点で医療提供を考える視点である。具体的には、生活者としての患者の視点を重視する人類学的素養を導入した総合研修専門医の教育(研修)プログラムを医学教育者と共にデザインする。他方で、そうした教育実践を通じて、「サービスデザイン人類学」という新たな領域を切り拓こうとする試みである。
著者
安藤 昌也 伊藤 泰信
出版者
千葉工業大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、人や社会を要件として捉え、システム設計を専門とする人間中心設計(以下、HCD)と、集合的な社会・文化に焦点を当てて人間社会を理解することを専門とする文化人類学(以下、人類学)の知見を融合させつつ、人工知能(AI)を適用したシステムの設計において人と社会の調和を考慮したシステム設計思想および設計方法のあり方を検討するものである。本研究では、HCDと人類学の融合する「多元的HCD」という一見矛盾する設計思想を仮説としつつ、2つの学問領域の対話と連携により、実際にAIが導入されている現場(医療支援システムや転職支援サービスなど)のフィールドワークをすることを通し、双方の差異・共通点から課題を整理する。
著者
佐々木 伸一 高島 知佐子 芹澤 知広 伊藤 泰信 八巻 惠子 田中 孝枝 平山 弓月 柳田 博明 河上 幸子
出版者
京都外国語大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、人類学を学び研究をすることによってどのようなビジネススキルが獲得されるかという問題提起であった。結論として、それはフィールドワークを行い、エスノグラフィを作成するために培われたスキルであることが判明した。まず、「見る」「聞く」力とその記憶の保持、次に俯瞰的な情報の収集力と聞き出す力、さらに情報への偏見を持たずに受容する力とその価値や意味をくみ取る能力である。この3点は当たり前のように思われるが、実際には多くのトレーニングが必要で、また対話型のコンサルティングで不可欠なスキルであることからすれば、ビジネススキルの一端をなすと言えよう。
著者
松永 典子 徳永 光展 施 光恒 伊藤 泰信 祝 利 緒方 尚美 余 銅基
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究課題では、総合型日本語人材養成プログラム開発という目的のため、理論研究と実践研究を行った。まず、理論研究では、日本型「知の技法」の有する自文化を相対化する視点と他文化に対する積極的受容姿勢とが相互文化学習の手法として有効であるという理論化を行った。次に、その理論を日本語教育・留学生教育に還元するための教材開発及び教育実践研究を行った。実践研究の結果、本実践における日本人学生と留学生が協働でひとつの課題解決に取り組むという方法論が学習者に課題解決に向けた意識を促す可能性があることが示唆された。
著者
伊藤 泰信
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.319-346, 2011-09

本稿はマイノリティのナショナリズムと、宗教の私事化や拡散化が絡み合う文脈に留意しつつ、先住民マオリの宗教教育について論じる。アイデンティティを求めることがスピリチュアルな旅になるといった私事的な宗教性は高度複雑社会の日本でもニュージーランドでも(ある程度までマオリにも)見られる。ただしマオリの場合、貧困や疎外から、先住民の地位を政治化し、心の脱植民地化が図られる中で、白人の知の倒立像とも言える「マオリ的なるもの」が浸透した。それは分離主義的なナショナリズムと重なり、マオリがコントロールしうる領域(制度・組織)の拡大へと繋がっている。こうした背景の下、個別の学校や大学でマオリ的なるものは組織的に教授・学習されるようになっている。マオリ的なるものを探し求めれば過去のホーリスティックな世界に焦点が結ばれるため、それが教授・学習される学校は、準宗教学校のような特異な形態を取るに至っていることを、学習実践の具体を含めて活写する。